27_医療関係者
「じゃあ、オレらはまず帝城を観れるだけ見て来るっす。」
「うん。
気を付けてね〜。」
帝都二日目、宿を出たボクらは富裕層街でリック達と別れた。
ボクとヴェロニカさん、セレナさんは喫茶ノルンへ向かう。
ガラガラガラッ!
んっ?
なんだ?馬車の音?
ここ、大通りでもないのに音から察するに、結構速度を出してる気がする。
「セレナ、避けよう。」
「はいっ。」
ヴェロニカさんはセレナさんの手を取り、道の端へ避けた。
こういう時、こちらの世界では大抵の場合は馬車が優先となる。
歩行者は己が身を守る為に道の端へ避けるのだ、普通は……。
「──っ?!
危ないっ!!」
不意にセレナさんが叫んだ。
何事かと視線を追うと、その先には子供が道の真ん中に飛び出していた。
そこに、暴走気味の馬車が迫る。
くっ!間に合うか?!
タッ!!
ボクは咄嗟に子供目掛けて走った。
「クローっ?!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ?!」
ボクの名を呼ぶヴェロニカさんの声、そしてセレナさんとその場に居合わせた女性らしき人物の悲鳴が聞こえる中、ボクは無我夢中で走った。
しかし、悲鳴が示す通り、このままではボクも子供も馬車に轢かれてしまう──
ガラガラガラッ……
子供に気付き、やっと馬車が止まったのは、先程まで子供が居た場所を通過した先であった。
「どうしたのだっ?!
何故、馬を止める?
私は急いでおるのだぞ?!」
「い、いえ、子供が飛び出して……。」
「子供ぉ……?
馬鹿者がっ!
そんなもの放っておけ!
馬車に気付かぬような子に育てた親が悪いのだ!
早く馬を出さぬかっ!」
「は、はぁ……。」
パシッ!
ガラガラガラッ!
馬車は行ってしまった……。
結局、馬車の主は一度も外を覗く事すらしなかった。
旗も立っていたし、貴族様の馬車だったのかな?
……まぁ、良いか。
帝国にもこんなヒトは居る、それだけの事だ。
チラッ
ボクが顔を下げると、そこには先程の少年が「何が起きたか分からない」というような表情でボクの腕の中に収まっている。
うん、目立った外傷も無し、無傷だ。
馬車が迫る中、ボクはお得意の『重力操作』で自身の身を軽くした。
当然、足は早くなるし、少年とぶつかった時の衝撃も多少は和らいだ筈だ。
「テオッ!!」
おっ?!
女性が一人駆け寄って来る。
「お母さん!」
ボクの腕の中の少年はそう言うと、弾けるように立ち上がり母親に駆け寄って抱きついた。
「おバカッ!!
道に飛び出しちゃいけませんといつも言っているでしょう!」
「ごめんなさい。」
小言を言いながら、母親は少年を強く抱き締めている。
……うん、良かった。
よいしょっと。
「あの、何とお礼を言ったら良いか。」
「へっ?
いえいえ、お気になさらず。
君、お母さんの言うことはちゃんと聞くんだよ。」
「はぁい。ごめんなさい。」
ボクは土を払いながらその場を離れようとした。
セレナさんとヴェロニカさんは──
グイッ!
──っと?!
「ちょっとキミ、待って!
怪我してるじゃない。
ちょっとそこでじっとする!」
振り向くと、先程のお母さんとは違う女性がボクの肩口を掴んでいた。
歳の頃は二十歳くらい、ストレートの銀髪が美しい知的美女といった感じ。
……スタイルも良さそうで、そんな身体は白い衣服で覆われている。
一瞬連想したのは、前世オジサンの世界で看護師と呼ばれる職業のヒトが着ていた白衣だ。
飾りも無く清潔感溢れるデザインなのが、更にそれっぽい。
「あ、大丈夫で──」
「ほらっ、じっとして!」
「──はい……。」
お姉さんの強引さに圧されたボクは、大人しく棒立ちになった。
「……これは木灰を水に溶かしたものなんだけど、これで消毒するね。
清潔だから安心して。
ただ、ちょっと滲みるよ。」
そう言うと、お姉さんは取り出した水筒の様な容器の水を綿に染み込ませた。
……アルカリだ。
傷口から細菌が入らないように消毒する概念があるのか……。
医療関係者かな、このお姉さん?
それにしたって、この世界では少々先進的な気がする……。
「……っ!」
「ほら、我慢してねー。」
……流石に滲みた。
という事は、それなりに傷になっていたのだろう。
手当てしてもらえるのはありがたい。
結局、ボクは傷口が露出しないように、包帯の様なものを手足に巻かれたのだった。
「……んっ、こんなところかな?」
「ありがとうございます。
あの、治療費を……。」
「そんなの要らない要らない。
勇敢な男の子に感心してやった事だから。」
ニコニコッ
う〜ん、この手際の良さと表情、プロ意識を感じる……。
医療関係者であるのは間違いないだろうね。
「カルナ、用が済んだのならもう行きましょう?」
おや。
気付くと二人の人物が近寄って来ている。
声を掛けてきた女性は全身黒で統一した服を着ていた。
ご丁寧に黒の帽子のつばから黒のレースが掛かっており、その容貌は分からない様になっている。
今の声の感じから、カルナと呼ばれた目の前のお姉さんよりは歳上と思われる。
もう一人は、その女性から半歩下がり、従者然とした褐色の肌の男性であった。
よく見ると特徴的な耳の形をしている事から、彼がエルフであると分かる。
当然、美形だ。
カダー王国の王都トロリスで開いたお店ギルティのキャスト達を思い出す。
「あ、はいっ!
じゃあね、キミ。
お大事にねっ。」
そう言い残すとお姉さんは女性の元に駆け寄り、仲良さそうに並んで歩いて行った。
「……困ったものね。」
ん?
去り際、すれ違う際に黒服の女性がそんな呟きを漏らすのが聞こえた。
どういうニュアンスの言葉だろう?
カルナさんが誰彼構わず治療の手を差し伸べる事への愚痴のようなもの?
……にしては、女性の視線はカルナさんを見ていない。
それに何と言うか、優しさが感じられない。
先程、カルナさんに語り掛けた際は、好意を抱く者への響きというか暖かさを感じたのだけど……。
「……大丈夫ですか、クロー君?」
ハッ?!
セレナさんに声を掛けられて意識が戻ってきた。
「大丈夫です。
なんか、雰囲気のある人達でしたね。」
「……その手当てって、道端でするには随分本格的でしたけど。」
セレナさん的にも、ボクを手当てしてくれた女性の手際が気になるらしい。
ボクの手足を見ながら言ってきた。
「そうですね。
しっかりした基礎知識があるのだと思いました。
ボクなんかが偉そうな言い方をするのもおこがましいですが。」
「やはりそうですか……、私も知りたいですね。」
「ボクでも知っている事なら教える事は出来ます。けれど、こちらなりのやり方となると彼女の方が分かっていそうでしたね。」
ボクの知る前世オジサンの知識は、前世の環境ありきの知識なので今世でそのまま同じには出来ない場面が多いだろう。
それと比較して、カルナさんの知識は今世で磨かれてきた技術だと思うので、有用な場面は多そうだ。
「ところで……、ヴェロニカさんがやけに静かですね?」
「うん……、あまり近寄っていないから分からないが、あの黒服の女性はヒトではなさそうだった。」
ボクが話を振ると、ヴェロニカさんはおずおずと答えた。
「うえ、またですか……?
帝国はそんなヒトばかりなんですかね?
アリアさんといい、トーコさんといい……。」
「単純に、ワタシらがおかしなのに会い過ぎなんだと思うがな。」
「……類は友を呼ぶ、って事ですかね?」
「……クロー、お前自覚があったのか?」
「──えっ?」
「──はっ?」
「「…………。」」
ちょっとだけ剣呑な沈黙が二人の間に流れた。
「はいはい、そこのおかしなお二人さん、さっさと行きますよ。
アンゼリカさんが待っていますからね?」
「「ぐぅ……っ。」」
その沈黙を破ってくれたのはセレナさんであった。
どちらもおかしいぞと指摘され、ぐぅの音が出てしまった。
「……はぁ、そうですね、行きましょう。」
「「聖女」も十分おかしいと思うがな……。」
「な・に・か言いましたか?」
「い……、いや、別に……。」
止せば良いのにヴェロニカさんがポロッと溢した言葉に、セレナさんは圧強く反応する。
ポロッと溢しちゃうヴェロニカさんも、強く反応するセレナさんも、互いに気を許しているからこそと思うと微笑ましい。
さて、本当に急ごう。
セレナさんの言うようにアンゼリカさんが待っている筈だから。




