01_磯遊び
「あっは、しょっぱい!」
「スノウノさん、海水は味見までは良いですが、飲んじゃいけませんよ?」
「……ある程度の潮溜まりに『火球』を撃ち込めば、塩になる、か?」
「ヴェロニカさん、流石にワイルド過ぎます!」
「あら、貝殻が……。
キャッ?!中にいらっしゃったのですね?!」
「ああ、小さなヤドカリですね。
セレナさん、挟まれないように気を付けて。」
「……なんだか、『魔力感知』に反応がありますね。
本当に海にも魔物が居るんですね。」
「へぇ……。
でも、今日はチラッと見に来ただけですからね、フラウノさん?
下手にちょっかいを出さないで下さいね?」
な、なんかツッコミ続けて疲れる……。
「うわっ?!
な、なんか足元の砂が持って行かれるっす?!」
「本当ですわね。
なんだか不思議な感触です。」
……うん、リックとティアナさんは、なんだか初々しくてほっこりする。
今日の宿を探す前に、皆がウズウズしてて仕方なかったので、先に砂浜に来てみました。
最悪、食料の備蓄もあるので野宿しても大丈夫なのだけれど、海初心者としてはちゃんと地元の方に話を聞きたいと、ボクは思っている。
でも、はつの海でテンションが上がってしまう気持ちも分かるので、強引に打ち切るのも申し訳ない。
……ま、しばらくはこのままで良いか。
あっ、スノウノさん、こっちに魚が居たかも。
そうそうそっち。
……なるべくリックとティアナさんの邪魔にならない様に、スノウノさんを別方向に誘導なんかしてみたりして。
結局、お魚食べたさで、皆、一斉に正気に戻ったので、夕食時までには町を見付けられましたとさ。
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「んミャいっ!!」
「……本当、美味しいですわね。
昔食べた川魚とは、まったく別の味がします。」
「かっはっは、そうかい。
まだあるから、たんと食べな。」
スノウノさんの魂の叫びと、ティアナさんの感想を聞いた宿屋の女将さんは、機嫌良さそうに応えてくれた。
「ありがとうございます。
こんな豪華にしてもらって。」
「良いんだよぉ。
こちらこそ、ここいらじゃ滅多に見掛けないオークやらを譲ってもらったんだ。
お互い様さ。」
そう、帝国に入ってまだ日が浅く、帝国のお金も心許なかったボクは、オーク等の現物払いで泊めて貰う事にしたのだった。
「ついでに、この先に大きな港町があるか聞いても良いですか?」
「ん〜?
そうさねえ、二・三日北に行った辺りに、大きめな町があるよ。
そこなら冒険者ギルドもあったと思うねぇ。」
「なるほど。
あともう一つ、ここいらの海岸で貝とかを採るのは規制とかされてませんか?」
「……おや、貝が採りたいのかい?
特に採るのを禁止なんかしてないよ。
でも、珍しいねぇ。
地元民は割と好きで採って食べてたりするけど、内地から来てそんな事を言うヒトは、これまで居なかったねぇ。
あっ、それとも真珠貝目的かね?」
「あ、やっぱりそういう貝も居るのですね。」
「そりゃあ居るさ。
でも期待はしないほうか良いよ?
あんなの、ここで生まれ育った私でも、宝飾に使えそうな珠なんて一度しか見たことないもの。」
「ああ、やっぱりそんなものですか。」
やはり、天然の真珠はこちらの世界でも貴重なものらしい。
「あんたら冒険者なら、真珠貝よりエビル・クラムを狩った方が稼げるんじゃないかね?」
「エビル・クラム?」
ボクが聞き返すと、女将さんが詳しく教えてくれた。
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「エビル・クラム」は二枚貝の魔物さ。
大きさは子供の頭くらいはある。
不用意に近付くと、水系の魔術で攻撃して来るんだ。
退治しようにも殻は硬いし、厄介な魔物なんだよ。
ただ、その魔力核は真珠の様な光沢で輝くから、宝飾品としても価値が高いんだ。
北の町みたいな大きめな町なら、その魔力核どころか、その貝殻にも値段が付くと思うよ。
貝殻の内側も真珠と同じ光沢だから、加工品を作るのに重宝するのさ。
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「──でもねぇ、やっぱりあっちも命が掛かってるからねぇ。
魔術攻撃がなかなかに危ないんだ。
知らずに近寄った子供が大怪我する事も、偶にあるからねぇ。
地元の漁師も、わざわざ採ろうとは思わないんだよ。」
「……なるほどなるほど。」
「……悪い顔をしているぞ、クロー。」
はっ?!
ヴェロニカさんに言われてハッとする。
いやいや、まさかそんな。
魔術を使うなら『魔力感知』を使えば簡単に見つけられそうだとか、『眠り』を使えば簡単に昏倒させられそうとか考えてただけだし、そんな、ねぇ?
「やだなぁ、冒険者として闘志を燃やしていただけですよ。」
「まぁ、そう言うならそれで良いが……。」
ヴェロニカさんはなんとなくジト目のまま応答した。
「ははっ、ま、程々にね。」
女将さんの方は一応忠告してくれるが、止める気は無さそうだ。
それ程、見付け難い種なのか、または、冒険者ならば引き際を弁えていると思ってるのかも知れない。
こちらとしては、帝国内で当面のお金を工面したい。
海のグルメを堪能するためと、金策の一石二鳥を目論み、明日はその「エビル・クラム」を狙ってみることにしようと思う。