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イエス・エコ・スリム・ソサエティ

作者: 雉白書屋

 人類の目覚ましい発展は輝かしく見える一方、その影では深刻な問題が積み重なっていた。気候変動の激化、爆発的な人口増加、資源の枯渇。これらすべてが現実の脅威として目の前に迫っている。地球環境問題は山積みだった。

 科学者たちは解決策を模索し続けたが、明確な答えは見つからない。そんな中、ある国で革新的なアイデアが浮上した。


「デブを消すことこそが、最も効果的なエコ対策だ」


 肥満体の人々、すなわち『デブ』は膨大な資源を消費している。食料、水、エネルギー、医療費、さらには衣料品。一人で二人分のスペースを取るその存在は、人口過剰の一形態である。

 近年、世界中でエコ意識が急速に高まっている。一人ひとりのエコ活動が地球の未来を左右するという理念のもと、ビニール袋やペットボトルは『悪』とされ、人々は必死にリサイクルに励み、食事の残り物をコンポストに入れ、節電という言葉を神の信託のように振りかざしていた。それにもかかわらず、肥満問題に目を向けないのは矛盾ではないか。

 デブを減らせば、地球は救われる。彼の高らかな主張により、政府は『デブ撲滅キャンペーン』を展開した。

 肥満税の導入、高カロリー食品への重税、国民全員への体重管理の義務化。

 さらに、各地に設置された『エコ・スリム・センター』では、肥満者に対する強制的な再教育プログラムが実施された。運動と食事制限が徹底され、改善が見られない者には最終処置が施された。

 この政策の成果は目覚ましかった。国内の肥満者は次々と姿を消し、医療費は劇的に削減。エネルギー消費も抑えられ、国全体のエコフットプリントが改善された。その成功は世界中で称賛され、各国はデブ撲滅キャンペーンに注目した。

 提案者である彼は国際首脳会議に招かれ、各国の首脳とメディアの前で堂々と語った。


「私は前々からエコの本質について考えてきました。そしてある日、真実に気づいたのです。ストローを紙に変えるような表面的な努力では不十分。デブこそが最大のエコの敵なのだと。彼らはその巨体を維持するために膨大な資源を無駄に消費しているのです。もしデブがいなければ、どれだけの資源が無駄にならなくて済むのでしょうか? 地球を救うためには、デブを消さねばならないのです。これこそが究極のエコ活動なのです!」


 言葉は少々強かったものの、ジョークとして受け取られ、会場は和やかな空気に包まれた。

 彼はその反応を、自身のアイデアと自国が世界に認められた証だと思い、満足げに帰国した。


 しかし、空港に降り立った彼を待っていたのは、その痩せ細った体いっぱいに憎悪を宿した国民たちだった。

 彼の不在中にクーデターが勃発していたのだ。

 彼は部下に足止めを命じ、逃げようとしたが不可能だった。彼は濁流のように押し寄せた群衆に捕まり、あっという間に首都広場に設置された絞首台へと引きずり出された。

 縄が首にかけられる瞬間、彼は涙を流し嗚咽した。


 ああ、なんということだ。国民に愛されていたはずの私が、なぜこのような結末を迎えるのだ。すべてエコ政策のせいだろうか。そうだ。国民は、人間という生き物はエコに対し本能的な嫌悪感を抱いていたのだ…………ん?


 ――消せ。


 風に揺れる木々のように聞こえてくる群衆の声に、彼は耳を傾けた。


 ――デブを消せ……。

 ――デブを消せ……。

 ――デブを消せ……。


 あのキャンペーンは確かに国民に浸透していた。

 ただ、彼は自分がデブだとは思っていなかった。


 こうして、独裁者である彼は処刑され、この出来事は『スリム革命』として歴史に刻まれたのだった。

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