23.悲惨な龍傲天（りゅうごうてん）
冷清秋は言った。「私はあなたと婚約する必要がある。」
徐雪嬌はもともと冷清秋が嫌いだったが、今はさらに嫉妬心が爆発し、ふんっと鼻を鳴らした。
「本当に笑えるわ。程文兄はあなたを三年も追いかけて、あなたは三年間も清純な乙女のふりをしてた。ふふ、今程文兄が人気者になったら、あなたは逆に寄ってきたのね。」
冷清秋は冷たく徐雪嬌を見つめた。「私は覚えてるけど、あなたは以前は陸程文と一言も話したがらなかったわよね。この二日間はどうしたの？薬理の研究をやめて、他人と男を奪い合おうとしてるの？」
徐雪嬌はそれを聞いてやる気が出た。
冷清秋に近づき、少しもひるまなかった。「もし私が奪うつもりなら、他の人はただ見てるだけよ。」
冷清秋は笑った。「あなたの胸を少し休ませて、時間があったら脳みそを発達させなさい。」
「あなたもね、今日わざとこんなセクシーな格好をして、いつもこんなスタイルだなんて言わないで。あなたが何を考えてるか、私にはわからないと思ってるの？太ももを露出すれば程文兄を惹きつけられると思ってるの？」
冷清秋は顔を赤らめた。「私が何を着るか、どんなスタイルで行くか、誰にも説明する必要はないわ。」
「そうね。」徐雪嬌は言った。「私もあなたの説明を聞く気はないわ。私は脳みそを発達させてるの。頭を使えばあなたが何を考えてるかわかるわ！」
陸程文は急いで行った。「ああ、もういいよ、もういいよ、みんな少し黙って、私たちは早く行こう、警察の仕事を邪魔しないように。」
外に出ると、太陽が燦々と照りつけていた。
門の前に高級車が並んでいた。
ベントレーが近づき、ドアが開いた。
陸程文は不思議に思っていたが、徐雪嬌は陸程文の腕を組んで言った。「行きましょう、程文兄、夢雲姉が車で待ってるわ。」
冷清秋は顔色が真っ青になり、思わず拳を握りしめ、指の先が白くなるほど強く握った。
彼女はただ陸程文を見つめ、陸程文が自分と行くと言い、彼女たちに自分で帰らせてほしいと強く願っていた。
しかし、陸程文は彼女を失望させた。
「じゃあ、清秋、帰るときは気をつけてね。改めて感謝します。」そう言って彼女に礼儀正しく微笑んだ。
冷清秋は陸程文を見つめ、心に一陣の切なさを感じた。
もし以前なら、この時の陸程文は全世界を捨てて、自分についてきただろう。
しかし、今の陸程文はもう以前の彼ではない。
彼の状態は完全に変わり、まるで別人のようだ。
自分に対してとても礼儀正しい。
もう自分にまとわりつかず、甘い言葉を聞かせず、自分の指示に100％従わず、もう自分を彼の太陽のように見なさず、自分の周りを回り、疲れを知らず、不平も言わない……
彼の目も澄んでいて、明るく、同時に強く、落ち着いている。
以前の狡猾さ、世俗さ、軽薄さは消え去った。
今の彼は、考えがはっきりしていて、物事に筋道があり、自分が何をすべきかを完全に理解している。
冷清秋は切ない気持ちで気づいた。陸程文はもう自分に何でも従わず、もう自分の周りを回って気にかけず、もう朝晩の挨拶もせず、毎日プレゼントを贈ることもない……
以前は当然のように享受していた特別待遇、そして非常にうんざりしていた一方的な愛慕と追求は、もうない。
しかし、なぜか自分は突然彼に依存しているように感じた。
自分の心に突然大きな空虚と悲しみが湧き上がった。
どうして？
あなたはずっと私が好きだったんじゃないの？私のために何でもするって言ってたんじゃないの？
今日はどうして公の場で私を辱めるの？
以前の三年間は何だったの？私のことが一晩でそんなに重要じゃなくなったの？
冷清秋は強情にそこに立ち、動かず、ただ陸程文を見つめていた。
陸程文は彼女の複雑な視線に少し怖くなった。
頭をかき、笑顔を作った。
「じゃあ、まず家に帰って、私は夢雲の状態を見て、後で君を訪ねるよ、いい？」
冷清秋はようやく深く息を吸い込み、少し口を尖らせ、自分の面子が幾分取り戻せたと感じた。
「あなたも急がないで、まず休んで、この一晩はきっとよく眠れなかったでしょう。まず十分に休んで、起きたら電話して。」
陸程文は驚いた。
俺は以前の三年間、あなた冷清秋はこんな態度じゃなかったよ！
今日はどうしたんだ、俺のことを気にかけて、まず休めって言うなんて。
太陽が西から出たのか？
陸程文は半開きの口で答えられず、ただぎこちなくうなずいた。「ああ、わ、わかった。」
そして冷清秋はにっこり笑った。「電話待ってるわ。」
声は以前の冷たさ、冷たさを変え、むしろ幾分の温かさ、幾分の優しさ、幾分の期待、そして幾分の去りがたい名残を感じさせた……
そばの徐雪嬌は必死に白目を向き、全世界に自分がもうすぐ吐きそうだと伝えたかった。
冷清秋は彼女を白い目で見て、自分の車の前に歩いて行った。
韓月がドアを開け、冷清秋は振り返り、陸程文に微笑んでから車に乗った。
陸程文はその場に立ち、直接震えた。
【この女はどうしたんだ？どうして突然……怖いな！】
【俺のことが好きになったのか？それでもいいの？】
【俺は何をした？彼女はどうして……突然性格が変わったんだ？】
徐雪嬌はそばで冷たく言った。「あなたはまだ彼女の尻を舐めに行くつもり？少し骨を持てないの？」
陸程文は急いで言った。「何言ってるんだ！行こう行こう。」
車の中に入ると、陳夢雲は陸程文を見て、すぐに泣き出し、陸程文の胸に飛び込み、泣き止まなかった。
陸程文はすぐに両手を頭の上に挙げ、自分は何もしていないと示し、眉をひそめ、この女に困惑した。
【全部めちゃくちゃだ。昨日はまだ俺が死ぬのを恨んでたのに、今日は……なんてことだ！】
【この女はどうして泣き止まないんだ？俺……慰めなきゃいけないのか？】
徐雪嬌はそばで笑った。「早く慰めてあげなさいよ。」
陸程文は軽く彼女の背中を叩いた。「大、大丈夫、もう終わったよ。」
「ごめんなさい。」
陳夢雲はようやく陸程文から離れた。
陸程文はほっとした。全世界で彼だけがわかっている。大ヒロインとこんなに親密になるのは、死ぬ道を猛スピードで走っているようなものだ。
陳夢雲は陸程文を見つめた。「程文兄、ごめんなさい、昨日は私が興奮しすぎた。」
「いや、悪いのは全部俺だ。」陸程文は言った。「俺は口が悪い、自分が面白いと思ってた言葉で君を傷つけるべきじゃなかった。これからは言葉に気をつける。」
陳夢雲は泣き笑いになった。「わかってるの？どんな女の子でもあなたが陰でそんなことを言ってるのを知ったら怒るわよ？でも雪嬌から聞いたけど、あなたは私を助けるために一晩中騒いで、警察に捕まって留置場で一晩過ごしたんでしょ？私も少し申し訳なく思ってる。」
陸程文はこの話の流れがちょっとおかしいと感じた。
俺にとってあまり安全じゃないな！
【待て、俺は何をしてるんだ？彼女たちとこんなに仲良くしてどうする？】
【どうして俺は彼女たちの車に乗ってるんだ？】
【今は人も見た、大丈夫、安心だ。】
【龍傲天、君も見ただろう、君の奥さんは俺がちゃんと面倒見てる、誰にも食べられてない、将来何かあっても俺を責めるなよ。】
陳夢雲は不思議に思った。
龍傲天って誰？自分は彼と全然知り合いじゃないのに、どうして彼の奥さんになったの？
「程文兄、実は……私には彼氏がいないの。」
「ああ、知ってる。」
「本当よ、ずっといないの。」
「うんうん、わかった。」
陸程文は言った。「よし、君の体に問題がないなら、俺も心配しない。君たちはやりたいことをやって、俺も家に帰るよ。」
「あれ、あなた……もう行っちゃうの？」
「行く行く、俺には用事がある、またね。」
陸程文は車を降りて去った。
陳夢雲は少しぼんやりしていた。昨夜から今日まで、たくさんのことが起こり、夢のようだった。
陸程文が再び自分の人生に現れ、主役を演じ、彼女の心に再び波紋を広げた。
子供の頃のことが次々と目の前に浮かび、天真爛漫で、自分とドジョウを捕まえ、泥の穴を掘り、かくれんぼをし、お菓子を分け合った陸程文が心の中で再び蘇った。
自分のために他の男の子と喧嘩し、お菓子があると真っ先に自分を見つけて分け合い、中学になってからは恥ずかしがって自分を避け、自分に追いかけられて慌てふためいた陸程文は、今や本当の傲骨の男に成長していた。
みんなもう子供じゃない、愛し、憎み、甘く、そして悲しみ……
ぐるぐる回って、やっぱりあなたなの？それもいいかも。
徐雪嬌は陳夢雲を見つめた。「夢雲姉、また彼に心を動かされたんじゃないでしょうね？」
「え？そんなことないわ。」陳夢雲は急いで言った。「私は仕事がたくさんあるの、会社に戻らなきゃ。」
「ああ。本当にない？」
「ないわ、そんなわけない。」
「うん、それならいい。」
……
龍傲天は何かおかしいと感じた。
彼はトイレに座り、腹がひどく痛んでいた。
昨日の朝から今日の朝まで、彼はほとんどトイレと一緒に過ごしていた。
俺は何も食べてないのに、どうして突然ラーメン（歌『辣妹子』のパロディ）を引きずり出したんだ？
よく言うだろう、いい男は三回の下痢に耐えられない。
俺はいい男だが、この下痢は絶対に三回じゃない。
龍傲天は自問した。医術の才能は世界一だが、この24時間の下痢の悪夢にはまったく手がかりもなく、まったく方法もない。
鍼灸、温湿布、薬、内功……何も役に立たない。
トイレ！トイレだけだ！
トイレだけが俺の友達で、トイレだけがこの時俺と苦楽を共にし、離れない。
龍傲天はもう脱水症状になりそうだった。
天よ！俺にはまだやることがたくさんある、まだたくさんの女の子を口説かなきゃいけない、あなたは俺のような大英雄、世に並ぶもののない豪傑を、こんな姿でトイレで死なせようとしてるのか？
この時、トイレの外で、一人の美しい女殺し屋が片膝をついていた。
「若！出発の時間です。」
龍傲天は泣きたい気分だった。「ああ、俺はもうすぐ出発だ。」
「若、まだ下痢してるんですか？」
龍傲天は額に汗をかいた。「こんな時に堅苦しい言葉を使うな、用件を言え。」
「上様からの命令です。若は早く雪城の四大家族を統合しなさい。」
「心配ない！すべては俺の掌握中だ！」龍傲天は苦しそうに言った。「冷清秋の方は少し挫折したが、徐雪嬌の方も少し手ごわい。しかし今日、俺は逆転の一手を打つ、スケジュールを調整してくれ。」
「はい。」
「まず蒋詩涵の母の病気を治しに行く。彼女の母の病気はもう遅らせられない、これ以上遅らせたら、いつ問題が起きるかわからない。」
「はい。」
「そして今日は冷清秋と焦世恒が契約を結ぶ日だ。俺は彼の偽りの正体を暴き、冷清秋の企業を救わなきゃ！」
「了解！」
「夜、俺はあの胡樹輝の陰謀を阻止し、陳夢雲を救わなきゃ。」
「わかりました。」
「この三つのことをやり遂げれば、物事は再び正常な軌道に乗る。」
「若、すごい！携帯用トイレを持っていきましょうか？それともおむつ？」
龍傲天はトイレの扉を見上げた。「自分が面白いと思ってるのか？」
「若、お怒りなく、私はユーモアはわかりません、ただ論理に従って行動します、あなたは私をわかってますよね。」
龍傲天は白い目を向けた。「とにかく、陰でしっかり協力しろ。今日は俺の……一日だ……」
「若？今日は何ですか？聞こえませんでした。」
「待て……待て……」
「今日はあなたの下痢の日ですか？」
「出て行け。」
