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43_後日談(マラドノワール)

「ああっ、もうっ!!

大失敗だったわ今回は〜。

帝都に大した被害も無かったし、金づるも一つ失っちゃったし、可愛いお姫様も居なくなっちゃった〜……。」


此処は帝都の近くにあるポーラ達の仮拠点。

帝都に居れなくなった彼女達は此処に身を寄せていた。

王女を自ら誘拐してまで準備をしていたポーラは、ひどく落ち込んでいる。

そんな彼女はメンタル回復のため、ベッドに腰掛けたカルナに後ろから抱き付き、頭やお腹周りなどを撫で回していた。

抱き付かれているカルナの方は、まんざらでもないのか、されるがままになっている。


「……あと、シヴァっちも抜けちゃったっすね。

アレは良かったんスか?」

「ああ……、アレは良いわ。

厄介なのに目を付けられて取り込まれちゃったみたいだから。」


シヴァの行方については、あの後アクアが探して見付けたのだった。

それを受けてポーラが引き取りに行こうと足を向けようとしたのだが、ポーラは喫茶店「ノルン」に入る事もなく帰って来てしまったのだった。


「厄介って……、あの店員の事っスよね?

あの女性、そこまで危険なんスか?」

「私は遠目で見ただけだけれど……、正直、正面から行ったんじゃあ勝てる気がしないわ。」

ポーラは思い出したかの様に、げんなりした表情を浮かべた。


「ポーラ様がそこまで言う程っスか……。

じゃあ、下手な事はさせられないっスね。」

「そうね。

あの娘も取って食われる訳では無さそうだし、犬のふりを徹底すれば捕まる事もない。

もう、放っておきましょう。

戻って来れたら、まぁ受け入れるけれどね。」


アクアのセリフを受けて、ポーラはシヴァについての今後の扱いを語った。

異論が無いのなら、これが決定事項となる。

そして、仲間からは特段異論も上がらなかったのだった。


「シヴァの方は良いとして、ランザー子爵の件は痛いですね。

彼だけでなく、周囲の同調していた貴族も、芋づる式に廃爵となるかも知れない。

そうなれば、ウチの各地メンバの活動も厳しくなってきます。」

ポーラ達の活動面に影響があるのは、ランザー子爵の方だ。

その事について、オスカが言及する。


「もうちょっとだけ、せめて夏祭りの時期まで持ち堪えたなら、メンバもある程度集めて、もっと大きい事が出来たのにね……。

残念だわ。」

「……また、やり方から考え直しですか。」

「……そうね。

まったく忌々しいわ、あの餓鬼!

最後、見逃して貰えた借りはあるけど、そもそも宿屋に強襲したのに、それが裏目に出るなんて思わないじゃない?!

だいたい、なんでアイツと──」


言っている内に段々と腹が立ってきたらしい。

ポーラがヒートアップする中、そうとも知らずにこの場に訪れた者が一人居た。


「──あれっ?!ちっす〜!

冬にこっちに来て以来っすね、姉御。

皆でこっちの拠点に来てるなんて、何かあったんで?」

「カ〜〜ニ〜〜子ぉ〜〜!!

アンタよ、アンタ!

元はと言えば、アンタの名前が出たから、油断しちゃったのよ!

それであの餓鬼に出し抜かれちゃったの!!」

「はあっ?!

な、何すか姉御?

俺が何したっつうんです?!」


呑気に挨拶をして、あっという間にポーラの不興を買ったのは、クローがカダー王国王都で二回会った事のある情報屋カニスパイダであった。

クローの読み通り、ポーラとカニスパイダは交流があり。

それどころか、二人は言わば親戚同士の様な間柄で、カニスパイダはしょっちゅうポーラの元に顔を出しているのだ。


「アンタ、クロとか言う黒髪で成人前くらいの男の子を知ってるでしょ?!

カニスパイダの名前を知っていたんだから。」

「へぇっ?!クロ……?

あ〜……、それならクローですね。

二度会った事がありますよ、カダー王国の王都で。」

「やっぱり!!」


「えぇと……、本名はクロー・ホーンテップ。

男爵家の生まれだけど、父親が犯罪に手を染めていたのがバレて廃爵になったので、今はただの平民。

ただし、恩義のある子爵の為に、夜間襲撃に来た三十人の刺客をたった一人で返り討ちにしたという噂もあります。

しかも、刺客のほとんどが剣術経験者という過酷さだったのに、……っていうね。」


「……何それ、本当なら立派な化け物じゃない?

シヴァの新しい飼い主の様にあからさまなのだけでなく、一見ではそれとは分からない化け物も居るのねぇ。

ああ、深追いしなくて良かったわ。」

クローの情報を聞き、怒るよりも逆にそんなクローと敵対して逃げおおせた幸運の方に実感の湧いたポーラ。

先程までの怒りは吹き飛んでしまったらしい。


「そ、そうですよ。

もう、危ない事をするのは控えませんか?」

「カルナ……、貴女は反対していたものね。」


いくら夜の街を出歩く様な素行の宜しからぬ大人であろうと、傷付ける事にカルナは難色を示し続けていたのだ。

抱き締めているカルナの優しさに、ポーラは愛おしさが溢れ抱き寄せる腕に力が入ってしまう。


「……いや、あの、何があったか聞きたいんですが。」

「──では、私から説明します。」

結局、二人の世界に入ってしまったポーラとカルナに代わり、オスカがカニスパイダへ事情を説明するのだった。


**********


「──といった事がありまして。」

「お〜お〜、そりゃあ帝都のお偉い方々は肝を冷やしたでしょうなぁ。」

「そんな事になったって、こっちはまったく面白くないってのよ!

……ったく!」


オスカの説明を聞いて、再び怒りが湧き上がっていたポーラは、呑気なセリフを吐いたカニスパイダに八つ当たりをする。


「……姉御はなんであんなにお冠なんです?」

状況を聞いても、ポーラが強く当たってくる理由が分からず、カニスパイダはオスカに小声で聞き返した。


「……件のクロー少年に「カニスパイダ」の名前を出された事で面食らってしまい、その隙に出し抜かれたそうです。」

「あ〜……、そりゃあ、不味いな。

俺が名前と蜘蛛獣人だって事を話したせい、って事になる……。」


「そうよ!!

だから詫びとして、持ってきた本、全部ダダになさい!

あと「クロとリューク」も失くしちゃったから、次来る時にもう一冊買っておきなさい。」


リジュネアが暇だろうからと貸し与えたポーラの「クロとリューク」は、リジュネアが持ち去っているため回収は不可能である。

そのため、ポーラはカニスパイダにもう一冊仕入れてくるよう訴えたのであった。


「いいっ?!

ちょっ、勘弁して下さいよ!

わざわざこんな嵩張る物を、はるばる此処まで持って来たってのに!

……あと「クロとリューク」は、カダー王都のとある店で演劇として上演する様になってから、更に人気が出ちゃって、いつも品薄なんですよ。

ただでさえ男の俺が買い込むのは、変な目で見られるっつうのに……。」


カダー王国王都でも、海賊版書籍を安定的に発行しているのは、王妃イリス所有の出版所のみである。

勿論、クローの前世世界の様に大量出版などは出来ないので、商品は基本的に品薄なのだ。

それに加えて「クロとリューク」の様に人気のある作品は、商品棚に置かれたそばからハケていくため、普通はなかなか入手出来ない代物になっていた。


「……分かった、分かったわよ、もう。

じゃあ、今回の本のお金はちゃんと出してあげるわ。

でも「クロとリューク」の方は、なんとか頼むわよ。」

「あざっす……。」

流石にポーラもカニスパイダには同情したのか、要求を取り下げてくれた。

基本的にポーラの要求は飲むしかないカニスパイダにとっては、ありがたいお言葉である。


「で、カルナの件だけど。

残念だけど、金づるが居なくなったのだから、前の様に派手な事はしばらくは出来ないわ。

その間に、色々とやり方を考えていきましょう。

それで良いかしら?」

「わ、私は良いですが、ポーラ様はそれで良いのですか?」

「そりゃあ、退屈にはなるのだけど、良いわ。

退屈よりも、カルナと居られなくなる方が辛いもの……。」


先程までとは打って変わって穏やかに語りながら、ポーラはカルナの頭を優しく撫でる。

明らかにカニスパイダや他の仲間への扱いとは異なる可愛がりっぷりであった。

もっとも、この場に居る男性陣からすれば、いつものよくある光景であったが。


「えっ、それで良いんスか?!

オスカさんも?!」

ただ、扱いの違いはともかく、活動が下火になる事には不満を抱いたらしいアクアは、オスカに話を振った。

普段から、アクアにはどうしようか思う悩む場面でも、オスカに尋ねれば解決策を提案してくれる事の多いため、今回もそれに頼った形である。


「……ポーラ様。

私からも一つお話ししたい事がございます。」

「ん……。なに?」


だが、オスカはアクアに答えるでもなく、神妙な面持ちでポーラに話を切り出した。


「……お暇をいただきたいと思っています。」

「「えっ?!」」

オスカの唐突な告白に、アクアとカルナが驚きの声を上げた。


「ふぅん……。

どうして?」


一方、ポーラは何でもない事のように淡々とオスカに理由を尋ねる。


「はい。

そろそろ息子にちゃんと付いてやらなくてはいけない時期かと思いまして。

前々から時期を考えておりました。」


「そう……、まぁ、良くも悪くも区切りには違いないしね。

でも、妻子の元に戻るだけ?」

「……いいえ。

この機にカダーへ行ってみようかと。」


「へぇ……、何故?」

「はい。

先の折、白エルフに言われたのです。

カダーは差別が多いからこそ、被差別対象となる仲間も多いと。

私はそんな事を考えもしませんでした。」


「……なるほどね。

でも、当てはあるの?」

「それも白エルフに言われたのですが、ローエンタールかクトーガーなら多少はましとのことで。」


「あ〜……、確かにそこの領主は評判良いっすねぇ。

てか、それぞれ別の爵位ですが、そこの二つの領主は親子なんですよ。」

オスカの発言に対して、カダー王国の事情に明るいカニスパイダが補足を語った。


「更には、私がカダーで少しでも活躍出来るのなら、それは翻って帝国の痛手になるものかとも思い至りました。」

「確かにオスカ程の有能な人材が国外流出しちゃえば、それは帝国の損になるわね。」


「どうでしょう、ポーラ様。

認めていただけますか?」


「……。」

「……。」

オスカの問いにしばらく無言で居たポーラだったが、やがてため息混じりに口を開いた。


「……はぁっ、……カニ子。」

「は、はいっ?!」

予期していなかった指名に、カニスパイダが慌てる。


「さっき言った、本の代金をちゃんと払う代わりに、オスカとそのご妻子がカダーまで無事に着けるように付き添いなさい。」

「……う〜っす!」


一瞬、どんな無理難題を言われるか焦ったカニスパイダであったが、ポーラの指示は許容範囲内であったため、カニスパイダは内心胸を撫で下ろした。

なんなら、魔術と剣の達人であるオスカにカダー王国までの道中を同行してもらえるなら、カニスパイダ的にも助かる。

そのため、二つ返事で受け入れるカニスパイダであった。


「ポーラ様、それでは……。」

「仕方ないわよ、去るものは追わず。

しかも、ちゃんとした理由があるんだもの。

応援するわ。」

「ありがとうございますっ!」


「「……。」」

ポーラは納得しているようだけれど、オスカが居なくなる事に寂しさを感じるカルナとアクアであった。

ただ、オスカのこれまでの苦労を知っているだけに、そんなオスカの選択を応援したい気持ちもないまぜになっている。

結果、言葉にならない二人は、複雑な思いのまま沈黙して受け入れるのだった。


**********


ひとしきり会話が終わった後の、ポーラとカルナの会話。


「……は〜あ。

それにしても、オスカもシヴァも居なくなったら……、退屈しちゃうわね。」

「あの、しばらくは退屈かも知れません。

ですが、今回会ったセレナさんが面白い話を語ってくれたのです。

それを待つのでは駄目でしょうか?」


「ふぅん……?

でもそれってどのくらい待つ事になりそうなの?」


「そうですね……。

彼女達のことだから、きっと──」

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