インターミッション5.5
狐と狸のゲーム
惑星ノヴァ・ブレーヌ 荒鷲の宮殿内部の秘密通路
ネウストリア伯は、必死になって自らも初めて訪れた秘密の通路の中をゼイゼイ喘ぎながら駆け抜けている。
「何とかして、この窮地を逃れなければならん・・・。ワシにはこれから実現すべき大望があるのだ・・・。」
秘密通路は宮殿の壁の中を縫うようにして、迷路の如く縦横無尽に張り巡らされている。
保安部門の陪臣に案内されるがまま、訳も分からず通路を駆け下って行ったその果てに・・・。
「閣下・・・。この辺でよろしかろうと思います」
そう振り向いて話しかけた陪臣が指し示す先は、・・・宮殿の地下牢の一つであった。
驚いたネウストリア伯が問う。
「・・・何を言っておるのだ。ワシは・・・宮殿の外に脱出するのではないのか?」
保安部門の陪臣は人のよさそうな笑みを微かに浮かべ、飄々と答える。
「・・・いいえ、閣下にはここに留まっていただく必要があるのです。それが我らのゲームのルールであるからには」
訳の分からない伯爵は再び問う。
「・・・お前は…いったい何を言っておるのだ・・・。ゲームとはどう言う意味だ」
しかし有無を言わさず伯爵を地下牢に押し込み、入り口を施錠した陪臣が再び飄々と答える。
「私と彼女の崇高なるゲームですよ・・・。時間は3時間。過ぎれば彼女の負けで私の勝ち・・・と言う事で」
なおも言い募る伯爵。
「お前は・・・いったい何を言っておるのだ?・・・ ・・・お前は・・・いったい誰だ?」
そこで初めてネウストリア伯は、自身をここに導いた陪臣がクローン体である事に気づき愕然としている。
「何、長くとも精々3時間ですよ・・・お待ちいただくのは。・・・果たして彼女はここに気づくかな?ああ楽しみだ・・・」
そう言い放つと、その陪臣のクローンはもう伯爵には目もくれることなく、地下通路内を何処にか去って行った。
そしてロタリンギア星系領首都惑星フロランスの某所
「アモンティリアド・・・。そうですか・・・そう来ましたか・・・」
ジョアン・ダークが手に取る極秘通信文には″アモンティリアド″の一文のみ。
ロタリンギアの某所に潜み転々としている自分に、ピンポイントでメッセージを届けられるのはただ一人のみ。
そしてこのメッセージが意味するのは、ゲーム開始を告げる合図とその手がかり・・・。
「なるほど・・・。今回のミッションの難易度をもう一段階上げようとのお考えですか・・・」
それからジョアンは徐にまた別の場所に潜む副官クロチルドに連絡をとる。
「クロチルド。全般の状況は把握しています。ただ変数が一つ増えました。・・・荒鷲は?」
クロチルドが若干戸惑ったように返答する。
「それが・・・。荒鷲では伯爵の捕縛に失敗したようで、ネウストリア伯が行方不明との騒ぎになっているようです」
「やはり・・・。クロチルド・・・酒樽を隠されました。あと猶予はどれくらいありますか?」
「最高で3時間かと・・・」
「では・・・わたくしが行きます。イーリス殿に連絡を・・・」
そう伝えたジョアンは、「アモンティリアドの酒樽・・・」と呟きながら、これも何処へかと向かった。