第1話 急襲
【前回迄のあらすじ】
平凡な青年『平 盆人』は異世界の『無敵兵団の司令官』と名乗る少女と出会う。
少女は盆人を、この世界の『暫定司令官』に任命し、願いを叶える……と言う。
彼が提示した『公園で風船を離してしまった、どこかの子供の風船を取ってあげる』と言う願いを、狙撃手や工作部隊の活躍で叶えた無敵の軍『衛鬼兵団』の威力に、ただただ驚く盆人だった。
日が伸びたとは言え、そろそろ薄暗くなってきた。
この辺りは、夜も人通りがあり、治安は良い方だ。
……だからと言って、この少女をこのままにして行けない。 しかし、俺のアパートに連れて帰る訳にもいかない。
「俺、そろそろ帰るけど、君はどうする?」
少女は「案ずるな。 ここで夜営する」……と言って、ベンチに座った。
「君の世界では安心かも知れないけど、この世界では、君くらいの年齢の娘は危険だよ。 誘拐でもされたら大変だ……」 ……と言った所で、まだ少し痛む自分の腕を見た。
……こいつをこのままにしたら、人類の存亡に係る! 熟慮の末、俺のアパートに連れて帰る事にした。
数分歩くと、アパートが見えて来た。 俺は、誰か知り合いに会わない事を祈りつつ、早足で進んだ。
「平さん」 ……後から声を掛けられた。 よりによって、大家さんだ!
「こ、こんばんは」 ……キョドらないように気を遣いつつ挨拶する。
「はい、こんばんは」……と言いながらも、大家さんは、少女に懐疑的な目を向けていた。
「あ、こいつですか? こいつは……」
「あたしは、衛鬼兵団 司令官『平 ユイ』大将だ。 貴様こそ、所属と階級を申せ!」
あっちゃ~…… 言っちゃった!
……大家さんは、鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしている。
俺は咄嗟に「こ、コラッ!大家さんに何て事を!」と、少女を叱った。
ところが大家さんは恵比寿顔で……「ははは、最近は兵隊ごっこする子など居ないと寂しく思っていたが、まだ居ったか」
大家さんは、少女の前で挙手の敬礼をして優しく、「はっ、大将閣下! 自分は、このアパートの管理人、矢主 建造少尉であります。 お見知り置きを!」と宣った。
少女は満足気に頷き、「ふむ。 兄がいつも世話になっておる。 あたしも暫し、滞在する故、宜しく頼む」と言った。
大家さんと言えば親も同然。 その大家さんに、こんな不遜な挨拶をする奴は初めてだ。 いっそ清々しい。
大家さんは「はい閣下! 承りました」と、少女にもう一度敬礼し、俺に向かって 「可愛らしい妹さんだな。 オレの孫も可愛いぞ! 今度遊んでやってくれ」 ……と言い残し、上機嫌で去って行った。
……運が良かった。 大家さんが判っていれば、これからは一安心だ。
それより……『平 ユイ』って……。
【次回予告】
『ユイ』と名付けた少女を室内に招き入れた盆人は、天真爛漫な少女の行動にドキドキが止まらない!
シャワーから出てきたユイに、盆人は必死で『ある事』を懇願する!
さて、盆人の願う『ある事』とは?
次回 第2話 肉薄 をお楽しみに!
【作者より】
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