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雨よ降れ、吹き荒れよ嵐

少しさぼり過ぎました・・・。反省・・・。

帝国統一歴709年1月某日 ロタリンギア首都フロランス第13区画 第22大隊宿舎


ミスティが珍しく張り切って、ひと際興奮して騒いでいる。

「はいはーい!ようやく私の出番が回って来たわ!ひょっとして、このまま帰るんじゃないかとヒヤヒヤしてたけど・・・皆と明日のおやつを賭けてるので、私だけボウズって訳にはいかないんだから!」

ロレーヌ宮殿前広場での、ベレンやギル&ルチアの"おもちゃ"の活躍を見て、一段と対抗心を燃やしていたミスティであった。

「じゃあ・・・″お客さんたち″が来る前に、じゃじゃーん!"ミスティ迷宮ラビリンス"の本邦せいけい初公開と行くわね!さあベレン、ギルとルチア・・・見て驚くがいいわ!そんじゃ早速・・・グレーテ、お願い!」

「・・・ハイハイ。じゃあ、あなたの言う仕様で"コイツ"を動かすわね」

稼働をお願いされたグレーテが、苦笑しつつ・・・何やらこれまたおかしな装置を暫く調整した後にスイッチを入れた。

兵站担当のグレーテは、実のところ相当コアな"ギミック"オタクであり、エルフ4人組の奇想天外な発想の"おもちゃ"を、この世界で動くよう実用化した陰の功労者であった。

ここで言う″お客さん″とは、言うまでもなく・・・第22大隊士官の拘束に向った軍令本部直属の保安局選抜2個中隊のことである。


保安局選抜部隊指揮官のペロー中佐は、第22大隊宿舎に到着する少し前に部下たちに対し最後の注意を行っている。

「・・・如何に我らは保安局員とは言え、この全員で第22大隊宿舎に押しかけたら、流石にモンタギュー中佐たちも不自然に思い、下手したら彼らとの戦闘にも発展しかねない。我らは別の入り口からそれぞれ分散して入り、大隊宿舎の士官室前で集合した後、彼らを一気に拘束することとする。・・・良いな?」

そうして保安局選抜2個中隊は、いつもの通り2個小隊ずつの5組に分かれて、第22大隊宿舎の五つの入り口から中に入ったのであるが・・・・その入り口は、その時既にミスティによる"迷宮の入り口″へと変えられていたのだった。

1組目のアルファ隊がドアを開けた時、そこには薄っすらと霧がかかった草原が、四方八方へとどこまでも続く広大な新緑と沼地広がる大地があった・・・。

アルファ隊の全員が驚き茫然と立ち竦んでいるうちに、後ろのドアが音もなく締まり・・・そして何処となく消え失せた。

アルファ隊の隊長オニール大尉が呟く・・・。

「何だ・・・これは?どうして・・・この場所に″こんなもの″があるのだ?」

オニールは、当然の如く部隊指揮官のペロー中佐へ連絡して指示を仰ごうとするのだが、・・・これまたその連絡がつながる事は決してない。

その後の彼らは・・・何一つ辺りに人工物のない広大な幻影の草原の中を、空からは猛禽類、地上からは蜂とアブの連続攻撃を絶えず受けながら、・・・"ミスティ迷宮ラビリンス"の効果が消え失せるまで、あてもなく延々と彷徨い続けるのだった・・・。

そしてまた・・・別の入り口から入ったブラボー隊に待っていたのは、常時高熱の砂嵐が激しく吹き荒れ、ただの一滴の水もない砂地は毒蛇とサソリだらけと言う"蜃気楼ミスティの砂漠"が待っていた。

当然用意するはずもない解毒剤を持たずに、のこのことこれらの毒地に足を踏み込めばどうなるのか?

彼らはその身で生まれて初めての経験をするのだ・・・。

更に続くチャーリー隊には、今度は狡猾な猛獣の襲撃と性悪なブービートラップが絶え間なく襲い来る"鬱蒼ミスティとしたジャングル"が手ぐすねを引いて待ち構え・・・。

またデルタ隊は、酸素が希薄で通常の行動も困難で峻険な、″濃霧ミスティ垂れ込む山岳地帯"で、何度も崖崩れと落石に見舞われて・・・。

そして最後に残った・・・ペロー中佐が直卒するエコー隊に待ち受けていたのは・・・"ブリザード舞う極寒の氷原"であった。

エコー隊は、吹雪にまかれては何度も全滅を繰り返しては、その都度どこからかアドレナリン剤の強制投与を受け、辛うじて意識を取り戻しては再び同じ死の彷徨を繰り返すと言う・・・この世にあるべくもない″シンの地獄″を散々味わったのだと言う。

最終的には・・・彼らも他の隊と同じく"霧の迷宮"効果が消えたのちに、ようやくその全員がこの世界に生還を果たしたのではあったのだが・・・。

後から伝え聞いたところでは・・・ペロー中佐以下保安局全員は髪が全て真っ白となり・・・一気に老け込んだ廃人同然となってしまっていたらしかった。


仲間たちに″こことは別の時間が流れる″数々の迷宮ラビリンスと、″お客様″の放浪光景の披露を終えたミスティが、嬉々として全員に感想を聞いて回っている。

「ねえねえ!みんな!どれが・・・一番面白かった?・・・ほんとこの迷宮ラビリンスって、すごくない?・・・多分ベレンのおもちゃなんて目じゃないわね!」

しかしそこに、空かさず水を差すルチア・・・。

「そうね・・・これはこれで確かに面白いとも言えるけど。ただ・・・少しやり過ぎじゃない?」

そうルチアが評して、ギルとベレンも大きく頷いている。

「何でよー!これ作り上げるのに、ものすごーく苦労したんだから!結局・・・誰も死なないんだからいいじゃない!・・・ねえ、グレーテもそう思うわよね?イーリスはどう思う?・・・これくらいは"セーフ"よね!」

「「・・・」」

しかし振られたグレーテは、覗き見た光景のあまりの壮絶さに声もなく、今はもう目を明後日に向け他人の振りをしている・・・。

イーリスはと言えば・・・俯いて額に手をやり、この間絶え間なく襲い来る頭痛と戦っているので・・・とても返事をするどころではない。

ベレンがぼそりと呟く・・・。

「あそこにいたのが僕だったら・・・死んだ方がずっとマシって思うかも・・・。特に最後のヤツなんかね」

止めとばかり、ルチアが意地悪っぽく・・・ほくそ笑みながら、ミスティを自然ナチュラルディスる。

「・・・あなたの性格が迷宮ラビリンスに反映してると・・・これ見た人たちは皆思うかもね?そんなんじゃ到底・・・彼氏なんてできないわよー ケケケ」

「なんだと―!!!もういっぺん言ってみろー!」ついに爆発するミスティ・・・。

現実せいけい世界の深刻さとは遠くかけ離れ、何やら別の次元レベルで争っているらしい、お気楽なエルフ達の議論ケンカはその後も続くのであった・・・。



再び 首都フロランス 再びロレーヌ宮殿前広場


夕方の騒動が一旦収束し現在は空っぽの宮殿前広場では、少し前から細かい雨が降り始めていた。

その驟雨の中、広場に一般民衆を装いながら集まって来た偽装第51大隊の面々は、個々に突撃体制を整えながら指揮官の行動開始命令を待っている。

当然ながら、一般民衆であるはずの偽装第51大隊はアンドロイド兵を含まないクローン士官のみの総勢50名からなる部隊である。

彼らの周囲には、事前に近隣の市民居住地から強制徴用した一般民衆が100名近くが大声で囃し立てているが、彼らはただ広場で大声を上げるだけの役割で、宮殿への突入は第51大隊の士官のみで行われる。

全員がバトルスーツは身に着けない軽防御のクローン兵装であるが、この薄闇の雨の中では他の民間人との区別はつかなかった。

偽装第51大隊指揮官のソワソン中佐は、自身のすぐそばに潜む副官に確認する。

「モンタギュー達第22大隊の所在は判明したか?」

副官は小声で返答する。

「いいえ。未だ判明していません。しかし宮殿敷地内周辺を外部から観察した隊員からは、宮殿正門と前庭の警備状況は普段通りで変化なく、宮中伯親衛隊のみが宮殿内の警備についている模様と。・・・軍令本部の考察通り、彼ら第22大隊は既に大隊宿舎に撤収したものと思われます」

しかし経験豊富なソワソンは、尚も慎重な姿勢を崩さない。

「我々は軽装備のクローン兵だけの部隊だ。仮にモンタギューの大隊が宮殿の親衛隊と合流していたならば、我々の宮殿制圧は到底覚束なくなる・・・」

そう躊躇するソワソンの許に、突然軍令本部からの緊急通信が入り、彼は暫く軍令本部と何やら話をしている。

「・・・了解した。直ちに突入作戦を開始する」

そして、大隊士官全員に対する極秘通信回路を開き作戦開始を指示した。

「先ほど第22大隊士官全員が、大隊宿舎にて保安局部隊により拘束されたとの連絡が軍令本部からあった。・・・これより予定の作戦行動を開始する。″サクラ″を宮殿正門に近づけよ。正門付近までに達したら、我々は正門及び前庭の警備兵を排除、その後一気に宮殿内へと突入する」


ほぼ同じ頃、保安局部隊に拘束されたと伝えられていた、第22大隊のモンタギュー中佐ことテオが、部下のホーク・アイ部隊に対して指示を出していた。

「・・・もちろん我らの最大の任務は宮中伯家一族の保護、すなわち彼らに危害を加えようとする者たちの排除であるが、本任務については一つだけ制約がある。・・・決して、敵を直接殺してはならない!我らはここでは部外者で、本来いないはずの存在なのだ。・・・従って敵は武器を使用するだろうが、我々は痕跡を残す可能性のある武器は一切使用出来ない。・・・密かに敵に知られずしてその無力化を図るのみだ。なに難しいことは何一つない。いつもの通りにやれ。・・・では、展開!」


・・・はて?彼らは既に保安局部隊に拘束されたのでは?・・・もちろんそれは偽情報フェイクである。

保安局の皆さんは本部との通信を遮断され、ミスティの迷宮内にて冒険中?であったので、ベリルが代わってベルサイユの軍令本部にフェイクニュースをお知らせをしたのである。

ホーク・アイ部隊にも、すぐにその存在がバレるであろうアンドロイド兵は1体も存在せず、偽装51大隊と同じく30名の士官のみで構成されている。

ただ彼らは、頭からすっぽりと被るポンチョで全身を覆っていたのだが、そのポンチョは先ほどから降り始めた雨で少しづつ濡れていき・・・それにつれてその本人ごと色が徐々に抜け落ちて透明になっていった・・・。

つまりは・・・第22大隊ことホーク・アイ部隊は、夕方以降はずっとロレーヌ宮殿内の前庭で待機していたのであるが、ただ単に第51大隊の偵察員にはその姿が見えなかっただけであった。

この"不可視のポンチョ"も、やはり″あの子たち″・・・具体的にはルチアとミスティ合作による、また別の″オモチャ″である。

この面白いポンチョの布は、ひとつには可視光線であろうと赤外線のような不可視光線であろうと、あらゆる光を全て屈折してそこには何もないようにしか知覚できない・・・視覚やセンサー等を幻惑する機能を持っていた。


ソワソンが部下たちをゆっくりと正門付近に近づけた時、何故か正門を守る警備兵たちが自分たち暴徒を制止することもなく、一斉に宮殿に向って撤退していった。

そのあり得ない状況に、ソワソンは微かな違和感を覚える・・・。

"何かがおかしい・・・なぜ警備兵は我々を阻止しない?・・・まるで・・・わざと誘いこんでいるような・・・"。

ソワソンはもう暫く辺りの状況を再度確認しようと、部下たちの宮殿内への侵入を一旦留めようと考えるのだが・・・。

しかしそのタイミングで・・・彼らにとっては不幸にも・・・軍令本部からの直接命令が届くのだ。

"何をぐずぐずしている!時間がない!直ちに宮殿内への突入を開始せよ"との非情の命令が・・・。

「・・・やむを得ん。総員!宮殿敷地内へ突入を開始!・・・ただ周りには十分に注意せよ!」

ソワソンの命令により、偽装51大隊の面々が素早く正門の入口を破壊し、宮殿の前庭に散開して侵入を開始した。

闇に包まれた前庭は夕方から降り続く驟雨に濡れそぼり、地を叩く雨音は侵入する者たちの足音をかき消している。

大隊の先頭付近に、銃を構え辺りの様子を用心深く窺いながら進む偽装51大隊のクローン士官のひとりがいた。

するとその横手の植栽の中から突如手が伸びて、そのクローン兵の口をふさぐと同時に植栽の中へと密かに引き込んだ・・・。

更に別のクローン兵の傍の水たまりからも、2本の手が伸びてその兵の足を掴み、水たまりの中に引き込もうとする。

襲撃アラート!近くに敵がいる!襲撃アラート!」

その兵は流石に周りの仲間に対して警告の声を発し、近くにいた仲間が急いで駆け付け水たまりに向って発砲する。

しかし・・・その銃弾は水たまりに虚しく水しぶきを上げるのみで、足を掴まれた仲間の姿は忽ち水たまりの中に消えた・・・。

似たような現象が前庭を進む偽装51大隊のあちこちで次々と起こり、周りが異変を把握した時には偽装51大隊は・・・総員の三分の一近くを既に失っていた。

思わぬ状況に部隊の損害の増加を危惧するソワソンが、慌てて大隊の部下たちに対して非常呼集を発する。

「総員!分散行動を解消し、私がいる中央部に集結せよ!そして・・・敵を発見次第排除せよ!」

そうソワソンは部隊を再集結させ、部下達と共に一団となって急ぎ宮殿入口へと向かおうとした矢先・・・。

行く手の暗がりが大きく揺れ、辺りの樹木の茂みが突然一斉に騒めき始めた・・・。

偽装51大隊のクローン士官たちはてんでばらばらに、その暗がりやら騒めく樹木の茂みに向って一斉に発砲を開始する。

発砲した士官たちは、暗がりや樹木の中から多くの人影がばらばらと倒れ伏すのを確認したのだが、それらは何故か全て闇に消えたはずの仲間たちであった・・・。

「発砲中止!発砲中止!!・・・これでは我らは同士撃ちになる!・・・攻撃を受けない限り発砲は控えよ!・・・総員!周りは無視して宮殿玄関へ急げ!」

しかしソワソンは部隊の再編成後に侵攻再開する過程でも、謎の襲撃により同様に相当数の部下を失い続けることになるのであった・・・。


・・・ここで少しだけ、この謎襲撃の種明かしをする。

ホーク・アイ大隊が纏っている某エルフ謹製の"不可視のポンチョ"は、実のところ単に纏った人物を単に見えなくするだけではなかった・・・。

このポンチョは纏った人物を隣接した″隣の次元″に一旦転移させ、彼らはその″隣の次元″からの干渉で第51大隊の兵員達を素手で次々と拉致していたのだった。

そして彼らは、拉致したその兵員達を、頃合いを見計らって再び″元の次元″の別地点に放り出すのだ・・・それも彼ら51大隊本体の侵攻する進路上に忽然と。

これまた反則級のこの所業は、実のところテオ達の大隊は"敵を直接殺さない"との制限には・・・驚くことには・・・当然に詭弁ではあるとしても・・・反していなかった。

例えこれが"未必の故意"とも言える・・・走る車の前に人を突き飛ばすようなトンデモ行為であったとしても、実際に直接手を下したのは・・・彼ら偽装51大隊自身である。

所詮この"制限"の目的とは、結局のところ"ノエル達皇帝府の直接関与の証拠を残さない"と言うものに過ぎないので、結果としてそれで仮に敵に死者が出たとしても、それはそれで″不幸な出来事″と言うものなのである。

そしてテオが率いる第22大隊ことホーク・アイ大隊とは、当然ながら非武装の平和維持組織などではなく、歴とした軍隊・・・それも歴戦の特殊部隊であったのだから・・・。

ソワソン達の部隊が、度重なる敵の襲撃を受けつつ宮殿玄関に辛うじて到達した時には、その数は当初の5分の1・・・わずか2個中隊規模の士官10名にまでに減らしていた。

そしてソワソン達が宮殿玄関扉を破壊し、玄関ホール内にようやく雪崩れ込んだ時、そこには完全武装の親衛隊2個中隊が待ち構えていて、ホールのソワソン達は完全に包囲され、相手の銃口が向けられていた・・・。

宮中伯親衛隊の司令が冷酷に告げる・・・。

「ソワソン中佐他、第51大隊士官諸君!直ちに武装解除し降伏せよ!・・・諸君らのクーデターの試みは失敗した。・・・程なく首謀者であるロジェ大将も拘束されることになる!この上は無駄な抵抗は断念せよ!」

その非情の勧告に、ソワソンは独り呟く・・・。

「・・・宮中伯親衛隊はすべてここにいる。・・・つまりこれまで我々を襲撃していた敵は、これとはまた別にいると言う事か・・・」

ソワソンは一般民衆に偽装したはずの自分たちの素性と首謀者の名前までも既にバレており、更には自分たちに数倍するアンドロイド兵を従える宮中伯親衛隊に完全包囲されていることを見て取り、これ以上の抵抗は意味がないと・・・降伏を選択するのである。



そしてその少し前、旧ファルツ家の主星ノヴァ・ブレーヌ 荒鷲イーグリの宮殿でも動きがあった。


それはネウストリア伯爵が、陪臣たちと少しばかり気の早い祝杯を挙げた直後のこと・・・。

突然荒鷲の宮殿に待機する星系軍観測士官が、突如として警戒の声を上げた。

「ノヴァ・ブレーヌの周辺宙域に、多数の時空の歪みを検知!・・・大艦隊による時空転移の前触れと予測されます!」

オーギュストは驚きつつ、報告した士官を問い質す。

「まさか・・・マリーエンブルクの介入か?しかし境界領域に派遣された艦隊と防御衛星群はいったいどうしたのだ?」

ところがオーギュストの予想を裏切るが如く、ノヴァ・ブレーヌの衛星軌道上に次々と出現した大艦隊は、全て・・・"獅子にアイリス"・・・ロタリンギア星系軍の識別紋章を付けていたのだった・・・。

時を同じくして、荒鷲イーグリの宮殿自体にも新たな別方面からの急襲があった。

宮殿入口の警備要員がネウストリア伯に警告を発する。

「宮殿入口に宮中伯親衛隊の徽章を付けた完全武装の保安局員3個小隊が、同じく護衛戦闘部隊2個中隊と共に突然現れました!彼らはカール宮中伯の勅命を掲げ、"伯爵の逮捕令状"を示しております!」

ネウストリア伯爵は茫然として呟く・・・。

「どうしてここに・・・宮中伯の親衛隊と護衛戦闘部隊が現れるのだ・・・?それに衛星軌道上にロタリンギア艦隊とは何故・・・?」

そして観測士官が新たな報告を届ける。

「衛星軌道上の艦隊から伯爵への通信が入っております。・・・緊急通信にてお繋ぎします!」

それは衛星軌道上に現れた艦隊司令官からの通信であった。

「私はマリーエンブルク境界領域派遣第1防衛艦隊司令リモージュ大将である。・・・先ほどロタリンギア星系軍全艦隊に対し、カール宮中伯殿下の勅命により"ジャンダルム令"が発令された。ロタリンギア星系軍全艦隊は、これより宮中伯直属の"憲兵艦隊"として行動を開始する。・・・ネウストリア伯爵ならびにロジェ大将には″宮中伯大逆罪″による逮捕命令が出ている。・・・万一抵抗するならば・・・本艦隊はノヴァ・ブレーヌの宮殿一帯を攻撃し、全てを焼き払うことも辞さない!・・・直ちに武装を解除し、宮中伯親衛隊に対して降伏せよ!」

リモージュ大将ら境界領域派遣艦隊士官は、元々が宮中伯家に忠実な貴族達であり、邪魔になりそうな彼らを色々と手を尽くして他領との境界領域に遠ざけていたはずなのだが、今や彼らはここに戻り・・・自分たちに対して明らかな敵対行動をとっている。


"ジャンダルム令"・・・それは緊急時にのみ行使できる"ロタリンギア宮中伯のみが持つ非常大権"で、この発令を受けた艦隊の保安局司令は"緊急時優先命令権"を行使し、全ての艦隊司令官に対し"宮中伯の憲兵"として宮中伯の勅令実行を最優先にすることを命じることが出来る。

そのためには各派遣艦隊の保安局司令らが"ジャンダルム令"を受信し、"緊急時優先命令権"を直ちに行使出来る事が前提であるが、その各派遣艦隊に搭乗していた保安局司令らはずっと以前より、予めジョアン・・・ロタリンギア領におけるマリーエンブルクエージェントの元締め・・・の手の者と、定期異動等を利用して全て入れ替わっていたのだった。

勿論ネウストリア伯達に与する艦隊司令官も相当数いるのだが、艦内では武器を携行出来ない彼らは、保安局司令の命令により艦内で唯一武装する保安局員によって直ちに拘束されてしまっていた。

ロタリンギア領の"保安局司令"と言う、艦隊内の"治安維持機構の乗っ取り"・・・これがヴァネッサからの特命を受けたジョアン・ダークが準備していた"作戦プランジャンダルム"であり、テオがカール宮中伯から得た勅命"ジャンダルム令"により、その発動が全艦隊に対し一斉に為されたのであった。


宮殿警備要員からの連絡が、驚愕する彼らネウストリア伯等一派に更に追い打ちをかける。

「宮中伯親衛隊および護衛戦闘部隊に宮殿入口を既に突破されました!宮殿警護の保安部隊は、何故かその全員が突然意識を失い無力化されました!宮中伯親衛隊が率いる部隊が今そちらに向っています!」

・・・忽ち荒鷲の宮殿内は未曽有の大混乱に陥った。

「誰か・・・。何か良い案を出せ!・・・ワシはこんなところで躓くわけにはいかんのだ!」

パニックに陥ったネウストリア伯が叫ぶ。

保安部門の陪臣が密かに伯爵に耳打ちする。

「閣下。ひとまずこの場から退避を・・・。秘密の脱出路がありますれば・・・」

「そ、そうだ・・・。取り敢えずこの窮地を脱すれば、我が方の艦隊からの救援も・・・」


そうしてネウストリア伯は、保安部門の陪臣の後に続く形で、荒鷲の宮殿内に隠されていた秘密の通路にこっそりと消えた・・・。

気を取り直して頑張ります。よろしくお願いいたします。

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