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25_アンゼリカ

「ヒトが深刻に思い悩んでいるのに、若い男とキャッキャウフフですか、かーッ!」

「ちょっとリカはん、落ち込んでるのは分かるけど他の客に八つ当たりせんとって。

ただでさえ客が少ない店なんだから。」

「ケッ!ケッ!」


カウンターに先客が一人居たのは分かってた。

なので、そんなに五月蝿くはしていないつもりだったのだけど、気に障ったようだ。

店員さんに注意されてもまだやってるので、相当メンタルがやられているらしい。


「……ごめんねぇ。

ウチの常連で悪い子じゃないんだけど、今は余裕がないから。」

「いえ、それは構わないのですが……、何か訳ありですか?」

店員さんが代わりに謝るのに対して、セレナさんは事情を尋ねた。


「う〜ん……、言って良いか……、まぁええか。

あの子の友人が誘拐されてな……。

それであの子、その場に居合わせたとかで責任感じちゃって。」


ピクッ!

誘拐?


「ちょ、トーコ!

そんなペラペラとヒトの事情を喋らんといて!」

カウンターの人物がこちらを向いて非難の声を上げる。

「それって女性ですか?」

「えっ?!

……そ、そうやけど?」

「ボクらは冒険者、つまりなんでも屋です。

ヒトの捜索もやりますよ。

急ぎの仕事も無いですし、数日位ならお力お貸しします。」


「ヒト拐い」という言葉には、どうしても反応してしまうこの身が憎い。

でも、頭で考えるより先に体が動いちゃったのだから仕方ない。


ボクは立ち上がり、カウンター席の人物に声を掛けた。

相手は赤を基調とした高そうな衣服を着ている。

髪も赤毛で体は細身、年の頃は二十歳前くらいだろうか。

顔立ちも知性的で整った造形のハンサムであった。


「えっ?えっ?!!

あ、あの〜、え〜……っと?」

ボクの問い掛けは相手にとって意外なものであったらしい、戸惑っている。


「おお、ええやん。

どうせ一人じゃ限界やったろうし、素直に手伝って貰えば?」

「い、いやいや、探してるのが国家機密だし……?」

「どうせ、もう噂は出回ってるし、仮に彼等が他で話をしたとしても、冒険者がそんな話をしたって誰も信じたりしないでしょ?

そもそも今だってお手上げなら、何もしないよりマシだって。」

「ゔ……。」

店員さんの圧に圧された赤髪の常連さんはボクをチラチラ見ながら考える込むと、やがて意を決したように顔を上げた。


「じゃあ、お願いします。

お礼は私費からしか出せないので、報酬は期待しないでもらいたいのだけど。」

「構いません。

こちらはお金にはあまり困ってないので。」

最悪、コラペやリプロノで手に入れた金貨を換金すれば良いので、余裕はあるんだ。


「ありがとう。

……じゃあ、とりあえずこちらの事情を説明させてもらうね。」


**********


──私の名前はアンゼリカ。

隣国シエルエスタで錬金術師をしている家に生まれて、私も父を手伝っています。

父は国王様と面識がある程度には名が通っていて、月の半分は王宮の隣にある通称「研究棟」で仕事をしてます。


それでどういった巡り合わせか、国王陛下の三女リジュネア様の御学友に選ばれまして……。

私としては恐れ多いと思ったのだけど、案外上手く付き合って来ることが出来ていました。


けれど二ヶ月程前、シエルエスタから帝都ラカニエに向かう途中で、私の目の前で彼女は拐われてしまった。


彼女の行方はシエルエスタと帝国が協力して捜索しているのだけれど、一月経っても手掛かりすら掴めないらしく……。

それで居ても立っても居られなくなった私は、彼女を探して帝都までやって来たんだ。

けれど、一ヶ月近く帝都を探し回っているけど、彼女の影を踏むことも出来ないでいる……。


私は自分が情けなくって──


**********


話終わるとアンゼリカさんは机に突っ伏してしまった。


「心中お察しします。

大切なヒトを奪われてさぞやお辛いでしょう……。」

「ん?

あ、ああ、まぁ私としては大切な親友みたいに思っとるけど……。」

ボクの言葉のニュアンスが引っかかったらしい、アンゼリカさんは何か引っ掛かりがあるような表情で答えた。


「クロー、何か勘違いしてないかニャ?

このヒト、人族の女性ニャ。」


「「えっ?!?!」」

思わず声に出して驚いてしまった。

そして同じように驚いている仲間が他にも居たようだ。

リックとフラウノさんかな。


「はぁ?

おいおいおいおいっ!!

こんな美少女を目の前にして、どうしたら男と間違えるんだよ、ああっ?!」


いや、なんとなく声が高いかなとは思ったけど、顔は中性的に整っているし、何と言うか……、体型、かな?

……いや、黙っておこう。


「……、……っ!」

「こらそこ!

声を殺して笑うなっ!」

「……、だ、だって……っ!」

店員さんはツボに入ってしまったらしい。

声には出さないものの、腹を抱えて笑っている。


「まぁ、何と言うか、エルフに好かれそうなスラッとした美人だとは思うぞ?」

「えっ……、ホント?

へぇ〜……、やっぱ分かるヒトは分かってくれるんすねぇ……。」

良かった、ヴェロニカさんのフォローで多少持ち直したようだ。

本人がエルフ美女なヴェロニカさんの言葉は説得力があったらしい。


…………。


スラッとした体型はエルフ好みらしいと思う。

でも、なまじ整ってるだけに、顔はエルフの興味からは外れそうな感じはするね、言わないけど。


「そんな事より、アンゼリカさんは一ヶ月くらい帝都を探していたと言いましたが、どうやって探していたのですか?

そもそも、どうして帝都にリジュネア様が居ると考えたのです?」

セレナさんも何となくこの話題は触れずらいようで、話題を変えるようにアンゼリカさんに尋ねる。


「それは、我が家に伝わる秘術を使いました。」

「秘術?!」

「そう、これです!!」


そう言って立ち上がったアンゼリカさんは、L字型の金属を両手に持ち、それを水平かつ平行に構えた。


ちょーーーん!


という擬音が浮かんで来そうな、何と言うかちょっと滑稽な格好に思える。


「……何かシュールな姿だな。」

あ、ヴェロニカさんが本音を言っちゃった。


「いやいや、家に何代も伝わる由緒正しい探索方法なんですよ?!」

「聞いたことがあります。

ダウジングという探索方法ですよね?

でもそれ、主に水脈とか地中を探す方法だったと思うんですけど。」

ボクはアンゼリカさんのフォローに回る。


確か前世オジサンの知識でも、魔術の無い前世世界ですらオカルトの癖にそこそこ信用された手法だった筈だ。

ならば、魔術の存在する今世世界においては、かなり期待できる手法なのではないだろうか?


「えっ、知ってるんだ?!

確かにそういう使い方が主だけど、失せ物とかでも効果はあるって、私は信じてる。

現にリジュを探す時も、シエルエスタ方向には全く反応が無かったのに、帝都方向にはバリバリ反応してたし!

まぁ、そもそもリジュが拐われた時に、誘拐犯が帝都方向に逃げて行ったってのもあるんだけど。」

「……じゃあ、帝都を探すのは一旦分かった。

だが、帝都内はどうやって探してたんだ?」

ボクのフォローで気を良くしたアンゼリカさんが勢いのまま説明すると、やや気圧されたヴェロニカさんが次の質問に移った。


「そらもう、このロッドを持って都内を歩きまくりました!

そして、反応のあった家を外から隈無く監視して──」

「──たら昨日、遂に警備兵に職質されて説教されたんよな?」


「ゔぅっ……。」


店員さんによって痛い所を暴露されたアンゼリカさんが言葉を飲む。

見慣れない金属のロッドを持って歩く不審な人物が町中を徘徊していたのか……。

うん、警備兵なら怪しんで当然だね。


「でも、反応があったのは大体、城壁内、つまり貴族街ばっかりだったんだよ。

だから下手に不法侵入なんか出来ないし……。

もしも貴族家の敷地に許可無く入ったのがバレたらどうなるか分かったものじゃないから。」

「……なら、ワタシが魔力反応を見ようか?

魔術を使うと怪しまれるだろうからエルフ特有の素の魔力感知しか出来ないが、建物内に不自然にヒトが集まっていたりするのは分かるぞ?」

と、ここでヴェロニカさんが、自らが魔力感知で敷地内を探る事を提案した。


「えっ?!

そんな事が出来るの?!」

「ああ。

例えば複数人ヒトが一箇所に集中していたら、7、8人が集まっていると思ったら、5、6人しか居なかったとか、その逆とかな。

その程度の精度になるが、不自然にヒトが集まっていたり、不自然な場所に人が隠れていたりするのは分かる。」

「じゃあ、それで不審に思った所を見ていけば……。」

「そうだな、「何かありそう」というのは分かるんじゃないか?

ただ、問題はその先だが……。」


「どうしても怪しい所には、ボクが夜にでも探ってみますよ。」

「探るって……、どうやって?」

「ま、ま、それは怪しい所があった場合の話です。

とりあえず明日から、その怪しい場所を回ってみる事にしましょう。」


アンゼリカさんが野暮な事を突っ込んで来たが、それは一旦スルーしておいた。

もちろん、忍び込んで確かめるつもりだけど、それを明言はしない。


「う、うん、分かった。

ともかく、ありがとう。

お礼については私の出来る範囲で考えておくから。」

「はい。

こちらも冒険者なので、体裁として報酬ありきの行動とならないとおかしいですからね。

でも、徒労に終わる可能性もあるのですから、気負わないで下さい。」


こうしてボクらは、錬金術師アンゼリカさんとお姫様を探すのを手伝う事にしたのだった。

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