28_調査
「えっ、どうしたの?
クロー君のソレ!
おまけに、他の四人は?!」
会うなりアンゼリカさんは突っ込んできた。
「これは、来る途中で転びました。
他の四人は別で動いてもらってます。
見回るだけなら少人数の方が良いですし。」
「へぇ……。
まぁ、大勢でゾロゾロ歩いていたら不審に思われるか……。」
アンゼリカさんは何か残念そうなニュアンスで語った。
「しかもリカはんは警備兵からマークされとるからな、何かしでかすと思われるかもやし。」
「ゔゔ……、分かった。
……でも、彼も別働隊の方なんだ。
せめて彼だけでも何とかならない?」
「リックですか?
ダメですよ、それだとあちらが女性だけになってしまいます。
流石にそんな危ない事はしたくないですよ。」
その中には、国に帰れば子爵令嬢であるティアナさんが含まれているのだ、保護者代理としては可能な限り無茶はさせたくない。
「そっか……、はぁ。」
アンゼリカさんはガックリ肩を落として溜め息をついた。
「……というか、そんなにリックの事が気に入ったんですか?
昨日、そんなに話してませんよね?」
「いや、だって……、年が近くて見た目も悪くなかったし……。
「御学友」なんてやってると出会いが無いのよ。」
ボクの問いに、アンゼリカさんは嘆くように答える。
「でも、リジュネア様と一緒にパーティとかに出席する事もあるのでしょう?
そういった場面で知り合うとかは……。」
「あのねぇ……、そういう所は出会いの場じゃなくて、人脈を広げる場なのよ。
そして、私に大した人脈なんて無いの。
なら、私がやるべき事は、リジュに付き従ってさりげなくフォローしたり、ガードしたりする事しか無いのよ。
……まぁそれでも、出会い目的のヒトも居るっちゃあ居る。
けど、そんなヒトこそ見目麗しい姫君に釘付けになるものなのよ……。」
「うわぁ……。」
な、なんか、御学友という立場もなかなか大変そうだなぁ。
「しかし、それ程に人気の高いお姫様が居なくなって、問題になってはいないのですか?」
話題を変えるようにセレナさんが尋ねる。
「一応、まだ大丈夫。
ウチにはリジュの替え玉が居るからね。」
「替え玉?」
「影武者とも言うんだっけ?
ウチの国で警備兵をしてた犬獣人で、リジュそっくりの娘が居るのよ。
対外的にどうしても外せない場には、その娘を出席させてなんとか誤魔化してる。
それも時間の問題だけどね……。」
その警備兵さんも大変だね、おそらく平民だろうに貴族の社交場に連れ出されるなんて。
「じゃあ尚更、早く王女様を見付けなくてはですね!」
「うん……、よし、行こか!」
セレナさんの鼓舞に応える様に、アンゼリカさんは両手を握り締め、外へ踏み出して行くのだった。
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「…………。」
アンゼリカさんは机に肘付き、顔を覆って黙り込んでいる。
「ええと……。」
な、なんと言ったら良いかボクは言葉に詰まった。
「…………。」
「怪しい場所が四箇所、その内三箇所で怪しい点あり、と……。
何だったら、もう一箇所も人気が無かっただけで保留判定ですからね。
アンゼリカさんのダウジング、なかなか大したものですね。」
「いや、こんなんどうしろと?!」
ボクの語る事実に耐え兼ねたアンゼリカさんは、顔を上げ天を仰いでそう叫んだ。
**********
四箇所を回った結果は以下の通り。
一軒目、裕福層街。
商会の倉庫らしき建物の中に複数の魔力反応アリ。
無軌道に動いている感じから、動物の可能性もある。
ヒトが囚われてるとは思えないけど、一応、不審判定。
二軒目、裕福層街。
同じく商会の倉庫らしい建物に、今度は複数のヒトの魔力反応アリ。
ヒトが多数居る中に王女様が囚われているかも知れないので、不審判定。
三軒目、貴族街。
とある貴族の邸宅なのだけど、昼間にしては人気が無さ過ぎる。
居るのは最低限のメイドだけのようなので、判断つかず。
ひょっとしたら王女様を連れ回して移動しているだけかも知れないため、念の為保留。
四軒目、一般庶民街。
廃屋の様な建物に、少数だけどヒトの反応がある、不審判定。
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「一軒目は、まぁ、無いですね。
ペットのブリーダーとかでしょうか?」
「二軒目、は一番怪しいよな?」
「三軒目はもう一度、家人が居る時に見に行きたいですね。」
「四軒目、あんなとこに囚われてるなら可哀想や。」
回ってみた所感をボク、ヴェロニカさん、セレナさん、アンゼリカさんが順に語った。
ちなみに現在は「喫茶ノルン」に戻って来ている。
回って来ただけで、もうそろそろ夕方近くなっている。
「アンゼリカさんのダウジングで反応したのは四箇所なんですよね?」
「いやぁ、正確にはまだ回ってない所があったんだけど……。」
「ほぅ?」
「古い町並みの方、特に貴族街は道が複雑だったじゃない?
それで最近まで気が付かなかった区画があって……。
そこに行く前に、一昨日、警備兵に職質されてぐったりしちゃったんで、行けてないんだよね。」
アンゼリカさんは頭を掻き、うなだれながら答えた。
「……分かりました。
とりあえず明日はウチの仲間を連れて来るので、今日見て来た中で怪しかった所に踏み込んでみましょう。」
「うん、ホント助かる。
一人じゃ無茶な事なんて出来なかったから。」
アンゼリカさんは喜ぶが、実はボクは今夜コッソリと怪しかった所を回ってみるつもりでいる。
無駄足になったり、下手に騒ぎになったりしないように下調べをしておきたいからだ。
そんな企みを気取らせないように、ボクは話題を変える。
「ところで、アンゼリカさんは此処で寝泊まりしてるんですか?」
「うん、そうよ。
雑用とか手伝う見返りに置いてもらってる。」
「……とは言え、雑用なんてあまり無いのでは?」
「まぁ、実際には居候と変わらんね。
トーコには頭が上がらないよ、ホント。」
「どういう仲なんですか、アンゼリカさんとトーコさん、あとリジュネア様?」
「ああ……、此処はシエルエスタの港から運ばれた珍しい品を出してる、帝都では知る人ぞ知るお店なんだ。
だからシエルエスタでも、こっちに来る事のあるヒトの間では結構有名なのよ。
私とリジュネアもヒトから聞いて、帝都に来る度に寄ってたの。
そしたら、顔を覚えて貰って色々と話すようになって……、って感じ。」
「そんなに有名なお店なんですか?
その割には……。」
ボクは他に客の居ない店内に視線を送る。
「ああ……。
トーコは気に入らない客はお断りするからね。」
と、ここでトーコさんが会話に入ってきた。
「仕方ないじゃない?
コーヒー一杯で延々粘って口説いてくる奴とか、店や仕入れルートを寄越せと言ってくる商人や貴族、他にも珍しい物に文句言ってくる奴とか、そんなのいちいち相手してられないのよ、面倒くさいから。」
「それは納得ですね。
でも、「王女様がお忍びで」ってのも面倒がありそうな気がしますが、それは良いのですか?」
トーコさんは顎に指を当て、一瞬考えた後に答えた。
「リジュはんやリカはんは面倒な事言わないし、リカはんも昔は可愛かったからね。
リジュは今でも可愛いけど。」
……その言い方だと、今は可愛くないと言ってるようなものなのですが。
「……昔、は?」
「ん〜〜?」
案の定、アンゼリカさんが抗議の突っ込みをしたのだが、トーコさんにはスルーされてしまった。
そんな事より、会話の中でちょっと気になる所があった。
「あの、昔っていつから通ってるんですか?」
「そうね……、かれこれ五年以上は通ってるかな?」
「……それ以前から有名なお店だったんですよね?
だから二人も通うようになった訳で……。
じゃあ、トーコさん──」
「──坊ん?
あまり女性の年齢を詮索するもんやないよ?」
いつの間にか背後を取っていたトーコさんが、低い声で圧を掛けてきた。
「アッ、ハイ……。
じゃ、じゃあ、ボクらはこの辺で帰ります。
また明日、仲間を連れて来ますので。」
ボクはそう言い、そそくさと宿に帰るのだった。
**********
「あっ、クロー。
帰って来たっすね。
追加情報見付けて来たっすよ!」
宿に戻るなり、先に帰っていたリックが声を掛けてきた。
「えっ、追加情報?!
リジュネア王女様の件で?」
「違うっす、魔王教の方っす。」
「えっ?」
昼間からずっとリジュネア王女の件を考えてたので忘れていたけれど、そう言えば元々は魔王教に殴り込むために帝都まで来たのだった。
ボクが食いついたのを確認して、フラウノさんが報告を引き継いだ。
「帝城と帝都を見回った後、魔王教本部へ行ってみたのですが、そこに我々以外にも訪問者が居まして……。」
訪問者?まぁ、教団なのだから、ボクら以外にも訪問者は居るだろうけど……。
「その訪問者が、エルフだったんです。
ベルモンドの支部長とのことでした。」
──おおっと?
嫌な予感がしてきたかも……。
エルフという種族に偏見なんて持ちたくないけど、「魔王教に関係するエルフ」となると流石に怪しいと思わざるを得ない。
ボクはリック達に詳細を尋ねた。




