第7章 出会い
返事は予想より早く来た。
[ 今日の午後よかったら、XX駅の近くにあるカフェで会いましょう。 15時 ]
翔は携帯の画面を眺めて、思わず地図アプリを開いた。
意外に近い距離だった。 電車で2駅、バスに乗っても30分もかからない距離。
“…本当に近いんだけど···" 胸がざわついた。
[ 本当に行ってもいいのかな?]
[ 噓ではないかな?]
しかし、この辺で手を引くことはできなかった。
あの店を2度見た後の「眠り」。単なる偶然にしては、
あまりにもはっきりしていて、異質だった。
ゆっくりと携帯電話を置いていた瞬間、ふと変な考え一つが浮び上がった。
[ 女だったらどうしよう ]
とんでもない想像だったが、翔は自分も知らないうちに笑い流した。
[ 何考えてるんだ …··· おかしくなったのか、本当に ]
力抜けた独り言がぎこちなさを少し和らげた。
むしろ、そのような突拍子もない想像が、この見知らぬ出会いに対する漠然とした不安を少しは和らげたようだった。 彼は席を立ってクローゼットを開けた。 あまり目立たず、きれいに見えるシャツを選んだ。 鏡の前に立って、手で頭を数回撫でた。
[ 週末に、まったく…··· 俺は今何をしているんだ ]
自嘲混じりのつぶやき。 しかし、彼は結局準備を終えて家を出た。
電車の中、翔は絶えず時計を確認した。鼓動は落ち着いていた。
静かに、それとなくドキドキした。
彼はもしかしたら今回の出会いが何かを変えることができるかもしれないと思った。
カフェはある程度混んでいた。
翔は約束時間より10分ほど先に到着して、窓際の席に席を取った。
注文したアイスコーヒーにはほとんど手をつけないまま、時計を繰り返し確認した。
そして15時にならないうちに。 ドアが開き、一人の女性が入ってきた。
一目で分かった。 彼女だった。
髪をぎゅっと結んだまま、化粧気のない顔。 目の下には疲れがたまっていたが、
動きはゆったりとしていて視線は硬かった。
ゆったりとしたジャケットに半ズボン、スニーカー。
適当ながらも自然な調和だった。 翔は彼女と目が合うと、軽く手を上げた。
彼女が近づいてきた。
「翔さん?」
「はい。高橋 翔です。よろしくお願いします」
「思ったより平凡ですね」
「思ったより··· というのは何ですか?」
彼女は肩をすくめて向かい合った。
「この話題で連絡が来る人たちは大体興奮していたり、
力強い目つきを感じる事があるんですよ。 でも翔さんは··· ただ本当に疲れた人のようですね 」
翔は力なく笑った。
「そうです。俺はただ疲れています。 ずいぶん前から」
お互いの顔を見合わせたまま、しばらく沈黙が流れた。
翔はこれ以上遠回しに言う必要がないと感じた。
「早速、本題に入ります。 あの店。 一体何ですか?
どうしてそんなによく知っているんですか」
と彼女は軽く首を傾けた。
そして、笑わずに静かに言った。
「その店は··· 言葉では説明しにくい種類の場所です。 存在しません。 少なくとも最初は」
彼女の声ははっきりしていて,目は曇っていなかった。
「その店は最初からそこにあるわけではありません。 現実には存在しません。
人によって感じ方は少し違いますが、大体4段階があります。
疑問、自覚、好奇心、そして執着。 この段階を経た人の前に···
そのお店が現れるんです。 夢の中で」
翔は息を殺した。 彼女はまるで古い事実を読み返すように、淡々と説明を続けた。