第5話 超弩級砲雷
【前回迄のあらすじ】
『オジカ事務用品』に勤める平凡な青年『平 盆人』は、偶然、異世界の無敵の軍『衛鬼兵団』の司令官『ユイ』と出会い、この世界での『暫定司令官』に任命される。
『衛鬼兵団』の活躍で台風を回避した盆人。
ユイと、同僚の長瀬、長瀬の恋人の青木さん達と夏祭りに向かう。
『第三次鷹音 野華攻略作戦』が開始された!
約束の時間まで、まだ1時間以上ある。
先ずは神頼みだ。 ユイ、マジで、やり方見ててよ! バチ当たると嫌だからね。
二人ずつ、お参りする。 ユイもおっかなびっくり真似してくれた。
「長瀬さ~ん! 平さ~ん!」
こ!……この美しき川のせせらぎのような尊いお声は……
「鷹音さ~ん」と、声に聞き惚れて凝固している俺に代わって、長瀬がナイスな迎撃!
……な、なんで? まだ待ち合わせの時間まで1時間近くあるのに!
「『夏祭り』なんて久しぶりだったので、待ちきれなくて……」
慣れない下駄をコロコロと鳴らし、鷹音さんと女性一人、男性一人が来てくれた。
一応、仕事上の付き合いではあるので、きちんと挨拶し、自己紹介をした。
鷹音さんと一緒にいらした方は、同じ受付係の落合真子さんと、その恋人、アティロム物流部の藤岡和雄さんだ。
こちらも、青木さんとユイは初顔合わせなので自己紹介した。
ユイは、例によって、「衛鬼兵団司令、平 ユイ大将」と名乗ったが、それはそれ、ユイの可愛さに話題が集中し、華麗にスルーされた。
全く、『可愛いは正義』って本当なんだな…と思った。
鷹音さんたちも、先ずお参りする……との事で、俺たちも、もう一度お参りした。
これは、この奇跡を与えて下さった神様への『御礼参り』(本当の意味で)だ。
守屋神社の夏祭りは、『ザ・夏祭り』という表現がピッタリの、古き良き時代の情景に満ち溢れている。
ユイは当然、戦場しか見てこなかったから、こういった『楽しむ為の場所』は不思議で仕方ないのだろう。
……日頃の落ち着きが全く無く、辺りをキョロキョロと見回している。
そこまで物珍しいのか?
……いや、この落ち着きの無さは尋常では無い!
「ユイ、どうした?」
ユイは大きな目に涙をいっばい浮かべ……
「ここには、おにぎりを売っている店舗は無いのか?」
……と言い、それと同時に、両の目からポッロポロと大粒の涙が溢れ落ちた!
ええ~?? 泣くほどぉ~??
「ユイさん! 大丈夫?」……鷹音さんが手にした可愛らしい巾着袋から、ポケットティッシュを出して、ユイの涙を拭いてくれた。
ユイは、しゃくり上げながら、「すまぬ……。 感謝する」……と言って、鷹音さんにぴったりとくっついた。
それを見たとき、俺はある事に気が付いた。
ユイは、人体の細胞配列を完璧に模している。 その為、衛鬼兵たちが、本来欠如している『愛』や『情』という『心』が生じ始めてるんだ! だから、優しくしてくれた鷹音さんに、甘えたくなったんだ……。 俺はこの奇跡に少しだけ感動を覚えた。
俺が、「こいつ、今、両親と離れて暮らしてるから、寂しいんでしょう…… 馴れ馴れしくて申し訳御座いません……」と言うと、
「いえ、私には姉妹がおりませんので、妹ができたみたいで、寧ろ嬉しいです!」……と、ユイの肩を優しく抱いた。
ま~! なんて良い方~
……菩薩か? 聖母か? 自由の女神か? あと……後は誰がいたっけ? ←知識不足
その時、そんなロマンチックな雰囲気を全崩壊へと誘う、ユイの腹の虫が雄叫びを上げた!
鷹音さんが、ユイを強く抱きしめながら、必死に笑いを堪えている。
ユイ……今だけその場所、俺と代わってくんない?
「お~い! ユイ閣下~」
ふと見ると、長瀬と藤岡さんが、夏祭りの定番、焼きそば・たこ焼き・イカ焼きを、落合さんと青木さんが、綿あめ、リンゴ飴、瓶入りのラムネを買って来てくれた。
補給部隊が輸送して来た食料の多さに、鷹音さんが堪えきれず、声を出して笑っちゃっている!
長瀬が「平さんが、資金提供して下さったので、皆さんで戴きましょう、」
……と言った。 そうだ! さっき長瀬に軍資金を渡しておいたんだった。
休憩所で、総員、輪になって大量の補給物資を食べ始めた。 アティロムの皆さんも、恐縮しながら召し上がってくれた。
ユイは、珍しい食料の数々に、目を輝かせながらパクついている。 その姿が、また笑いを誘っていた。
……俺は、個人的に『イカ焼き』がツボった。 『地球外殻イカ焼き化作戦』のお陰で、この楽しい一時を過ごせるのだからね!
……さて、談笑している流れで長瀬が……
「実は俺、ユイ大将とサバイバルゲームをやっているんですが、何方か『サバゲやってるよ~』……って方、いらしたら、挙手をお願い致しま~す」
……と、舌戦の口火を切った。
ユイは綿あめを指でぎゅうぎゅう固めながら
「あの模擬訓練はいいぞ~! 誰かおらんか?」と言って、カッチカチの綿あめ……最早、只の砂糖の塊を口に放り込んだ。 ……お前、そんなの美味いか?
藤岡さんは「俺は、インドア派だから、専らコレです」……と、両手でコントローラーを持つジェスチャーをした。
長瀬は目を輝かせて「コレ出来るなら、コレ出来ますよ~! 今度是非やりましょう! ね! 閣下!」 ……最初のコレはコントローラー、次は銃を持つジェスチャーだ。
「ふむ! コレは良いぞコレは! 所で、コレってなんだ?」
長瀬が「そうか~、平先輩はゲーム機が無いから、閣下はコレを知らないんですね~」
「コレなら知ってるが、コレは知らん」
……って、おい! 頼むから、これ以上『コレ』って『指示詞』使うの止めてくれ! 文章が長くなっちゃうよ! この作品は、ただでさえまどろっこしいんだから……。
……長瀬が軽く笑顔を見せ、俺に目配せした。
……!
いよいよ、敵中枢に斬り込むようだ。
「皆さんは、お休みの日って何なさってるんです? お暇ならコレ、やりましょうよ~」このコレは、コレだ ←役割放棄
藤岡さんが「お前、Web小説書いてんだよな」……と、落合さんに向って言った。
落合さんは「やだ、恥ずかしい……」と下を向いた。
伏兵、青木さんが、ゲリラ戦を仕掛ける!
「Web小説って、楽しそうですよね! 私も興味あります。 鷹音さんは、落合さんの小説って、読まれた事、お有りですか?」
長瀬分隊は外堀から埋めて行く戦術を得意とする。 そして、ガッチリ固められた包囲網からは、何人たりとも、逃れる事は不可能なのだ!
「……実は、会社で真子ちゃんの小説を読んだ事があるのは私だけなんです! すっごくハラハラして、面白いんですよ! ……内緒なのが惜しいんですけど。」
青木さんが「私も読みたいな~。 鷹音さんは書かないんですか?」……と、包囲網をジリジリ狭めて行く!
鷹音さんは、両手を可愛らしく振りながら「とんでもないです! 私、機械類が苦手で……」と言った。
長瀬が、もう一度、俺にアイコンタクトして来た。 敵総大将の首級を上げる第一功の好機到来を伝えてくれたのだ。
俺も、長瀬分隊の誘導尋問のコツを掴んできた!
よし! 参戦!
「……そんな風に見えないですよ! スマホなんて最新機種を両手で爆打してそうに見えます!」
「無理です~! パソコンのキーボードだって、見ながら打ってるんですから……」……と困り顔をした。
もう、どんな表情もブロマイド級(←死語)に尊い!
いよいよ、王手、チェックメイト、ビンゴ、UNO! 投了? 詰み? あと何があったっけ?
「……この時代に機械がお嫌いだったら、お休みとかって、何をされてるんですか??」
「私、趣味が無くて……。 皆さんが羨ましいです……」
「野華さん、お料理、めちゃくちゃ得意じゃないですか~」
……落合さんは俺たちの方に身を乗り出して
「鷹音さんの腕前、プロ以上ですよ。 ふわっトロのオムライス、皆さんに食べて欲しいわ~」
「その皆さんも、是非食べさせて欲しいです~」……と、つい口から出た、俺の心からの声が面白かったのか、一同大爆笑になった。
その時、青木さんが、俺の第一功を上回る、大量破壊兵器並の超弩級砲雷を放った!
「鷹音さん『LINE』はお使いです?」
「はい、連絡用に、LINE は良く使ってます!」
「交換させて頂いて良いですか? 落合さんの小説も是非読みたいですし……」
俺も「俺たちも、交換して良いですか? ……是非ご馳走になりたいです!」と、流れに乗る。
ユイが一言……「兄は良く食うから、量は多めに依願する」と言いやがった。
鷹音さんが「もしお時間が合えば、ユイさんにも召し上がって欲しいな」……と言ってくれた。
俺が「ユイも来るなら、倍量でお願い致します」……と頭を下げた。
そんな俺が、ユイの肘に脇腹を素早く正確に突かれ、四~五日ズキズキ痛む羽目になったのは、言うまでもない。
……流石は司令官に昇り詰めただけの事はある。相変わらず、良い突きだったぜぇ。
鷹音さんは、来週から家族旅行で海外渡航してしまうので、その後に、またこのメンバーで会う約束をした。
付け加えると、青木さんと落合さんはWeb小説の事で盛り上がり、二人で遊ぶ約束をしていた。 長瀬と藤岡さんは意気投合し、ユイも含めて、来週サバゲーに行く約束をした。
俺は、旅行先の鷹音さんとLINEでやり取りする約束をとりつけた。
ついに、事態が大きく動いた。 夢のようだが、夢ではない。
何故なら翌日の朝、緊急速報で、消滅した筈の台風が、日本をスルーして、日本海に再出現した……と大騒ぎしていたからだ。
まあ今回は、お賽銭を奮発したので、神様には大目に見て頂こう。
【次回予告】
鷹音さんが帰国する日、有志を集めて迎える事になった盆人。
恋の進展はあるか?
また、恋を成就した後、ユイと衛鬼兵団を待ち受ける運命は!?
次回 第6話 天使 をお楽しみに!
【作者より】
お読み頂き、心より感謝申し上げます。
ブックマークやご感想を頂けますと、本当に励みになります。
何卒宜しくお願い申し上げます。




