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35_それぞれの戦い

「えっ?えっ?カレン?!

なんで帝都に居るの?!」

「それはこっちのセリフですよっ!

なんでアンゼリカさんが帝都に来てるんですか?!」


クローを置いて宿を出た一行は、無事に喫茶店「ノルン」まで辿り着いた。

そして主であるトーコと居候をしているアンゼリカを叩き起こしたところである。

そこでアンゼリカとカレンは、当然の疑問を互いに投げ掛けたのであった。


「話は行きながら話しましょう。

リジュネア様が他に移されてしまっては手遅れになりますわ!」

「えっ?!リジュが?なんで?」

ティアナに急かされるも、アンゼリカはいまいち状況が飲む込めていなかった。


「移動しながらと言ったろう、良いから行くぞ!」

そんなアンゼリカを更に急かす様に、ヴェロニカが語気を強めて言い放つ。

ヴェロニカとしては、クローが身を挺して作り出した時間を無駄にしたくない思いがあった。


「いってら〜。頑張ってな〜。」


ひらひら


「……トーコさんは手を貸してはいただけないのですか?」

そんな皆に対して、他人事と言わんばかりに呑気に手を振るトーコに、セレナは突っ込みを入れた。


「え〜……?

だって、今も既に面倒な事になってるんでしょ?

そんな所に出て行って更に面倒な事になったら、面倒過ぎて目も当てられなくなるじゃない?」

「えぇと……、とにかく面倒と?」

友人の大事に対して面倒と言い放つトーコに、カルチャーショックに似た感覚を覚えたセレナが愕然と呟く。


「トーコはそういうのに手を貸すアレじゃないから。

……ありがとうトーコ。

リジュを連れてまた来るから。」

「ほ〜い。

気張ってな〜。」

ところが、アンゼリカは知己なだけあって、トーコの在り様を何となく感じ取っているらしい。

責めるでもなく別れの挨拶を交わすのだった。


「「……。」」

そんな二人の遣り取りを、周りの者は釈然としないながらも黙って受け入れ、先に向かうのだった。


**********


「そんな危ない事してたんか?!

カレン、アンタって子は、無茶ばっかりしおってからに!!」

「そ、そう言うアンゼリカさんこそ、単身で帝都を探し回るなんて!

一歩間違えれば、その遷都派の連中に目を付けられて危なかったかも知れないのに!」

アンゼリカとカレンは、互いにこれまでの経緯を説明しあったが、案の定と言おうか口論が始まってしまった。


「ウ、ウチは昼間しか回ってないから大丈夫なの!」

「私だって自身の実力に見合った行動をした結果です!」


「もう少し声を抑えろ、目的地に着くぞ。」

盛り上がる二人にヴェロニカが釘を刺す。

クローが居ない場面だと指示役に回る事がままあるヴェロニカであった。


「ここにリジュネア様が……。」

「……その様だが、当然すんなりと行かせてはもらえないらしいぞ。」

感慨に浸りそうになるカレンを、ヴェロニカの言葉が現実に引き戻す。


「「えっ?!」」

「待ち伏せしている者が大勢居る。」

ヴェロニカは、エルフ特有の素の魔力感知によってヒトの集団を察知していた。


「……ヴェロニカさん、待ち伏せしている人数は分かりますか?」

「二、三十人といったところか……。」

「アレですかね?

マフィアから最近引き抜かれたというゴロツキ。」

セレナの問いに答えるヴェロニカ、その答えと自身の集めた情報から、カレンは一つの推論を導き出した。


「なら、相手は私とスノウノ、フラウノで十分です。

私達が食い止めている間に屋敷に入って下さい。」

話を聞いたティアナは足止めに志願した、ゴロツキを相手にするのは騎士団に居た頃から何度か経験している。

スノウノもフラウノも、ティアナの意見に反対はしなかった。


「……分かった。

が……、リック!」

「はいっす!」

「付いて居てあげてくれ。

連中の中に魔術が使える者が居るとも限らんからな。」

「了解っす!!」

ティアナ達三人も魔術は使えるものの、歴が数ヶ月長く、しかもクローに付きっきりで教わったリックには及ばない。

何かあった場合に備え、ヴェロニカはリックを残して行く判断を下した。


「……では、行くぞっ!」

「「はいっ!!」」


ヴェロニカの号令のもと、敷地内に侵入した一行は、ティアナ達足止め組を残して母屋になだれ込んだ。

ほどなく、その背後からは剣戟の音が響き出すのだった。


**********


「……良く此処まで来れましたね。」

「……。」

屋敷内を駆け抜け、各部屋を回っていた四人だったが、ある部屋に差し掛かった時、見覚えのある人影が四人の前に立ちはだかった。


抜き身の剣を下げた褐色のエルフと、クローを治療した白服の女性カルナである。

二人を見たのは、今居るメンツの中ではヴェロニカとセレナだけであったが……。


「……あの二人は、あの女性と同行していた側近だ。

彼等が居るという事は、その奥……、あの階段の下にリジュネア様は居るのだろう。」

「おや……?

何処かでお会いした事がありましたか?」

初対面と思った相手に自分の事を語られて、褐色のエルフは訝しむ。


「昨日の朝、こちらのツレがそちらのカルナ嬢に治療をしてもらった。

私達もその場に居たんだ。

……目立たない様にしていたので、気付かれなかったようだけれどな。」

「これはこれは、黒エルフごときが白エルフ様の存在を見落とすなど、失礼な事をいたしました。」

「……は?黒エルフ?白エルフ?

そんな区分けなんて初めて聞いたが?」

褐色エルフの自虐的な響きを含んだ言い回しに、今度はヴェロニカが訝しむ番であった。


「おや、そうですか?

……貴女、帝国や西方諸国の方ではない様ですね。」

「……そうだな。」

まさか遠くリプロノ王国出身と言う訳にもいかず、ヴェロニカは簡潔に答えた。


「……まぁ、そんな事はどうでもよろしい。

今更、覚悟を決めて此処まで来た貴女方に、誤魔化しも通じないでしょう。

リジュネア様は私共の後ろの階段を降りた先にいらっしゃいますよ。」


「リジュが?!」

「リジュネア様っ?!」

反射的にアンゼリカとカレンがリジュネアの名を呼ぶ。


「──ただし、私も只で此処を通す訳には参りません。」

言いながら褐色エルフは下げていた剣を上げ構えた。


「──行け、アンゼリカ、カレン。

探し主はそこに居るそうだ。」

そう言うとヴェロニカはレイピアを構え、褐色エルフの前に出る。


「そんなっ?!私も──」

「──彼も魔術が使えるようだ。

剣士や錬金術師では荷が勝ち過ぎだろう。

それに、急がないと姫を何処かに移される懸念もある。

ここはワタシに任せて行け。」


「おっと、そう簡単には──」


フォンッ!


「──っ?!」

階段に向かおうとするアンゼリカとカレンに対して動こうとした男だったが、ヴェロニカの手に魔術発動の兆候を感じて言葉を飲み動きを止めた。


「ふふ……、ブラフと分かっていても警戒はしなくてはいけない。

互いに魔力を感じられる者同士、無茶は出来ないよな?」

「……そうですね。

良いでしょう、残りの者は貴女を始末した後に後から追う事にしましょう。」


「二人とも急いで。」

「セレナさんは?!」

急かすセレナだったが、自身は動こうとはしない。

その様子に気付いたカレンが問い掛けた。


「私はここで彼女を見守ります。

私の大事なヒトですから。」


「へ、へぇ……。」

何か勘違いをしたらしいアンゼリカは、言葉を詰まらせる。


「──それに、彼女とも話をしたいと思っていたのです。」

セレナはカルナを見据えたまま、重ねて答えた。


「分かった、お互い無事にまた会おうな!」

「御武運をっ!」

二人は口々にそう告げると、地下への階段を降りて行った。


カンカンカン……


「……ふっ、無事で済まないのはむしろ、彼女達の方かも知れませんがね。」

それを見送った後、男は意味ありげに口を開いた。


「……っ?何故だ?」

「貴女達もあの御方の本性は知ったのでしょう?

ならば、あの方の特性が最も発揮出来る場所がどんな所か、想像はつく筈です。」

「──っ?!

そうか、密閉された閉所なら、あの糸が最大限に活かせる。

……というか、戻っていたのか?!」

「ええ。

あの御方、ポーラ様は今しがた戻られました。

……少年に遅れを取ったと、とても悔しそうにされておいででしたよ。

なので今、あの方は非常に不機嫌なのです。

先に行った彼女達がどうなるか、見物ですね。」

男はそう言って不敵な笑みを浮かべた。


「そうか、クローは無事に逃げた訳か。

それを聞いて安心した。

そして、こちらの勝利も確信したよ!」

けれどヴェロニカは男の言葉に惑わされる事なく、勝利宣言を口にする。


「……たかが少年一人の趨勢に、局面を変える程の影響力があるとは思えませんが。」

「変わるよ。

アイツはそんなヤツだからな。」

二人の視線が交錯する。

どちらが正解を言い当てているのか、少なくとも口論で結論の出る話ではない。


「まぁ……、それは結末によって語られるでしょう。

そろそろ行きますよ?

私としても主へ加勢に参りたい気持ちは同じですからね。」

「そうだな、同じ気持ちだなっ!」


キィンッ!!


言い終わるなり、男とヴェロニカの剣戟の音がフロアに響いた。


**********


バタンッ!


「あら?ようこそ、お二人さん。」

「──っ?!何故ここに?!

さっきまであの宿に居た筈なのに。」

地下に降り下った先、扉の向こうに蜘蛛獣人の女主人ポーラが居た事にアンゼリカは驚きの声を上げた。


「何故って……、大急ぎで戻って来ただけよ?

服がボロボロにされてしまったから、着替えた所なの。

……また荒事をするのは御免なのだけれど、そんな訳には行かなさそうね?」

ポーラは余裕の表情で二人を煽る。


「当たり前だ!

リジュネア様は無事か?!」

煽られたカレンは声を荒らげ、ポーラに問い詰めた。


「ああ、それは心配しなくて良いわ。

あの娘の事は特に丁重に扱っていたもの。

ライザー子爵が連れて行こうとしたのを、半ば力尽くで止めたりもしたのよ?

あの方に委ねたら、嫁入り前の姫様にどんな不埒な事をするか分かったものではないからね。」

ライザー子爵に関する部分を語る際は、吐き捨てるような口調になってしまうポーラであった。


「……お、おう。

それは、ありがとう……?

……いや、違う!

リジュを返せ!」

一瞬、感謝しかけたアンゼリカだったが、直ぐに思い直しポーラに詰め寄る。


「そういう訳にはいかないのよね。

となれば……、分かるわよね?

こちらもちょっとムシャクシャしてるから、手加減なんて期待しないでね。」

ポーラは既に戦う気満々の様子で、殺気を漲らせ出した。


「こちらは端からそのつもりだ!」

ポーラの言葉にカレンも引かず、気迫を込めて剣を握り直す。


こうして、屋敷の各所で戦いの火蓋は切って落とされたのであった。

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