第4話 愚問
【前回迄のあらすじ】
異世界の無敵の軍『衛鬼兵団』は、その強さから、仕える主に逆らう者を根絶し、皮肉にも不必要となって放逐されてしまった。
彼等は戦い続けないと消滅してしまう……という過酷な運命を背負っていた。
『オジカ事務用品』に勤める平凡な青年『平 盆人』は、偶然、衛鬼兵団の司令官『ユイ』と出会い、この世界での『暫定司令官』に任命される
盆人は、片想いの女性と恋人になる事を願うが、軍議で『不可能』と言われ落ち込む。
しかし、その原因は、衛鬼兵団が『愛』を知らない為……と考えた盆人は、とある提案をする。
俺は、発言の為に挙手した。
「総司令閣下」
……さ、参謀長! 近いんだから、大声止めて! 鼓膜が破れるっ!!
「……これから、一つ問題を出します。『模擬戦闘』してみて下さい」
……壁面がリセットされ、情報参謀が何か準備を始めた。
「たった一人の敵が『致死性』の『自分を閉じ込めたり、殺害した相手に感染し、抹殺する』ウィルスを飲んで潜入しました。どうしたら良いでしょう?」
……参謀たちの表情は全く読めないが、明らかに俺を小馬鹿にしているのは伝わった。
作戦参謀に至っては、「愚問である」と、はっきり口にした。『いっそ清々しい』(←※作者が個人的に好きなフレーズ)
……ところが……だ。
情報参謀は、青ざめて(いるのかどうか、見た目では良くは分からなかったが……)こう言った。
「『戦闘継続不能』……我々は、敗北しました」
壁面のモニターは、全て『×』を示している。
参謀たちが、驚いて全員立ち上がった。 議事堂内は、文字通り、大揺れだ!
彼らは「信じられぬ!」「そんな、バカな!」等と言い、中には「電算機が故障したのか?」と情報参謀に掴みかかる者もいた。
参謀たちの取り乱し様に、ユイは腹を抱えて笑っている。 本当に良く笑う娘だ。
参謀長が俺に向かって何かを言おうとしているのが見えた! これ以上は、鼓膜が保たない! 俺は慌てて机にもぐり、耳を押えた。
「閣下! 隠れている場合ではありませんぞ! これは一体どういう事ですか??」
ユイは、笑い泣きしながら……「参謀長、声がデカい。もう少し小声で話せ」と言ってくれた。
更に続けて、机の下の俺に向って「皆に回答と解説をしてやってくれ」と言った。
……机から這い出ると、参謀達が俺の前に集まっていた。
あ、圧がすげぇ!!
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聡明な『人類』の読者の方なら、この答え、もうお解りですよね。
『答え』は、この後すぐ下にあります。
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……俺は凄まじい圧に耐えながら言った。「『答え』は……
『自分も、敵と同じ部屋に入り、閉じこもる』です」
作戦参謀が進み出て「何をバカな事を。死んでしまうではないか!」と言った。参謀たちも、その言に同意しているようだ。
俺は続けた
「皆さんは、こうお考えでしょう。『致死性ウィルスに感染した敵』を『閉じこめたり、殺害した』為に『感染した味方』を、抹殺してしまえば、それで解決する……と」
全員が頷く。やっぱり可愛い。
「ところが、その『感染した味方』を抹殺した者は『致死性ウィルス』に感染してしまい、感染はさらに拡がります。さあ、どうしますか?」
作戦参謀が「当然、ウィルスに感染した者共を皆殺しにすれば、それで終わり……あっ!」
「お気づきですね。感染者を閉じ込めたり、殺害する度に感染が拡大し、やがて……」
そう言って、俺は、促すように、作戦参謀を見上げた。
作戦参謀は、悔しげに
「自分らは……絶滅する」……と小声で答えた。
「そうです。この問題は『自分だけが生き残れば良い』と考えている限り解けません」
更に、俺は続けた。
「他者を救う為に自分が『犠牲』になる。 皆さんには思いもよらない事でしょう」
情報参謀を向き「先程、貴方が言っていた『強大な要因』……それが、この問題を解く重要な鍵になります」……と言うと、情報参謀は身を乗り出した。
「『自分より大切な人々を守る為に、一番大事な自分の命をも投げ出すことが出来る心』……それこそが、我々人類が持ち、貴方方に無い、強大な要因『愛』の力です!」
俺は作戦参謀に向って「人類が、俺のせいで滅亡してしまうような事になるなら、俺は『恋人』など要りません」と言い、席に戻った。
暫しの沈黙の後、情報参謀が手? を叩きながら……
「素晴らしい。 わたくし達には想像もつかなかった!!」……と言ってくれた。
あの強面の作戦参謀も、俺を見て頷きながら拍手している。 ……まあ、怖い顔に変わりはないが。
……他の参謀たちも、徐々に賛同し始め、ついには参謀全員が立ち上がり、手や触手を叩いてくれている!
『スタンディングオベーション』だ! 今までの人生で、こんなに褒められた事など無い。 ……褒めてくれているのが、人類では無いのが、やや不服ではあるが、まあ、喜んでおこう。
俺は参謀の皆さんに向かって、感謝の気持ちを込めて、丁寧にお辞儀をした。
ユイは、黙って俺たちのやり取りを聴いていたが、満足げに……
「貴様を司令官に任命した、あたしの目は間違っていなかったであろう」
……あれ? 偶然……って言って無かったっけ?
【次回予告】
改めて『司令官』として認められた盆人は、いよいよ憧れの女性『鷹音 野華』攻略の為に『衛鬼兵団』の軍議を凝らす。
果たして無敵兵団が練った『攻略作戦』の内容とは?
次回 第3章『初陣』
第1話 講義 をお楽しみに!
【作者より】
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