04_浜焼き
「そうだねぇ~……、コレとソレと……。
うん、それ以外は全部食べられるよ。
……しっかし、貝とかに関しては「まぁ物好きな……」ってことで分かるけどねぇ。
「亀の手」なんて、よくそんなの食材と思えたねぇ。
いや、美味しいんだけどね。」
「いや〜、食いしん坊なので、色々事前に調べてたんですよ〜。」
現地のお姉様のお言葉に、ボクはにこやかに返した。
「はははっ、そうかい。
あとは、そうだねえ……、どれもちゃんと火を通せば酷い事にはならないよ。」
「分かりました。
あっちで皆と食べてますので、ご容赦下さい。
後片付けもちゃんとしていきます。
あっ、あとコレ、皆さんでどうぞ。
目利きしてもらった御礼です。」
そう言ってボクは、お酒を二本、お姉様方に差し出した。
ここは漁港近くの浜辺だ。
昼までまだある時間帯の今は、漁に出ている夫の帰りを待つ奥さん方達が浜辺で待機している。
その奥さん達に話し掛け、貝やらの目利きをして貰った所だ。
御礼として渡したお酒は、こういう時のためにカダー王国で買っておいたものの一部である。
「じゃあ、火を付けて下さい。」
「ん、分かった。『火球』!」
ンボッ!!
ヴェロニカさんが放った『火球』は、浜にあった手頃な岩に当たり、更にその周りに敷き詰めた薪木にも引火した。
「じゃあ、まずは海水を沸騰させましょうか。」
「ん。塩を作る用だな?」
……ヴェロニカさん、随分と塩にこだわるなぁ。
何か興味を惹かれる所があるんだろうか?
「そうですね。
でも、その一部を隣の鍋に移して、水を加えてそれで貝やらを煮ていきます。
十分に火を通さないと怖いですからね。」
「……怖いというのは?」
不穏な単語を聞き漏らさず、セレナさんが尋ねてくる。
「お腹を壊したりとかですね。
食べられるものでも、下手をしたら毒に侵された状態の可能性もありますので。
でも、火を通しておけばその可能性は潰せますからね。」
「……そこまでして食べるものなんですかね?」
「う〜ん、でもそれを言ったら、魚だって寄生虫の危険性はあるのに食べる訳じゃないですか?
それにやっぱり、未知の食材ってワクワクしません?」
「まぁ、ちょっと分かりますけど……。」
まだ納得しきれない様子のセレナさんだけど、食べてみれば意見も変わるとおもうんだよね、きっと。
なので一旦、ボクは料理を進める事にした。
**********
「「……っ?!」」
「……どう、かな?」
一口目を食べてみた皆に、ボクは感想を尋ねた。
「美味いっす!
なんてーか、歯応えがあって、噛めば噛むほど味が出てくる感じで!」
「……コリコリして、味も濃厚ですわね。
それに、全然嫌な癖もありませんわ。」
リックとティアナさんが食べたのは「エビル・クラム」か、味も良いんだアレ。
「エビル・クラム」は『アイテムボックス』に収納するため、一旦、魔術で凍らせた。
そして冒険者ギルドで解体した際に、身の方は値が付かないか低いと聞いて、それならばと引き取ってきたのだった。
「こっちの一口で食べれる方は、クリーミーでとろけるニャ!」
「本当……、ほっぺが落ちそうとはこの事ですね。」
スノウノさん、フラウノさんが食べたのは、見た目が牡蠣の様な貝だ。
感想も前世オジサンの世界と類似してるので、ほぼ同じ生物なのだろう。
「……こっちの「亀の手」も美味しいんですけど。
プリッ、コリッ、ホッコリって感じです。
見た目があんなに不気味なのに、意外過ぎます!」
「ホントだな。
個人的には、こうやってちまちま剥きながら食べるのも嫌いじゃないな。」
セレナさんとヴェロニカさんの食べる「亀の手」も評価は悪くないようで、安心した。
いくら前世オジサンの知識があっても、見た目がアレで不安があったからね。
「うん、皆が気に入ってくれて良かったよ。
まだあるし、今食べたのと違うのも色々食べてみてよ。」
「「は〜いっ!」」
皆も上機嫌で答えてくれる。
にこやかな顔を見ると、ボクも嬉しくなるよ。
さて、ボクも食べてみようかな?
「ねぇ、ちょっと聞いて良いかい?」
ん?
さっきの奥様方の一人が話し掛けてきた。
「はい、なんでしょう?」
「その、大きな貝の切り身みたいなのは何だい?
ごめんね、見た事なくて気になっちゃって。」
「ああ、これは「エビル・クラム」の身です。
……皆さん、この辺りの方なら食べた事あるものと思ってましたけど。」
「いやぁ、この辺りではあまり見掛けないし、冒険者が狩ってきても、売り物にならない身の部分を持ち帰る者は居ないしで、あたしらも滅多に見ないんだよぉ。」
なるほど、確かに荷物になる上にすぐ傷んで売り物にならない身の部分は、冒険者もわざわざ持ち帰ったりはしないだろう。
だから、町で過ごすヒト達は、普通は見掛ける事も無いのか。
この辺りはヒトの生活圏だから、「エビル・クラム」も侵入して来ないだろうし、納得。
ボクらは『アイテムボックス』のお陰で、重量も、傷む事も気にする必要が無いからこそ、できる所業だね。
そう言えば、「エビル・クラム」に毒が無い事を教えてくれたのは、冒険者ギルドの解体のオヤッサンだったな。
「皆さんも食べてみます?」
「えっ?!良いのかい?」
「はい。
身も大きくて、まだまだ食べ切れないくらいありますから、遠慮なく。」
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかね。
昔っから、味が気になってたんだよぉ。」
結局、浜に居た奥様方も加わったので、ボクは次々に貝やらを茹でていくことになった。
あ、ちゃんと途中で摘み食いして味見もしている。
今のボクの感覚でも、やっぱりどれも美味しかったよ。
**********
「あっ、オバチャ〜ン!
こんにちわぁ!」
「おや、久しぶりだねぇ。
一ヶ月ぶりくらいかい?
今回は、いつもより間が空いたねぇ。」
「いや〜、ちょっと気になる事が起きててさ、こっちに顔を出す時間が無かったんだよね。」
ん?
奥様方に声を掛けて話に入って来たヒトが居る。
皆さんの陰に居るらしくて姿は見えないけど。
声を聞く感じ、奥様方よりも若そうな印象だ。
……でも、何かこの声、聞いた事があるような?
「で、何してるの、コレ?」
「ん?いえね、この冒険者の子達が狩った「エビル・クラム」を食べさせてくれるってんで、お言葉に甘えていただいてるんだよぉ。」
「へぇ、良いなぁ!
……ねぇねぇ、私もいただいて良いかな?」
なんか気さくなヒトだなぁ。
声の女性が回り込んで、ボクに声を掛けてきた。
「はい!良いで──」
そこでボクは言葉を失ってしまった。
その女性はフードを被っていたのだが、外しながら話してきたのだ。
その顔にボクは心当たりがあった。
「あ……。」
「「……っ?!」」
そこでようやく、女性もこちらの仲間も、お互いに気が付いたようだ。
その女性は、普通に考えればここに居て良い筈のない人物だった。
やや小柄な体躯、ピッチリした服装、キリッとした目元とショートカットが似合う整った容貌。
何より印象的な、自分の身体と同じくらい大きなリュック。
「あれっ?どうしたんだい?
知り合いだったかね、アリアちゃん?」
ボクらの反応を疑問に思った奥さんが、そう言葉を掛けた。
そう、それはコラペ王国の温泉街ツサクで出会ったお姉さん、アリアさんであった。