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片腕お姉さまと地を転がる少年  作者: 渡辺ファッキン僚一
18/21

小学生の写真が部屋にあったらまずいかな?

「おっ、いいぞ~。いいぞ~。マボー。走れ! 転がれ! 立ち上がってそして走れ! がんばれー!」




 走り回るマボーの動画をスマホで撮りながら叫ぶ。





「そこだ! いけー、腕立てだー! もっとだーもっとー」




 今日のマボーは今日だけなんだから、こういうのを残しておこうって不意に思い立ったのだ。




 ……でも、アレだよね。私の性格から考えて、こういうこと続けていたら、自分の部屋に隙間なくマボーの写真を張りまくる病的な女になってしまうよね? 




 なるな。少しでも気を緩めたら、なる。私は簡単にそっち方面に転がり落ちる女だ。




 簡単に見える!




 マボーの汗とか涙とか欲しがるようになるな。コレクションするの。これは〇月〇日のマボーの涙です、とか。

 爪とか普通に欲しいもん!

 変な事だって気づかずに爪切りをカチカチさせて、爪くれよ、とか言い出すよ。




 いけない!




 そういう自分を簡単に想像できるのだから、そうならないように努力しないといけない。




 小学生相手にそんなことするなんて、世間に言い訳ができない。




 まぁ、みんな以外の歌を歌ってる私が言い訳する必要なんかないのかもしれないけどさ。

 みなさんはみんなの歌をうたえていいですなー。




 いや、こんなとこで反社会的な気分になっている場合ではない。




 これは本当に自制しないと!

 だって! マボーで埋め尽くされた部屋を両親に見られたら相当に気まずい。




 国のしかるべき機関にあずけられることになっても文句、言えない。それがどこだか想像できないとしても、だ!




 だからちゃんと自制してます。そこまで自己主張の強い部屋にするつもりはないです。まっ、一枚や二枚貼るくらいならね。その程度ならいいわけ可能でしょう。




 可能か?




 無理かな? ヤバいかな? 小学生の写真が部屋にあったらまずいかな?




 だってさ! 性別逆だったらどう? ってことだよね。




 高校生男子の私が近所で運動してる小学女子の写真を部屋に貼ってたらどう?




 まっ、まずい。警察案件だ。パブリック・エナミーだ。




 だっ、大丈夫。




 適度な摂取で。適度なマボー分の摂取で生きていく!




「いいぞー、マボー!」




 だから動画も画像も基本的にスマホの中だけにとどめておくのだ。




 あっ。スマホが壊れたらどうしよう。スマホって急に壊れるもんね。そしたら、マボーの写真や動画が!




 消えしまう! 大変!




 いや、なんか自動的にこの世のどこかに保存されてる分はあるけど、現状そういうのオーバーしてる。




 消えたら、泣く!




 泣くだけならいいんだけど、失ったことで感情が暴走しそうなんだよね。嫌な意味で思い切った決断をしてしまいそう。




 忘れられない思い出を作るためにマボーを一週間くらい監禁とかしそう。

 今の私なら簡単に何かを振り切ってしまいそうで恐い。




 ──マボーを監禁。




 なんて、甘美な響きだ!




 たっ、たらいで! たらいってどこで売ってるのかわからんないけど……。

 ホームセンターに行けばあるのかな?

 とにかく、たらいで体を洗ってあげたりとか?

 そういことができるのでは?



 ……んっ?




 運動をやめてマボーがとことこと近づいてくる。




 あれ? いつもはこんなに早く終わったりしない。どこか体の調子が悪いのかな?




「どうかしたの?」




 マボーは少し恥ずかしそうにして、




「お姉さま、オレの応援するのやめてくんないか?」


「あ……。もしかして、迷惑だった?」




 うるさかったかな?




「迷惑っていうかさ。練習って応援されるもんじゃないだろ?」


「あっ、うん。そうかな? で、でも、部活のマネージャーとか練習している人を応援してるじゃない。がんばー、って」


「そういうのもあるかもしれないけどさ。でも、それって大勢でやってるからいいと思うんだ。オレとお姉さまの二人だけでやってると不自然じゃないかな?」


「んー、まぁ……そう、かな?」


「オレさ、去年、空手の大会に出たんだ」


「え? う、うん。あ、マボーって空手やってたんだ」




 ……私、マボーのこと何も知らないな。




「うん。去年まで道場に通ってたんだ。大会でさ、おばあちゃんが撮影しながら大声でオレの応援するんだ」


「祖母としてはお孫さんの応援はしちゃうんじゃないの?」



 マボーみたいな可愛いお孫さんがいたら、そうなるだろう、と思う。




「そういうもんなのかもしれないけど……。そうやって叫ばれると恥ずかしくて、試合に集中できないんだ。今のお姉さまって、おばあちゃんみたいだ」




「ひえっ?」




 言われた瞬間、喉の奥で変な声が出た。




「おばあちゃんに応援されているみたいで落ち着かないから、黙って見ててくれないか?」




 だっ、ダメ押しが来たッ!




「おっ、おっ、おっ、おばあちゃんみたいでしたか?」


「うん」




 心の底からの困ったなぁ、という気持ちの伝わるうなずきをビシッと決められてしまった。




「今日のお姉さまはオレおばあちゃんみたいだ」




 そう言ってマボーは私に背を向け、小走りでグラウンドに戻っていった。





 ……おっ、おおおぉぉぉぉ、おおおぉぉぉ。




 膝から崩れ落ちる。




 高校一年生なんですけど……。

 おばあちゃんみたいでしたか?




 こっ、この野郎! ちくしょう!




 ──パンツを見せたろうかな、ってふと思った。




 でもパンツを見せて、おばあちゃんみたいだ、って言われたら多分、泣くことになるのでやめておこう。

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