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金銀銅の華

作者: 月見里 桜

オート国の三人の姫が辿る道とは?

第一章『金の華』

 大陸を南に下り、東に十キロ進んだところにオート国がある。そこには一人の王と三人の姫が治めていた。三人の姫はそれぞれ金髪、銀髪、銅色の髪をしている。そんなある日、金華という一番上の姫が結婚適齢期になり、婿を貰う事になった。金華の婿になりたいと大勢の王子、騎士、果てには金持ちの商人にまで城の門を叩いた。

 だが、金華は誰が求婚しても首を縦に振らなかった。それは高潔で孤高の存在、金華を神聖な者にしていた。それで王は言う。

 「金華姫は女神のように清らかだ。誰が金華姫の心を射止めれよう」

 金華は鏡に自分の姿を映す事を恐れた。一度、幼い頃に、鏡に映った自分を指さしt化け物がいると叫んだ事がある。

 「金華、どうか婿を貰ってくれ」

 金華は父王から視線を反らす。

 「本当の私を見抜く者でなければ婿にはしません」

 父王は肩を落とし何も言わなくなった。ある日、城に貧しい身なりの男が訪ねてきた。男はキャンバスと絵具を持ち、国々を巡り絵を描いていると言った。

 「金華姫の絵を描かせてください」

 城の者は男を城の外に放り出した。

 「お前のような下賤な者が美しい金華姫の絵を描けるわけないだろう」

 城の者は絵描きを嘲笑い、その体を杖で叩いた。

 「何をする?私はただ、金華姫の絵を描かせ欲しいと頼んだだけではないか!」

 城の者はため息をつき、絵描きを素手で殴る。そこに王がやって来る。

 「何事だ?」

 王の登場で城の者は驚き、頭を下げる。絵描きは怒り王に訴えた。

 「王よ、私はただ金華姫の絵を描かせて欲しいと頼んだだけなのに、この者達は私を杖で殴り足蹴にしたのです」

 王は眉を寄せて城の者を見渡す。マントをはためかせて絵描きの手を握り、立たせる。王は悩んでいた。各国の王子や騎士の求婚者を拒む金華。どうすれば金華が首を縦にふるのか、王は思案していた。もしかしたら、この絵描きに絵を描かせたりすると、自分の美しさに気付くかもしれないと父王は思い、絵を描かせる事にした。

 「この者に金華の絵を描かせる」

 城の一室に絵描きと金華だけにして、数時間後。金華の様子が不自然だった。唖然とし、目を大きく見開いていた。父王は描き上がった絵を見て憤怒した。その絵は、蛇の髪を持ち、耳まで口が裂け、目玉は飛び出し、鋭く尖った歯を持つ女の化け物が描かれいた、

 「何という絵だ!一国の姫を何という姿で描いたのだ!」

 金華は父王を制する。

 「父上。この者は確かな目を持っています。私の本性に気付いたのです」

 絵描きはしれっと言う。

 「私の目には金華姫はこう映るのです」

 父王は絵描きに詰め寄ろとするが、間に金華が立つ。

 「父上、私はこの者に嫁ぎます。本当の私を見抜いたのですから」

 父王は額に青筋を浮かべる。

 「このような貧乏な者に一国の王の姫であるお前が嫁ぐとは、一体どういう了見だ!」

 父王は怒りに満ちた声を響かせながら、絵描きに近づき、描いた絵を掴み取り、半分に裂いてしまう。その様子を金華は冷めた目で見つめて、部屋全体に響く声で宣言する。

 「王よ、あなたは一人の姫を失うのです。私は皆が思うような美しい者ではありません。この者以外は私の外見に惹かれて求婚してきた。だが、この者は私の内面を見て本当の私を描いた。どちらと結婚した方が幸せになれるかお分かりでしょう」

 絵描きは半分に裂かれた絵を拾い上げて。

 「私はもう帰ります」

 「お待ちを。私も一緒に行きます」

 父王は絵描きの後を追う金華を睨む。

 「出て行け。お前は私の娘ではない。持参金も持たせん。荷物は置いてゆけ。城の者よ、この絵描きときちがいの娘を城から追い出せ!」 

 「はっ!」

 二人は杖で叩かれ、殴られ、蔑まれながら城を出た。絵描きはハランと名乗り、二人は国の一番貧しい町でひっそりと暮らした。それから数か月がたったが、金華は不思議そうに言う。

 「ハラン、あなたは不思議な方ですね。王の前であのような絵を描けば怒りを買う事は分かっていたでしょう。どうして、あのような絵を描いたのですか?」

 ハランは子をあやし、椅子に座る金華の絵を描きながらさらりと言う。

 「私の目には金華がそう映っただけです」

 「ハラン、あなたは正直ですね」

 この額にキスをして愛し気に微笑む金華。その姿をキャンバスに描き頬を染める。

 「私の妻はとても美しい」

 「えっ?」

 「見てごらん」

 キャンバスを金華に手渡す。子をベットに置きキャンバスを受け取る。そこには金の髪に青い目をした女神が描かれていた。

 「これが今、私に目に映る君だよ」

 金華は両目から涙を流してキャンバスを抱きしめた。

第二章『銀の華』

 三人の姫の内、長女の金華が貧しい絵描きハランに嫁ぎ二年が過ぎた。十代半ばだった銀華、次女は十八歳になり嫁入り先を探していた。だが、父王がため息をつき無念な気持ちになり嘆いていた。

 「銀華、お前の嫁入り先だが」

 銀華は銀の髪に銀の目を持つ。とても凛々しい女性だった。銀華は言う。

 「私より強く、槍の勝負で私に勝った者にしか嫁がない」

 毎日、銀華は甲冑に身を包み、馬に跨り、槍を振る。人型にくり抜いた木製の板に槍の先端を突きつけて、左胸を抉る。ばきっと音がしてその部分がくり抜かれる。

 甲冑を脱ぎ、汗を拭く。銀華に近づくメイド。二十代前半の女性で足取りが軽く踊るように歩く。

 「姫、水をどうぞ」

 「カラン、ありがとう」

 「いえ」

 カランはそっと銀華の後に続き、城の中に入る。メイド達が黄色い声をあげる。

 「銀華姫」

 メイド達に向けて手を振る。カランは嫉妬に顔を赤く染めて呟く。

 「私の為だけに…」

 ぽつりと背後で聞こえた呟きに銀華は振り返る。カランが甲冑を持ち上げる。

 「お前も私を望むなら、勝負に出たらいい。私に勝てば、私を妻にできるぞ」

 カランは言う。

 「とんでもありません。私は一メイドです。それに女ですよ」

 「そうだな。だが」

 銀華は悲しそうに外を眺める。

 「私は女でもかまわない。私より、強い者に嫁ぐ事が出来れば、」

 そんな事を言っても銀華に勝る王子も騎士も現れない。カランは俯きながら銀華の後に続いた。

 そんなある日、城に銀の鎧を身に纏い、白い馬に跨った騎士が銀華を妻にしたいとやってきた。父王は顔を見せるように言ったが最後は「銀華に任せる」と言い、玉座に深く腰掛けた。銀華も銀の甲冑を身に着けて白い馬に跨り槍に先端を騎士に向ける。騎士も剣を抜き、馬を走らせる。両者の馬がいななき、相手の馬の頭に自分の頭をぶつける。馬上では銀華が騎士に向けて槍を振るう。だが、騎士の剣に弾かれる。隙が無い。銀華は焦った。あせるだと?心の中で苦笑する。

 その間に隙が生まれてしまう。決着は一瞬でついた。気が付くと銀華は地面に横たわっていた。馬上から騎士が手を伸ばし、銀華を自分の前に座らせる。

 「銀華姫、私の妻になってくれますね?」

 「約束だからな」

 そのまま、騎士は城から馬を走らせた。父王は玉座から立ち上がり、城の者に命じた。

 「急いで城の門を閉めよ」

 だが、時すでに遅し。騎士と銀華を乗せた馬は城の外に出ていた。

 数時間後、馬を走らせて城から遠い村に向かっていた。

 「ここが私の生まれ育った村です」

 簡素な村だ。一軒のあばら屋に着く。馬から降り、家の中に入る。一つの箪笥と一対の机と椅子。そして、簡素なベッド。

 騎士が被り物を脱ぐ。銀華は冷静に騎士の顔を見つめた。現れた顔は。

 「カラン」

 「姫!」

 騎士は銀華のメイドのカランだった。

 「姫、お許しを。私は女にも関らず、あなたに惹かれたのです」

 カランは膝を折り、涙目になって許しを乞うている。

 「おお。私の光、永遠の不動の華よ」

 カランは両手を握り、銀華を涙を流しながら真摯に見つめる。

 「私は銀華姫、あなたを求めるばかりに求婚者に混じり試合に出たのです」

 涙を流すカランの両頬を手で挟み、銀華は深く、深く口づける。息が出来ない激しいキス。漸く唇が離れたのは一分後だった。静かに微笑む銀華。

 「あなたは私に勝った。約束は約束だ。私はカラン、あなたの物だ」

 「姫」

 カランと銀華は互いを見つめ合い、キスを重ねて、体を重ねた。カランは銀華を知った。

 勿論、女同士だから子供は出来なかった。だから、捨て子を拾い、アイカと名付けて本当の子供のように可愛がった。アイカは銀華とカランに似て、日々、馬の世話をして、乗りまくっていた。

 村では変な夫婦と思われたが、義理堅い二人の様子を見て、次第に馴染んでいった。銀華もカランも日々、鍛錬を行った。槍と剣。互いに突きあう。それが二人の最大の愛の証明だった。

 小さかったアイカは六歳になり、両親が二人とも女である事に疑問を持つようになったが徐々に気にしなくなった。そんな愛の形もあると。

 ある日、噂を聞いた。銀華の父である王が死の床に就いていると。眉を寄せて銀華はカラン衣抱き着いた。

 「ああ、カラン。どうしたらいい?」

 ぎゅっと抱きしめ返す。

 「会いに行きましょう。父の最後に立ち会うのです」

 「分かった。そうしよう」

 荷物をまとめて、馬に跨り、父王のもとに向かった。


第三章『銅の華』

 オート国の三姉妹は美しい長女、武道に秀でた次女、目立たない三女だ。長女、金華は貧乏な絵描き、次女銀華は謎の騎士。三女である銅華は常々父王に言われていた。

 「お前は二人の姉と違い、立派な王子に嫁ぐのだぞ」

 「はい、お父様」

 銅華はドレスの裾を両手で掴み、持ち上げて返事をする。銅色の髪に濁った銅色の目。二人の姉と違い銅華は自分の事を美しくないと考えていた。でも、目は大きく、鼻も高く、口は小さく、美しいというより、とても可愛らしい容姿をしていた。

 ドレスも地味な色の物ばかり着ていて、目を隠すように前髪を伸ばしていた。

 「私は美しくないし、可愛くもないから王子となんて結婚出来ないわ」

 銅華は十三歳、結婚適齢期までまだ数年あった。姫なのに、いつもびくびくしている銅華は貴族の子供達からよく虐められていた。鈍色の鈍い子と呼ばれて、バカいされていた。

 「わぁ、ぐす銅華が来たぞ」

 「本当だぁ!ボールなんて持ってる。取っちゃえ」

 銅華はすてんと転び、母から貰った大切なボールが貴族の男の子達の足元まで転がってしまう。貴族に子達はボールを拾い上げて、池に投げてしまう。

 「ぐず銅華。取りに行けるものなら取りにいけ」

 「ばーか」

 貴族の子達は城に戻ってしまう。銅華は池の傍らに座り込み、涙ぐんで泣いてしまう。そこに。

 「どうしたの?お嬢さん」

 池に中から薄汚れた醜い豚が出てくる。びくしろ銅華は身を竦める。

 「ああ。怯えないで。どうして泣いているの?」

 「池にボールがはいってしまったの」

 「私が取って来よう」

 豚は泳いでドールを取って来て陸に上がり銅華に渡す。

 「はい、どうぞ」

 銅華はにっこり笑う。

 「ありがとう、豚さん」

 豚は丸々と肥えていて、何故か薄汚れた冠を被っている。豚は言った。

 「お嬢さん、ボールを取ってきてあげたお礼に私の願いを一つ叶えてくだいませんか?」

 一瞬、驚き目を大きく見開いたが銅華は微笑み、豚の手を握った。

 「いいですよ。私は愚図ですけど、出来る事があるならお手伝いします」

 豚は前足を折り、頭を下げる。

 「私が毎晩、姫の寝室に訪れる事を許可して欲しいのです」

 「えっ?寝室に?」

 父王から言われていた事だが、寝室に招いていいのは夫になる者だけだと。暫く、悩み、小首を傾げる。その動作が小鳥の様で可愛らしくて豚はじっと見つめて、頬にキスをした。

 「何をするの?」

 「失礼。お姫様。貴女がとても可愛らしかったので、つい」

 赤く染まる顔を背ける。

 「いいですよ」

 「誰にも言わず、秘密にできますか?」

 「はい、出来ます」

 「では、今夜また」

 その日から、毎晩、何処ともなく豚がやって来てベットに入り、二人で眠る事が一年続いた。日に日に豚は綺麗になり始めて、ある日、銅華を背に載せて自分の国に向かった。始め、銅華は戸惑ったが、豚に愛着を持っていた為、素直に従った。

 「この城では声を出さないように」

 こくりと頷く。それから、毎日誰もいないのに料理が用意されており、掃除もされていた。不思議に思いつつ、銅華は気にすないようにした。その城での生活が一年続いた。 

 ある日、大理石のテーブルに白いテーブルクロスが引かれた。

 「どうか、私と姫、この国の為に私を食べて下さい」

 嫌々と首を振る。でも、豚は自分から竈の中に飛び込み、丸焼きになった。

 「くっ」

 約束だから声を上げて泣きたいのにぐっと堪えて、焼かれた豚を食べていく。最後の心臓を食べると、バチン、ギャーッと叫び声が城中を駆け巡った。豚が乗っていた皿に器用に乗り、一人の青年が跪いた。

 「銅華、ありがとう。私は悪い魔女に醜い豚に姿を変えられていたのです。でも、あなたの真摯な愛のお陰で魔女は死に、私はもとの姿に戻れました。本当にありがとう。銅華姫、わたしの妻になってください」

 頭を垂れる王子。豚に愛着を持ち始めていたので、迷わず返事をした。

 「ええ。喜んで」

 結婚して一年で赤ちゃんが生まれた。夫はギャランと言い、親切で優しい人だった。 

 そんなある日、銅華の父が危篤状態だと知らせがやって来た。今にも事切れてしまうだの、三姉妹が親不孝をして様態を悪くしただの、色々な噂が流れてきた。

 赤子を寝かしつけて、銅華は沈んでいた。

 「ギャラン、どうしよう?」

 銅華にキスをしてギャランは強く抱き締める。

 「一度、里帰りしよう」

 「そうしましょう」

 城から馬車が出発した。中には赤子と銅華とギャランの三人が乗っていた。銅華の故郷、隣の国、オート国に向けて馬車を走らせた。


 第四章『父王』

 オート国の王は三人の娘に去られて、精神的に落ち込み、病の床に伏していた。長女金華は貧乏な絵描きに嫁ぎ勘当されて、次女銀華は謎の騎士に攫われて、三女銅華は行方不明になっていた。

 「金華、銀華、銅華」

 王はそっと呟く。でも、勿論返事はない。目の前に美しい金の髪の長女の姿が浮かび上がり、次に勇ましい次女、銅色の前髪で目を隠した三女の姿が浮かぶ。

 銅華が一番弱弱しく、引っ込み事案だったが、一番優しく気立てが良かった。王は右目から涙を流し、左目から血を流した。そんな時に。

 「王よ!姫様がご帰還されました」

 王は上半身を起こし、飛び起きた。

 「何?早く連れて来い」

 「はっ」

 三人の姫が入って来る。

 「おお、姫達よ」

 王は娘達のもとに走り寄り、抱きしめる。

 「父上」

 「父よ」

 「お父様」

 娘達も抱きしめ返した。王は言う。

 「お前達を失い、私は死を待つしかない身になった。だが、死んでいた娘達が蘇り、こうして私の目の前にいる。ぜひ、お前達の夫に会わせておくれ」

 「はい」

 三人の娘はカラン、ハラン、ギャランと子供を連れて来て、隣に立つ。まず、金華がカランとを紹介する。

 「君は絵描きだったね?」

 「はい。これが今の金華の絵です」

 聖母子の絵のようで、王はじっと見つめた。

 「君を認めよう」

 次に銀華とカランと養子の子が紹介された。

「君はメイド頭のカランだね?」

 俯くカラン。王が手を伸ばし、カランの手を握る。

 「銀華を頼むよ。娘よ」

 それは二人を認めたという事。三番目に銅華、ギャラン、その子が王の目の前に立った。

 「君は隣国の王子だね?」

 「はい、王よ。悪い魔女に醜い豚に姿を変えらていましたが、銅華によって助かりました」

 深く頷く。

 「そうか、苦労したな。君を認めよう。ごほっ、こほ」

 血を吐き咳き込む王。咄嗟の事で動けない長女と次女を除いて、銅華とギャランは両脇を支える。

 「どうしたのですか?」

 「私を見よ。口からは血を吐き、目もまた見えず、ベッドに寝たっきり」

 「そんな事…」

 皆が一斉に振り返る。自分が想像する以上の大きな声が出て。銅華は驚いた。

 「私はお父様は立派な王様で、私の誇りだから」

 銅華は王に抱き着き泣きじゃくる。

 「銅華、私は幸せだぞ。婿たちよ、お前達に一つの試練を課す。それは、この国には代々伝わっていてる冠がある。真の王になれる者にしか冠は重たくて持ち上がられない。だが、真の王になれる者だけは軽々と持ち上がり冠を被る事が出来るのだ」

 三人の娘達に支えられて、王は地下に続く階段を下りていく。重厚な雰囲気を醸し出す、

黒い門。所々が錆びている。王が扉に手を伸ばした。地下にはたくさんの光は差し込まず、鉄柵の隙間から僅かな隙間から入って来るだけだ。

 真ん中にガラス製に柱が置いてあり、中に一つのダイヤモンドが埋められた冠がある。王はふらつきながら手を伸ばし、ガラスから取り出す。

 「まずは金華の夫、カランからだ」

 少し持ってすぐ重さに耐えられずに、落としてしまう。

 「私は王の器ではありません」

 カランは手を退ける。次にハランが冠に手をかけるがびくともしない。三番目にはギャラン、だが、ギャランは首を横に振り、銅華の背中を押す。

 「えっ?私?」

 戸惑うが。

 「君が持つんだ」

 「でも、」

 王が真剣な眼差しで言う。

「銅華よ」

 「はい、お父様」

 そう言って冠を軽々と持ち上げる。

 「おお。まさか、お前が女王だとは」

 姉二人と夫二人は膝を折る。

 「女王陛下、万歳」

 ギャランは冠を銅華の頭に載せる。そして、キスをして、嬉しそうに微笑んだ。王は銅華の手を握りしめて、何度も何度も頷く。まるで、それが正しい事であるかのように。それを納得させるように。

 「銅華、おめでとう」

 「本当にあなたが女王になるなんて」

二人の姉も互いの手を握りあって喜ぶ」

 「女王陛下、お祝いにあなた様の絵を描かせていただきたい。金華の夫のカランです」

 「同じく、銀華の夫のハランです。銅華様、昔、城お会いしましたね」

 二人の姉の夫達は銅華に挨拶する。

 「ありがとうございます」

 慌てて頭を下げる銅華。

 それから数か月後。王は安心したように死んだ。二つの国の女王として即位銅華は宝杖を天に掲げて宣言した。

「この私が生まれた国とギャランの国は今日から姉弟親友、親子になるのです」

 凛として美しい女王だった。二人の姉の夫達も貴族となり、女王を支えた。銅華の統治は神治統治と呼ばれて、神のような統治と称えられた。


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