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14_タヌキとの出会い

どんっ!!


……タヌキだ。


何を言ってるのか分からないと思うけど、ボクも何故これがここに在るのか、サッパリ分からない。


えっ、タヌキ?!タヌキなんでぇ?!


此処は魔術図書館入口。

その横に❝本文を読み解く鍵はこれ❞の文字と共に、タヌキのレリーフが並べられていた。


……というか、その❝本文を〜❞の文字についても、普通に読んでしまったけれど、こちらの世界の文字じゃないよね?!

明らかに前世オジサンの世界で使われていた言語だ。

どうなってるの、コレ?


文字もレリーフも素材の様子を見るに、後から追加された物じゃなさそうだ。

つまり、コレは元から、この図書館が造られた当初から存在していた事になる。


「──クロー、行かないっすか?」

はっ!

あまりの不可思議さに黙って立ち尽くしていたボクだったが、リックの言葉で意識が引き戻された。


「あっ、ごめん。今行くよ。」

ボクはリックにそう返すと、仲間の元に小走りで向かった。


……取り敢えず、入口の文字と絵の事は後回しにして、説明を聞いてみよう。


**********


説明を聞いたボクらは、ひとまず一階、二階の行ける部分を回ってみた。

……カエデと名乗るエルフの事は、一旦置いておく。


図書館内部、主に通路に装飾された創作文字は、酷い有様だった。

各所の装飾には、それぞれ記号一つと一つの語句が貼り付けられていたのだけれど、その組み合わせがメチャクチャだった。


例えば、「↑」記号の横に❝右へ曲がる❞とあったり、「⇐」の記号に❝まっすぐ前進❞と書いてある等、とにかくチグハグたった。

帰りがけに創作文字の解読情報共有の部屋もチラ見ささて来たけれど、過去の解読記録のどれも、記載の一番目に「記号はフェイク。その通りに進んでも何処にも辿り着かない。」と書かれていた。

まぁ、そんな簡単な事なら三百年も未解読のままだったりはしないよね。

……それにしたって、そんなブラフを大量に仕込むなんて性格悪過ぎだよ、ナガツキ・セイシローさんさぁ。


**********


翌日、今度は談話室へ行ってみたけれど、そこには壁一面に創作文字が書かれていた。


……うへぇ。

これ全部、ナガツキ・セイシロー自身の自叙伝じゃん。

一応は読んでみるか……。

あ、ヴェロニカさんとセレナさんは魔術書でも読んでいて下さい。


なになに……。

……ふんふん。

ああ、異世界転生者なのに前世の名前使ってたのはそういう事だったんだ。

結構、大変な幼少期だったんだなぁ。

……うわ、そりゃあこっちの親に付けられた名前も捨てたくなるわ。


……ん?

あれ?

あの一文は明らかに前後の文と脈絡が無いんだけど……。

まさか?!


ボクはその部屋の記述を全部読み進めた。

すると同様に脈絡の無い文が更に二回登場した。

……やっぱりだ。

この前後と脈絡の無い文こそ、幻の隠し部屋へのヒントであるらしい。


……つまりなんだ、こちらの世界のヒトからすると、この部屋一面に書かれた創作文字の全てを正確に解読して、その中から前後との脈絡の無い、たった三行を見つけなくちゃいけない、ってこと?!

難しすぎない?


だいたい、三行だけではまだ全然意味が分からないし。

え、まさか、ひょっとして……。

ボクは二人に話して、一緒に三階の談話室へ行ってみた。


──あったよ、案の定。

てことはつまり、全てのヒントを揃えるには、二〜十階の談話室を全部覗かないといけないのか、ひょっとして?!

どんだけハードル高くすんのさ、セイシローさんさぁ!

しかも、あんたの自叙伝を九階分、延々と読まなくちゃいけないんでしょ?!


あ〜……、どうしよっかなぁ……。

面倒臭ぁ。

どうせこんなの他の誰にも解ける訳ないんだから、放っといても良いかなぁ?


……でも、気になるのはカエデの言っていたセリフ。


「謎の文字の方に興味を持って来たクチです。」

「ウチの里長周りの者達は、何故か関心が高いらしく、暇な者を寄越すのです。」


これ絶対、ハイ・エルフの老害ジジイの指示って事でしょ!

奴等が何を狙っているのか、非常に気になる。

場合によっては「紅の魔王」関連である可能性もあるし、何に執着しているのかだけは確認しておいた方が良いかな……。


あ〜、もうっ!分かった、解読しますよ、面倒臭い!


ボクはその後、数日掛けて魔術図書館の談話室に通う事になってしまった。


**********


はぁ……、やっとヒントとなる文は全て見付けたぞ、こんちくしょう!

……あ、カエデさん、ちっす。

なんか……、自分より疲れてそうなヒトを見ると冷静になれるな。


でも、本当に疲れてそうだ。

本人の気質もあるのだろうけど、普段からエルフの里で厳しくされてる結果でもあるのだろう。

……なんか、社畜を見てるようで、前世オジサンの前世の姿を見ているようでいたたまれない。


「魔王教」と通じている筈の彼女に対して、ボクがどうしてこれほど同情的なのか?

ヴェロニカさんにも問われてこたえたが、それは彼女が大恩あるナズナの親戚だからだ。


あの日、ニグラウス領でカエデの姿を見た時は驚いた。

だって、ボクの魔術の師匠であるところのナズナと、容姿がそっくりだったから。

正確には、カエデの方が全体的に体のパーツが大きく、当然胸も尻もカエデの方がボリュームがマシマシなのだけど。

それでも、ナズナと顔がよく似ていて、ナズナのお姉さんだと言われても違和感は無い。

まぁ、十中八九ナズナの親族なのだろう。

だから、流石にその場で殺すのは躊躇われたので、カエデが自力でその場から逃げてくれて助かった。


そんなカエデが再び目の前に現れた、こちらの正体をあちらが分かっていない状態で。

こちらの正体に気付かれていないなら、基本は放置で良いと思っているのだけれど、何故かカエデはヴェロニカさんが気になっている様子だ。

……もしかして、ソッチの気が?


いやいや、里での様子を聞くに、あまり同族に優しくされた経験が無いのだろう。

ヴェロニカさんは基本、ヒトに優しいのでママ味を感じて甘えているのだと思う。

……そのくらいは許そう。


出来れば里と決別して欲しいと願うけれど、カエデを縛っている呪縛は強そうだ。

この場でボクらがリスクを冒さずにどうこうするのは難しいだろうな。


いつかカエデも、自らを呪縛から解き放ち、楽に生きれるようになれる事を願っている。


**********


さて、宿に戻ってもまだ解読は続けている。

これまで集めたヒントを纏めると、以下の説明になった。


各階の談話室の文章のうち、その階と同じ行、例えば三階なら文章の三行目、十階なら文章の十行目に注目する。

その行の中でタイルの色が異なる文字を探し出し、ニ〜十階の順に並べる。


このヒントを元に見つけ出した文字を並べたのが、この文字列になる。


❝わたれたたにむけてたかきゆうたおはなたて❞


…………。


なんぞコレ?

何となく語句としては分かるけど、文章としては意味を為していない。

これをどこかで唱えるのだろうか?

それとも何か解読間違いをしている?

……流石に前世オジサンが数十年使っていた言葉だから、読み違う事はないと思うのだけど。


う゛〜ん……。


「どうしたんです?

難しい顔をして。」

「いやぁ、見つけた文字列がいまいち意味を為さなくて、何か考えが漏れているのかと……。」

唸っていると、セレナさんが声を掛けてくれたので、素直に打ち明けてみた。


「なるほど……。

あっ、そういえば、アレは結局どういう意味だったんですか?」

「へっ?何かありましたっけ?」

「ほらっ、初日に入口の文字について言っていたじゃないですか?

「本文を読み解く鍵はこれ」って。」


あ…………。


「……そういや、忘れてました。

確かアレは──」


アレは確か「タヌキ」のレリーフを指していた……。


えっ、まさかそんな……。

そんなテレビゲームも普及していなかった時代のナゾナゾみたいなヒントの出し方する?

……一応確かめてみるか。


入口のレリーフに描かれていたのは、タヌキ。

つまり「た」を「抜き」で読んでみるということ。


❝われにむけてかきゆうおはなて❞


「我に向けて『火球』を放て」


………………。


ふっっっざけんなっ!!!


テメェ、セイシロー、この野郎!!

こんなの現地のヒトが解読出来る訳無いだろうがっ!!

散々ヒトを、三百年も人々を振り回しやがって!

出来るものなら顔も知らないお前に『火球』どころか、『爆裂魔術』をお見舞いしたいくらいだよっ!!


はぁっ、はあっ!……ふぅ。


……いや、顔は見たことあったな。

二階にある初代館長の胸像だ。

つまり、アレに『火球』を放てば、隠し部屋への道が開かれる、という事だろう。


……魔術の使えない筈の魔術図書館で?

……火気厳禁の魔術図書館で?


う〜ん……、解読出来ても更にハードルを用意するとか、なんでそこまで厳重に隠したかったのだろう?

そして──


──気になる点はもう一つある。


「ヴェロニカさん、「黒」に関わる言い伝えとかって何か知ってますか?」

「いきなりキレ散らかしたかと思ったら、なんだその質問は?

……そうだなぁ、帝国の主教であるノワール教だが、イメージカラーは黒色だそうだ。

今考えつくのは、そのくらいかな。」

「う〜ん、……それとは関連が無さそうですね。」

物知りなヴェロニカさんに聞いてみたら、何か手掛かりが掴めるかと思ったのだけど、流石にそう都合良くはいかないらしい。


「今度は何が気になってるんです?」

「あ、いや……。

最上階の談話室の文の締めに「これが君の人生の一助となる事を願う。黒」と書かれてあったんですよ。

普通、締めには自分の名前かペンネームみたいなのを書くと思うのです。

でも「黒」はセイシローの名前に使われている文字でもなさそうなので、ペンネームにするのは変かなって……。」

「へぇ……。」

聞いてくれたセレナさんの反応も微妙だ。


自分でもどうでも良い事が気になってると思うのだけど、何かがしっくりこない感覚がある。

「……なぁ、クロー。

ちなみにその「黒」って、そっちではどう発音するんだ?」

「えっと……、確か一般的には❝くろ❞ですね。」


「「……えっ?!」」


おや?

ヴェロニカさんとセレナさんが驚いた様子で顔を見合わせてしまった。

何か気付いたのだろうか?しかも、二人同時に。


「あの、何か気付きました?」

「ああ……、というか、お前は気付いてないのか?」

「へっ?!何がです?」


ボクがヴェロニカさんに問い返すと、再び二人は顔を見合わせた。

そして、セレナさんが諭すように優しく、ボクに語ってくれた。


「……その❝くろ❞って、クロー君の事だと思いますよ?」


「…………は?」

しかし、その答えが受け止め切れず、ボクの頭はしばしフリーズしてしまったのであった。

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