31_再捜索
「昨日の騒ぎ、もう話題になってますね。」
「マフィアと強盗団が騒ぎを起こして、結果、強盗団のアジトがバレて捜索が入った、とな。
朝の食堂で噂していた。」
朝食を部屋で食べるため食堂に行ったフラウノさんとヴェロニカさんが、戻りしなにそう言ってきた。
こちらの世界では噂が広まるのが早い気がする。
それとも帝都という土地柄なのだろうか?
「……彼女、朝になっても目を覚ましませんねぇ?」
「疲労も溜まっていたのでしょう。
今は休ませるのが良いと思います。」
ティアナさんの呟きにセレナさんが応じる。
「では、今日はボク、ヴェロニカさん、リックの三人で行きますね。
その代わり、その偽「ベグナルド」が目を覚まして暴れたら、しっかり制して下さい。」
「良いのですか?
アンゼリカさんに全員で行くと言ってしまったのでは?」
「昨日の夜に回った感じ、あと可能性のあるのは一箇所だけです。
それに、アンゼリカさんご所望のリックも連れて行くので大丈夫でしょう。」
ボクはリックをチラリと見つつ、セレナさんに答えた。
「ご、ご所望?!」
「大丈夫だよ。
アンゼリカさんにリックを差し出したりしないから。
諦めさせる意味で連れて行くんだよ。」
「そ、そっすか。
ホント、頼むっすよ?」
リックが驚くのにも、なだめる様に答えた。
実際、ボクから見てもリックは硬派は方だと思う。
最近会ったばかりのヒトになびく事なんて無いだろう。
「…………。」
お〜お〜、ティアナさんも睨んでる。
いや、ハッキリと付き合う事になったんだから、ちゃんとお断り出来るでしょ。
「じゃあ、行ってくる。
お願いしておいてなんだけど、くれぐれもその女性の相手は慎重にね?
本当に犯罪を犯してないかなんて分からないから。」
「分かってますよ。
こちらも信頼のおける剣士が三人も居るのです。
心配は要りませんよ。」
ボクの心配に、今度はセレナさんがなだめる様に答えるのだった。
**********
「──という訳で、今日は庶民街の廃墟に向かいます。
そこが空振りだとしたら、もう候補はありません。
もう一度ダウジングし直しですね。
それか、まだ行ったことの無い区画を探すとか……。」
「え、え〜……。
そんな事件があったんや?
怖いなぁ……。」
チラッ
アンゼリカさんがリックをチラ見する。
あ、本当に気に掛けてるんだ?
これは釘を刺しておいた方が良さそうだね。
「あ、こっちのリックですが、ウチのパーティ内の剣士と既に付き合ってるので、色目使っても無駄ですよ?」
「え゛え゛ぇぇぇぇぇ〜〜……っ?!
……はぁ〜、やる気無くなった、はぁ〜……。」
アンゼリカさんは光の速さでヤル気を失った。
「えっ?!ちょ、ちょっと、嘘ですよね?」
「……まぁ、半分だけね。」
「半分も?!」
「ホラホラッ!
バカな事を言ってないで行っといで!
リジュはんが待っとるんやから。」
「うぃ〜……。」
トーコさんに急かされ、どうにか残る気力を振り絞ったアンゼリカさんは、重い腰を上げるのだった。
**********
「……もぬけの殻だ。」
「「ええっ?!」」
此処は一般庶民の住む区画の廃墟、昨日の夜に回れなかった場所だ。
廃墟に着くなりヴェロニカさんが告げた言葉にボクらは驚く。
「念の為、感知系魔術も使ったが、誰も中に居ない。」
「そうですか……。
う〜ん、取り敢えず中を確認しますか?」
「そうね……。」
ヴェロニカさんの言葉を受けてボクが促すと、アンゼリカさんも同意したので、中に入ってみる。
中は食事を取った跡など、何者かが潜んでいた形跡があった。
だが、争った様な跡も無いそれは、「誰がが囚われていた形跡」とは言えないものであった。
「……どうしたもんかなぁ。」
こにこ来て手掛かりが無くなってしまったアンゼリカさんは、呆然と呟いた。
「最後にまだ行ったことがないという地区に行ってみましょうよ。
どうせ手掛かりが無いならダメ元で。」
「そうなぁ……。」
気落ちするアンゼリカさんをどうにか動かし、ボクらは貴族街に向かった。
**********
「ん?」
「どうしました、ヴェロニカさん?」
道すがら、貴族街でヴェロニカさんが不意に立ち止まったので、ボクは声を掛けた。
「この邸宅なんだが、やけに室内が慌ただしくしているな……。」
ああ、ボクを轢きかけた貴族の邸宅かぁ。
……探ってみると確かに家人が妙にバタバタしている。
「でも、リジュネア様が居る様子は無いですよね?
アンゼリカさんのダウジングに掛かったくらいですから、何かしら関係あるのでしょうか?」
「いやぁ、なんだか全部空回りしてるし、もう信憑性もあったもんや無いけど……。」
アンゼリカさんはなんだか自信まで無くしているようだ。
「ええと……、今の所ダウジングくらいしか指針が無いんですから、頑張ってみましょう。」
「うん……、そうね。」
「取り敢えず此処はスルーして先に進みましょう。」
「ああ、そうだな。」
「うっす!」
ボクが言うと、ヴェロニカさんとリックが返事してくれるけど、アンゼリカさんは無言のままだった。
**********
「う〜ん……、やっぱり反応は無いなぁ……。」
アンゼリカさんがボヤく。
既に未確認の貴族街区画まで来ているのだが、ダウジングには反応が無い様子だ。
「もうっ、気落ちしてる場合じゃないでしょ。
お友達を助けるんでしょう?」
「ガンバっす!」
「……な、なんか男の子達に励まされるのって、良いなぁ。
よぅしっ!もう一踏ん張……ありゃっ?!」
グィンッ!
アンゼリカさんの持つロッドが激しく動いた。
「これ……、やっぱり!」
アンゼリカさんは確かめる様にその場をフラフラと歩いた。
それに応じてロッドもクルクルと目まぐるしく動いている。
「間違いない、ロッドはこのお屋敷を指してる!」
そう言ってアンゼリカさんが指差したお屋敷は、さっきの貴族邸宅程ではないが、そこそこの大きさだった。
そして外見から、そこそこ年季が入っているのも伺えた。
「どれ……、あ、なんだか怪しい気がするな。
地下からヒトの気配がする。
それも複数だ。」
ヴェロニカさんが素の魔力感知を行った結果を語る。
なるほど、この屋敷が怪しいのは分かった。
お誂え向きに入り組んだ道の奥に構えた建物というのが、いかにもといった感じだ。
「どうする?
感知系魔術を使うか?」
「……いや、今分かっても強行突入出来る訳ではないので、下手に警戒させるのは止めておきたいですね。
……ん?」
ガラゴロガコッ!
「昨日の馬車?
……ちょっと隠れて様子を伺いましょう。」
「「了解。」」
**********
「おいっ!
事情が変わった、もう待てん!
すぐに例の案を実行したい!
あと、「海」を引き取りたい。」
「……いきなりどうしました?
藪から棒に……。
此処へは緊急時以外は来ないようにと申しましたよね?
それに、こんな玄関先で話す事では──」
「事情が変わったと言ったろう?!
もう時間が無いんだ!
私はすぐにでも領へ戻らねばならない。
その前に「海」を引き取っておく。」
「……あの方は無事にお帰しする、そう告げているのです。
大丈夫、例の案が決行されても、私共がちゃんと御守り──」
「此処から離した方が安全だ!
安全ならこちらが確保する!
アレを手中に収めておく事が肝要なのだ!」
「……女性を物の様に扱うのは、私の主義に反しますわ。
貴方が彼女の身の安全まで保証すると言われても、信用は出来ませんね。」
「なっ……?!」
揉めている。
遠目ながら『望遠』と『指向性集音』でおおよその内容は分かった。
というか不穏な事を話しているなぁ……。
屋敷から出て来たのは、昨日見た黒服の貴婦人とその従者だ。
それが、同じく昨日ボクを轢きかけた馬車から降りてきた、貴族と思しき人物と言い合っている。
話の内容からしても、ビンゴだろうか?
クイッ、クイッ!
ん?
ヴェロニカさんが袖を引っ張ってくる。
(なぁ、気付かれるぞ。
そんなに顔を出すな。)
ヴェロニカさんの方に顔を向けると小声でそう注意された。
そう言えばヴェロニカさんは、あの女性がヒトではないと言ってたっけ。
それにしても警戒し過ぎじゃないかな?
今のボクらは、件の屋敷から1ブロック離れた所から顔だけ覗かせている状況だ。
さらに屋敷の門から玄関までも少し距離かある。
これでこちらに気付かれるとしたらそれこそ──
ぞわっ!!
「──っ?!」
一瞬、悪寒が走った。
恐る恐る視線を屋敷の方に戻すと──
黒服の女性はヴェール越しでも分かるほどハッキリとこちらに視線を合わせ、右手で指差してきた。
このヒトは本当にヤバい!!
本能がそう訴えるままにボクは皆に撤収を告げていた。
「気付かれました!
一旦、逃げましょう!」
「はいっす!」
「言わんこっちゃない!」
「えっ?!えっ?!」
ボクの言葉にリック、ヴェロニカさんはすぐさま反応してくれた。
アンゼリカさんだけは何が起きたか分からない様子だったけれど、手を引いたら素直に従ってくれたのだった。




