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37_アクア

ポーラの屋敷入口で足止め行うためゴロツキと対峙していたティアナ達三人とリックは、方針について最終確認していた。


「リックは警戒をお願いしますわ。

ゴロツキ相手なら、何十人居ようと私達三人で対処出来ますから。」

「うっす!」

ティアナの指示にリックが従う。


実際、魔術を覚え、冬の間カイルの手ほどきを受けたティアナ達三人にとっては、ゴロツキなど何十人居ようと敵ではなかった。

それには、陣形を保ったまま周囲を囲まれないように立ち回る必要があり、その点は騎士団時代の連携が活きてくる場面であった。

ただその前提には、社会的に優遇される立場の魔術師が、敵であるゴロツキの中に潜んでいる場合は想定されていない。

そのためティアナは、より魔術面に長けたリックに警戒を任せたのだ。


その選択が正しかった事はすぐに証明される事となる。


「『火球』!」

「──っ?!

『防護盾』!」


パシュゥッ!!


警戒していた事が功を奏し、リックの『防護盾』が間に合い三人を守った。


「ありゃっ?!

魔術師が居るとは思わなかったっスね。」


発射元を辿るまでもなく、一人の男が自己主張する様なセリフを吐いた。

ゴロツキに紛れて気付かなかったが、明らかに周囲より身なりと顔が整っており、周囲から浮いている。


「おやっ?

……もしかして昨日、俺の居た盗賊団にちょっかい出してきた魔術師っスか?」

「……なんでそう思うんすか?」

「格好と魔力の感じ、あと身体に魔術を掛けてる所なんかも同じっスからね。」


敵に混ざったイケメン魔術師に平然と言われ、リックは強敵との邂逅を覚悟した。

そして同時にティアナ達とぶつける訳にはいかない事も悟った。


「……それがバレるとは思わなかったっすね。

なら、互いに人に混ざったままではやり辛くないっすか?

一対一でやろうっす。」

「……確かに、魔術の応戦するだけで周りも巻き込んじゃうか。

オッケー、その提案乗った!」


そう言うと男はゴロツキから離れて、リックを促す。

この会話の間、ゴロツキもティアナ達も何となく戦いの手は止めていたのだった。


「リック、大丈夫?」

「まぁ、なんとかなるっすよ。

それよりアイツ、魔術が使える上に剣も持ってる。

両方使えるとなると厄介っすよ。

オレがやるっす。」

「……分かった、気を付けて。」

「分かってるっすよ。

オレだって、せっかくティアナさんと付き合える事になったのに、何もせずに死んでられないっすからね。

ティアナさん達の方も、オレの事に気を取られて不覚を取らないようにするっすよ。」

「分かってますわ。

そして、無事に戦いを終えたら、何でもしてあげますから。」

「……うっす!やる気出たっす!」


離れ際、ティアナからヤル気の出る言葉を貰ったリックは、勇んで敵の魔術師と対峙するのだった。


**********


「たぁっ!」

「くっ?!」


ガキンッ!!


「どうしたッスかぁ?

そんなんで俺に勝とうなんて甘いっスよ!」

「くっ!」

(強いっす!

単純な剣術の腕も上だし、魔術の練度もオレ以上っす!)


数度、剣と魔術を交錯した時点で、リックには相手の力量が推し量れた。

その力量は、残念ながらリックより上を行っている様である。


「そら、『火球』!」

「うわっ!」


ドォンッ!!


「「ぐわぁっ!!」」

リックが寸でのところで魔術を躱すと、背後から流れ弾に当たったゴロツキ達の悲鳴が上がった。


「戦いながら『火球』まで混ぜてくるんすか?!

あんた、そんな腕がありながら、なんで真っ当に生きないんすか?

仕事先なんて選り取り見取りっすよね?!」

「……まぁ?今の俺ならそうっしょ。

けど、そもそも俺は孤児だったんでね。

そこをポーラ様に拾ってもらって、三年間剣と魔術を教わったんスよ。

その恩に報いるため、俺はポーラ様に従って手足となって動いてる、それだけッスよ!」

「──っ?!」


敵の語る境遇は、奇しくもリック自身の置かれた状況とそっくりであった。


**********


ドォンッ!!

「「ぐあぁぁぁぁぁっ!!」」


ティアナ達は、断続的に飛んで来る魔術の流れ弾を上手く避けながらゴロツキ達と戦っていた。


「……外したとは言え、この威力。

彼、相当の手練ですわね。」

「なら早く、こちらを片付けないとニャ。」


流れ弾の威力から、相対しているリックを心配するティアナとスノウノ。

それとは対称的に、フラウノは冷静に状況を把握していた。


「いえ、流れ弾が飛んで来る状況です。

立ち回りは慎重に!

……それに、リック君にも策がある気がします。」

「策……、ですの?」


そして、リックの狙いも何となく察していたのだった。


**********


「──さぁ、どうしたッスか?

守ってばかりじゃ、どうにもならないっスよ!

そらっ、そらっ!」

「くっ!」


ドォンッ!!


リックは防戦一方であった。

年季の差か、剣技では相手の方が僅かに上、魔術の腕も同様である。

それでも冬の間「鬼のカイル」のシゴキに耐えたリックは、剣も魔術も寸での所で弾き、躱し続けていた。

しかし相手の言う通り、防戦一方ではジリジリと体力と魔力を消費し続けるだけである。


ドカッ!!


やがて体力を消耗したリックは、僅かに動きが鈍った隙に蹴りを喰らい、地面に片膝を付いた体勢になった。


「……ここまでっスね。」

男はリックに剣を向け、見下ろしながら勝利宣言をした。


「なんで──」

「ん?」

「なんでその腕があって自分で生き方を選ばないんすか?!」


男は勝ちを確信して、やや気が緩んでいる。

男からしても、リックは油断ならない相手であったことが伺えた。

それゆえ、リックの訴えに反応する余裕も生まれていた。


「……選んでいるさ。

俺は自分でポーラ様に従う事を選んだんスよ。」

「こんな事したって、成功したって、誰も幸せになんかならないじゃないっすか!

そのポーラ様とやらは何を望んでるんすか?

それは場合によっては、身近に居る者が止めなくちゃいけないモノなんじゃないっすか?!」


同じ境遇なだけに、リックには男の心情が理解出来る気がしていた。

だからこそ、自分の言葉が男にも響くと思ったのだった。


「……知った様な口を。

俺はあのヒトに大恩があるんスよ。

だから──」

「大恩あるなら、なおさら止めるべきっす!

ウチのパーティなら、速攻で総ツッコミする所っすよ!」

「あんたらの様なお気楽冒険者パーティとウチは違うんスよ!」

「……っ!」


リックの思いは確かに男に伝わった。

しかし、なまじ感性が近いからこそ、逆鱗にまで言葉が届いた様だ。


「……ウチらは皆、帝国に恨みを持ってる者の集まりなんスよ。」

「……。」

一転して静かに男は語り出した。

リックはそれを黙って聞いている。


「俺も、孤児の癖に顔だけは良かったから……、貴族に拐われて飼われていた時期があるんスよ。」

「──っ?!」


男の目はリックを見ている様で、リックに焦点が合っていない。

そんな男の語る過去に、リックは驚きを隠せなかった。


「物心ついた頃にはそんな状況で、それがおかしいとも、悲惨な状況だって事すら分かってなかったっス。

そんな俺を、ポーラ様はどういう風の吹き回しだったのか、助け出して色んな事を教えてくれたんスよ。」

「……。」


自分と似た境遇の男の独白を、リックは黙って聞いている。


「だから、俺もそんな貴族達が平然とのさばってるこの国は嫌いだし、ポーラ様のやる事に反対する気なんて無いし、喜んであのヒトの言う事に従ってるんスよ。」

「……そっ、すか。」

男の半生を思うと言葉が出て来ず、ただただ頷くことしかリックには出来なかった。


「……思わず余計な事をペラペラ喋っちったっスね。

でもまぁ──」

リックの様子から、男はようやく自分が語り過ぎた事を自覚した。

そして言葉を区切ると、やっとリックに焦点を合わせた。


「──どうせ口封じすれば変わらんっスね?」

そして、知り過ぎたリックにとどめを刺そうと剣を振り上げたのだった。


「『火球』!」

「はぁっ?!」


──と、そこに魔術による横槍が入った。


「『防護盾』!」

慌てて魔術で防ごうとする男。


「『防護盾』!」

だが、そこですかさずリックも同じ魔術を放った。

同じ位置に同じ魔術を「逆向き」に。


パキッ!


「なっ?!」

するとどうなるのか?

リック自身も確証は無かったが、相反する指示で矛盾が生じたためか、同じ座標に無茶な重複が起きたためか、双方の魔術は音を立てて崩壊した。


当然、それで『火球』を防ぐ事など出来ない。

ただ、狙いが甘かったか、男が身をよじったおかげか、『火球』は直撃する事なく男の足元に着弾した。


「くっ!!」

男は咄嗟に剣と腕で頭を庇う体勢となったが、この状況を狙っていたリックは、土煙の舞う中で行動に移した。

視界が利かない状況であっても、『空間把握』によって自分の周囲が手に取る様にリックには分かっていた。


リックはまず、男の剣を蹴り飛ばし、続いて男の腹にお返しの蹴りを見舞う。

さらに、勢いそのまま男の顔面に拳をめり込ませると、男は地に倒れ伏すのだった。


「くっ……、っ?!」


やっと顔を上げた男が見たのは、剣の切っ先を向けるリックの姿であった。


「形勢逆転っすね。」

「…………ふぅっ。」


戦況は、さっきとは全く真逆の形勢となった。

リックが勝利宣言をすると、男は座り込む体勢になり、ため息を吐いて目を閉じる。

彼には、リックの後ろに集う三人の女性が見えていたのだ。


「……まさか、他にも魔術を使える者が居るなんて思わないじゃないっスか。」

男は誰にともなく愚痴をこぼした。


「他にもっつうか、ウチは皆、魔術も使える感じっすね。」

「うは〜、そりゃ反則!」


リックの言葉に、男はわざとらしくおどけて返す。

だがその表情は次の瞬間にはスッと消え失せ、真顔で問いを投げ掛けてきた。


「……なんで俺、負けたんスかね?」

「貴方が一人で戦っていたから、ですかね。」

「……?」

答えが思わぬ方から返ってきたこと、そしてその意図がいまいち分からなかったため、男は疑問の表情となる。


「気付かなかったニャ?

あんたのお仲間、半分はあんたの魔術で吹っ飛んてたニャ。」

「──えっ?!」

さっきとまた違う女が喋った内容に、男は啞然となってしまう。


「そうなる様に考えて、リック君は立ち回ってましたからね。

お陰で早くあちらを片付けられたので、こっちの加勢が出来たんです。」

「そんな……、下手したら味方まで被害が及ぶじゃないっスか?!」


そう、ゴロツキの方に魔術を誘導すれば、それはリックにとっての仲間にも危険が及ぶ事を意味している。

男はその事に言及した。


「ティアナさん達はちゃんとオレらの戦いを意識してくれてたっす。

だから、そういう心配はしてなかったっすよ。」

「は……。」


リックは事も無げに語るが、それは誘導したリックも、魔術を躱し続けたティアナ達も全員が高レベルな実力を備えている証明でもある。

そんなデタラメさに、男は呆れた様な声を発してしまった。


「……あんた、名前は?」

一瞬の沈黙の後、リックは男に尋ねた。


「……アクア。」

「アクア、あんた強かったっすよ。

オレ一人じゃ絶対に勝てなかった。

ただ、オレには互いに助け合える仲間が居て、アクアには居なかった。

言わばチームワークの勝利っすね。」


「……チームワーク、か。」

(それは俺には、ポーラ様達とも、あの即席のゴロツキ達とも、無理な話っスね……。)


そう心の中で呟くと、アクアは観念した様に再び目を伏せるのだった。

本編の話とはまったく関係ないのですが

「コールボーイ」という歌が好きでよく聞いています

本家 syudou 様のもモチロン良いのですが

とある方がカバーしているのも良いんですよねぇ

本編の話とはまったく関係ないのですが

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