33_カレン
「……なんつーか、本格的にヤベぇなそいつら。」
「あ、いえ、本当に根拠の無い妄想ですよ?」
ズッ君さんは深刻に受け止めてくれたらしい。
眉間にシワを寄せている。
「根拠が無くても関連付け出来てしまう時点でもうな……。
なぁ、話にあった家と犬小屋の場所を教えてくれ、アンゼリカ。
親父経由で話を通して、明日には立ち入り捜査するように取り計っておくよ。
何かあった場合のリスクを考えると、本当は何も無かった場合のリスクなんて些末な事だからな。」
「は、はいっ。」
「あぁ、一応あんたらにも詳しい話を聞かせてもらうが、良いよな?
勿論、オレも同席するから下手な真似はさせねぇよ。」
「はい、ボクらも大丈夫です。」
「うしっ、親父の所に行ってくる!」
その後、ズッ君さん立ち会いの元でいろいろ兵士さんに聞かれ、解放されたのは夕方であった。
遅くなった事もあり、アンゼリカさんはズッ君さんのとりなしで兵士に送って貰う事になったのだった。
ボクらの方は宿に帰る事にした。
**********
「あっ、みんなお帰りなさい。
あの女性、ついさっき目を覚ましましたよ。」
宿で出迎えてくれたのはセレナさんであった。
開口一番でそう語られた。
「えっ、本当?!」
「はい。
今はお水を飲ませて落ち着かせている所です。」
「暴れたりしなかった?」
「はい。
起きて自分が危害を加えられていない事を悟ってからは、大人しいものですよ。
丁度これから話を聞く所なので、一緒に聞きましょう。」
女性が寝ていたベッドへ向かうと、件の女性はベッドで上半身だけ起こした姿勢で水を飲んでいた。
「あ、あの……。
ありがとうございます。
危ない所を助けていただいたみたいで。
あのままマフィアの連中に捕まったらどうなっていたか……。
あ、私カレンと言います。」
そう語るカレンさんは、ティアナさん達と同年代に見える。
昨夜は黒装束に隠していた髪は肩より長く、明るい色をしている。
今はゆったりした服に着替えているけれど、それでも肉付きの良さが主張する、なかなかの我儘ボディだ。
……黒装束の時は何処にそれを隠していたか、疑問に思う。
「カレンさん。
マフィア相手なんて、随分危険な事をしてるみたいですが、何故そんな事を?」
ティアナさんが問い掛ける。
「あ、はい。
実は、詳しくは言えませんが、私は隣国で騎士をしていました。
しかし、警護対象の姫を遠征先で拐われ、居ても立っても居られず此処までやって来ました。」
ん?姫?拐われ?
「拐われたのが帝都の近くでしたので、此処のマフィアなら事情を知っているものかと思い、単身でマフィアの事務所に突撃を繰り返していたのです。
そうしたら昨夜は、見事に罠に嵌まってしまい、怪我を負い已む無く撤退したのです。
……まぁ、それまでも生傷の絶えない有様でしたが。」
……呆れた。
己が身一つでマフィアの事務所に特攻を繰り返していたのか、このお姉さん。
凄腕であるのは違い無いのだろうけど、それにしたって滅茶苦茶だ。
「……結局、成果の方は?」
「……ありません。
ただ、マフィアの間でも不可解な人員の引き抜きが起きているらしい事を聞きました。
これは、誘拐犯達が密かに人手を集めているのではないかと思っていました。
だから帝都の何処かに姫が囚われているのは間違い無かろうと躍起になっていて……。」
その希望に縋った結果、無謀が祟って返り討ちにされた、そんな所かな?
「その姫様って、リジュネア様ですよね?」
「──っ?!
な、何故それをっ?!」
ボクが核心を突くと、カレンさんは予想通りに分かり易い反応をしてくれた。
「ゔ〜ん……、凄い偶然で信じられないかも知れないですけど、アンゼリカさんって知ってます?」
「知ってます!!
リジュネア様が拐われた際、私と一緒に居た姫の御学友です!」
ビンゴ!
てか、アンゼリカさんとも知り合いかぁ……。
じゃあ明日、アンゼリカさんに引き会わせて、引き取って貰おうかな。
「あの、聞きたいんすけど。」
ここで、リックがカレンさんに向けて手を挙げた。
「あ、はい?」
「巷では貴女の事がベグナルドと呼ばれてるみたいっすけど、その名は自分で名乗ってたんすか?」
「いいえ、私が活動するようになって、早い段階からそう呼ばれるようになったんです。
私としては、本名から素性がバレたりしないなら、呼ばれ方なんて気にしませんから、否定もしませんでした。」
「なるほどっすね……。」
へぇ……、じゃあ帝都で「ベグナルド」の名を知っていて、噂を広げたヒトが別に居るって事か。
「……兎に角、今夜はもう遅いから、ここに泊まって行って下さい。
明日、アンゼリカさんの所に連れて行きますよ。
あと今日、リジュネア様が囚われていそうな場所が分かったので、明日には兵士が立ち入る予定になってます。」
「えっ?!
居場所が分かったんですか?!」
うん、つくづくリアクションの大きいヒトだ。
「まだ確定じゃないですよ。
違う可能性も高いです。
……でも、もし本当にリジュネア様が見つかったなら、カレンさんもそれに貢献した事になりますね。」
「へっ?!私が?何故?」
「ま、それは夕食後に話しましょうか……。
そう言えば、カレンさんは何処で寝泊まりしてたんですか?」
「足が付かないように、手頃な廃墟を転々としていました。」
ああ……、もしかして、今朝行った廃墟はカレンさんが使っていた場所だったのかな?
それなら、昨日の昼間にヒトの気配があって、今朝は無人だった説明が付くし。
「じゃあ、ろくな物を食べてないでしょう?
今夜はちゃんとした料理をご馳走しますよ。」
きゅるる〜〜っ!
なんともタイミング良く、カレンさんのお腹が鳴った。
うん、本当に分かり易いヒトだ。
「ひゃっ?!
あの、これは……、ごめんなさいっ!」
「気にしなくて良いですよ。
さっ、早く準備しましょう。」
その後、ボクらは夕食の準備に取り掛かった。
**********
「あぁ〜〜、感激です!
故郷でも家では一人暮らしなので、久々に家庭料理を食べた気がします!」
「そんな大したものじゃないっすけど、口に合ったなら良かったっす。」
夕食後、ガツガツ食べていたカレンさんの開口一番の言葉にリックも気を良くしている。
「……。」
そんな二人の様子をティアナさんはじっと見ていた。
表情は一見落ち着いてみえるのだけど、その目は笑っていない。
……どうしよう?
今、この場で何かしても逆効果になりそうだし、スルーさせてもらう。
「そう言えば、カレンさんはどちらで寝せます?」
「そうだなぁ、リック達の部屋は狭くなりそうだし、こちらの部屋で──」
セレナさんの問いにボクが答えようとした時──
「あら、そんな心配はしなくて良いわよ?」
──ふと、聞き慣れない声が部屋に響いた。
「え……?」
声のした窓の方を見ると、開け放った窓の元に黒い人影があった。
ぞわっ!!
全身が総毛立つのを感じる。
間違いない、昼間の女性だ。
「ごきげんよう。
寝床の心配なんて、もうしなくて良いわよ。
貴方達のお陰で色々と露見して、こちらも余裕が無くなってしまったの。
本意ではないけれど、口封じをさせてもらうわ。」
女性はそう言うと右手をかざした。
キラッ
一瞬見えた!糸だ!
ダッ!
ボクは女性と皆の間に躍り出て、両腕を広げた。
放たれた糸を全て受け止める様に。
「皆、逃げて!!早くっ!
兎に角、この部屋の外に!!」
「な、何っすか?!」
「皆、取り敢えず出ろ!それからだ!」
ボクの叫びにヴェロニカさんはすぐに反応してくれ、皆を促す。
……ヴェロニカさんは黒服の女性を警戒していたから、違和感を感じることなく動けた感じかな。
「たあっ!!」
えっ?!カレンさん?!ちょっと!
ガッ!!
「え、な何故?!」
カレンさんは剣を振りかざした体制のまま動きを止めた。
いや、止められたのだろう、黒服の女性によって。
「カレンさん、貴女も皆と逃げて!」
「あの日、リジュ様を連れ去った張本人が目の前に居るのです!
騎士として引く訳にはいきません!」
カレンさんは力を込めて叫ぶけれど、剣も体も既に糸に絡め取られているようで、身動きが取れないらしい。
そして、それはボクも同じだった。
これは……、ピンチかも知れない!!




