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片腕お姉さまと地を転がる少年  作者: 渡辺ファッキン僚一
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ゴートゥーヘルお婆さん

おひさしぶりです。

書きます。

片腕のお姉さま(高校生女子)と無茶苦茶な運動をする少年(小学生男子)の年の差恋愛物です。

SFやファンタジーや伝奇の要素は一切ありません。

現実世界を舞台に二人が真っ直ぐな恋をする話です。

よろしくお願いします。

 私は斜めに陽が差す川沿いのサイクリングロードをスキップもどきで歩く。

 頭の中ででたらめなトトロを歌う。




 行くぜ、行くぜ、ぐいぐい行くぜ~♪




 踵を上下させるたびに、髪とスカートと空っぽの右袖がパタパタ揺れて楽しい。




 幼稚園の頃、くるくる回ってスカートを膨らませるのが大好きだった。




 何があんなに楽しくて、あははは、な気持ちになったのか、今では謎だけど、こうやって歩いているとその頃の気持ちを少しだけ再現できる。




 あははは、まではいかなくても、うふふふ、な気分にはなれている、と思う。




 軽やかに楽しく生きていきたいです!




 ……おっ?




 正面から歩いてきた幼女を連れた老婆が私を見るなり、ギョッ、としか表現できない顔をした。




 普通の人ならそんな顔をしたあと、慌てて何もなかったように振る舞うか、気の毒そうに眉をひそめるはず。




 今までみんなそうだった。




 片腕の女子高生を見たら誰だってそうなります! わかってるんです。私だって目の前に突然、片腕の人が現れたそうなるかもしんないもん。




 でも中にはそこで終わらない人もいるんですなー。

 私が片腕だってことに物申したいって人がいるんですなー。




 このご老人も多分そう。

 髪も肌も服も茶色な老婆は幼女の手を引いて、すすっ、と道端に寄ったのだ。




 あれれ? 川に落ちちゃいますよ、と注意したくなるほどの寄りっぷりだ。




 年を取ると感受性が鈍くなって、何事にも動じなくなるって聞くのに、老婆の驚愕時間は異様に長い。




 心が若いんだろうか?

 それとも驚きすぎて死んだか?




 見られただけで人を殺めてしまうなんて私は妖怪か? メデューサか? メデューサは石にするだけだから違うか。でも石になった時点で死んでるからいいのか? 




 ……というか、この思考、抜群に脳細胞と時間の無駄だな。

 シナプスが怒りだすぜ。




 おや?




 老婆は幼女を守るように胸の前で抱きしめた。




 ……私が襲いかかるとでも?




 右袖は肘から下がパタパタパタ~ンですから、妖怪的な異様なモノに見えるかもしんないけどさ。




 普通の人より弱い存在だってことは、一目瞭然だと思うんだけどな。だって人を殴る武器が一つないわけだからね?




 何をそんなに怖れることが? 不思議。

 老婆は幼女に何かささやいている。

 すれ違いざまに聞き耳を立てる。




「……悪いことをしたらさっちゃんもああなっちゃうんだよ。だからお母さんお父さんの言うことをちゃんと聞きなさいよ」




 がーん!

 がが~~~~~~~~~~ん!




 スキップもどきは中止。断然中止。大中止。超中止地獄。

 パキパキだ。

 頭の中で火花が散ってパキパキしてるッス。




 マジかよ!




 ぐいぐい大きく股を広げ、スニーカーを地面にめり込ませる勢いで、ドスドス歩く。




 距離ができてから「バカ野郎ッ!」って老婆に言えばよかったと思うけど、即座に他人に罵声を浴びせることができるほど瞬発力のある生き方はしてないのでしょうがない。




 なっ! なっ! なっ! なめんじゃねぇよ!




 くそったれ!




 老婆と幼女から充分に距離をとってから立ち止まり「あ」と「は」の中間音で熱いため息。




 これだけ熱ければアスファルトくらいならドロドロにできる。




「はうあぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁ」




 溶けろ、くそっ!




 本当にそんな息が出たらいいのに!

 リザードンみたいに火を吐きたい。




 もうッ!




 そしたらさ。


 このサイクリングロード、


 この土手、


 この河川敷、


 この街、


 この地球全体を膿んだ傷口みたいに、ドロドロのぐちょぐちょにしてやるのに!


 私の気持ちみたいに汚いモノで覆ってやるのに!




 みんな死ねー!




 小石を蹴り飛ばしたい気分なのに、小石はどこにも見あたらない。




 こ、こんちくしょー。小石がないとかどうなってんだ!

 どうなってんだ、この国はー、おらー。




 サイクリングロードから小石をしっかり除去するなんて、国だか県だか市だか町内会だか知らないけど立派。




 さっちゃんがつまづいて転んだら大変だもんね。機会があったら行政のがんばりを証言してあげる!


 私専用の証言台を用意しとして! 早急に!




 行政、偉い! マジ、偉い!




 私、片腕がないから拍手できないけどさ、左手で太股を叩く拍手もどきをしてさしあげましょーっ!


 一心不乱の大拍手もどき開始! 




 バチバチバチバチ!




 あーん、太股が真っ赤になっちゃう~。




 ……あははは。心の底から高らかに笑う。




 口は開けずに心の中で、高らかに笑う。あははは。天まで届け!




 ガッデム。




 ちくしょぅぅぅ……。なうぅぅぅぅぅぅぅ。

 にうぅぅぅぅうぅうぅぅうぅうぅううぅうぅぅぅうぅぅうぅ。




 こっ、この現代にそんなこと言いますか、お婆ちゃん? 

 勘弁してくれよ!




 こんな私を幼女の教育に利用しないで。




 そんな偏見を孫だかひ孫だかに叩き込むってどうなんです? ダメでしょ、絶対に! 人権意識というかなんというか、ポリコレ? わかんないけど……パリコレ? くそっ!




 とにかく、そういうのが重視される時代なんです! ~~コレ! コレ重視の時代です。コレっておいてくださいよ、マジで!




 何かあるたびに夫が鎌倉方面に走り出しちゃうくらい昔に生まれたお婆ちゃんには難しすぎる考え方かもしれないけど!

 鎌倉武士の妻だからって許されることじゃないですよ。




 ちょっとはわかってくれないと困ります。




 アイラブ人権。


 ゴートゥーヘル老婆。


 マストダイ老婆。


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