29_帝都観光
「……流石に広いですわね。
南門から回ってやっと北門に着きましたが、もうお昼です。」
「内堀の周りが歩き易くなってるのは良かったですね。
田舎から出て来た者が見回れるようになってるのでしょうか?
……まぁ、戦争ともなればここに最終防衛ラインが築かれるのでしょうが。」
まぁ、ここまで攻め込まれた状況なら、そんな防衛も気休めにしかならないでしょうが。
「フラウノ、物騒な話は止める!
所々に警備兵が立ってるし、堀の内側からも視線を感じるニャ。
誰が聞いているか分からないんだから。
そもそも、帝国が建国されてからいままで、ラカニエが直接攻められた事なんか無いって話ニャ。」
「そうですね、控えます。」
と、そうでした。
平穏に旅が出来ていますが、今、私達が居るのは祖国コラペの敵国なのです。
迂闊な事を外で言うのは控えましょう。
「それより喉が渇かないっすか?
あそこで飲み物売ってそうなので、寄って行きません?」
「……そうですわね。
看板にあるのも聞き慣れない名前で興味を惹かれますね。」
リック君の提案にティアナ様が同意したので、私達はオープンテラスのカフェに寄る事にしました。
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「やはり、帝城自体が観光地となっているのですね。
こういうカフェが出るくらいですから。」
「このニンジンジュース美味しいニャ。」
ティアナ様とは対照的に、スノウノちゃんは無邪気に飲み物に感激しており、微笑ましいです。
「保存の可能な野菜や、この夏に採れた野草等のハーブティーですか……。
冬になったらメニューが変わるんですかね?」
「野菜はまた秋に採れるし、ハーブは乾燥させておけば大丈夫なんじゃないっすかね?」
「あ、そっか。
なんか、普通の事を勘違いしてました、あはは……。」
私達は和やかに会話していましたが、リック君の何気ない一言から話が思わぬ方向に向かいました。
「それにしても、こっちのお茶は今まで聞いた事無いし、知らない味っす。
クローが喜びそうっすね。
買って行こうかな──」
「──リック!」
「は、はいっ?!」
ティアナ様が突然、鋭くリック君の名を呼んだので、リック君は面食らった様です。
もちろん、私もスノウノちゃんも驚きました。
「あ……、ごめんなさい、いきなり大きな声上げて。」
「あ、っす……。」
ティアナ様としても声を荒げるつもりは無かったのでしょう、動揺している様子です。
「……でも、聞きたいのだけれど。
リックはいつもクロー様の事を気に掛けて、クロー様の事を一番に考えているじゃない?
それで、その……、肝心のリックの好みとか、やりたい事がおざなりになっているのではないかと気になるのよ。
リック自身は何かないの?
やりたい事とか、好きな事、好きな物、……好きなヒト、とか……。」
「好きな…………。」
ティアナ様の言葉を受け止めたリック君は、暫く沈黙します。
「あっ、あの、ごめ──」
「オレ、このパーティの皆が好きなんすよ。」
沈黙に耐え切れなくなったティアナ様が何か話そうとした時、リック君が想いを語りました。
その口調は落ち着いています。
「えっ?!」
「家族の居なかったオレにとって、皆は家族同然っす。
中でも、いろいろ教えてくれるクローは特別で父親のようにも思ってるっす。
優しいセレナさんやヴェロニカさんは母親代わりで、フラウノさん、スノウノさんは姉みたい。」
「……。」
孤児として生きて来たリック君に家族と言われて、私達は何も返せず聞き入りました。
「──でも、ティアナさんの事だけは、きっと女性として好きっすよ。」
…………………。
「…………は?」
突然の告白にティアナ様はもちろん、私とスノウノちゃんも理解が追い付かず、呆けたように目が点になりました。
ティアナ様の口からは、理解の追い付かない内心を表す様に、疑問符が漏れます。
そんな私達に構わず、リック君は続けました。
「だからティアナさんと一緒に居られるのは嬉しいし、一緒に何かするのが楽しいっす。
ただオレ、今まで生きるのに精一杯で、恋愛とか良く分からないままここまで来ちゃったんすよね。
だから、普通の男女がどうするもんなのか、どうしたいと思うのか分かんないんすよ。
それに、それがあってもオレの中の優先順位は、大恩あるクローが上になっちゃうと思うんす。」
「あ……、え……?」
ティアナ様は、まだリック君の言葉が整理出来ていない様子です。
そんな中、スノウノちゃんがリック君に問い掛けました。
「……ねぇ、リック?
なんで今、そんな話をしようと思ったニャ?」
「あー……。
実は数日前、夜に三人が話してたのが聞こえてたっす。
だからオレだけが秘密を知っちゃって申し訳ないと思ってたんすよ。」
「数日前……、あっ!ああ……っ?!」
あ、やば。
ティアナ様が心当たりに思い至ったようです。
「……フラウノ?
あの時、三人以外には聞こえないようにしたと言っていた筈だけど?」
「……あはは、範囲指定を間違えちゃったかな〜?」
スノウノちゃんの疑問に私はしらを切りました。
「フ〜ラ〜ウ〜ノ〜ッ!!」
ぐりぐりぐりぐりぐりっ!!
「あだっ!割れるっ!
割れちゃいます、ティアナ様っ!」
ダメでした、ティアナ様の拳が全力で私のこめかみをぐりぐりしてきます、痛い!
「はぁっ、はぁっ……。
コホンッ!
……それで、リック。」
「は、はいっす。」
少し気が済んで、気持ちも落ち着いたティアナ様はリック君に向き合いました。
……大丈夫ですか?リック君怯えてません?
「私の気持ちを知った上でそんな告白をするということは、お付き合いしていただける、と理解して良いのですね?」
「えっ……、は、はいっす!
で、でも、さっきも言ったように、オレどうしたら良いかも分かって無いような男っすよ?
そもそも生まれだって──」
「生まれなんか気にしてヒトを好きになったりしませんわ!」
リック君の煮え切らない態度にティアナ様が吠えました。
「やりたい事があったら互いに話して、二人で納得した事をやっていく、そういうものだと思ってますわ。
だから、リックが何も思い付かないなら、私が提案します。
リックは、それが嫌な時は断ってくれたらそれで良いですわ。」
「は、はいっす!」
「……ててて。
え〜……、では、二人が付き合う事は決まり、という事でまとまったって事で良いですか?」
「ふえっ?!あ、あの……。」
私が改めて問うと、急に気恥ずかしくなったのでしょう、ティアナ様は口ごもりました。
「そうっすね。
それで合ってるっす。」
「……。」
一方、リック君は落ち着いて肯定します。
その様子をティアナ様は黙って見詰めていました。
「ちょっと待った!!」
「「──っ?!」」
っと、ここで横槍が入りました。
「ス、スノウノちゃん、何を?!」
「ティアナがリックと付き合うのは、もうしょうがないニャ、納得するニャ。
けど、私もティアナの側に居させて欲しいニャ。
急にティアナから距離取れと言われたら耐えられないニャ!」
スノウノちゃんもティアナ様の幸せのためなら多少の我慢も納得出来るようです。
でも、いきなりその距離感を変えるのは難しいみたいですね。
「それはもちろんよ。
スノウノとも、これからも一緒に居たいわ。」
チラッ
そう言いつつ、ティアナ様は確認する視線をリック君に投げました。
「えっ?!
も、もちろん、オレもティアナさんとスノウノさんが仲良くするのは、止める気無いっすよ?」
「本当ニャ?良かったぁ。」
リック君の返答に、スノウノちゃんは心から安堵した様子です。
「なんなら、三人で仲良くすれば良いじゃないですか?
スノウノちゃんもリック君の事を気に入ってるのだし。
ほら、クロー君達の様な例も身近にありますし。」
「へっ?!」
私の提案にリック君は目を丸くして赤面しました。
「う〜ん、それはティアナが複雑そうな顔する気がするので、今は止めておくニャ。
私とリックがイチャイチャするのはティアナが慣れてからで。」
「はいっ?!」
スノウノちゃんからも、いずれイチャイチャすると宣言があり、リック君は目を白黒させてしまいました。
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「──で、その後また魔王教本部に寄ってみたのですが、丁度、建物からエルフが出て来たのです。
直接顔を合わせる事はぜず、後で本部のヒトに聞いたところ、ベルモンドの支部長でマッツという名のようです。」
「いやいやいやいやいやいやっ!」
「待って待って待って待って待って!」
「無理無理無理っ!
リックとティアナさんの話が気になり過ぎて、魔王教の話なんて何にも入って来ないですよっ!」
ヴェロニカさん、セレナさん、クロー君が揃って声を上げます。
今日あった出来事を詳しく報告したのですが、案の定、三人の興味はリック君とティアナ様の関係の方に持って行かれてしまったようです。
「あ、やっぱり?」
結局この後は二人の話で持ちきりになってしまいました。




