第9章 糸口のない糸口
家に帰るやいなや、翔はカバンも下ろさずに名刺を食卓の上に置いてすぐノートパソコンをつけた。
起動を待つ短い時間の間、彼は再び名刺をのぞき込んだ。
【 松田·香奈 ジャーナリスト 】
彼は名刺の下部に書かれたブログアドレスを検索した。
見慣れたブログプラットフォームが開かれ、端正に整えられた画面には最新の記事がアップされていた。 スクロールすると、目を引くタイトルが続いた。
「医療事故、被害者が立証しなければならない世の中」
「無意識とトラウマの接点について」
「夢は脳が作った最後の安息所なのか」
「傷ついた心を治療する方法は存在するのか」
翔は長い間、文を読んだ。 字体は固く、思考は深かった。
彼女はジャーナリストというより研究者に近い人だった。
資料、事例、専門家インタビュー、理論的分析。
すべての記事から静かな執拗さがにじみ出ていた。
「分野が···かなり広いな」
心理治療、医療問題、自我、記憶、無意識、夢。
互いに離れて見えるテーマが妙に一つの線でつながっていた。
翔はふと疑問を抱いた。
最近、このような記事を果たして誰が読むだろうか? 雑誌に載る文章かな?
検索エンジンを開けて彼女の名前を検索してみた。
ニュース、雑誌、アーカイブ、ブログのコレクションまで調べたが、そこまでの結果はなかった。
彼女の投稿はほとんどブログにしかなかった。
既成メディアに掲載された痕跡も、出版記録も見つけることができなかった。
「…正体は何だろう···」
翔はあごを上げて、ぼんやりと画面を眺めた。
香奈の文章は徹底的に書き下ろしながらも、大事なところでは言葉を濁した。
「それ以上は言えない」
「あなたが直接確認しなければならない」
このような文章がよく登場した。
翔はブログを閉じて、ノートパソコンを閉じた。
もっと多くのことを知ることができると期待したが、残ったのはむしろ大きくなった好奇心だけだった。
すべてのパズルのピースが合っているようで、何だか一つ空いている感じ。
糸口はなかった。 だが、その糸口がないという事実が、不思議にも糸口のように感じられた。