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幽霊事務所のレイコさん  作者: キョウ
1/2

第1話:幽霊事務所で働くことになったわけ

「…っっはっ!」


 また、あの夢だ。知らない女の人が鬼の形相で追いかけてきて、最後に私の首を絞める夢。

 5月に入ったばっかりなのに汗だくになった私は水分を求め台所に向かった。


 私は今年の4月から都内の学校に進学した大学生だ。シングルマザーの家庭で育った私は高校生の頃からバイトを掛け持ちして、大学進学のためのお金をためた。バイトと勉強を両立して、ようやく志望していた大学に合格したのだが、その大学には寮がなかった。だから、大学の近くにアパートを借りる必要があった。しかし、とにかくお金がない。都内は家賃が高いし、生活のために家電や日用品を一通りそろえる必要がある。いろいろ考えた結果、家賃が安い事故物件を借りることにした。事故物件だったら、初期費用とかも安いからね。

 事故物件って言ったって、霊感ないし借り得だろ、そんなことを思っていた時期が私にもありました。現実はそんなに甘くなかった。

 はじめに違和感を覚えたのは、入居して一週間後だった。大学の課題や料理をしているとき、風呂に入っているとき、はてはトイレのときまで四六時中、視線を感じる。とにかく視線を感じる。そして、二週間後には部屋にラップ音が常時響き渡り、三週間後にはごらんのとおり悪夢を見るようになっていたのである。

 心霊現象が起きてから一か月間、こちらも黙って過ごしていたわけではない。人並くらいには幽霊に対する知識があるので、盛り塩とか珠数とかやってみたよ。でも結果は惨敗。部屋の四隅に持った塩は翌日には真っ黒に染まっていた。100均で買ってきた珠数は部屋に入った途端にはじけ飛んだ。

 相談する友達もおらず、引っ越そうにもお金がないので、ネットで心霊現象を調べていたわけだけど有効な対策はなさそう。そんなわけで軽く絶望しかけていた、そのとき、ある記事が目に留まった。


【心霊に困っている方、ぜひ藤原事務所へ!!】


 そんな見出しとともに、白いひげが生えた神主のような見た目のおじいさんが掲載されていた。

 怪しい。すごく怪しい。でも、口コミを見るとそこそこ評価も高い。しかも、家からチョー近い。「初回、相談は無料!除霊率100%!」と書いてあるし、限界だった私は藁にも縋る思いで、藤原事務所に行くことにした。




次の日、

 

「ここが藤原事務所のあるビルか」


 いや、家から本当に近いな。徒歩5分くらいだったぞ。そんなことを思いつつ、少し古びたビルに入る。ビルは6階建てで、5階に事務所があるらしいのでエレベーターで向かう。エレベーターから降りると、目の前に藤原事務所と書かれた扉があった。慣れない雰囲気に少し緊張しているが、勇気をもって扉を開ける。

 扉を開けると、椅子とテーブルしか置かれていない応接間があった。そして、奥から人がやってきた。


「あら、いらっしゃい」


 広告に載っていた厳かな老人ではない。髪の長い陰気臭い女性が出てきた。なんか、イメージと違うな。ここで場所合ってる?

 

「あの、ここ藤原事務所ですか?」

「ええ、そうよ。まあ、座って座って」


 藤原事務所で合ってるみたい。促されるままに、椅子に座る。


「それで、今回は何があってここに来たの?あっ、わたしは藤原麗子ね。よろしく」


 そういって、コーヒーを出して、藤原さんとやらは対面に座った。相談したことはあるけど、まず疑問に思ったことから聞くことにした。


「えっと、神主みたいなおじいさんが運営してると思ってたんですけど...」

「? ああ、ネットのやつはフリー素材よ。そっちのほうが雰囲気出るでしょ」


 あ、怪し~。でも、コーヒー出してもらったし、ここまで来て帰りますとも言えない。観念した私はコーヒーを一口飲み、自己紹介とともにこれまでの経緯を話した。


「私、高橋優紀といいます。それでですね1か月前からなんですけど・・・・・・」


☆ ☆ ☆


「・・・・・・という感じです。すいません、話が長くなってしまって」


 20分くらい話してた。話してる最中、口を開かなかった藤原さんは話を聞き終わった後、一言だけ


「それは大変だったでしょう。今まで辛かったわね」


 としゃべった。何気ない一言だったが、少し泣きそうになった。誰にも相談ず、1ヵ月間一人で試行錯誤していた。明るく振る舞っているつもりだったが、想像以上に自分は追い詰められていたらしい。泣きそうなことを悟られまいと、鼻をかんでごまかしていると、


「あなたの家、ここから近いんでしょ?今からちょっと行ってみますか」


 藤原さんが気を使ってくれたのか調査に乗り出してくれた。私は鼻をかみながら元気にうなずいた。

 

 

 5分後、私たちはアパートの部屋の前にいた。


「ここが、私が住んでる部屋です。」

「入る前から、すでに嫌な気配がしてるわね」


 不穏なことをいう藤原さんを横に鍵を開け、部屋を案内した。私の部屋は6畳ワンルームでユニットバスがついてる一般的な部屋だ。広くない部屋なので、すぐに見終わる。藤原さんは急に一点を見つめだした。


「あなた、人を殺したことある?」


 不意にそんなことを聞いてきた。あるわけねえだろ!


「そんなことあるわけないじゃないですか!!」

「…。そうよね、あるわけないわよね。OK、大体わかったわ。事務所に戻りましょ」


 

 事務所に戻ると、再び向かい合うように座った。短い沈黙が流れて、藤原さんが口を開いた。


「最初に言っておくわよ。わたしは慈善活動やボランティアをしてるわけではないから、お金がかかるわよ」


 もちろん、お金がかかることは覚悟していた。ただ、問題はお金がどのくらいかかるかである。


「それで、おいくらになりますか?」

「着手金5万、報酬5万の計10万円ね」


 高え!除霊の相場は1万円くらいじゃなかったっけ?


「ネットで除霊の相場は1万円くらいって...」

「それは普通の神社とかの話でしょ。あんな、インチキ商売と一緒にしないでほしいわ。」


 あんたも十分インチキ臭いよ。


「でも、着手金5万ってすぐには払えない...」

「わたしはそこまで鬼じゃないわよ。あんなアパートに住んでるぐらいだから、あなたお金ないんでしょ?3割引きで受けてあげる。着手金1万の報酬6万円の計7万ね」

 

 それでも高い...。でも、親身になって話しを聞いてくれたし、心霊現象から解放されるなら。


「本当に解決してくれるんですよね?」

「あったりまえじゃない。首でも指でも賭けるわ」

「そんなのいらないです。わかりました。お願いします」


 藤原さんはその言葉を待ってましたと言わんばかりに、大きく頷き、一枚の紙を取り出た。

 

「じゃあ、契約書にサインしてね」


 ええと、なになに。


 依頼人は依頼料として1万円、また依頼達成として報酬6万円支払います。


 ほうほう。


 依頼人は霊障解決の際に、できるだけ藤原麗子に協力します。


 へー。


 除霊の際に依頼人が何らかの不利益を被っても、藤原麗子は一切の責任を負いません。


 ん?


「すいません、この一文なんですか?」

「どれ?ああ、それは除霊中にあなたが怪我をしたり、病気にかかったりしても、わたしのせいにしないでよってこと」

「そんなことが起きるんですか?」

「普通はそんなこと起きないわよ。まあ、一応よ一応」


 怖いなー。まあ、いいや。あと、保護者名か。

 契約書にサインを書き、財布から1万円をとりだす。


「それじゃ、この1万円でよろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いされました」


 そして、帰ろうとしたとき、藤原さんは私に声をかける。


「そうそう。これ、もってって」


 そういうと、小さなお守りのようなものを渡してきた。


「これは…」

「見たまんまお守りよ。それ持ってれば、多少は霊障が和らぐと思うわ。あと、少し調査することがあるから、一週間たったらまた来てちょうだい」


 そして、本当に解散となった。

 なお、お守りの効果があったのか、ここ一週間は悪夢を見ることはなかった。相変わらず、ラップ音とか視線は感じるけどね!


 


 一週間後、

 私と藤原さんは事務所で向かい合っていた。


「それで、何かわかったんです?」

「ええ、いろいろわかったわよ」


 ちゃんと調査をしてくれてたらしい。ここ一週間で心身共にゆっくり休めることができたので、精神的に少し余裕ができていた。精神的に余裕ができると、「藤原さん詐欺だったんじゃないの?」とか変な考えが浮かんできたから、その言葉を聞けて安心した。

 藤原さんはコーヒーを一口飲んだ後に、調査の結果を教えてくれた。


「あなたの部屋にいる幽霊なんだけど、22年前自殺した島田春奈さんっていう人みたい」


 島田春奈さん。うん、知らない人。


「島田さんは当時○○株式会社で働いてたんだけど、社内で付き合っていた人がいたみたい。だけど、その付き合ってた人を別の部署の人にとられちゃったのよね」

 

 可哀そうに…。


「しかも、その方法が社内にあることないこと噂を流して、徐々に居場所を奪うやり方だったそうよ。噂を信じた島田さんの恋人は島田さんを振って、社内にも居場所がなくなって、最終的に精神を追い込まれて、自分の部屋で自殺。他人の男を奪おうとする女も大概だけど、噂を信じて自分の女を捨てる男も酷いわねー」


 なるほど、大体わかった。だけど、


「そもそも、幽霊の正体調べる必要あります?準備っていうから、てっきり除霊に必要なお札とかの道具をそろえてると思ったんですけど」

「当り前じゃない。幽霊だって元人間よ。そして、何らかの心残りがあってこの世に留まっている。じゃあ、除霊の手っ取り早い方法は、その心残りを取ってあげることよ。そもそも、形無いものを形有るものでどうにかできるわけないじゃない。バカねー」


 なんか腹立つな。この人。

 コーヒーを飲んで、苛立ちを抑える。

 私を癒してくれるのはコーヒーだけだよ。


「そ・れ・で!どうするんですか!前金払ったんだから、やってくれなきゃ困りますよ!」

「そんなに怒んないでよ。それなんだけど、あなたのお部屋にお母さま呼んでくれる?」


「えっ?母ですか?」


 すごく嫌だ。絶対来てくれない。


「どんな顔してんのよ。何、できないの?」


 顔に出てたらしい。


「どうしても呼ばないとダメですか?」

「ダメ」

「ゼッタイゼッタイですか?」

「ゼッタイゼッタイ」


 うーむ。覚悟を決めないといけないようだ。


「何よ、そんなに嫌なの?」

「嫌ですよ。私は親と仲が悪いんです。私は母が嫌いですし、母も多分私が嫌いです」

「あなたの言い分は分かったわ。でも、呼んで。てか、契約書に解決に協力しますって書いてあるでしょ」


 以前書いた契約書を見せてくる。

 げっ!本当じゃん。


「その契約無効には・・・「できるわけないじゃない」・・・ですよね」

「兎に角、絶対来てもらうようにしてね」

「…はい」


 もう逃げられない。



 

 数日後、

 私の部屋で藤原さんと仲良く並んで座っていた。


「あと、5分くらいで母が来るそうです」

「わかったわ。ありがとう」


 はあ、気分が重い。母が嫌で実家を飛び出してきたのに、半年も待たずに再開してしまうとは。

 無言の空気が漂う中、藤原さんが口を開く。


「それで、お互い嫌い合ってんのにどうゆう口実で呼び出したの?」

「今まで育ててくれたお礼、みたいな感じで伝えたんですよ。あの人、ブランド品とか無駄に高級なもの好きなんで、それをおごってあげる的な」


 実家にいた時からそうだった。いつもお金がないとか言いながら、ブランド品をあさってた。しまいには、私のバイト代とか学費とか使っちゃいけないお金も使うもんだから、めっちゃ苦労した。あれは苦い思い出だ。


「藤原さん、母が来たら説明とかお願いしますよ。私、あの人を前にしてうまくしゃべれる自信がありません」

「大丈夫。任せておきなさい」


 大丈夫かなー。不安だなー。

 そんなやり取りをしてる間に家の呼び鈴が鳴る。

 来やがった。

 玄関の戸を開ける。そこには世界で一番嫌いな人が立っていた。


「久しぶり、お母さん」

「…」


 母は何もしゃべらない。


「あの、ちょっと会ってほしい人がいるんだけど」


 藤原さんのもとへ案内する。

 母は少々不機嫌そうな顔であったが、素直についてきてくれた。

 後はうまいことお願いしますよ。藤原さん!


「初めまして、高橋優紀様のお母様ですね。私は藤原麗子と申します。本日は高橋優紀様のご依頼について、ご説明させていただくためにお伺いしました。それで、高橋優紀様のご依頼ですが・・・・・・」


 最初は黙って聞いてるだけであったが、徐々に顔が鬼のようになってきた。

 あっ、やばい。


「・・・・・・ということで、これか・・・「優紀!!」」

「アンタ、こんなことのために呼んだの!?」

「えっと、それはその…」


 どうしよ、どうしよ!?


「幽霊がどうとか言って、こんな胡散臭い女呼び込んで!?」

「違うの!ちょっと私の話を聞いて!!」

「わかったわ!わたしにこの女に金を払わせようとしてるのね!?わたしを騙して!!だからアンタはいっつも・・・」


 こうなると、もう母は話を聞いてくれない。

 とりあえず、この場を収めることだけを考えないと。


「・・・高校卒業してからもそうよ!さっさと就職して金を家に入れればいいものの、わたしに黙って進学して・・・」

「いいから!!話を聞いて!!」

「何なの!?その態度!」


 部屋に乾いた音が響く。遅れて、ほっぺたに痛みがくる。痛い…。


「メールの内容も嘘とは言わせないからね!わたしに今までのお礼をしてくれるんでしょ!?しっかり、貰うからね!」


 母は私に見向きもせず、部屋の隅に置いてあるカバンまで歩いた。カバンの中から私の財布を取り出して部屋から出て行ってしまった。

 しばらく、部屋には沈黙が流れる。

 

 藤原さんは何も言わずに、キッチンに向かい氷袋を作ってくれた。


「これで、ぶたれたところを冷やしなさい」

「…ありがとうございます」


 本当はこのやるせない気持ちを誰かにぶつけたかったけど、ぶつけたところで事態は好転しないし黙ってることにした。

 

「ごめんなさいね。うまく説明できなかったわ」


 違う。悪いのは母だ。藤原さんは悪くない。


「あと、今あなたにこれを言うのは酷だけど、お母さまを追ったほうがいいと思うわよ。あなたの財布を持ってったし、何をするかわからないわ」


 そうだよね…。追いかけたくはないけど、財布の中には大事なものがいろいろ入ってる。通帳とかは別でしまってるけど、クレジットカードは財布の中だ。限度額まで使われたら破産する。


「…。今日はお見苦しいところを見せてしまい、すいませんでした。後日、事務所に行きます」

「そうしてちょうだい。また後でね」


 別れ際、藤原さんは申し訳なさそうな顔をしてた。

 だけど、それに気が付かないふりをして、母を追った。

 



 二日後、

 私は事務所に向かい、到着と同時に土下座した。


「何よ急に。怖いわよ」

「…。」


 まだ、顔を上げない。何もしゃべらない。土下座は相手の許しがあるまで、動いてはいけないのだ。(ネットに書いてた)


「とりあえず面を上げなさい」

「…はい」


 顔を上げ、体の汚れを払い、来客用席に座る。


「で、何?」

「申し訳ございません!!」

「主語がないから分かんないわよ」

「…はい」


 白状することにした。

 


 藤原さんと別れた後、母と合流することができた。もちろん母は不機嫌。疫病神を追い返し平穏な日常を取り戻す、そのことで頭の中は埋め尽くされていた。だから、母の機嫌を取った。それはもう取った。好きそうなブランド品を購入し、おいしいご飯を食べさせ、ホテルに泊まらせ、朝一番の新幹線で帰らせる。

 実際、一緒にいた時間は半日にも満たないだろう。でも、すごく疲れた。

 そして、邪鬼を乗せた新幹線を見送った後、不意に気が付く。


 あれっ?いくら使った?


 と。

 家に帰って計算すると、あらびっくり!貯金額を超えているではありませんか。足りてないお金は大体5万円くらい。

 今は5月のちょうどおり返し。引き落とし日が26日だから、10日で5万円。プラス生活費、光熱費、家賃。

 バイトで月8万の収入はあるから...

 


「で、つまり?」

「来月まで支払いを待ってください。お願いします」

「はー。あのね、前にも言ったけどわたしも鬼じゃないの。そのぐらい別に気にしないわよ」


 どうやら許してくれるらしい。やったー。

 一人で安心してると、目の前の聖母が「それで、」と切り出した。


「除霊についてなんだけど、」

「そういえば、そんなのもありましたね」

「あなた…忘れてたでしょ」


 呆れた顔で聞いてくる。

 ワスレテないですヨ。


「まあいいわ。それで、除霊についてなんだけど、除霊自体はもう終わってるわ。正確にはあなたのお母様が部屋に来た時点で終了してる」

「それだけでですか?」

「それだけでよ。現にあなた、昨日変な視線とか感じなかったでしょ?」


 昨日はまあ、それ以上にショッキングなことがあったから、それどころじゃなかったけど、確かに感じなかったかも。


「でも、他にやることないんですか?いくら何でもそれだけだと…」

「それだけっていうけど、それだけってのがすごく難しいのよ。一昨日のことを忘れたの?」

「いや、忘れてはないですけど…」

「いい?前にも言ったけど、形無いものを形有るもので祓うことはできないの。でも、形無いものも元は人間よ。だから、人間と同じように欲を満たしてやれば祓えないこともない。それで、今回のカギはあなたのお母様だけだったってことよ」

 「母ですか?」

 「そう、お母さま」

 

 なるほど。母が鍵か。

 そういえば、前回調査結果とか何とかいって、幽霊の正体を教えてくれたよな。

 

 …。

 

 …気が付いてしまったかもしれない。


「前回の調査結果と母って関係あります?」

「あら、勘が鋭いじゃない。答えはイエスよ」

「一応聞いてもいいですか?」

「いいわよ。前回は幽霊の島田さんが社内で追い詰められた話をしたわよね。で、その島田さんを自殺に追い込んだ調本人があなたのお母様ってこと」


 …やっぱり。他人に害しか与えない人だ。


「でも、それって祓えてなくないですか?島田さんは母を恨んでるんですよね?島田さんが母に会っただけで成仏するとは思えないんですけど」

「そうね。だから今回は除霊の祓うではなくて、掃除の掃うのほうが正しいかも」


 なに上手いこと言った!みたいな顔してんだこの人。


「それ除霊っていいます?」

「立派な除霊よ。そもそも、除霊は幽霊を成仏させることじゃなくて、幽霊を取り除くことを言うんだから。」

「じゃあ、島田さんの幽霊はどこに行ったんですか?」

「あなたのお母様についていったわよ。部屋に入った瞬間に、肩を強くつかんでたし」

「そしたら、母は今頃…」

「もしかしたら、霊障に悩まされてるかもしれないわね。でも、正直自業自得よ。あなたもどうでもいいって思ってるでしょ?」


 少し釈然としないが、確かにどうでもいい。

 じゃあ、これで本当に終わったんだ。


「まあ、あなたのお母様なら、霊障が酷くなったらもう一度あなたの部屋に行きそうだけど」


 終わってない。有り得る。確かに来そうだ。


「藤原さんのとこで私を匿ってくださいよー」

「嫌よ。自分でどうにかなさい」


 不意に、物が倒れる音が事務所に響く。

 またかという表情で事務所裏に戻る藤原さん。

 その瞬間、扉の隙間から事務所の一部が見えた。


 汚ねーー!?

 足の踏み場が全部書類で溢れかえってたぞ。

 てかなに、あそこで淹れたコーヒーを飲んでたの?ハウスダストアレルギー持ちなんだけど。

 信じられないものを見た顔で停止してると、藤原さんが戻ってきた。


「…何よ?」

「つかぬことをお聞きしますが、事務所掃除してます?」

「…何?見たの?」


 黙って頷く。


「はあー。しょうがないじゃない。掃除苦手なんだもの」

「それでも少しはやりましょうよ。足の踏み場もありませんでしたよ」

 

 こいつ、うるさいなーみたいな表情で見てくる。

 しかし、急にいいこと思いついたって表情に変わる。

 嫌な予感がする。


「あなたさっき、匿ってくれって言ったわよね」

「言ってないです」

「いいわよ。匿ってあげる」

「いらないです。自分で何とかします」

「やっぱり、未来ある若者は率先して助けないとね」


 話聞かないな、こいつ。


「いいです。いらないです。ありがとうございました」

「納金待ってあげたでしょう」


 うっ。そこをつかれると痛い。


「まあまあ、もちろんタダでとは言わないわよ。今バイトしてるんでしょ?時給いくらなの?」

「…1050円ですけど。」

「三倍にしてあげる。端数は切り上げて時給3500円でど・・・「お願いします!」」


 


 こうして、私の部屋の幽霊騒ぎは幕を閉じた。

 解決までにはひと悶着あったが、部屋の幽霊もいなくなったし、バイトの時給も上がったし、結果を見れば最高だろう。

 ん?藤原さんが呼んでる。事務所の掃除の続きをしなきゃ。

 また、別の幽霊事件があったら紹介するよ。

 それじゃあ。

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