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片腕お姉さまと地を転がる少年  作者: 渡辺ファッキン僚一
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べそべそしたいよぉ。ながぜでぐれよぉぉぉぉ。

 いいですか?

 私はリリカルでマジカルで不安定な年頃の高校一年生なんです。




 プレパラートみたいに薄っぺらなハートを抱えて、見えない何かを相手に必死にハードバトルを継続中なのよ。




 沈む夕焼けを見ているだけで自殺を考えちゃう、荒波すぎる季節でもがき苦しむティーンなんだって!




 あの言い方だと?、悪いことをしたから私は右腕の半分を失ったんだ? マジかよ。




 気をつけなよ、さっちゃん!

 ご両親の言うことを聞かないと私みたいになっちゃうぞ? イェイ!




 くっ!




 あははは。マーストダーーーイッ! 老婆、死ねー。




 待ってちょうだいよ、クレイジー老人。

 そんな因果応報で世の中が成り立ってるわけないじゃない。




 っざけんな糞ババァ! アホ、バカ、うんこ色! うんこ!




 私の右腕の半分がこの世から消えてしまったのは、私が悪いからなんかじゃない! バカ! 絶対に違うもんッ!




 ッ! だあああぁぁぁぁああああぁぁぁあああぁぁぁああぁぁ!




 あんな老人の言葉に傷ついただけじゃなくて、あんな老人の言葉に傷ついている自分に傷ついてる。心の軽やかなステップで受け流せばいいじゃん!




 なんで私はそれができないんだ? だから私はカスなんだ!




 泣きそう。凄ぇ泣きそう。べそべそしたいよぉ。

 ながぜでぐれよぉぉぉぉ。




 だけど、しないもん! そう簡単に泣いてたまるか!




 この程度で泣くほどふにゃららな青春を送ってるわけじゃないんだぜ? オッケー? 屈しない女子高生なのよ? ベイビー。




 よし!




 この悲しみのパワーを怨念としてババァに送ってやる。

 ……強烈に願ってやります。




 早死にしろ! ババァ!




 できれば今夜中にゆけ!


 遅くても明々後日には虹の橋を渡れ!


 食事中に顔面が陥没するような怪死をしてさっちゃんのトラウマとなれ! あははは。

 はははは……。




「はぁー」


 うつむいて息をはき出す。


「すぅー」


 顔を上げ息を吸い込む。




 ……義手をしてれば、こんな目に遭わなくてすむんだろうけど。




 義手っていっても装飾義手と能動義手があって、前者は腕っぽい見た目を重視したもので、後者はつまむとか押すとかの動きができるメカっぽい見た目の義手。


 もっというと、人間っぽいかの装飾義手で昔の海賊がしてそうなのが能動義手。




 ややお高い装飾義手はびっくりするほど本物そっくりで、じっくり観察しない限り、それと気づく人はいないだろう。




 人間の人間そっくりなモノを作ろうとする執念には感嘆するぜ。




 だけど、私は義手をしたくないのだ。

 なんていうか……。




 う~~~ん。




 今後のことを考えれば早いうちにした方がいいって説得されたりもする。





 だけど、その。




 私はその多分、その、自分で思うことじゃないのかもしれないけど……




 私は反抗期なんだ。




 誇る? 誇るじゃないな……。なんだ?

 見せつけたい?

 うん。見せつけたいがあってるかな。




 この悪しき世界に! 私の姿を見せつけてやりたいのだ!




 バカにすんなよ! 

 

 なめんなよ! 

 

 ふざけんなよ! 




 誰にってわけじゃないけど、そう言って歩きたいんだ。ファックユー! って気持ちを大切にしたくて。




 なんでそんなの大切にしたいのか、そんなもん私だって知らん。




 でも、ふぁっくゆー! なのだ。




 なめんなー、おらー!




 そういう気持ちを失ったら私じゃなくなる気がする。




 だから、私は義手をしない。

 で、そんなんだからおばあちゃんに教育の道具にされたりしてる。




 怒ったって無駄無駄。バカらしいよ。こんなんじゃ立派な障害者になれないぞ。




 ガンバレ、ファイト。

 少しだけ暗くなってきた空を見上げ、もう一度深呼吸。




 右腕の付け根にそっと手をやって現実の再確認。

 うんうん。やっぱり私の胸みたいにぺったんこ。




 断面の皮膚は他の場所よりちょっと固い。




 皮膚を鍛えるために、手術が終わってからずっと、小さな砂袋でぽんぽん叩いていたからなんだけど、ちょっとやりすぎたかも。




 私ってマゾいから、ああいう痛みを伴う努力が好きで夢中になってしまうんだよね。




 私の右腕に肩はあるけど肘はない。

 肘からちょっと上を一年半前に、ビシッ、と切断したのだ。

 腕が一つないのはいろいろ不便。




 何が困るって、重い物を持つ時に困る。

 だって荷物を左手から右手へと持ち替えることができないのだ。




 スーパーでお買い物をする時はこれ以上買ったら腕が途中でパンパンになっちゃうな、などと考えるようになった。




 不便は不便だけどさ、なければないで人間どうにかなるんだ、ってことを実感する毎日。




 左手に持った爪切りで左手の爪を切ったり、左手に持ったカミソリで左の脇毛を剃ったり、ネクタイを結んだりもできちゃうんだから自分のことながら凄い。




 やる気になりゃ、けっこうできんだなー。偉いよなー、私。




 こんな風に自分をほめてもすっきりしないなー。


 なんとか精神を保つために自分をお褒めしてるんですよ?


 がんばってるもん私!




 そういうこと言うと心の中のもう一人の自分が言うんだ。


 がんばるってことに意味はないんですよ~。


 意味があるのは結果ですよ~、って!




 そんなこと言う奴は婆さんと一緒に死ねッ!




 がんばることには意味がないなんて言われてがんばれるかよー。




 おまえら何にもわかってないよー。




 おまえらが誰かしらないけどさー。頼むよー。がんばりを否定されると泣いちゃいそうになる私だっているんだよー。




 ダメだ、もう!




 存在しない人にまで文句を言い始めた!




 こんな気分の時は、無闇に元気な奴を見て養分を分けてもらおう。

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