第2話 肉迫
【前回迄のあらすじ】
異世界の無敵の軍『衛鬼兵団』は、その強さから、仕える主に逆らう者を根絶し、皮肉にも放逐されてしまう。
彼等は戦い続けないと消滅してしまう……という過酷な運命を背負っていた。
『オジカ事務用品』に勤める平凡な青年『平 盆人』は、偶然、衛鬼兵団の司令官『ユイ』と出会い、この世界での『暫定司令官』に任命され『戦う』事を託される。
ユイと共にアパートに帰った所を、大家さんに急襲された盆人!
しかし、ユイの一言で、無事に難を切り抜ける。
ユイは、盆人の『妹』としてこの世界に潜入する事に成功したのだった。
少女と二人で俺の部屋に入る。 男臭さが心配で、急いで換気したが、少女はそんな事に構わず、居間の真ん中で手枕して寝てしまった。
その時間0.88秒。ドラ○もんの○び太君が、昼寝まで0.93秒だから、この少女の方が、僅かに勝っている。 素晴らしい。
少女に薄手の毛布をかけ、俺は部屋の隅に小さなテーブルを出して、食いかけのサバ缶をつまみに、冷蔵庫のビールを飲み始めた。
ふと自分の胸に視線を落とすと、相変わらず、例の『徽章』が輝いている。
いびきをかきながら、ぐっすり寝ている少女を横目に、俺は部屋の反対側に飾ってある、『友結』の写真に語りかけた。
『この娘、もしかしたら……お前の生まれ変わりかも……な』
友結は、俺が小学生の頃に病気で亡くした、たった一人の妹だ。
『少女』というのも不自然だし、この娘も、何故か自分から言ってくれたから、今後は、『ユイ』と呼ぶ事にした。
ユイ……一つだけ教えてくれ……。
このバッジ、どうやって外せば良いの?
ユイは、寝息をたてて、穏やかに寝ている。 起こすのも可哀想だ。 このバッジ……『司令徽章』を拾ってから色々あった上に、酒の力も加わって、俺も眠りについた……。
……翌日……。
シャワーの音が、部屋中に響き渡る……。
いつもは自分が入っているから、この音を居間で聴くのは初めてだ。
今、仮にも、うら若き乙女……が、シャワーを浴びている。 一応、俺も男だから非常に、居たたたたまれない ← 動揺
頭を冷やしに外出したいが、その為には透け透けのシャワールームを通らなくてはならない……。 これこそ、まさにジレンマと言うやつか?
部屋をウロウロしていると、シャワールームのドアが開く音がして、ユイが出て来た!
「ああ~っ、あづいぃ~!」と言いながら、居間の真ん中に座り込んだ。……どうもこいつは、居間の中央を陣取る習性があるようだ。
……色白な顔や小振りなバスト、キュッと括れたウエストに、意外な程、締まった手足は、全体的に、ほんのりと赤らみ、全身びしょびしょだ。
……ぜ! ぜんしん!?
「ば! 馬鹿! タオルくらい巻いて来い!」
そこら辺にあった毛布で隠そうとするが、嫌がって剥いでしまう。
「止せ! 暑い!!」
暑い寒いの問題では無い! これは『倫理』の問題! ユイ、ゆいしき事態…… 由々しき事態……だ ← 混乱
*********************
……ぐっすり寝ていたユイが目覚めたのは、翌日の昼近かった。
窓から射し込む陽光に照らされたユイは、何処をどう彷徨っていたのか、あちこち汚れていた。
会社をズル休みして、近くのスーパーで女物の下着やら、タオルやら、生活必需品等を買って来た。
レジのおばさまの白い目は、一生忘れんぞ!
*********************
そんな思いまでして買って来た下着やバスタオルをムダにすんなよ~!
……エアコンと扇風機をつけて、ようやくバスタオルを巻き付ける事に成功した。
……はあ~っ、どっと疲れた……。 危うく、本作品に年齢制限がついてしまう所だった。
次は、俺がシャワーする番だ。 昨夜は着の身、着の儘で寝ちゃったから、早くさっぱりしたい。
居間への入り口は、念の為、カーテンを画びょうで留めておいた。 カーテンの隙間から、俺の新品のYシャツを投げ込んで、ユイに着るように命じた。
ふむ。 これで安心してシャワーできる。
服を脱ぐと、例の徽章は、自動的にシャツに移動した。 更に、シャツを脱ぐと、まだ生々しい痣が残る肌に直接くっついた。
……俺は、孫悟空の頭に嵌っている輪っかを思い出していた。
……もしかしたら、これ、一生取れない……のかな?
まあ、良いか! 死ぬ訳じゃ無い! 俺の長所は、諦めの良さ、だ。
やや熱めのシャワーが心地良かった。
う~ん! さっぱりした! ……無精ひげも剃って、爽快そのものだ。
カーテンをくぐり、居間に入る。
ユイが俺を見て、こちらに向き直り「ほぉ、男前になったではないか」 ……と、お世辞を言った。
止せやい! 照れるじゃん。
……って、おい! 頼むから、ボタン閉めろ! ……ってか、更に付け加えさせて貰うが、その前に、下着くらい着けろ!
明後日の方向を見ながら、俺が貸してやったYシャツのボタンを閉めつつ……
「ところで、君は何で『友結』を知ってたんだ?」 ……と聴いた。
「貴様が『司令徽章』を拾得したと同時に、情報参謀に命じて、貴様の総てを調べ上げた。 万が一、我々と相対する思想があらば、拙い……からな」
なるほど。 ……親しい友人にすら話した事が無い友結の事まで調べ上げるとは…… こいつら、本当に凄ぇな。
「さて、我が衛鬼兵団の全貌を知り得たであろう。 改めて問う。 何か願望はあるか?」
俺は少し考えて……
「……今、切実な願望は、『君の服を買いたい』……って事だよ。 そんな格好で動き回られたら気が散って仕方ない!」 と言った。
ほんと、マジでお願いしたい。
ユイは、目を丸くして俺を見ていたが、一呼吸おいて…… 可愛らしい声で笑い出した。
あまりにも楽しそうにコロコロと笑うので、何だかこっちも釣られて笑ってしまった。
「心得た。」
……笑い終えたユイが真顔になり、真剣な眼差しを俺に向けた。
……俺が息を呑んで固まっていると、ユイは躙り寄り、俺のデリケートな対人距離を踏み越えて急接近して来た! そして、俺の両腕を掴み
「動く……でない……」
と囁いて……顔を近付ける……。
な、なに? やだぁ! キ、キス? はじめてのチュウ?
ユイが俺の胸にある『司令徽章』に何かを呟くと同時に、眩い光が目の前に広がった。
眩んでいた視界が戻ると……ユイが初夏の装いを着こなしていた。 ざっくりした若草色のブルゾンとクリーム色のパンツ。 加えて薄黄色のベレー帽。 ゆるふわ感あふれるコーデだ。 初めて会った時より、遥かに大人びて見える。 俺は、もう一度、息を呑んだ。
「これなら、如何に?」……と言って、俺の前でクルリと回り、ポーズを決めた。
完璧だ。 完璧な美少女だ。 ……口調さえ普通であれば……。
改めて、ユイに願い事を訊ねられた盆人は『秘めた願い』を告げる。
再び軍議が凝らされ、盆人の『願い』が評議される事に!
次回 第3話『諦観』をお楽しみに!
【作者より】
お読み頂き、心より感謝申し上げます。
ブックマークやご感想を頂けますと、本当に励みになります。
何卒宜しくお願い申し上げます。