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39_カルナ

私の故郷の村では、薬草を栽培していました。

そのため、医師もよく訪れていましたし、薬草を使った治療法の研究も行われていました。

私も薬師の両親に習って治療法を勉強していたんです。


ただ、この国では一般的に、薬学は呪い師の扱う様な外法の一種と思われています。

……そうです。

ノワール教では、病は不信心から来るもので、真の治癒は教会の祈りによってのみもたらされるものとされているのです。


今にして思えば、私の村はひっそりと周囲の村とは最低限の関わりしか持たない様にしていた気がします。

それは、普段から患者と接する機会が多い医師が訪れる事で、感染が起き易いためだと思っていました。

でも、それだけじゃなかった。

……きっと、周囲の純朴なノワール教の村人からの奇異の目から避ける意味もあったのだと思います。


それでも、平穏に暮らしていたんです……、数年前までは。


……何があったかと?

きっかけは、簡単に言いうと感染症が流行しました。

これは周囲の村々でも起きていた事なので、私の村が原因ではなかったと思います。


これに対して、帝国は即座に周囲との隔離を行いました。

その辺りの村人は、外へは一切出れない様にされたのです。

そうなれば村はどうなるか?

……そうです、じわじわと感染が進み、村そのものが息絶えるんです。


それでも、私の村の中は感染対策がきちんと行われ、持ち堪えていました。

ですが、元々は薬草を作っていた村ですから、食べる為の作物の自給は多くありませんでした。

外部との流通が年単位で途絶えれば、普段の食料も徐々に尽きてきました。

食料が尽きてくれば、体力も維持出来なくなってきます。

すると、これまで感染していなかった者達にまで、感染は広がっていきました。


そこに至り、村の大人達は僅かに残る未感染者に全てを委ね、脱出させる策を考えました。

脱出させる者一人一人に、村で培った医療知識を可能な限り持たせて。

ですがその策も、ギリキリで隔離を行っていた兵士達にバレてしまった……。

焦った兵士達は、実力行使に出ました。


…………。


分かってはいるんです。

彼等はきっと、元々そう指示されていたんです。

……本当は彼等も、そんな事はしたくなかった筈なんです。

私が逃げようとした際、彼等の眉間に深く皺が寄っていたのをハッキリと覚えています。


私は逃げました。

始めは一人でなかったのが、いつの間にか一人きりになっていて、それでも闇の中を脇目も振らずに。

遠くでかつて暮らした村から火の手が上がっているのにも気付かないふりをして。


それでも子供の足です、兵士達は平然と追い縋って来ます。

私は走りました、無我夢中で。

気付くと崖の上から全力疾走して、宙に身を投げ出していました。


……いえ、今でもあの時の自分が何を考えていたか、よく分からないんですよね。

恐怖から逃げたかったにしても、崖からダイブするなんて意味が分からないし。


ただ、勢い良くダイブしたのが功を奏したのか、崖の側面に叩きつけられる事なく谷底の川まで落ちることが出来ました。

……まぁ、村育ちの私が泳げる筈もなかったのですが。


それでも急流の中、必死にもがいて、それでも遂に力尽きて意識を失い……。

ふと気が付いた時、私はポーラ様の腕に抱かれていたのです。


**********


「──後にポーラ様に聞いたところ、「食料調達を兼ねて朝の散歩をしていたら、私好みの可愛い子ちゃんが流されて来たので、迷わず拾った」と、仰っていました。」

「へ、へぇ……。」


ポーラに関わる部分だけは、微妙に嬉しそうにカルナが語るので、カルナが本心から好意を寄せている事が分かった。

そして、宿で出会ったポーラとカルナが語るイメージが結び付かずに、セレナは複雑な表情となってしまった。


「その後ポーラ様の元で、手元に残った村の薬学資料を覚えて今に至ります。

残念ながら、魔術の適性が芳しくないらしくて、そちらでは大した事は出来ませんが。」

「……それでもご立派ですよ。

ご両親や村の意思を継いでらっしゃって。

カルナさんの様に、魔術に頼らなくても可能な医療知識はとても貴重で有用なものだと私は思います。」


セレナの称賛を受けて、それでもカルナの表情は伏し目がちで憂いげなままである。


「ありがとう。

……でも、たとえば今また何処かの町や村で同じ様に感染症が蔓延したら、再び私の村と同じ出来事が再現されるでしょう。

そう思うと、一刻も早く国に考えを改めて貰いたいと思うのです。

私の村ではある程度は感染を抑える事が出来ていたのだから、それを広域に取り込んで貰いたい。

けれど、私が頼れるヒトはポーラ様以外に居ません。

あの村の出身とバレたら、再感染の疑いとか、あの村で起きた事を喋らせないようにするため、口封じされてしまいます。」


口封じの単語を聞いてセレナは驚く。


「そ、そこまでしますかね?」

「逆に、しないと思いますか?

私には「国が病気の蔓延した村を見殺しにした」なんて事を言って回る可能性のある者を、国が放置するとは思えないのですが。」

「……確かに。

口封じとまではどうかと思いますが、拘束されたりする可能性は有りそうですね。」


驚いたセレナであったが、言われてみればカルナな言う事も理解できる気がした。


「「……。」」


二人の間に一瞬の靜寂が訪れる。

聞こえて来るのは、同じ部屋の中央で戦っているオスカとヴェロニカの戦闘音だけであった。


その沈黙を破ったのはセレナの方であった。


「……分かりました。

今のカルナさんの思いを否定はしません。

ですが、どうか私の名前を覚えておいて貰えますか?」


「セレナさん……?

お名前を、とは?」

セレナの意図が分からず、カルナは聞き返す。


「今の私には伝手もコネもありません。

てすからカルナさんの希望を叶える事は出来ませんし、行動を止める事も出来ないかも知れない。

ですが、私が使える医療系の魔術は、必ずやヒトの役に立つものと信じています。

……まぁ、とあるヒトから教わったものなのですが。」


語り出したセレナの話を、カルナは黙って聞き続けた。


「私はいつか、この魔術を広める活動をしていきます。

ヒトを救う技術に国の隔てなど必要ありません。

当然、帝国にも門戸は開きます。

そうなれば、いくつの国からも有用性が認められれば、各国もこちらを無視は出来なくなるでしょう。

たとえ、国教で魔術が異端とされていても、です。」


セレナは、故郷コラペ王国を意識して語っていた。

『治癒』が魔術である事を隠すため、教会が魔術そのものを否定している状況にある国の一つである。

そんな現状でも、ヒトを治す有用性を見せ付ければ、否が応でも治療に魔術を使う事を考えてゆくことになるだろうと、セレナは考えていた。


「その中に、カルナさんの医療技術も加わって欲しいのです。

当然、有用性が知れ渡れば、帝国もその知識を求めて来る事になるでしょう。

その時が来たら、こう思ってしまえば良いのです。

「この技術は、かつて帝国がないがしろにしたモノなんだぞ!」って……。」

「──っ?!」


小さく驚くカルナの手を握り、セレナは続ける。


「だから、それまでカルナさんには、悪い意味で名が知れ渡るのは避けて欲しいです。

カルナさんが、ポーラさんを大切に思って、離れられないのであれば、それはお止めしませんから。」

「……分かりました。

セレナさんのお名前、必ず覚えておきます。」


ギュウッ……


カルナはセレナの手を握る力を込めて、そう答えた。

その表情は、先程までの憂鬱そうなものから、穏やかな笑顔に変わっていたのだった。

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