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片腕お姉さまと地を転がる少年  作者: 渡辺ファッキン僚一
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自分で自分が手間だよ

 ……今日もマボーがいるといいんだけどなぁ。




 マボーとは私がこっそり観察している少年につけたあだ名でマッドボーイの略。




 今からそれを見に行くつもりだ。




 ただ見るだけで話しかけたりはしない。




 別に話したいとか思ったことないし、見るだけで充分。



 よし! 行くかー!




 私はモモをわざとらしく大きく上げて、すたすた、と進む。




 足を大きく上げて、元気に! 元気に! 元気に!




 パンツが見えるくらいの勢いで元気に! 元気パンチラ、健康的でいいよね。




 気持ちって歩き方に出るから。




 落ち込んでると歩幅が短くなる。




 誰かに一部始終を見られているわけじゃないけど、あんなお婆さんに傷つけらたんだ、って思われるの嫌だから。




 お婆さんの言葉に傷つくセンシティブな小野瀬霧ちゃんなのね、って思われたらさ、悔しくて泣いちゃうじゃん。




 それにさ、誰も見てなかったかもしれないけど神様は見てたかもしんないからさ。神様に、あいつ心が弱いな、って思われるの嫌なんだよね。神様は私の敵だから隙は見せたくない。神様にはいつだって中指を立てていたいもん。地獄へ落ちろ。




 神様はともかくとして、見えない誰かの視線を意識してないと、私ってどこまで落ち行きそうな気がするんだ。ぐすぐすぐすぐすに腐って潰れそうな気がする。




 だから元気に!

 モモを高く上げてスタスタ行くのだッ! やっほーい。




 ──5分くらい歩いて目標を発見。




 河川敷の人気のない運動場に、小学校高学年くらいの少年がいた。




 よかったー。いてくれて助かった。




 少年は全力で走ったかと思えば、転ぶようにぶっ倒れて腕立て伏せや腹筋をする。




 背中に巨大なネズミ花火がついているかのような、せわしない動き方だ。




 ……相変わらず凄いなぁ。




 見ているだけで頬がニヤニヤだ。




 必死すぎで鬼気迫りすぎなのがおもしろくてマジ笑える。




 ほら、美術作品ってじっと見てると笑えてくることってある。




 そんなに必死にならんでも!




 そこまでやらなくても!




 って思って笑えてくるのだ。凄いモノを見たら笑うしかないって気持ち、わかりますよね?




 それと一緒。




 私は土手を真ん中くらいまで降りて、草の中で体育座りをする。




 下から覗かれる可能性はないけど、乙女のたしなみとしてパンツが見えないように股の間でスカートをきっちりと挟んでおく。




 斜めの陽光に照らされてキラキラ輝く川面と、遠くの青白い山を見つめる。




 ネコジャラシの異名を持つエノコログサを引き抜いて、もさもさと逆の方を口にくわえる。




 そのまま息を吸うと、生の草の香りで口の中がいっぱいになる。




 チンパンジーみたいに下唇を尖らせてピコピコと上下に動かす。




 お行儀が悪いからそんなことするな、犬がおしっこしたあとのだったらどうするの? とか言われるから誰も見てない時にしかしない。




 草の匂い、いい。好きだ。

 こういうフレッシュなのもいいけど、藁の微かに発酵したような匂いも好き。




 藁が燃えてる匂いが好き。

 私は刈り入れが終わったあとに田んぼでやる野焼きを見ると胸がときめく人だ。




 煙と炎と草が好き。




 将来は巨大な焼却炉で草を燃やし続ける工場に就職したい。




 それが無理なら火山噴火予知連絡会だな。




 噴火すれば草も燃えるだろし。




 でもあれって就職は受け付けてるのかな?




 進路相談で希望就職先は火山噴火予知連絡会です、って、言ってもいいんだろうか?




 それとも火山学のある学校に行かないとダメなのかな? 



 

 ……というかそもそも火山学ってあるの?




 火山大学火山学部火山学科活火山専攻です、とか……。



 

 きゃううぅぅぅぅぅ! とってもカッコイイ! ステキッ! とりあえず大日本火山大学に願書提出は決定だね。




 あぁ、火口に身投げしたいなー。


 溶岩で体を溶かしてしまいたい。


 この世からいなくなりてーなー。


 なんで私って存在するんだよ。持て余すぜ、こんな心。


 一人だけで惨めに死んでたまるかよ。




 豪快に火を放ちたい。

 できることなら、この草むらにガソリンをまいて着火したい。


 その時はFuckって字をガソリンで書くんだ。


 空から私達を見下ろしてらっしゃる神様に炎で青臭いメッセージを送ってやるのだ。




 GodにFuck!


 God to the hellだ! カッコイイ! イェイ!


 安っぽくてステキ!


 死ね! 神様!




 高速でエノコログサをピクピクさせる。




 ……本当に火を放ったら、世間様にかなりの迷惑をかけるってことくらいわかってる。わかってますよ、やらないよ。




 一浪したけどもう高校生ですもん。分別の付く年頃なのよ。おなめにならないでくれません?




 エノコログサに毒があればいい。私には毒が必要だ。




 エノコログサの毒で少しずつ死んでいきたい。

 少しずつじゃなくていいや。猛毒で3秒後に死ぬでもいい。




 ……あー。私、またどうでもいいこと考えてるなー。




 気絶しそうなくらいどうでもいい。なんで私はこんなにどうでもいいこと考えるのかな? みんなもどうでもいいと考えてるのかな? 

 みんな以外の私のだからこんなこと考えるのかな?




 おーい、いつも無駄な事ばっかり考えてるから反乱をおこうそうぜ! って脳細胞が考えたりしないかな?

 ストライキを起こされて何も考えられない人間になったりしないかな? 私に反乱してくれよ、脳細胞。殺してくれよ、もー。




 今すぐ何も考えられない人間にしてくれ! 心を無くしてくれ!




 まてまてまてまてまててまてまてまて、まて! てま!




 てま!




 本当にてまだよ、もう。


 自分で自分が手間だよ。




 こういうことを考えないようにマボーを見にきたんじゃないの?




 あの無茶苦茶な少年を見よう、観察しよう!

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