00_プロローグ
クロー君の異世界転生記の続きとなります。
クロー君のこれまでについては、既出「異世界貴族に転生しましたが、なんやかんやで国を追われました1~4」をご覧ください。
ひねくれ者のクロー君ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
「海だニャァ〜〜っ!!」
先行するスノウノさんが、小高い丘を越えたタイミングで歓声を上げた。
「「うわぁ〜〜っ!!」」
「「おぉ〜〜っ!!」」
僅かに遅れて同じ光景を目にした皆も、思い思いの感嘆の声を上げている。
「わぁ……。」
そしてボクも感動している。
いや、海がどんなものか、どんな景色が広がっているものかは、前世オジサンの知識でなんとなく分かってはいた。
でも、結局は直に見る迫力には敵わなかった。
何これ青い!
空から海から全部が青い!!
そして、どこまで続くのこの海って?!
そりゃあ、あの先が滝になっているという話が信じられてる筈だわ。
うん、来て良かった。
ボク自身が海を見れた事ももちろんだけど、皆にもこの光景を見せてあげられた事が嬉しい。
「すっご……、あれが海っすか……。」
ボクより手前で海を見たリックが、そう言って絶句している。
──リックはボクの一番の友人だ。
ボクとしてはその認識なんだけど、山賊であったリックに目を掛けて、色々と教えてあげる内に、すっかり心酔というか、半ば洗脳の様な状態になってしまっている。
ブラウンの髪と瞳、細マッチョな容姿で顔もなかなかのイケメン、おまけに魔術も使えて剣も振るえる、なかなか非の打ち所の無い青年になってしまった。
「ホント、壮観ですわね……。」
リックの言葉を受けて、ティアナさんが呟く。
意識しているのか、無意識なのか、最近の彼女はリックの言葉にリアクションしている事が多い気がする。
──ティアナ・エシャロットさんは貴族家出身の元騎士団長。
金髪碧眼、容姿端麗ないかにも貴族子女である。
このティアナさん、どういう訳かリックの事を気に掛けている節があり、当のリックもティアナさんに好意を持っているらしい。
ボクとしても、何とか二人がくっつかないかと、もどかしく思っている所だ。
「ティアナ、早く行こう!
さかニャ、さかニャ!」
──そんなティアナさんの手を取り、急かそうとするのがスノウノさん。
猫獣人で全身に淡い体毛が生えている、獣人度合いのやや高いタイプ。
それでも、ボクからすると美人に見えるので、こういった容姿を好むヒトもそれなりに居るだろう。
しかし、本人はティアナさん一筋で、リックとティアナさんの仲を妨害する事もある。
「スノウノちゃん、急かさなくとも、海は逃げませんよ。」
──スノウノさんをやんわりと諭すのが、フラウノさん。
黒髪黒目の知的美人さんだ。
スノウノさんとフラウノさんは、ティアナさんが団長をしていた騎士団員で、ティアナさんと一緒に脱退して冒険者となったのだった。
「あれが全て塩水なのか……?!
それこそ無尽蔵に塩が採れるぞ。」
──何とも現実的な感想を漏らすのがヴェロニカさん。
ボクの彼女の一人のでエルフの美女さんだ。
肌から髪まで色素が薄く、ツリ目気味な容貌は完全にボクの好みドストライクである。
ヒトに言えない訳アリな事情がある彼女なのだが、それ自体はボクも分かった上で交際に至っているので問題はない。
「ヴェロニカさんてば、もうちょっと感動とか、そういった感想とかは無いんですか?」
「んっ?
いや、壮観だとは思っているが、おかしかったか?」
「……まぁ、ある意味、ヴェロニカさんらしいですけれど。」
──呆れ気味に語るのは、セレナさん。
黒髪黒目の清楚系司祭、普段は聖女と呼ばれても不思議じゃない、ボクのもう一人の彼女だ。
出会った頃は細かった身体も、一年近くが経った今は、非常に女性的な凹凸ある体型に変化してしまった。
「じゃあ、取り敢えず港町を見つけて寄りましょうか。
そこで料理屋さんでも入って魚料理を堪能しましょう!」
「「は〜いっ!!」」
ボクの提案に、皆、賛成してくれる。
平和だ。
まるで、ボクらがこのジサンジ帝国に来た目的が、「魔王教」へ殴り込みをする為だという事を忘れたかの様だ。
でもまぁ、そのくらい気負いが無い方が良いかも。
どうせすぐに「魔王教」の本部が見つかるとも思っていないし、いっそ帝国観光をするつもりでいるくらい図太くいよう。
何なれば、あちらにボクらの事を見つけてもらって、ちょっかいを掛けて来た奴等から逆に情報を貰うのが手っ取り早い気までしている。
ウチのパーティは、最早ちょっとやそっとではビクともしない戦力に育ってしまったので、そんな雑な作戦でも良しと思えるのだった。
取り敢えず、今は目の前に広がる海を十分に堪能する事を考えよう。
その先は、観光目的半分で帝都まで行ってみるのも良いかも知れない。
そんな楽観的な事を考えていたボクは、このすぐ後に驚くような再会を果たすとは、夢にも思わなかったのであった。