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41_ポーラ

「くっ、このっ!」

「はいっ、今度はこっち。」

「……ああっ!面倒臭い!

糸を出すの止めなさいよ!」


ポーラの屋敷の地下室、屋敷の女主人と対峙したカレンは、次々と放たれる糸に翻弄されていた。


「嫌よ。

そちらは剣を構えているのに、むざむざそちらの間合いで戦おうとする筈ないじゃない。」

「くっそーっ!!」

「あらあら、お口が悪くってよ?」


自前の糸で完全防護を決め込んだポーラに対して、カルナの剣は歯が立たなかった。

何せ宿屋で一度捕らえられている身だし、それが無くとも伸縮自在なポーラの糸は一本断ち切るだけでも労力が掛かる。

更に、ポーラはその間に新たな糸を放って来る。

斯くして、カレンの行動範囲はみるみる狭まっていった。


「『火球』!」

ボウンッ!!


と、そこにアンジェリカが『火球』を放ち、糸を燃やしに掛かった。


「へへんっ、聞いとるで!

その糸は火に弱いってなぁ!」

「あら、本当にそうかしら?」


「…………へっ?」


得意気に啖呵を切ったアンゼリカであったが、相手の余裕ある返しを聞いて違和感を感じた。


シュルッ……


ピトピトピトッ!!


「な、なんでぇ?!」

そして、炎をすり抜けた糸によってあっさり拘束されてしまったのだった。


「何やってるんですか、アンゼリカさんっ?!」

「いやいや、あの糸は火に弱いってカレンが言ってたやん?!」


「アハハッ。

まぁ、普通はそうなんだけれどね。

ただ、少し時間を掛ければちょっとした火には耐性のある糸は作れるの。

この部屋の糸は、ほとんどがそうやって作ったものよ。

宿屋での件があったから、念の為、この部屋を使わせて貰ったわ。」


「「──いっ?!」」

ポーラの種明かしに二人は声を揃えて驚く。


「ちょ、ちょっと、話が違うぞカレン!」

「し、知りませんよ?!

私だって初耳なんですから!」


「……ねぇ、流石に余裕かまし過ぎじゃない?

敵を前に味方同士で言い合うとか。」

「うっさい!

だいたい、アンタもなんなのよ!

リジュを拐ったり、ここまでする動機は何なの?!

目的は何?!」

勢い余ったのか、アンゼリカは言い返すついでにポーラの目的を問うた。


「えっ?!

……う〜ん、そうねぇ。

特に私自身の目的は無いわよ?」


「「…………へ?」」

再び二人の声が揃う。


「帝国でいろいろしてきたのも、全部ウチの子達が望んだ事を叶えてあげようとした結果だし……。

強いて言うなら、面白い事がしたかったから、かしら?」

「おもしろ、い……?」

事も無げに語るポーラの言葉をすんなり理解する事が出来ずに、アンゼリカは言葉を繰り返した。


「そう。

ヒトが右往左往してる様なんて面白いじゃない?

それがお偉い立場のヒトとかだったら、なおさら痛快だわ。」


「……そんな事の為にリジュを拐ったのか?!」

「端的に言ってしまうと、そうね。

あの娘を交渉材料に使える場面は多いし、帝国の重鎮達よりは拐い易かったし、何よりオッサンを拐うなんて面白くも何ともないから。」


「そんな……。」

「そうね……、そういった意味では、貴女もなかなか面白そうね。

……はいっ。」


パチンッ!

「ギャッ?!」


ポーラが手をかざすのに合わせて、アンゼリカの身体に衝撃が走った。

衝撃の正体はポーラの放った雷撃の魔術で、アンゼリカは痛みから悲鳴を上げてしまう。


「……あら、悲鳴はあんまり可愛くないわねぇ。」

「くぅ……、このっ!」


「もしや、リジュネア様を拐った時もそれを?!」

二人の遣り取りを聞いていたカレンは、ふとリジュネア誘拐時の状況を思い出していた。


「あら、よく気付いたわね。

そうよ、これで護衛を皆眠らせたの。

今あの娘に撃ったのは威力を抑えてあげたけど、本気で撃てば糸に絡めた全員を昏倒させられるわよ?」

「な……。」

ポーラの語る魔術の威力に、流石のカレンも微かに怖じ気付いてしまった。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!

もう頭ったま来た!!」


パリンッ!


逆にアンゼリカの方は、痛みで完全にキレてしまったようである。

懐から小瓶を手に取り、床に叩き付けてしまった。


「……ちょっと、変な物を撒き散らさないでよ。

やぁねぇ。」

アンゼリカの様子を見たポーラは、煽るように言いクスクスと笑うのだった。


「じゃかぁしいっ!!

錬金術師を舐めるなよっ!

カレン、ちょっと我慢してな!

『氷球』!!」


一般的に魔術が使える者が好んで覚える、攻撃魔術の基本は『火球』である。

これは、詠唱が単純であり消費魔力が少いのと、その割に火属性の攻撃なので威力がイメージし易く、魔力効率が良い事が挙げられる。

対して『氷球』は『火球』と同等の魔力消費でありながら、効果が地味であるため好まれない。

例えば対人戦で使われた場合、余程急所に直撃したりしなければ相手を倒すのは難しい。

精々が片脚に当てて足を地面に縫い付けるか、片手で防がれれば直撃された部位を一時凍傷に出来るくらいである。


アンゼリカが放った『氷球』はそんな地味な魔術であった、本来ならば。

なので──


ゴオォォォォォッ!!


「キャッ?!

冷っっっめたいっ!!!

えっ、なに?!」


──ポーラが驚く様に、狭いとも言えない部屋の半分くらいを全て凍りつかせる程の威力など無い筈なのだ。


「見たか!

氷精鬼の雫は氷属性の魔術の威力を増幅する効果があるんや!

凍ってしまったら、自慢の耐性糸も意味無いよなぁ?!」

「──っ?!しまった!」


バリバリバリッ!!


ポーラが言い終わるより前に、周囲から凍った糸を砕く音が響く。

カレンが剣で凍った糸をなぎ倒して進んで来た音だ。


「これなら行ける!覚悟ぉ!!」

「ちっ!!」


カレンの勢いに圧されたポーラは、慌てて防御用の糸を作り出す、が──


「『火球』!」

「──っ?!」


ボウッ……


──その糸は、アンゼリカの放った『火球』であっさりと燃えた。


「さっきの言い方じゃあ、急ごしらえの糸には炎耐性は無いんよなぁっ?」

「なっ?!」


糸の特性の隙を突かれ、ポーラは完全に無防備な状態になってしまった。


「たあぁぁぁっ!!」

「ぐあっ!!」


そんな状態のポーラに、カレンは気迫を込めて剣を振り下ろした。

当たりどころによっては生死に関わる一撃となり得るそれは、ポーラの右腕で辛くも防がれた。

もちろん普通に受ければ腕を切断されてもおかしくない一撃ではあったが、それは運良くポーラが身に付けていた小手で回避された。


トレントの枝木で造られた飾り小手、ポーラのお気に入りだ。

いや、お気に入りであった物だ。

トレントの枝を加工して宝飾が施されたそれは、実用面よりも芸術的な価値の方が勝った一品であった。

そうであっても素材はトレントなだけあって、見た目によらずしっかりとカレンの一撃を受けとめて見せたのである。

お陰でポーラの腕は浅く切り裂かれる程度の被害で済んだ。

とはいえ、小手自体は修復不可能なまでに壊れてしまった訳だが、十分に最後の役目を果たしたのであった。


「……ったぁ!

こうなったら……。」

この状況に至り、ポーラは踵を返し奥の扉に手を伸ばした。


「しまった!

追うんや、カレン!」

「残念、この扉を閉めてリジュネアちゃんを連れて逃げちゃえば、まだ再起は望めるからね──」


アンゼリカが叫ぶが、カレンの反応は一歩遅れた。

ポーラはそんな二人を尻目に扉を開いた。


ガチャ!


「──はい、残念!

『風球』!!」


「へ……?!

キャ、キャアァァァァァァッ?!」


ポーラは扉の向こうに居た人物の奇襲を受け、部屋内をもんどり打って転げ回るのだった。


「……ててて、ちょ、ちょっと!

何でアンタが奥の部屋に居るのよ?!少年!!」


起き上がったポーラは、真っ先に奥の部屋に居た人物に抗議の声を上げる。

そこに居たのは、ポーラが宿屋で出し抜かれた黒髪の少年、クローであった。

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