第3話 大綱〜威力
【前回迄のあらすじ】
平凡な青年『平 盆人』は、空腹で倒れた少女を助ける。
「何か願い事は無いか?」と聴く少女に、目の前で風船を離して泣いてしまった子供に「風船を取ってあげたい」との願いを告げると同時に、少女と盆人は『議事堂』に転移した。
……そこには巨大な怪物の様な『参謀』が列席し、盆人は、評議内容の提示を促された。
「第2公園で、風船を離しちゃった子の、風船を取って上げたい……んですが……」
……と、俺は、おっかなびっくりお願いした。
参謀長が一礼し、他の参謀たちを見回す。
参謀たちは姿形や大きさが、てんでんばらばらで、各々のサイズに合わせた椅子に腰掛けている。
「情報参謀」
……参謀長が指名すると、俺たちと同じ位の背丈だが、明らかに異なる外見の、ひょろ長い奴が一礼し、台座毎、正面に移動した。
すると、壁の一部が左右に割れ、スクリーンらしき物が出現した。 そこには、泣いている子供と、飛んで行った風船が写っている。
「え~、今次作戦に関しまして~、検討致しました所ぉ~」 ……見た目通りのコミカルな声に、思わず笑いそうになったが、何とか堪えた。
「この浮揚性玩具はぁ~、第18族元素の中でもぉ~、最も軽い気体を充填し~」
……情報参謀の言葉を聴いていたら、大学時代の化学の授業を思い出し、条件反射で、ついウトウトしてしまった。
「総司令閣下」
「……」
「総・司・令・閣・下!」
……。 やべっ、寝ちゃってた。 ……総司令って…… あっ! 俺か!
「は、はいっ、何でしょ?」
「今次作戦の大綱が定まりました。 作戦参謀より、説明致します。 ……作戦参謀!」
「はっ」
……今度は、打って変わって、いかにも無骨そうな、キズだらけの参謀が立ち上がり、俺に一礼してスクリーンに向かった。
「先程の情報参謀の分析から、次に示す方法で、浮揚性玩具を占有者の手元に帰還させようかと思う」
スクリーンに、模式図が表示された。
「先ず、狙撃により、当玩具にベント弁を打ち込み、浮揚性ガスを排出させて高度1150まで降下させ、弁を閉じる。 次いで、送風機により、目標まで誘導し、占有者が玩具の持ち手を掌握すると同時に、再び狙撃により、当玩具の給気口近傍に超小型バラストタンクを打ち込む。 最終工程としてバラストタンクをブローし、浮力を与え、任務を終える。 ……このような作戦で、宜しいか?」
『宜しいか?』 と言われましても…… こちとら、風船を取って貰いたいだけ……なんですが……。
「……その、弁? とか タンク? の費用って…どのくらいかかるんですかぁ?」
……一人暮らしの俺は、まあまあ貯金はあるし、生活に困っても居ない。 が、見ず知らずの子供に風船を取って上げる為に、何百万、何千万円も捧げる程の余裕は無いよ。
「軍事費用の徴収等せん。 戦いこそが我等、衛鬼兵団の報酬ぞ」 ……と、少女が言った。
「なら、お願いします」 俺は頭を下げた。
参謀長が答礼し、「これにて、軍議を終える。 各自、戦闘配置に着け」
……参謀長の閉会の辞と同時に、暗雲が晴れたように夕焼け空が戻ってきた。
俺も少女も、元の服装に戻っている。 公園の時計を見ると、あれから時間は経過していないようだ。
ふと、さっきの子供に目をやると、風船を持ち、お母さんと手をつないで、笑顔で家路につく所……だった……!
え? 本当っ??
「我が兵団の威力、思い知ったであろう?」
「お、お見逸れしました……」俺は、啞然としながら、お礼の言葉を述べた。
【次回予告】
日が暮れて、少女をそのままにして帰れない盆人は、少女をどうしようか迷う。
迷う盆人を様々な危機が襲う!
次回 第2章『願望』
第1話 急襲 をお楽しみに!
【作者より】
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