第13章 軽すぎる一日
いつもと同じ平日なのに何かが違った。
「体が···軽すぎる」
翔は目を開けた瞬間からそれを感じた。
体が遅滞なく起き、カーテンを開ける腕にも力が込められていた。
シャワーを浴びた後、鏡をのぞき込んだ彼の顔には、
普段のように眠そうな目元も、濃いクマもあまり見えなかった。
電車はまだ混んでいた。 通勤途中いつもの駅見慣れた人達。
しかし、今日は息が詰まらなかった。
翔はその中でも軸を失わず、取っ手を握った手に余計な力を入れなくても揺れなかった。
会社に着いた時、鼻歌のような口ずさみが流れた。口ずさんでる自分自身に驚いた。
「翔さん、今日…何かいいことでもあったんですか?」
デザイン部署の末っ子がこっそりと声をかけ、翔は照れくさそうに笑った。
「いや、ただ··· ちょっと寝れました」
「え?本当ですか? うわー、それは奇跡ですね」
冗談のように言われた言葉だったが、翔はその言葉が恐ろしいほど正確だと感じた。
奇跡。
本当にそうだった。
午前の会議でも彼は普段より2、3語をさらに加え、
企画書の整理もはるかにスムーズに終えた。
すべてが少しずつ、しかし明らかに変わっていた。
あまりにも···
軽く。
彼はふと、自分に問いかけた。
「ただ夢を見るだけで、こんなに変わるのか?」
その問いは彼の頭の中でずっとぐるぐるし、その考えの中心で、
翔はいつのまにかまたその店が見たいという考えを抱いていた。
すべてがとても良かった。とても軽くてとても自然だった。
しかし——
その中で、彼はふと不思議な点一つを思い出した。
夢を見させてくれると言っていた。
老婆はそう言った。
彼も「夢を見に来た」と話した。
ところが
俺は···夢を見なかった。
何の場面も、何のイメージも思い出せない。
ただ、昨夜の翔は消え、また目が覚めた。
その中間がなかった。
いわゆる「思い出せない夢」ではなかった。
そもそも何も存在しなかった無の空間。
彼は机の前に座り、無意識に指で机を叩き、その考えをかみしめた。
「老婆は俺に夢を売ったが…··· 夢を見なかった」
ちょっと—
どこかずれた感じ。
しかしその奇妙な感覚は、すぐに心地よい疲労感に押されて消えた。
「まあ、どうせ気持ちよく起きたんだから。それでいいんだよ」
翔はそうつぶやきながら席を立った。
彼はカフェに立ち寄ってコーヒーを一杯買い、
出勤途中と同じように混雑した電車に乗った。
肩をぶつけながら、妙に軽い気持ちで帰宅した。
耳には一日中繰り返されていたCM曲が流れていた。
翔は口ずさむようにそのメロディーに沿って歌いながら、
ドアを開けて部屋の中に入った。
戸を閉め明かりをつけかばんを置いた後、
翔はふと小さく笑った。
「そうだね。今日はただ··· よく寝れた日だから」