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26_帝都初日夜のミーティング

アンゼリカさんと明日また「喫茶ノルン」で待ち合わせる事を約束したボクらは、宿屋を見つけて夕食を食べ、部屋に集まっていた。


「いや〜、今日は想定外の事ばかりでしたね。」

「そうだな。

魔王教本部はすぐに見付かったのに、様子が思ってたのと違ったしな。」

「あんなに地域に根付いている教団とは思いませんでした。」

ボクが話題を振ると、ヴェロニカさん、セレナさんが「魔王教」について感想を語った。


「コラペやカダーでの事を鑑みると、帝都で起きているという事件も魔王教の仕業かとも思いましたが、違いそうですね。」

「あの見習い司祭さんが本当の事を知っていて、それを正直に話していたとするなら、だけどニャ。」

フラウノさんもセレナさんと同じ感想のようだけど、スノウノさんは何か疑っている感じだ。


「そっちも驚きましたが、アンゼリカさんの件も驚きでしたね。」

「そうっすね。

あれ、ヴェロニカさん辺りが「何勝手な事言い出すんだ?!」とか言って、クローを止めそうと思ったっすけど、何も止めなかったっすね?」

ティアナさんとリックは、アンゼリカさんの件の印象が強かったらしい。


リックの言う通り、いつものヴェロニカさんならボクが暴走しかけると止めてくれてる筈だ。

ボクは釣られてヴェロニカさんの方を向いた。


「いや、クローに「ヒト拐い」を無視しろと言うのは無理だろう?

それに……、あの店員に気を取られて、それどころじゃ無かったのもある。」

「店員さん?

あの犬獣人さんっすか?」

「そうだ。

あれは間違いなく、ただの獣人じゃない。

魔力を意図して抑えて違和感を消していたが、魔力の質が違った。」

語っているヴェロニカさんの眉間にちょっとシワが寄っている、緊張を思い出しているのだろう。


「魔族、っすか?」

「いいや……、正直良く分からなかったが、もっとこう……、高位な?感じもして……。

すまん、本当に良く分からなかった。」

「それでよく反応しませんでしたね?

今までなら、それに気付いた時点で震えていたでしょうに。」

リックの質問への返事に困ったように答えるヴェロニカさんを、セレナさんが揶揄する。


「……そんなだったか、ワタシ?

いや、これまでの事を思えば、どうせ言ったところでクローは気にしないだろうしな。

それに、町中で飲食店を開いて、周囲を威圧しないように魔力を抑え、友人と親しく会話してるような者が、無差別にヒトに仇なすとはとても思えなかった。

なら、危険は無かろうと思ったんだ。

……正直、アリアさんと会った事で感覚が麻痺してるかも知らん。」

「まぁ、「翼の魔王」様に比べちゃうと、大概のヒトには驚かなくなっちゃいますよね。」

ヴェロニカさんも警戒するだけだった以前とは受け取り方が変わってきている様だ。


「結局、明日はヒト捜しをするんですよね?

でも正直、八人もヒトが集まってたら目立ちますね。」

ここでフラウノさんが明日の予定を確認してきた。


「うん、それもあるし、この七人が帝都内で集まってると、エルフの里の関係者にバレそうで怖い。

なので、明日以降はまた魔術都市の時みたいに別れて行動したいのだけど、良いですか?」

「え……、だ、大丈夫なんすか?

その、ハンデスの町の時の様な事にならないっすか?」

ボクの発言に対して、リックは心配を口にする。


「その点は改善があったから、多少は大丈夫。

もちろん、必要になったら力を貸してもらうよ。」

「改善、とは?」

ボクはリックに答えたが、それを聞いたフラウノさんが聞き返してきた。


「ヴェロニカさんの操る魔術兵、あれが進化してたんですよ。

多分、「知識の宝珠」の効果でしょうね。」


そう、セレナさんが語る通り、あの後ヴェロニカさんが操る魔術兵は変わった。

まず、見た目がクラゲの様な不定形ではなく、ランスを構え武装した天使を模した様な姿となった。

更に、ヴェロニカさんの命令もちゃんと聞くようになった。

これはヴェロニカさんが言葉を発さない状態であっても、ある程度思い通りに動いてくれるらしい。

おまけに物理的な攻撃も可能となっており、兵としての隙が一切無くなってしまったのだった。

前の名残と言ったら、薄青白く発光している事くらいかな。


では何故、いつ何処でこれに気付いたのか?

……うん、宿屋で夜に、だよね。

魔術都市を離れて久々に宿を取った際に、感極まったヴェロニカさんが召喚してしまったのだ。

慌てるボクらを前に、魔術兵は行儀良く指示待ちをしてくれたのだった。

そこから色々と試して性能がある程度分かった感じ。

ちなみに、これを「クラゲ」呼びするのは違和感しか無かったので、以降は「ワルキューレ」と呼ぶ事にしている。


「じゃあ、アンゼリカさん町中を探すのはクロー達として、オレらは何をすれば良いっすかね?」

「う〜ん……、やって欲しい事の一つは、「魔王教」の監視かな。

教主さんが戻って来たのを逃さないように。

……あとは、これといって無いなぁ。

また観光でもしておく?

お金は渡すから。」

「えっ?!

し、しかし、クロー様達だけ働かせて私達が観光をしているというのは……。」

ボクの提案に、ティアナさんは難色を示した。


「……そっかぁ。

じゃあ、ちょっとボクの私見を話しても良いですか?」

「えっ?!

は、はい。」


「おそらく今のままでは、将来カダー王国とコラペ王国は帝国に破れます。」


「「──っ?!」」

突然、ボクが変な事を言い出したからか、皆が驚く。


「はっ?!

えっと、いきなり何を……。」

「ボクがそう思う理由は主に二つあります。

まず一つ目は……、ティアナさん、これまでコラペとカダーの王都に行った事がありますが、このラカニエほど多くの種族・人種を見ましたか?」

「え……?」

意図が分からず困惑しているティアナさんに、ボクは問うてみた。

するとティアナさんは暫く考えて──


「──いいえ。

これほどさまざまな人達が同じ町で暮らしているのは、見た事は無いですね。」

「でしょう?

ボクもカダーに居た頃は獣人さんさえ滅多に見ませんでしたし、ルミの様な肌の色の人達は生き辛そうにしていました。

それは、一部の種族・人種が活躍するのを縛っている事になります。

一方帝国はどうです?

少なくとも、今日見てきた中で横道を歩くのを躊躇っていそうなヒトは一人も居ませんでした。」

「そう……、ですわね。」

肯定する声を聞き、ボクは更に話し続ける。


**********


──これまで移動してきて、国土で言えば帝国はカダーとコラペを合わせたくらいです。

単純に考えて、一方が縛りを掛けた舐めた戦い方していたら、勝敗は見えていますよ。


そしてもう一点は、魔術です。

カダーもコラペも、そしてリプロノも、国によって若干の違いは有れど、すべてゾマ教を国教としています。

そしてすべての国で魔術師は異端とされています。


一方、帝国ではノワール教はあくまで主教であって、国が強制するものではない。

しかも「魔王教」という派生まで許容する事で、魔術師まで取り込む様にしている。

同じ王宮魔術師でも、国教で異端とされている魔術師と、宗派によっては主教に認められている魔術師では、活躍の機会や扱いにどうしたって差が出るでしょう。


とどめにはあの魔術都市です。

これを見ればカダーの魔術師と帝国の魔術師の総合的な差がハッキリするでしょう。

極端な事を言えば、先の国境の小競り合いでボクがやったような事を、今後は帝国がやって来る可能性もあると思ってます。


**********


「──そうなれば……、もうイメージつきましたよね?」

「はい……、カダーとコラペはいずれ帝国に……。」

流石に言い淀むティアナさんに、ボクは続けた。


「今すぐ、とまでは言いませんけどね。

先の件で大敗したばかりだし、西方との地政学的リスクも帝国にはある。

でも例えば、十年後はどうでしょう?

しっかり体制を整えて、またカダーに攻めてきたら……。

今でさえ若いとは言えないソダ宰相様や、重要な貴族の一角であるセーム様が、その頃にはどうなっているか分からないですしね。」


「そんな……、ではどうしたら……?」

「一つは、カダーやコラペの首脳陣に現状を知らせる事が必要でしょうね。

その上で、国として魔術師をもっと優遇するなり、支援する仕組みを作ったりする。

更に、カダーに至っては人種による偏見を無くすための施策を打ったりする必要がありますよね。」


「そうですね……。

ゾマ教の教えの方はどうにか出来ますかね?」

「そちらは、最終的に権限を持つのが各国の法王様ですから、働き掛けをすることは宰相様には出来ても、政治によって変える事は難しいんじゃないですかね?

コラペの式典で、聖女役を演じたセレナさんの演説ですら、あまり響かなかったくらいですからね。」

「そう……、ですよね。」


「ですが、落ち込む事はありません!

まだ十分に時間的猶予はあるのです。

まずは、首脳陣に危機感を持たせるため、現状を知らしめる事から始めましょう。

そうなると、適任な人物がこの中に居るんです。

ティアナさん、貴女です。」

「……へっ?!」

ボクが名指しすると、ティアナさんは呆けたような声を発した。


「ティアナさんは、貴族家の出身でありながら、リプロノ、カダー、ジサンジをその足で回って来ました。

しかも、カダーの有力な貴族の一人であるセーム様とも面識がある。

肩書きも、元騎士団長というのは申し分ない。

ついでに言えば、容姿も抜群に良いので、ティアナさんの言葉には多くの貴族達が耳を傾けるでしょう。」

「ニャるほど!」

「えっ?!えっ?!」

スノウノさんは心の底から納得したようだが、当のティアナさんは困惑するばかりだった。


「という事で、ティアナさんには少しでも多く、帝国の現状を知り、コラペに持ち帰って欲しいのです。

帝国の脅威を伝え、首脳陣の意識を変えるために。」

「……私などにそんな大役務まるでしょうか?」

「いやぁ、帝国に潜入して、実情をつぶさに見て回った事のある貴族なんて、今のコラペには居ないでしょう。

ティアナ様にしか出来ない事だと、私も思います。」

不安そうに語るティアナさんを後押しする様にフラウノさんも言葉を掛ける。


「フラウノ……、分かりましたわ。

私にどれ程の事が出来るか分かりませんが、祖国のためならば、その役やってみますわ。」

「その意気です。

……ではそのために、まずは帝国の、帝都の現状もよく見て回りましょう。

明日からお願いしても良いですか?」

「分かりました!

祖国に持ち帰るため、色々と見て回って来ます。」


結局、ティアナさん達は明日以降、帝都を見回る事になったのだった。


**********


「……結局、ティアナ達には観光をさせるのだな?」

ミーティング後、ボクらの部屋に戻ってからヴェロニカさんが聞いてきた。


「はい。

その方がリックとも親密になれるチャンスが多いでしょうし。」

「あれだけ危機感を煽ったのは、ティアナさん達を観光させるためだったんですか?」

今度はセレナさんが聞いてくる。


「それだけのため、では無いです。

あの懸念は本当にボクが心配している事ですので。

でも、それはそれとして、ティアナさん達が羽根を伸ばせる口実になれば良いとも思いました。」


「う〜ん、まぁそれは良いが、アンゼリカが驚かないかな?

明日以降、手伝うのが私達三人だけになるんだろ?」

「八人でぞろぞろ歩いても仕方ないですよ。

四人は別で帝都を見回ってもらってる、とでも伝えておきましょう。」

うん、別(の目的)で帝都を見回ってもらうのだ、嘘ではない。


「ものは言い様だな、分かった。

……ちなみに、リックの方は進展する見込みはあるのか?

あいつ、思ったより真面目で奥手だからな。」

「それはフラウノさんも心配して、ティアナさん達に発破を掛けてましたよ。

まぁ、見守りましょう。」

「ふふ、そろそろどうにかなりそうで楽しみですね。」

結局、二人もリックの事は気に掛けている様子であった。

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