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30_夜間調査

「はぁっ、抜け出せて助かったっす。」

「ははは、皆、興味深々だったね。」


フラウノさんが報告してくれた後、リックとティアナさんは質問責めにあっていた。

そこからリジュネア様の調査をする名目で、リックだけ連れ出したのだった。

今もティアナさんはいろいろと聞かれていると思うけど、まぁ頑張って欲しい。


「でも、「ベグナルド」と名乗る奴が暴れてるんすよね?

この格好だと誤解されないっすか?」

「誤解するとしたら、被害に遭っているマフィア達だろうね。

帝国ほど魔術師が多い所だと、マフィアに加担する魔術師も居るかも知れない。

……にしても、そういうのが居るのは庶民街じゃないかな?

これから向かうのは裕福層街だから、一旦は関係無いよ、きっと。」


ボクらが今向かっている先は、昼間にアンゼリカさんと訪れた四箇所の内の一つ。

そこから順に全部回ってみるつもりでいる。

ちょっと時間が掛かるので、『闇纏い』は使用していない、普通に黒装束で臨んでいる。


**********


まず一軒目。


「……動物っつうか、犬っすよね?」

「そうだね。

『防音』が掛かっていたのか、近くまで寄らないと鳴き声も聞こえなかったね。

でもこれは、本当にペットのブリーダーって感じだね。」

ボクらが倉庫の屋根まで上がって屋内を確認すると、中には犬が数十匹飼われている様子だった。

なぜ隠す様に飼われているのかは不明だけど、とりあえずリジュネア様の件には関係は無さそうだ。


「次行くっすか?」

「そだね。」


ボクらは次の不審地点へ向かった。


**********


二軒目。


大勢のヒトの気配があった倉庫だ。


「……ヒトが多いけど、囚えられてる感じのヒトは居ない、かな?

皆、移動は問題なさそうに──」

「──って、なんかこっちに気付いてないっすか?」

「えっ?!

……うわっ、ホントだ!

取り敢えず逃げよう!」

「はいっす!」


中に魔術師が紛れていたらしい。

こちらの感知系魔術に反応されてしまったので、早々に退散する。


**********


三軒目。


昼間に行った時には人気がほとんど無かった屋敷だが……。


「……やっぱり普通の貴族邸宅、だよねぇ。」

「っすよね?

隠し部屋とかも無いし、変わった様子のヒトも居ないっす。」


ボクとリックの二人で感知系魔術を放つが、怪しい所は見つからない。

昼間居なかった家人も戻って来ている様だ。


「……ん?」

「どうかしたっすか?」

「いや門に掲げられた旗印が、ボクが昼間に轢かれそうになった馬車と同じだな、と思って。」

「ほう……?

じゃあ、燃やして行くっすか?」

「なんでさ?!

燃やさない燃やさないっ!

屋敷で働いてるルミみたいなヒトも居るんだから、滅多な事考えないでよ?」

「……っすね、ちっ。」


……冗談だよね?

普段まともなリックの過激な発言はドキッとしてしまう。


「ほらっ、次行くよ!」

「はいっす!」


ボクらは最後の地点へ向けて移動した。


**********


四軒──


「くおらぁっ!待ちやがれぇっ!!」


おおっとぉ?!

庶民街でも少々治安が悪そうな地区に差し掛かった所で、怒号が聞こえてきた。


声のする方を見ると、少々ガラのよろしくない一団が怒声を上げながら走っていた。

……よく見ると、その先頭には黒ずくめのヒトが一人、おそらく彼等から逃げている。


マフィアが追い掛けている黒ずくめ、か……。

十中八九、この町を騒がせている「ベグナルド」だろうなぁ。


…………。


「リック、あの黒ずくめのヒト、とっ捕まえて逃げれる?

囮はボクがやる。」

「へっ?!

い、いや、なんだか怪我してそうだし、出来ると思うっすけど……。」

「じゃあよろしく!

念の為、『闇纏い』も使ってね。」

「あ、ちょっと?!」


ボクは丁度、曲がり角に差し掛かった偽「ベグナルド」に重なるように、ガラの悪い連中との間に割り込む様に降り立ち、そのまま真っ直ぐ直進した。


「逃げられると思うなよぉ!!」

うん、案の定彼らはボクと偽「ベグナルド」が入れ替わったのに気付かず追って来た。


ボクはそのまま彼らを引き連れて富裕層街まで走った。

彼らに追い付かれないよう、しかし、引き離し過ぎないように注意して。


「まずいっすよ、橋を渡るのはシマが……。」

ん?

彼らにも暗黙のルールがあるのだろうか?

庶民街と富裕層街を分ける外堀、その橋を渡る事を彼らは躊躇している様だ。


このまま撒いても良いのだけど、ちょっと試したい事がある。

出来れば付いて来て欲しいなぁ。


ボクは彼らの目の前でわざと転んで見せた。

そして、わざとらしく足を引きずった様に歩いて見せる。


「ええいっ!

今が絶好の機会なんだ!

追うぞ!!」

「は、はいっ!」


よしよし、食い付いて来た。

ここから間もなく二軒目に寄った倉庫がある。

ボクは彼らをそこに誘き寄せ、かつ、倉庫に向けて『空間把握』を放つ。


よし、さっきの事もあって中の連中は敏感になっている。

すぐさま外に飛び出して来た。

それに合わせて、ボクは素早く物陰に隠れて姿と気配を消した。


そうするとどうなるか?


「なんだテメェらは?!

ベグナルドをどうした!」

「お前等こそ何者だ?!

さっきからウチの周りをちょこまかしおって!」


気性の荒そうな者同士、小競り合いが起きましたとさ。

ボクはその様子を遠巻きに観察させてもらう。


……ううん、やっぱり二軒目の連中には魔術の心得のある者が含まれていたらしい。

そして、黒ずくめとまでは行かないが、闇に紛れ易い格好をしている者が何人も居る。


ひょっとして、富裕層街で起きている強盗事件の犯人達だろうか?

だとしたら、ちょっとした挑発なんかで出て来るなよとも思うのだけど、二度も挑発されて気が立っていたものだろうか。


……残った倉庫内にも囚えられていそうなヒトは居ない。

少なくとも此処にリジュネア様が居る事は無さそうた。

じゃあ、此処にもう用は無いな、小競り合いは勝手にやって下さいな。


**********


「あっ、居た居た。

リック、無事だよね。」

「はいっす。

オレは無事なんすけど、彼女が……。」

「彼女?」


見るとリックの隣りに寝かされた黒ずくめの顔が露わになっていた。

……うん、女性だね、体つきも。

何と言うか、こう……、肉付きが結構ある。


「気を失っているけど、リックが何かしたの?」

「何もしてないっす!

抱きかかえてジャンプして、この屋根に身を隠したんすけど、降ろした時にはもう気を失ってたっす。」

「……お腹を掴んだ?」

「えっ?!はいっす。」

「それだね。

お腹を痛めているのに、そこを掴まれた上、上昇負荷まで掛かった痛みで気を失ったんだ。」


ボクは『内診』で探った結果から結論を告げた。

ま、それだけじゃなく、ここに来るまであちこち痛めつけられていたようだ。

それも今日だけのものじゃない、「ベグナルド」として活動するうちに何度も怪我を負ったのだろう。


「……応急処置はするけど、こちらも疲れているから完治は難しいね。

連れて帰ろう。」

「えっ?!

女性を連れ帰るなんて、何言われるか分かんないっすよ?

てか、なんでそこまでこの娘の肩を持つんすか?」

「ま、成り行きだよね。

マフィアに追われてまで「ベグナルド」として活動してたこの娘の動機にも興味もある。

大体、この娘を此処に放置しろとでも言うの?

……大丈夫、ヴェロニカさんもセレナさんも分かってくれるよ。」


もうそこそこ時間が経っている、そろそろ皆も心配している頃だ。

ボクらはこれ以上の捜索は諦め、宿へ戻ったのだった。


**********


「まぁた、クロー君はヒトを拾って来て!」

「ただでさえワタシ達は厄介事に首を突っ込んでいるんだぞ?!

そこに更に面倒を抱え込むなんて、何考えてるんだ?!」


うん、まぁ、お小言はちゃんと言われるんだけどね。

でもこれはパーティ全体を考えた発言だし、彼女達の言う事ももっともだ。

なので、反論はしないし、偽「ベグナルド」さんの事もこれから先も面倒を見るつもりはない。


「……仕方ないですね。

私も診て、可能なだけの治療はします。」

このパーティで最も治癒の腕に信頼のあるセレナさんがそう語る。


「というか、本当になんで助けたんだ?

見るからに怪しい娘なのに。」

「そうですね……、この娘が本家の「ベグナルド」を知っているか分からないですが、マフィアを相手にしてこんな怪我をする程の覚悟があった訳です。

そこまで強い想いがある娘が、悪人とは思えなかったんですよ。」

ヴェロニカさんの質問にボクは素直な思いを返した。


実際にあの時、明確な意図があった訳ではない。

敢えて言語化するとそんな答えになる感じだ。


「ふぅん……。

ま、お前がそう言うなら仕方ないか。」

ヴェロニカさんはボクの言葉で納得してくれたようだ。


「──切り傷、打撲、内蔵まで痛めて……、よくこんなボロボロの体で動き回ってましたね。

治せる所は『治癒』しましたが、しばらくは安静にさせる必要があります。」

「この娘、剣術経験者ですね。

手の平のマメで分かります。」

セレナさんが診察した所見を、ティアナさんが身体検査をした結果を語った。


さて、この黒ずくめの女性は何者なのか?

……ま、ゆっくり寝かせた後に聞いてみよう。

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