第6話 出撃《ソーティ》
【前回迄のあらすじ】
『オジカ事務用品』に勤める平凡な青年『平 盆人』は、偶然、異世界の無敵の軍『衛鬼兵団』の司令官『ユイ』と出会い、この世界での『暫定司令官』に任命される。
盆人は、片想いの彼女との『会話のきっかけ』として『二人の接点』を造る事を提案した。
軍議の結果、衛鬼兵団参謀本部が出した作戦計画は、戦国時代に時間転移して、戦国武将の勢力図を塗り替え、現代での学区を変え、盆人と目標を、同じ小学校の出身にする……という、奇想天外なもの……だった!
……ユイに手を引かれ、歩みを進めると、強い光に包まれた。あまりの眩しさに、目を開けられない。
これが、タイム・トンネル…か?
……唐突に、ユイが繋いだ手を離した。
「お、おい! どこだ??」
手探りで探すが、俺の手は虚しく宙を掴むだけだ。
え? 置いてけぼり?
……前に何かで読んだ事がある。タイム・トンネルの中で経路から外れると、目的の『時点』と全く異なる場所に取り残されてしまう。良く言う、『時間滑落』と言うやつだ。
時間の漂流者となった者は、その漂着した『時点』で、その一生を終える運命が待っている……。
眩い光の道の中で、俺は、只々孤独を感じていた……。
さようなら、鷹音さん……。
さようなら、令和……。
SA・YO・NA・RA……。
「……貴様、一人で何をしている?」
薄目を開けると、ユイの、どデカい顔が目に入った!
「ひえぇ~!!」
驚いた拍子に尻餅をついた……が、痛みは感じない。床を探ると、草むらのような手触りだ。
徐々に目が慣れてきたのか、視界がはっきりして来た。
俺を至近距離で覗き込むユイと、それ越しに、整然と並んだ人影が視え始めた。
……後から判明した事だが、『タイム・トンネル』は俺が勝手に思い込んでいただけで、実は疾っくの疾うに、目的の『時点』に到着していたのだ。
……後から衛鬼兵団技術参謀に聴いた所によると『異世界転移』も『時間転移』も原理は同じで、彼らの技術なら、お散歩気分でタイム・トラベル出来るそうな。
ヤケに眩しかったのは、暗い『衛鬼兵団前哨基地』から、急激に明るい陽光の下に移動した為だった。
更に、戦国時代は、大気が澄み切っており、当然、現代と比べると強い日差しが降り注ぐ為、余計に眩しさを感じたのだ。
俺達は、八瀬の国、細河兵六の本陣に、無事、到着していた。
……いつの間にか、俺は鎧兜を身に着け、ユイは……
……桃太郎さんのような身なりをしている。
思わず吹き出してしまった俺が、ユイの手にする薙刀の石突で、鎧の隙間を素早く正確に射抜かれ、四~五日ズキズキ痛む羽目になったのは、言うまでもない。
……流石は司令官に昇り詰めただけの事はある。良い突きだったぜぇ。
「閣下~、総司令閣下ぁ~」……聞き慣れた声がした。
「おい、呼んでるぞ」
……って、あっ! 俺だった!
「おお、情報参謀ぉ~」と振り向くと、鎧兜を歪に着こなした、ひょろ長い、あの姿が!
おいおい、随分タイトロープな事してるなあ! 下手したら、怪物呼ばわりされて、新兵の弓の教練の的にされ、一巻の終わりだよ!
ユイが腕を組み、不敵な笑みを浮かべ「彼奴を見縊るな……。 ああ見えて、彼奴は名うての交渉人だ。 あたし達が到着する前に、細河氏との軍事協定は締結してある。」と、誇らしげに言った。
へえ~、見かけによらないもんだ。
協定が結んであるのなら安心だ。俺たちは、細河様に、深々と頭を下げ、初対面の挨拶を交わした。
細河様は、名前通りのほっそりとした、感じの良さそうな青年だった。周りの家臣の方々も、優しい笑顔をこちらに向けている。
その時、背中に旗を立てた兵士が飛び込んで来た。
「物見よりの知らせです! 岩熊軍およそ二千、川を越しました!」
「来たか……!」細河様の横にいた、ご家老の顔から笑みが消え、細河様も、兜の緒を締めた。
緊張感が伝播してきた。いよいよ戦闘開始だ。
あのぉ、こんな時に何なんですが……
……俺……作戦を聞き逃してたんですが、大丈夫ですかね……?
↑こんな事を、ユイに聴いてみよう…と思った瞬間、ご家老が右手を上げた。
それを合図に兵士達が……
俺たちに襲いかかった?!
……それは、思いも寄らない出来事だった。
予め伏せてあった多数の兵士達が『投網』を持って、俺たちに波状攻撃を仕掛けてきたのだ。
奴らは瞬時に、幾重もの投網で俺たちを簀巻きにした。 絡みつく網の僅かな隙間から覗くと、細河と家老が、にんまりと嗤っているように視えた。
必死で藻掻くが、藻掻けば藻掻く程動けなくなる。
家老が勝ち誇った声で……
「ふ、この投網は特別誂えでな、鍛鉄を細く引き伸ばした針金を編み込み、殿、御自ら工夫なされた編み方で拵えた『細兵投網』じゃ。下手に動かぬ方が身の為ぞ。」
謀ったな!
「くっそぉ~! 俺は、怒ったぞぉ!」
……怒り心頭で、気の利いたセリフが思い浮かばない。
俺と背中合わせに、一緒に巻き込まれたユイが、冷静な声で
「これは、明らかな協定違反だ。 ……『同盟破棄』と見做して良いのだな?」
細河が「……其方らは未だに時世を判じて居らぬようだな。 ……今は『永禄』の世ぞ。 約定など、片腹痛い!」……と、吐き捨てるように言った。
……俺の背中に、震えが伝わって来た。それと同時に『ギリッ、ギリッ』という妙な音がした。
……歯ぎしりだ! ユイの怒りは頂点に達しているようだ!
「……おい……兄……」 ……ユイが、怒りを必死で堪えながら呟いた。
「……?」
「情報参謀に……『フォーメーション “コード・蜘蛛の子”、出撃』と、命じよ」…と言った。
ユイの怒りが俺にも伝播した。
力強く頷き、
「情報参謀……」
「は……は~い……」
……え? 声近っ。 ……あのバカ、一緒に捕まってたのか……。
俺は、全ての怒りを、この一言に込めて
「フォーメーション “コード・BS”、出撃ーッ!」
と叫んだ!
「御意!」
そうだ!
今こそ、衛鬼兵団の真の力を解き放てっ!
【次回予告】
細河の裏切りに天誅を下すべく、情報参謀に司令を下した盆人。
情報参謀の必殺技『フォーメーション “コード・蜘蛛の子”』とは?
そして、彼等の運命は!?
次回 第7話 強者 をお楽しみに!
【作者より】
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