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幽霊事務所のレイコさん  作者: キョウ
2/2

第2話:学校の…階段!

 今は7月。そう、季節は夏である。学生、夏といえば夏休み。夏休み直前のこの時期、一般的な大学生は友達や彼氏彼女と夏休みの予定を立てているだろう。旅行、海、デート、サークル活動。予定帳は黒い文字で埋め尽くされているに違いない。一般的な大学生ならね。


「はあ、まだ終わんない」

 

 大学で未だに友達ができず一般的な大学生からはかけ離れた苦学生の私は、怪しい怪しい事務所で…箒を片手に掃除していた。


 二か月前、私は進学のために上京したアパートで霊障に悩まされていた。そこで、怪しい怪しい事務所こと藤原事務所に助けを求めた。藤原事務所は除霊を専門としている事務所で、その成功率は100%(らしい)。何とか苦労しながら除霊をすることができたが、その過程で貯金を大量に失ってしまった。もともと、上京やなんやらで貯金が厳しかったが、ここにきていよいよ貯金が底をついてしまった。しかし、捨てる神あれば拾う神あり。藤原事務所のオーナーこと藤原麗子さんが事務所にスカウトしてくれた(しかも、高給で‼)。

 ということが一か月前。そして、この一か月、掃除のその字も知らない麗子さんに変わって、ひたすら掃除をしていた。掃除といっても、ここは除霊専門の事務所。最初の一週間は本当に面白かった。詐欺師が売りつけそうな大きな壺、神社に置いてありそうなお札、何に使うかわからない金づちと五寸釘、面白そうな物品が出るわ出るわ。だけど、一週間も過ぎれば新鮮味もなくなる。二週間経つ頃には何も感じなくなり、三週間経つ頃には部屋をここまで汚くした麗子さんに怒りが湧いてきた。

 でも、頑張った!本当に頑張ったよ私!

 足の踏み場もなかった事務所は動線が確保され、自由に歩けるくらいには片付いた。ようやく掃き掃除に入ったわけだけど、今日はいつもと違った。いつもは様子を見に来ない麗子さんがこっちの部屋に入ってきた。


「お客さん来たからコーヒー淹れてちょうだい」


 なんと、お客さんが来たらしい。結構掃除したし、ついでに休憩しよう。私と麗子さんとお客さんの分のコーヒーを淹れる。ちなみにコーヒーは豆から挽くタイプである。

 コーヒーを淹れて持っていくと、麗子さんの向かいには頭頂部が禿げた中年の男性が座っていた。コーヒーを置き、別室に戻ろうとすると、麗子さんが声をかけてくる。


「あなたも同席しなさい。一応助手でしょ」


 助手…助手…いい響きだね!

 麗子さんの隣に座ると、中年男性が声をかけてくる。


「随分と若い助手さんだ」

「一か月前に雇ったんです。事務所を経営するには人手不足で」


 私の代わりに麗子さんが答える。ここは依頼の場だし、しゃべらないほうがいいだろう。軽く会釈だけして、2人のやり取りを静観することに決めた。


「それで、今日はどのようなことでいらっしゃったんですか?」

「そうだね、君たちもここに事務所を構えているなら知っていると思うが、ここの近くに△△高校があるだろう」


 △△高校といえば、ここから車で15分くらいで行ける私立の高校だったはず。通ってる大学の近くでもあるから、高校生とすれ違うこともあるし。


「もちろんご存じです」

「私はね、その学校の校長をやっていてね」

「あら、校長先生でいらっしゃいましたか」

「そうだ」


 校長先生だったようだ。確かに言われれば、The校長みたいな見た目をしているような。話も長そうだし。


「私の高校ではね、新校舎と旧校舎とで校舎が2つに分かれているんだ。そして、旧校舎で10年くらい前から幽霊が出ると噂になっていてね。私も最初はそんなものは見間違えだろうと思っていたのだがね、生徒だけでなく、教員からも目撃例が挙げられるようになったのだよ。さすがに、教員からも話が挙がると無視するわけにもいかないのでね。我が校は今年で創立30周年の節目の時期なんだ。時期が時期だし問題をまとめて片づけておこうと思って、君に依頼をしに来たんだよ。なんでも、必ず除霊をしてくれるんだろ?というわけで、よろしく頼むよ」


 ほら、話が長い。


「…。はい、分かりました。」


 麗子さんも微妙な顔してんじゃん。


「それで、期間なんだが三週間以内に頼むよ。一か月後に創立30周年を記念して、懇親会が開かれるんだ。それまでに、どうにかしてくれ。仕事は早めに片づけたい主義でね」

「…。期間は約束しかねますが、できるだけ善処しましょう。依頼については了解しました。それでは契約を交わしていきましょう」


 そう言って、例の契約書を持ってきた。遠目だから定かではないが、依頼料のとこ数字おかしくなかった?私のときの倍以上の値段が書かれてなかった?校長さんも「高くないか?」って言ってんじゃん。


「いえ、これが相場です」


 平気で嘘つくなこの人。まあ、自営業だしこんなもんか。


「これで契約完了です。それでは誠心誠意努めさせていただきます」

「ああ、安くない金を払ったんだ。必ずやってくれよ」


 財布の中から封筒を出して、帰ろうとする校長さん。

 

「言い忘れておりましたが、除霊するにあたって現地を下見する必要があります。高校にお伺いしてもよろしくて?」

「かまわん。が、来るときに一度連絡を入れろ」


 そういって、名刺を渡して本当に帰っていった。


「ふう」

「お疲れ様です。コーヒー淹れなおしてきましょうか?」

「気が利くわね。お願い」


 コーヒーを淹れなおして、麗子さんの前に置く。相変わらず、いい香り。


「どうぞ」

「ありがと」

「どうしたんです?変に不機嫌じゃないです?」

「そりゃそうよ、学校よ学校!ガキは嫌いなのよ。しかも、学校って幽霊がめちゃめちゃ多いのよ」

「そうなんですか?」

「そうよ。年頃の子供を見ようと、ウヨウヨいるんだから」


 聞きたくないことを聞いてしまった。


「へーそうなんですね」

「しかも、あの校長。すごく偉そうにしてたじゃない。何様のつもりよ!」


 これはストレスが溜まってますね。愚痴を言うのは好きだけど聞くのは好きじゃないので、はやく掃除に戻ろう。


「大変ですね。それでは頑張ってください」

「何、会話を終わらせようとしてんのよ。言っとくけど、あなたも同行するのよ」

「私もですか?」

「助手でしょ?それにいい加減掃除にも飽きたでしょ?行くわよ」

「別にいいですけど…」


 確かに掃除にも飽きてきたし、気分転換に出かけたい気分だ。それと、なんか面白そう。


「とりあえず、来週の月曜日に行くから予定空けときなさい」

「16時以降からならいいですよ」

「わかったわ。その時間に行くように連絡しとく」

「はーい」


 ということで、来週に△△高校に行くことになった。



☆ ☆ ☆


 

 現地集合とのことだったので、大学から直接△△高校に向かう。校門前まで行くと、明らかに負のオーラを出している女が立っていた。そう、麗子さんである。


「お疲れ様です」

「おつかれ、行くわよ」


 さっさと調査して帰りたいようだ。自然に早足になっている。


「ちょっと待ってくださいよ」

「あなたが早く来なさい」

「麗子さんが早いんです。あと、負のオーラ消してください。正直怖いです」

「はあ、さっさと行くわよ」


 スレ違う生徒からジロジロ見られながら校舎に入り、受付を済ませ校長室に通される。校長室には誰もおらず、5分後に校長がやってきた。


「すまんすまん、遅れてしまったようだ」

「問題ありません。では、さっそく参りましょう」


 校長の案内のもと、旧校舎に行く。校長が言うには、新校舎には普通のクラスや職員室があるらしい。


「旧校舎には家庭科室やパソコン室がある。特殊な科目はこっちで授業を行うんだ」

「旧校舎という割には新しいように見えますけど」

「10年前に一度大規模なリフォームをしたのだよ。建物が古くて、エアコンもついてなかったからな」


 羨ましいなー。私の通ってた高校なんて、エアコンどころか雨漏りしてたのに。


「幽霊の目撃情報はどこですか?」

「3階だ。正確には3階の東側のトイレの近くらしい」


 一応、1階から順番に回ってみてく。教室を見ながら、時々麗子さんも見る。ただ、麗子さんの表情が全然変わらないから、多分何もいないんだろう。

 2階も順調に見終わって、いざ3階へ向かうとき、階段の踊り場で変な寒気が私を襲った。

 何、コレ?夏なのに寒い。エアコン効いてる?隣の麗子さんを見ると、ちょっと怖い顔してるし。


「麗子さーん。なんかヤバくないです?私寒気がするんですけど」

「とりあえず、大丈夫よ。一応、わたしの後ろにいなさい」


 それ、大丈夫じゃないでしょ。

 校長を見ると、何ともないような顔をしてる。校長は気づいてない?

 麗子さんとこそこそ話してると、校長がこっちに顔を向けた。


「どうした?さっさと行くぞ」


 あ、やっぱ気づいてないや。しぶしぶ、3階に行く。

 3階は1階や2階と比べて古い?ような印象を受けた。


「3階は1、2階より古いようですが?」

「3階は物置として使ってるからな。リフォームはしなかったのだよ」

 

 3階は予備の備品や壊れて備品が置いてあるらしい。

 なるほど、生徒や先生が備品を取り入ったときに幽霊を見たんだな。

 周囲に気を付けながら進む。廊下を進むごとに寒気が強くなってくる。


「ここね」


 麗子さんがつぶやく。校長が言った通り、トイレの前だった。


「トイレの中を見てもよろしくて?」

「ああ、かまわん」


 校長と2人きりになるのも嫌だし、麗子さんに続いてトイレに入る。

 トイレの怪談とはよく言ったもので、ここだけ空気が違う。


「3階は全体的に空気が重かったですけど、特にトイレはやばいですね」

「ふーむ、おかしいわね」

「何がです?」

「ここのトイレよ。幽霊が一体もいないわ」

「そんなことあります?」


 麗子さんは私の質問には答えず、黙り込んでしまった。

 その間、トイレを観察する。うん、学校のトイレっていう感じのトイレだ。ただ、校舎も古くて汚い。そして臭い。

 早く出たいなーって思ってると、麗子さんが動き出した。


「行くわよ」


 トイレから出た後は4階に移動した。4階は特に何もなく、問題なく調査は終了した。

 調査が終了し、校長室に戻る。


「どうだったかね?」


 校長室に着くなり、聞いてくる。


「はい、大体分かりました」


 大体わかったらしい。さっき、幽霊が一体もいないって言ってたのに、本当に分かってんのかな?


「だったら、結果を早くいいたまえ」

「結果は後日資料としてまとめて送ります」

「なぜ今言わないんだ?」


 若干、校長がキレてるな。そうだよね、お金払って、校舎も案内してるんだもん。気まずい…


「この幽霊騒動、少々複雑でして、少し整理する時間が欲しいのです」

「…。分かった、ただ忘れるなよ?こっちは大金を払ってるんだ。結局できませんでしたでは許されないからな」

「心に留めておきます」


 そして、その場は解散した。

 玄関から出てすぐに、麗子さんは長い溜息をつく。


「あの校長、本当にウザいわね」

「適当な金額吹っ掛けるからじゃないですか。私もあの金額出してたら、あんな感じになりますよ」


 麗子さんが睨んでくる。疲れてる人に正論は駄目らしい。話題を変えよう。


「そ、そういえばこの後どうします?」

「ちょっと、校舎の周りを見て回るわよ。さすがに、校舎内の幽霊の数が少なすぎる」


 校舎の裏に移動しながら、気になったことを聞いてみる。


「ところで、調査結果にはなんて書くんですか?一番ヤバかった3階に幽霊がいないって言ってましたよね?」

「どうしようかねー」

「…本当に大丈夫です?」


 訴えられないかな?


「結論から言うと、3階の雰囲気と幽霊は全く関係ないわよ」

「そうなんですか?」


 3階の雰囲気は本当に気持ち悪かった。ずっと重い空気がまとわり付く感じ。できれば、もう行きたくない。


「じゃあ、原因は何ですか?」

「一言でいうと感情ね」

「感情ですか?」

「そう、思い。あなた、言霊って聞いたことある?」


 言霊ってあれでしょ、言葉に思いを乗せるやつ。


「ありますよ」

「厳密には違うけど、あれも似たようなものよ。多分、あそこのトイレ、よくイジメの現場になってたんじゃないかしら」

「イジメの現場ですか?」

「そうよ。それも何十年もの間。人の思いは残りやすいの。特に、恨み、悲しみ、怒りとかの負の感情」

「それが塵積で影響を与えると?」

「まあ、そんな感じ。ただ、幽霊も居ると思うわよ…って、ビンゴね」


 足を止める。視線の先には、数人の男子生徒が一人の男子生徒を囲って何かしていた。

 麗子さんは素早く近づくと、男子生徒に声をかける。


「ちょっと、何やってんのよ?」


 急に声を掛けられた男子生徒は驚いた顔をして動きを止めた。


「急に何すか?」

「質問に質問で返さない。わたしの質問に答えなさい」

「別に…ただこいつと遊んでただけっすよ。なあ?」

「…うん」


 第三者視点明らかにイジメの現場だったが、なるほど。イジメられっ子も「助けてっ!」なんて言わないから、助けようがないな。もしくはもう諦めてるのかも。

 それを感じ取ってか、麗子さんも少し言い淀む。


「…はあ、もういいわよ。別にこのことを報告しようなんてしないから。さっさと散りなさい」

「いや、なんでっすか?そもそもあんた誰っすか?」

「わたしはこの学校の客よ。いいからもう帰りなさい。それともチクられたい?」

「…。いくぞ、お前ら」


 イジメッ子が帰る。イジメッ子がいなくなると、何も言わずにイジメられっ子も帰る。その場には私と麗子さんだけ残った。


「なんか嫌なところ見ちゃいましたね」

「まったくよ。でも、収穫もあった」

「収穫?何があったんです?」

「後々教えてあげるわ。疲れた、わたし達も帰りましょ」


 正直何があったか知りたかったが、時間も時間なので素直に学校を離れることにした。なお、この後夕ご飯をおごってもらった(美味しかった!)。



☆ ☆ ☆



 学校調査から二日後、午後10時。再び、学校の門の前に私達は立っていた。


「麗子さん、労働基準法って知ってます?」

「知らないわ。安くない給料払ってるからいいじゃない」

「明日、普通に大学があるんですけど」

「じゃあ、早く終わらせないとね」


 駄目だこりゃ。明日起きれなかったら、この話をネタにボーナスを貰おう。


「こんな夜中にわざわざ。来たかったら、一人で来ればよかったのに。どうせ怖くないでしょ」

「あなたも言うようになったわね。何、面白いものを見せてあげようという私の心遣いよ」

「面白いもの?」

「すぐに分かるわよ」


 雑談をしながら、前と同じように旧校舎に入る(守衛さんに入れてもらった)。当たり前なのだが、夜の学校には人っ子一人いない。静けさと闇が学校を包み込んでいる。本能か何なのかわからないけど、普通に怖い。


「暗くて怖いんですけど。周りに幽霊とかいます?」

「いないわよ。あなたが仮に幽霊だとして、夜の学校に忍び込みたいと思う?」


 思わない。となれば、あまり幽霊はいないのだろう。

 前と同じルートで旧校舎を進む。1階、2階は特に何も感じなかったが、やはり3階に近づくとヤバいセンサーがビンビンに反応する。


「帰りたい…」

「何、弱音吐いてんのよ。こっからよ、楽しくなるのは」

「楽しくなる気がしませんよ。好奇心は猫を殺すっていうことわざ知ってますか?いつか、マジで痛い目見ますよ」

「そんなの返り討ちよ。それにいざとなったら、あなたがいるじゃない。何のためにあなたを雇ったと思ってるのよ」


 …。


「おい、それってどういう…「さあ、行くわよ!」」

 

 何かをはぐらかされた気がする。とんでもないことを口走ってたような。聞かなかったことにしよう。

 3階のトイレ前に到着する。麗子さんは躊躇うこともせず、普通に入っていった。本当は入りたくないけど、一人で待ちたくもないから渋々後を追う。

 昼間と全然違う。直感的に感じ取る。空気感が明らかにおかしい。気分が悪くなってきた。おぇ…。

 助けを求めるように麗子さんの見ると、麗子さんは自身のカバンをいじくっていた。


「なに…してるん…ですか?」

「何って、あったあった!これよ」


 嬉しそうに見せてきた彼女の手にはハンマーが握られていた。


「ハンマー?」

「そう。これを…この個室かしら」


 麗子さんは一番奥の個室に入った。そして、その直後、『がんっ』としてはいけない音が響いた。

 私も慌てて奥の個室まで行くと、麗子さんがトイレの後ろの壁のタイルにヒビを入れていた。


「ちょっと!何やってるんですか!?」

「何って、このタイルを剝がそうとしてるだけよ」


 頭湧いてんのか、この女。いや、もともと頭がおかしいとこがあったが。この夏の暑さで、ついに壊れたか?


「さすがに、やばいですって」

「大丈夫よ、トイレに監視カメラはないし。しかも、校長が滅多に人が来ないって言ってたじゃない。仮に見つかっても、わたしたちってばれないって」


 そういうことじゃねーよ。もういいや…。ツッコむのも疲れた。

 そうしている間にも、麗子さんはどんどんタイルを剥がす。


「そろそろよ。接着剤をこれで削って…ほら、見えてきた」


 麗子さんが壊した壁を見せてくる。ライトで壁を照らすとそこには…


「なに…これ…」


 恨みつらみ、怒り。形容しがたい言葉がそこには書かれていた。


「この3階の原因が人の思いって言ったわよね?それにしては何かおかしいと思ったのよ。思いが残りすぎている」

「なんですか…これは…」

「多分、イジメられた子がぶつけようのない感情をそこに書いたんじゃない?イジメられた時の苦しみ、悲しみ。誰も助けてくれない絶望」


 そこには負の感情しかない。残された感情が伝わってくる。

 すでに限界だ。胃からせりあがってきたものを、トイレに吐き出す。


「おぇっ……はぁ…はぁ…」

「少し辛かったようね。そこで、口をゆすいできなさい」


 気持ち悪い…。

 がらがらーーー、っぺ。ふーー。少しスッキリした。


「このラクガキ、消したら少しはマシになりますか?」

「多少はね。ただ、留まる感情が霧散するのには時間がかかるわ」

「じゃあ、今回の依頼は失敗じゃないですかー。どうするんです、あの校長」

「失敗じゃないわよ。あくまで依頼は除霊だもの」

「でも、幽霊はいないって」

「いるわよ...あなたの後ろに」


 ...。


「はやくいってくださいーー!!」

「大きな声出さないでよ」


 こいつ!!


「前回いないって、言ってたじゃないですか!?」

「前回はね、ただ今回は違うわよ」

「なんで、今日はいるんですか!?」

「それは、前回は校舎裏にいたからね」


 校舎裏?

 まさか…


「イジメの現場に居たってことですか?」

「そうよ。何か思うことがあったのでしょうね。ずっと、イジメッ子を見てたわ」

「この学校に他の幽霊が少ないのって…」

「多分、この幽霊とトイレの言霊もどきが原因ね。さすがに、他の幽霊も負のオーラ全開のこの場所に居たくないようね」

 

 逆に言えば、ここ以外には今は幽霊がいないってことでしょ?


「麗子さん、ちょっと場所変えましょうよ」

「なんでよ?」

「だって、ここから離れれば幽霊がいないってことじゃないですか?ちょっと今、具合も悪いし」

「面倒くさいから、ここでいいわよ。それより、この学校についていろいろ調べたのよ」

「いや、場所変えてくださいよ」

「それでね、今から20年前、この学校で自殺事件が起きたことがわかったわ」


 あっ、話を聞いてくれない。

 幽霊がいるとこで話をしないでほしいのに…。

 

「その自殺事件とここにいる幽霊が関係あるんですか?」

「おー、普段は頭の回転が遅いのに今日は察しがいいわね!その通りよ」


 一言余計だよ!!


「自殺した生徒は、当時同じクラスの3人の生徒にイジメられていたそうよ。その中の1人は有名な政治家の息子で、担任の先生は見て見ぬふりだったらしいわ」

「残りの2人は?」

「金魚の糞みたいなものよ。まあ、イジメられた本人からすると関係ないでしょうけど。イジメは些細なことから始まったらしいわ。それで、徐々にエスカレートして、最終的に自殺と」

「本当に最低ですね」


 もう、気分が最悪。なぜ、イジメするのか?楽しいから?気持ちが悪かったから?それとも、優越感に浸りたいだけ?ありえない…。


「はあー…。まあ、ここまではある程度予想できましたよ。それで、調査で新しくわかったことはなんですか?」

「自殺した生徒のクラスの担任が、今の校長らしいのよねー」


 あの、校長かー。

 もしかしたら、校長はここにいる幽霊が自殺した生徒の幽霊だってことを薄々気づいていたのかもしれない。

 もうすぐ、創立30周年の催し物も開催されるし、自分の負の歴史を少しでも消したかったのかも。

 真相は校長しか知らないけど。


「私のときと同じだったら、校長に幽霊が憑りつくことはないんですか?」

「そこは何とも言えないけど、この状況を見るに自殺した生徒はイジメの主犯格のみを恨んでいそうね。イジメの主犯格の親が親だから、先生のことは最初から諦めてたのかも。どっちにしろ、守るべき生徒に手を差し伸べなかった校長は、教育者としては下の下の下よ」

「なるほど…。じゃあ、本当に打つ手なしですね」

「なんでよ?」

「だって、幽霊は普通除霊できないんでしょ?イジメの主犯格も親が政治家だったってことは、今頃はそれなりの地位にいる人間だろうし。こんなところに来ないですよ」

「あるじゃない、こんなところに来る予定が」

「?」


 なんかあったっけな?

 昔の生徒が来るってことは、それなりのイベントでしょ?

 ………まさか…


「創立記念のことを言ってます?」

「その通りよ」


 やっぱり…

 しかし、麗子さんは重要なことを忘れてはいないだろうか?


「順序が逆じゃありませんか?創立記念があるから除霊をするように言われているんですよ、これじゃ期限までに間に合わないじゃないですか?」

「大丈夫よ、どうせ普通の人には幽霊がいるなんて分からないんだし」


 屑かよ…

 こんな大人だけにはならないようにしよ


「…まあ、麗子さんがそれでいいなら、何も言いません」

「何でごみを見る目になってるの?」

「今日はもう帰りましょう。さっきも言いましたけど、明日朝早いので」

「私も疲れてきたし帰りましょうか」


 壊した壁の破片を拾って、ある程度綺麗にする。修復なんてできるはずもなく、バレないように祈るばかりだ。

 もののけが活発に活動する時間、深い闇を抜け校門から出る。改めて振り返り学校を見ると、もはや生徒の学び舎には見えず、地獄の底にある監獄のように見えた。

 自殺した子は何を思って何十年もここにいるんだろう…

 答えの出ない問いを考えながら、私達は帰路に就いた。



☆ ☆ ☆



 

 結局、あの夜の調査の次の日、私は遅刻した。マジで、麗子許さん。

 そして、今日はことの顛末を聞くために事務所に来ている。

 △△高校では予定通り創立30周年の催しが行われたそうだ。私はもちろん行ってないが、なんでも麗子さんが参加したらしい。

 イジメの主犯格は生徒会に入っていたらしく、懇親会に出席した。懇親会はつつがなく終わったが、最後に昔の学び舎を見て回ることになった(麗子さんが言い出したって)。幽霊のいたトイレに差し掛かったとき、異変が起きた。


「まさか、あんなに幽霊が怒ってるとはねー。電気灯がチカるわ、ラップ音は鳴るわ、鏡が割れるわで大変だったわよw。校長はこっちを睨むし、あーおかしかった」

「いや、おかしくないですよ。普通に契約不履行で罰金もんですよ罰金」


 麗子さんは楽しそうに話している。あなたがやってることは普通に屑の所業ですけどね。

 ちょっと痛い目みないかな…


「そのあとはどうなったんですか?私のときを考えると、幽霊がイジメの主犯格に憑りついて終わり?」

「そうよ」

「なんだかあっけないですね。もっと、何か起こると思いました」

「そんなもん、みんな難しく考えすぎなのよ」


 本当にあっけない。幽霊は恨んでいる人間に憑りついて満足なのか?

 何もできないはず、せいぜい夢を見させるのが関の山なのに……何もできない?


「麗子さん、前に幽霊は現実のものとか人間には干渉できないっていってましたよね?」

「そんなこと言ったかしら?」

「確かに言ってました!今回の麗子さんの話で、電気が点滅するとか、鏡が割れるとか、バリバリ干渉してるじゃないですか!?」

「まあまあ、何事にも例外はあるわよ」


 こいつ、絶対にないとか言ってたくせに。何もされないという前提があったから、夜の学校とかにも行ったのに…。もうあまり、本気で話を聞かないことにしよ。


「そうねー、ないと思ってたけど…まだまだ分からないことも多いわね」

「…何年この仕事やってるんですか?」

「ひ、み、つ…よ」


 うわっ、うざっ!もしかして、私の年齢のダブルスコアくらい?だとしたら、その仕草は年齢的に厳しいでしょ。


「科学的には存在を証明できないけど確かにそこにいる…あなたは幽霊とはなんだと思う?」

「……何ですかね?」

「あなたにわかるわけないわよね…わたしも未だに分かってないもの…見えるだけ…」


 

ズガーーンッッッ!!!!!!!!



「!?何!?」

「…何かが崩れた音…?」

「何がですか?」

「わかんないわよ…ただ方角的に…学校かしら」


 麗子さんと一緒に事務所を出ると、音を不思議に思った人が外に出ていた。


「ちょっと、行ってみるわよ」

「はいっ」


 麗子さんの車に乗って学校の近くまで向かう。

 学校の近くに着くと、たくさんの人でごった返していた。

 そして…


「あれっ!見てください!校舎が!」


 私たちが先週調査した△△高校の旧校舎は、見るも無残に瓦礫の山となっていた。


「ねえ」


 車の中では黙っていた麗子さんが口を開く。


「あなたは校舎が崩れた原因は何だと思う?」

「…幽霊ですか?」

「そうかもしれないし違うかもしれない…」


 こっちを見る麗子さんの目が怖い…。


「みんな言うわよね、生きている人間のほうが怖いって。でも、私思うの、それって本当?って。幽霊だって、もともとは生きてた人間よ」


 続けて、麗子さんはしゃべる。


「本当に怖いのは、自由を行使できる人間と悪意に縛られる幽霊、どっちかしらね~」


 そんな麗子さんに、私は俯くことしかできなかった。



 これは後日知ったことだが、校舎の倒壊に巻き込まれて△△高校の校長はなくなったらしい。

 生徒も数十名巻き込まれたようで、全国区のニュースとなっている。

 あの日の麗子さんの目と言葉がいまだに忘れられない。

 正直、麗子さんに対して少し恐怖を持っている。

 でも、生活のためにはあの幽霊事務所で働かないといけない。

 別室の掃除も完璧に終わってない。

 今日も生きるために働きに行かないと。

 また、面白い話があったら紹介するよ。

 それじゃ。

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