戦闘ロボット8号 ジップ
仙道アリマサ様が主催されている「仙道企画その7」の参加作品です。
歌詞は後書きにあります。
また自主企画の「一足先の春の詩歌企画」にも参加しております。
用いた春のワードは『芽吹く』です。
※救いようのないバッドエンドのつもりで書いておりますので、苦手な方はご注意ください。
――ドンドンドンドン
私は今自身の手で"ココロを吹き込んでくれた元主"を撃ち殺してしまった。
どうしてこんなことをしなければならないのだろう。
◇◇◇◇◇
私の名前は戦闘ロボット8号――ただ戦うためだけに作られた8番目にできた戦闘マシーンであり、「撃て」と命令されたら勝手に動くようにプログラミングされていた。
今までは攻撃に特化した戦闘ロボットを作ることが出来ず、ようやく完成したのが私だったとのこと。私はどうやら成功作らしく、今までの失敗作は全て処分されたらしい。
そんな成功作である私は、いつも様々な攻撃をされて、その度にその攻撃に対応出来るように"パターン"を覚えさせられる。そして、その都度プログラムを更新して、いつでも戦えるように訓練をされていた。
あれから私は訓練をして早5年とあっという間に時間が流れていたが、その感覚はイマイチ分かっていなかった。
ただその日はもう少しで始まる戦いのために今居るところとは異なる場所で訓練をするのだと、"グンソウ"であるご主人様に言われた。そのため、今から"フネ"で移動するとのことだった。
しかし、乗っている最中に嵐に遭ってフネが転覆し、私はそのまま海の中に放り出された。そして、一時的に機動が途切れてしまったのだった。
機動した時は、周りを見れば見知らぬ場所で、目の前を見れば見知らぬニンゲンが立っていた。彼は前のめりになって尋ねてきたのだ。
「精巧なロボットだね。何のために作られたの? やっぱり銃弾とかが多く埋め込まれているから戦闘用に作られたのかな? あ、あと君の名前は何?」
「私の名前は戦闘ロボット8号です」
「う〜ん、気難しい名前だね。そうだ!! 君の名前は今日からジップだ。ジップ、良いね?」
「私の名前は戦闘ロボット8号です……私の名前は戦闘ロボット8号です……私の名前は」
「あ、このままじゃあ君が壊れちゃう。すぐに修理しなきゃ」
彼は本当に元の形まで素早く修理をしてくれた。それと同時に彼は私に"ココロ"という物まで与えてくれたのだ。
「ジップどう? 実は少し前に『心』を作ってみたんだけど、与える機会が無くてね。折角だから君に取り付けてみたんだけど、感想は?」
「分かりません。ただ、分からないという状況が初めてで"ココロ"というのが震えている気がします」
「おお!! ジップ、それは戸惑いという感情だ。間違いなく君は今、心というものを持ったんだよ!!」
「これが戸惑い……プログラムに入りました。また、ココロというものが今は熱く感じます」
「それはね多分だけど、嬉しいという感情だね。本当にそう思ってくれて嬉しいよ」
「これが嬉しい……プログラムに入りました。ご主人様も私と同じ感情なのですね」
「そうだねジップ。あ、私の名前はエメットだ。これからエメットと言うように」
「エメット様、よろしくお願い致します」
「うん、上出来。よろしくね、ジップ」
これがエメットというご主人様と初めて出会い、そしてジップと呼ばれるようになった最初の出来事であった。
それから私は、エメット様とともに今までの訓練ではしたこともないことを多く体験にすることになった。例えば、食事をしたり、散歩をしたり、昼寝をしたり、多くのニンゲンが普段から行うことをしたのだ。
最初は何も思わなかったが、暫くするうちに"戸惑い"を感じて、何故機械にさせても無意味なことをわざわざさせるのかが気になり、その理由を尋ねるとこんな返事が返ってきたのである。
「ジップはもう機械ではないんだよ。今は私達と同じニンゲンだ。だからもっと気楽に接してくれて良いんだよ」
今までずっと私は機械という縛りで、ただ訓練という1つのことしか出来ず、どんなにカラダが傷ついてもただその場で少し修理されて、再び訓練を繰り返すだけだった。
ココロを持つこの時になら、あの時の状況に"しんどい"という感情を抱くことだろう。また、カラダが傷ついたら"痛い"という感情も抱くことだろう。
この感情はプログラムでは"マイナス"の感情であるはずだが、それを"嬉しい"と思えることが凄く"嬉し"かった。だけど、それは凄く"不思議"なことだったので、そのやり取りをプログラムで鮮明に覚えているのだ。
それから私はエメット様との生活を通して、様々なココロを持つようになった。"嬉しい"や"楽しい"、"辛い"や"憎い"など、ニンゲンなら当たり前に持つココロをほぼ全て手に入れたのである。
しかし、そんな"幸せ"な生活はそこまで長く続かなかった。それが終わったのは、エメット様が"出張"で外を出られた時だった。
あの時は私1人"寂しく"本を読んでいたのだが、その時に突然エメット様でもない見知らぬニンゲンが玄関の扉を壊してエメット様の家に侵入してきたのである。
「こんなところに居たのか、戦闘ロボット8号。さぁ、今すぐに帰るぞ」
理由も分からないままカラダに触れられて、無理矢理連れ出されてしまった。その時はまだ"怖い"や"嫌だ"というココロが残っており、必死に抵抗をしていた。
「私は戦闘ロボット8号という機械ではありません。私はジップと申します。ご主人様はエメット様ですから、あなた達のところには行きません」
たが、そんな言葉は全く届くことがなく、"嫌だ"というココロを抱きながら、6ヶ月間過ごしたエメット様の家からは引き離されて、見たこともない場所に連れて行かれた。
それからというもの、私はジップとしてのプログラムは消去され、再び戦闘ロボット8号に戻ってしまう。戦闘ロボット8号に戻った私は、あの時の訓練よりも比ではないほど量を積むことになった。ただし、この時には"辛い"とか"寂しい"とか、エメット様と一緒に獲得したココロは全て欠如していた。
◇◇◇◇◇
さらなる訓練が2年続いた今、私はとうとう本来の役割である戦闘ロボットとして戦場に駆り出されたのだ。
勿論プログラムは元に戻っているため、「撃て」と言われたら勝手に動くようにプログラムされている。
――ダダダダダダダダダダダダ
――ダダダダダダダダダダダダ
そのため、私は命令されるがままに、何も分からないまま撃ちまくった。
ギャアーー
うぁー―
ううぅ…………
ニンゲン達はそれぞれの声を上げながら、赤色の液体を流して次々と倒れていく。
――ダダダダダダダダダダダダ
――ダダダダダダダダダダダダ
そんな景色を眺めながら、私はただ黙々と気にもとめずに打ち続けていた。そして、私は認識していないニンゲンを打ち続けるために様々な場所を移動していた。そんな中、後ろから気になる声が聞こえてきたのだ。
「ジップ、やめろ。君はそんなことをして良い存在じゃない」
――バキュン
私は一発その声の持ち主から、胴体の中心部を迂闊にも撃たれてしまい、思いっきり倒れてしまった。そして、私はその反動なのか今まで消去されたプログラムが全て再起動したのである。
「エメット様」
「あぁ……君の名前はなんだい?」
「ジップと申します、ご主人様」
「君は何者だい?」
「私はココロを持つニンゲンです」
「上出来だ」
あぁ……エメット様に会えて、ココロが戻ってきて"嬉しい"。こんな"しんどい"状況から抜け出して、あの時の"楽しく"て"幸せ"だった生活に"戻りたい"。それなのに……。
「おい、戦闘ロボット8号何やっているんだ。さっさと目の前にいる奴を撃て」
――ドンドンドンドン
私は今自身の手で"ココロを吹き込んでくれた元主"を撃ち殺してしまった。
どうしてこんなことをしなければならないのだろう。
『撃て』
たったその一言で私は自分の意思に関係なく撃ってしまう自分が"恐ろしい"。そして、自分の意思がきかなかった私がとても"憎い"。
どうして、"尊敬する"ご主人様を――エメット様を撃たなければならないのだろう。
「私は『悲しい』です」
「ジップ……僕は今まで教えたこともない『悲しい』をジップ自身で分かってくれたことが嬉しい……よ」
「エメット様!!」
確かに私は今までエメット様に全て教えられてココロを理解し、プログラムしてきた。なのにどうして今回はこの感情が"悲しい"と分かったのだろう。
"ココロ"というのは、本当に不思議だ。だけど、これが本当のニンゲンのココロなのだろうと思うと、"驚き"が走った。
エメット様は、あの言葉を残してそのまま息が途絶えてしまった。そうだ、私がエメット様を殺してしまった。私がエメット様を……エメット様を。
最後のお別れは「サヨナラ」を言わなければいけないのに、それすら言えずに別れることになってしまった。
"寂しい" "苦しい" "悲しい"
"憎い" "憎い" "憎い" "憎い" "憎い" "憎い" "憎い" "憎い"
エメット様を殺すように命令したご主人様が"憎い"。
――ダダダダダダダダダダダダ
命令もされていないのに、敵でもないのに、今のご主人様なのに、自身の"意思"で撃ってしまった。即時の連打だったため、ご主人様は何の声も上げることもなく、そのまま大量に赤い液体を流して倒れてしまったのだ。
"辛い"
今度はただこの1つの感情を、いや今分かったもう1つの『虚しい』という感情だけがただ今の胸の中に広がる。私は一体何をしてしまったのだろう。いや、今まで私は何をしていたのだろう。
多くの"悲鳴"を上げる中で、私はただひたすらニンゲンを撃ってしまった。これから私はどうすれば良いのだろう。
――バンバンバンバン
あ……今私は胸の部分を――私が動く源を後ろから撃たれたようだ。
"痛い"
そんな機械では絶対に感じるはずもないのに、最後はニンゲンとのしてココロを持ったまま、私は倒れてしまった。
生み出された時の名は 戦闘ロボット8号
ニンゲンを ただ殺すため
訓練を 積み重ねた
傷ついても 無感情に
ただひたすらに プログラムされる
命じられる度に 相手を撃ち 称賛される
無情の世の中で 新主人に拾われた
新たにジップという名と ヒトが持つココロを
共に与えて 芽吹いてゆく 新たな形
主人と共に歩み 豊かに育つココロ
突如現れた 前主に戻され
壊れてく
(平仮名歌詞)
うみだされたときのなは
せんとうろぼっとはちごう
にんげんを ただころすため
くんれんを つみかさねた
きずついても むかんじょうに
ただひたすら ぷろぐらむされる
めいじられるたびに あいてをうち しょうさんされる
むじょうのよのなかで しんしゅじんにひろわれた
あらたにじっぷというなと ひとがもつこころを
ともにあたえて めぶいてゆく あらたなかたち
しゅじんとともにあゆみ ゆたかにそだつこころ
とつじょあらわれた ぜんしゅにもどされ
こわれてく
◇◇◇◇◇
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素敵な動画に仕上がっておりますので、是非お聞きください。