06_ポート・マレでの語らい(前編)
アリアさんと再会した日、ボクらは夜になってもまだアリアさんと話していた。
夕食をアリアさんお勧めのお店で食べた後、ボクらは宿に戻って来た。
アリアさんも今日はこの漁港ポート・マレに泊まると言うので、ボクらの宿に泊まるか聞いたのだけど──
「いくらキミ達と一緒でも、自宅以外の室内では落ち着いて寝れないんだ。
どこかの屋根を借りて寝るよ。」
──との事だった。
なので、ボクらもちょっとだけアリアさんに付き添って、プチ酒盛りをしている。
アテは昼間の貝とかの余りだ。
「あははははっ!
いや〜、楽しいよ。
ヒトとこんなに腹を割って話すなんて、何年ぶりだろう。」
お酒も入ったアリアさんは、すっかり上機嫌だ。
……どうでも良いけど、酔った状態って、ちゃんと飛べるのかな?
前世オジサンの世界では飲酒運転が問題になってたけど、こちらの飲酒飛行も、やはり危険なんだろうな。
あまりお酒を勧めるのはまずいか。
「オレも、魔王様がこんなに気さくなヒトだとは思わなかったっすよ。
もっとこう、威圧的でヒトの事を毛嫌いしているようなイメージがあったっす。」
「ふふ〜ん?
そりゃあ、魔族や魔王と見るや問答無用で挑み掛かって来る様な、普通のヒト達にバレたら、そんな風に演じたりもするよ?
けど、私は別にヒトそのものは嫌いじゃないからね。
そう演じて突き放した方が、お互い危険が少なくなるから、そうしてるのよ。」
リックもだいぶアリアさんに慣れたようで、ツサクの町でのように、普通に話せるようになってる。
「むしろ、そんなアリアさんが何故、「魔王」なんて呼ばれるようになったのですか?」
「いや〜、随分と昔に小国と喧嘩しちゃってさぁ。
その国が無くなるまでいっちゃったんだよねぇ……。」
セレナさんもリックと同様に、アリアさんと話せる様になってる。
仲間で話せるまでになったのは、この二人かな。
って、それどころじゃない、どえらい事言ってない?!
**********
──昔、ここからもっと北に、当時通ってた港があったんだよ。
そこで、その国の王子だか公爵だかが、偶然、視察に来ていてね、目を付けられちゃったんだ。
それから、随分と追い掛け回されてね、頭ったまきたから王宮に報復してやったのさ。
報復といっても大した事はしてないよ。
一日一回、壁に穴が空く程度の魔術を打ち込んでやったんだよ。
撃ち込む場所を変え、時間も変えて、毎日毎日ね。
あっちからは、上空を飛んでる私を墜とす術なんて無いからね、一方的だったよ。
それを、季節が変わる位までやり続けたら、あっさり白旗を上げ出してさ……、まぁそのまま続けたんだけど。
そしたら、半年後には白旗に帝国の旗が混ざり出したから、そこで手打ちとしてやったんだ。
最後に見た王宮は、見るも無惨な有り様だったよ。
**********
「……?
この辺りは帝国の支配下ですよね?
旗が上がるのは、そこまで意味のある事なのですか?」
ここでセレナさんが疑問を口にした。
「あぁ、説明が足りなかったね。
当時、その国はまだ帝国とやり合っていたんだ。
でも、そこで私という脅威がやって来て、発端となった王子を処分しても、白旗を挙げても私が攻撃を止めないから、ついには帝国に泣きついたのさ。」
うわぁ、えげつない……。
自業自得と言えばそうなんだけど。
「……じゃあ、アリアさんが国を無くしたようなもの、って事っすか?」
「そうなるわね。
当時は帝国には恨みは無かったし、帝国の魔術師は厄介だからね。
それ以上はもういいかぁ、ってね。」
リックがまとめた言葉を、アリアさんは肯定した。
国一つを潰し得る個人か、うん、「魔王」と呼ばれるに十分な理由だろう。
「発端となった王子とやらは、アリアさんを見初めて求婚してた、という事なんですか?」
ここで、セレナさんが違う質問をした。
「あれはそんな感じじゃなかったわね。
珍しい生き物が居るから、捕まえて手元に置いておこうか、くらいの感じだったわ。」
「……そんな事があって、よく「ヒトそのものは嫌いじゃない」なんて言えますね?!
それこそ、毛嫌いしても不思議じゃないですよ?」
「う〜ん……、まぁね。
でも、嫌な奴なら魔族にも居るし、あっちは何というか、閉塞感があるんだよね。」
そう語りアリアさんは苦笑した。
「閉塞感?」
「そう。
魔族って、魔力の強い者は老化が緩やかになる者が多いんだよね。
だから、いつまでも権力の座から動かない奴も多いんだ。
世代交代も少ないし、そのくせ種族間でいがみ合ってる事も多くてさ、何となくうんざりしてたんだよね。
それで、ここよりも酷い所だと言われるヒト側の世界って、どんなものなのかが見てみたくて「誓いの山脈」を……、こっちで言う「北の山脈」ね、あれを飛び越えて来たのよ。」
有翼人特有の行動力だなあ。
「ちょっと見てみたい」程度の理由で「北の山脈」を超えられるんだ?
「で、ヒト側に来たら驚いたよ!
なんてーか、活気があるんだよね、全体的に。
町中のヒト達が皆、イキイキしてるって言うかさぁ。」
ここでアリアさんは、先程とは打って変わって、瞳を輝かせて語りだした。
「何より衝撃的だったのが、食べ物!
何処に行っても美味しい物食べてるんだもの、びっくりしちゃったよ!」
「魔族側の食べ物は美味しくなかったんですか?」
ボクとしても、魔族さん達の食事については興味あったので聞いてみた。
「う〜ん……、あっちに居た時は気にならなかったけど、今思い返すと美味しくはなかった、かな?
味の面でもそうなんだけど、あっちは大体、同じ種族の者達はみんな同じ物食べてるんだよ。
季節的に手に入る食材で、自分達に合った食材を、毎日毎日飽きもせずね。」
それは、ちょっと嫌かもしれない。
「それに比べてこっちは、山では山の物、海に来れば海の物、魔物が多い所なら魔物だって美味しく調理して食べちゃう。
そうやって、短い人生を真剣に楽しんでる感があるのよね。
多少、民族間や種族間にわだかまりがあっても、「そんな事に拘って楽しく生きられんのか?!」って気迫すら感じるよ。」
「いえ、流石に拘るヒトは拘ってますし、そんな前向きなヒトばかりじゃないですけど……。」
セレナさんの指摘に、アリアさんは頷いた。
「うん、問題もちゃんと有るのも分かってる。
あくまで私の勝手なイメージだけどね。
でも少なくともそれが、私に魔族側に帰る気を無くさせたのは確かよ。」
アリアさんとは何となくシンパシーを感じていたけれど、やっと分かった。
ボクもアリアさんも食への感心が強いんだ。
その一点で、ボクらは仲良く出来ると確信するのだった。