表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

第14章 慣れ親しんだ隙

再び— 夢だった。

翔はきょとんとした顔で周りを見回した。

床は古い廊下特有のかさかさした灰色のタイル、

壁には学校行事のポスターが斜めに貼られており、

窓の外には午後の曇った日差しが長く垂れ下がっていた。


「…ここは···」


高校だった。 彼が卒業してから、もう10年以上経った — あの高校。


頭を下げた彼は、自分の体に羽織られた服を確認した。

紺色のブレザー、色あせたボタン、肩にどこか合わない感じ。

制服だった。


「何だよ、何で今度は町じゃないんだよ…」

彼はつぶやきながら廊下をゆっくり歩いた。


教室は··· 何組だったっけ。 3年何組? 2年生だったかな?

記憶をたどりながら廊下の端に向かっていたその時、

見慣れたドア一つが視野に入ってきた。


そのドアーはとても分かりやすかった。

少し押しても音がする、なかなか開かなかった古い引き戸。

しかし、その中にあるのは教室ではなかった。

翔は一歩下がった。


「……何だ」

戸越しに見えたのは— 老婆の店。

夢で見た幼い頃の町の路地。

あの時の姿そのままだった。

古い木製の棚、天井から点滅する照明、彼女が座っていたその場所まで。


「なんで学校の中にこの店があるんだろう…」

冷たい感覚が背筋を伝って流れた。


これは単に過去の再現ではない。

記憶と記憶の間の隙間に—

店が染み込んでいた。


空間が、時間が、記憶が徐々に絡み合っていた。

翔はもうためらわなかった。廊下の突き当たり、

その見慣れた引き戸に向かって力いっぱい足を踏み出した。


ドアは意外と軽く開いた。

そして— その中は相変わらずその店だった。


ほこりっぽい空気、ぼやけた照明、きしむ床。

変わったことがあるとすれば、翔の心の中で「慣れない」という感情が消えたということ。

今や彼はこの空間を記憶し、この空間もまた彼を知っていた。


カウンターの奥,老婆はまだそこに座っていた。 彼女は口元を少し上げて言った。

「お菓子あげようか? それとも焼きそばパン?」


くすくす—


翔はためらった。 見慣れた冗談のように聞こえたが、

その中には何かを見抜いているような視線が込められていた。

老婆は笑いを止めずに手を振った。

「あ、ごめん、ごめん。 学生みたいに着こなしてるね。

あの頃の食べたものをあげようかと思ってね」


翔はゆっくりと近づいた。 何も言わずに彼女を見ると、

老婆は一度眉をつり上げながら言った。

「それで、サービスはどうだったんだい?」


その言葉に翔は思わず聞き返した。

「…サービス···?」


老婆は腰を軽く伸ばし、指で空中に丸い円を描いた。

「あんなにすっきり眠れるもの、それは結構な代償なんだけどね」


彼女は軽く,何でもないかのように付け加えた。

「でもまあ、最初は注文もなしに受け取っただけ。

今回はただのサービスだよ。私の勝手でしょう」

翔は黙って彼女を見た。


彼が経験した夢、あの不思議に晴れた朝 —

それらが単に「与えられたもの」ではないという事実がゆっくりと彼の心の中に落ちた。


老婆は再び伸びをするように体を伸ばして言った。

「買うものがなければおゆき。店を長く開けておくこと、そんなの全部タダじゃないよ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ