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片腕お姉さまと地を転がる少年  作者: 渡辺ファッキン僚一
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じゃ、明日デートでいい?

 マボーは私をじっと見つめたまま、言い訳するみたいに言う。



「オレは頭が悪いんだ」


「……そうなの?」




 素直で実直で鈍感だとは思う。いや、敏感なのかな? 

 泣いたらすぐ来てくれたし!


 悲しいことがあったら飼い犬や飼い猫が側にいてくれた、みたいな話ある。

 そういう意味では敏感かも。




 野生の敏感さはあるかもしんない。




 でも、頭が良いと悪いとか、そういうの思ったことない。




「頭が悪いからさ。ジムとか道場に通って、誰かに体の動かし方を教えてもらってもよくわかんないことあるんだ。……言われたとおりにやっても、そのやり方が体になじまない気がするんだ」




 わかる気がする。

 数学とかそう。教えられても体に入って来た気がしない。




「だけど自分でいろいろやって疑問に思ってから教えてもらったら、わかることが多いんだ」




「予習していくとよくわかるってこと?」




「そういうことかな? わかんないけど……」




 わかれよ。私の気持ちわかれよ。とは思うけど黙って話を聞いてあげる。




「最初から教えてもらった通りに全部できたらいいと思うんだけど……。でも、オレはそれがうまくできないから、だからここで一人で走り回って疑問をためてるんだ」


「ためてるってことは、その……疑問でパンパンになったら、ここに来なくなるってこと?」


「うん。そういうことになると思う。その時が来たら、親に頼んでどっかジムか道場に通わせてもらおうと思う」




 ──マボーって、本気なんだな。




 私はそんなこと考えたことない。

 努力しないといけない時は努力しようと思うだけ。

 しなきゃいけないからするだけで積極的じゃない。

 努力するっていうのは常に受け身。




 自分はこういう人間だからこうしうようとか、

 そういうの積極的に考えたことない。




「マボーって頭いいんだね」


「違うって。頭いい奴は人の話をちゃんと聞いて全部できる奴のことだよ」


「そうかもしれないけど、マボーも頭いいと思う。……ンッ!」




 私は濡れた犬みたいに、ぶるっ、と全身を左右に大きく素早く振る。。




「どうした?」


「頭いいんだから覚えておいてね。ここに来なくなる時は私にちゃんと連絡して! そうじゃないと、ハチ公みたいになるから! そこの水飲み場の辺りに私の銅像が立つからね!」


「その時はあの銅像、俺の知り合いだよ、って友達に自慢できるな」


「マボー! もー! 冗談じゃなくて本気で言ってるんだからね!」


「お姉さまは本気で、自分が銅像になる心配してるのか?」


「バカ! 私が心配してるのはマボーからの連絡が途絶えること!」


「だから、するって」


 マボーは呆れたように私を見やってつぶやく。




「お姉さまって寂しがり屋なんだな」




 こっ、このガキ!




 くそが。




 おまえ頭いいのに私のこと全然理解してないよな。くそが!

 マボー以外の人にこんなこと思ったりしないよ、私。




「そうなんだよ。寂しいの嫌いなの。想像するだけで泣いちゃうんだから、私に寂しいなって思わせるな。そういうことしたら、噛みつくからね」


「噛みつかれたくないな」


「犬歯をがっちり使うから」


「犬歯をか……」


「先端をガシッと入れて肉をかきだすように動かしてやる」


「わかった。寂しがらせないように努力するよ」




 努力するんか。




 本当だろうな。




 するんだろうな、努力。




 本当にしてくんないと、泣くぞ。




 口だけだったら、私、怒るよ。




「だったら明日、デートして。土曜日でしょ。学校ないでしょ。予定がないんだったらデートして」


「んっ? ……デート?」




 泣いてテンションが上がった状態だから、唐突に言えた。断られても傷つかずに流せるタイミングだと思った。




「いいけど」




 いいんだ?




「でもデートって何をするんだ?」




「え? あ、いや……だから、二人で遊ぶんだよ」




「何をして? オレんちでゲームでもする?」




 いや、あの、お家デートはちょっと早い。っていうか、小学生の家に行ってゲームする女子高生とかいろいろまずい気がする。

 ご両親になんて挨拶すればいいのかわからん。

 というか絶対にやっちゃいけないことだよね?




 だってさ! 小学生女子の家に遊びに行く高校生男子とか、通報やむなしだもん。そうじゃなくても、社会的に殺されるかもしんない。




「初デートだから普通にしよう。映画行って、喫茶店でお喋りするの」




「オレ、お金、持ってないぞ」




「気になさらないで。そのくらい、私が出して差し上げますわ。それにわたくし、障害者手帳を持っておりますのよ」



 そう言いながらポケットから、どばーん、と手帳をマボーの眼前に差し出す。




「映画には障害者割引というのがありまして、高校生1500円のところを900円で見ることができましてよ! そして同伴者1名、つまりマボーも同じ値段で鑑賞できますのよ」




「おおぅ! 凄い!」




 マボーは嬉しそうに両手をパチパチする。




「でしょー」


「オレは1000円だから100円得だ!」




 おおぅ、そうか、小学生は1000円か。100円の得でそんなに喜んでくれるなんて! そういう気持ちを忘れていた気がするわ!




「じゃ、明日デートでいい?」


「デートでいいよ。オレ、映画館に行くの久しぶりだから楽しみだ」




 私の下心も知らずに無邪気にそんなこと言っちゃって。


 ういやつめ、チクショー!


 ういぞ!


 ういぞ!




 下心……? 私、下心をもってデートするつもりなのか?




 マジで?




 いいやー、もー! マボーとデートできるっていうのにちょっとくらいの下心は当然だ!




「私も楽しみだー!」




 そう言って、私は手のひらをマボーに向ける。




 ぱーん、とマボーは私の手のひらを叩いた。

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