第2話『戦の鬼』
【前回迄のあらすじ】
『オジカ事務用品』に勤める平凡な青年『平 盆人』が、飛んできたバッジを胸に付けると、目の前に謎の『少女』が現れた。
少女は自分が『エイキ兵団? の司令官』だと言い、バッジは盆人にくれると言う。
詳しい説明を聴きたい盆人の前で、少女が突然倒れた! (←空腹で……)
少女を近くの公園のベンチに座らせ、さっき買ったばかりのおにぎり弁当を渡した。 ……少女は瞬時に平げ、一緒に渡したウーロン茶も一気に飲み干し、まだ足りなそうにしている。
俺は不憫になって、コンビニでおにぎりを追加購入し、少女に渡した。
少女は、先程と違い、ゆっくりと、味わいながら食べている。 俺も横に腰掛け、ついでに買った自分の分を食い始めた。
ひと息ついたところで、俺はバッジの話を切り出した。
少女は、ゆっくりと話し始めた。
少女は異世界の軍『衛鬼兵団』の司令官。
『衛鬼兵』(巨大な怪物や、ジョ○ョのス○ンド的な異形の者)は、元は『皇帝』の近衛兵だった。
皇帝に逆らう者達が、幾度となく反乱を企てたが、彼らの非情な作戦と強大な戦力で、総て殲滅された。 ……いつしか彼らは『戦の鬼』と恐れられ、やがて『衛鬼兵団』と名を変えて現在に至るそうだ。
ところが皮肉な事に、規格外に強すぎた『衛鬼兵団』の活躍で、皇帝に逆らう者は根絶やしにされ、平和が訪れた。
戦が無ければ兵士は無用。彼らは居場所が無くなり、流浪の兵団となった。
それだけでは無い。 彼らには、戦い続けないと消滅してしまう……という過酷な運命が待ち受けている。
そんな彼らの転戦先を探す為、兵団で唯一、細胞の配列を変えてあらゆる生物に変身する能力を持つ少女が、先遣として空間を超えてやって来た。
しかし、世界が異なれば、価値観や思想が全く異なる。
そこで、それぞれの世界での『暫定司令官』を擁立し、どの世界が、兵団の適正に合致するかを見極める事にした……そうなのだ。
このバッジは、この次元で『暫定司令官』として相応しい『正しい 資質』を持つ優秀な人材を自動的に選抜する……
……なんて都合の良い話がある訳無く、偶然拾ったのが俺だったそうだ。
このバッジは、司令官の徽章で、兵団との連絡機能があるだけらしい。
また、おまけで、戦時中のみ、自衛する機能が付いているそうだ。それで、さっきの、少女の目にも留まらぬ攻撃を避けられたのか。 ……痣だらけになったけど。
……自衛が『おまけ』とは……やはり価値観は相当違うようだ……。
「試しに、どこか侵略してみよ」
少女が不敵な笑みを浮かべて言った。 ……そんな『試しに、これ食ってみ』みたいに侵略を論じられても……。
「一言、良いか?」 と、俺は発言を求めた。
「何だ?」
「今、俺たちの世界では、お偉いさんたちが知恵を絞って、争いの無い世の中を創ろう……と必死になってる。 そんな世界で戦争を求めても、無駄だよ。 他を当たった方が良いと思う」
少女は「……実は、どの異世界に行っても同様なのだ。 どいつもこいつも『平和、平和』とほざきおって。 一体、誰のお陰で平和を享受出来たと思っておるのやら……。」と、口惜しそうに言った。
そう言われると、俺たちは何も言えない。 今の平和は、先人たちの血と涙で贖われた事を知っているからだ。
「そこでだ!」 と少女が続ける。
「我ら『衛鬼兵団』は、新たなる戦場を求めねばならん。 我らが嘗て経験した事の無い、新時代の戦場を求めて……な」
ちょっと何言ってるかわからない。
少女が「言い方を変えよう。 ……貴様、何か願い事は無いか?」
それならいくらでもある! お金も欲しいし、彼女も欲しい。健康も欲しいし、地位も名誉も欲しい。 何より、あたしゃ、もう少し背が欲しい。 いや、待て。 それでは欲の塊だ。
「そうだな……」
ふと横を見ると、何処かの子が、持っていた風船を離してしまったらしく、大泣きしている。
「あの子の風船を取ってあげられる……かな?」
急激に、辺りが暗くなった。
……夕立でもくるのかな? ……と見上げるが、何も無い。 ……何も無いどころか……
……いやはや、本当に……何も無い……! ただ暗闇に、自分と少女だけが存在しているようだ。
そう思っていると、地面が音を立てて迫り上がってきた。
「じ、地震!?」
俺は恐ろしくなって、その場にうずくまり、頭を庇いながら思わず目を閉じた。
……ようやく静まり、ゆっくり目を開けると……
広い議事堂? の内部にいるようだった。
周囲には、巨大で不気味な銅像? が林立していた。
「軍議を凝らすぞ。 着席せい」と少女が言った。 少女は勲章がジャラジャラ付いた軍服のコスプレをしている。 大胆に露出した、白く華奢な脚が、上半身の粗暴さとの好対照を成している。
あれっ! 俺もコスプレしてる! さすがに少女のショートパンツスタイルではなく、カッコ良いスラックスだ。 胸には、例の徽章が、燦然と輝いている。
……って言うか……これ、コスプレじゃ無いの? 本物の軍服!?
恐る恐る、荘厳な装飾が施された『玉座』のような椅子に座る。
それと時を同じくして、
「これより、軍議を凝らす」という、耳を劈き、腹に堪える地響きのような声がした。
すぐ横の銅像が、こちらを視た。
……銅像じゃない! か、怪獣だ!
「初見にて。 某は、『衛鬼兵団参謀本部、総参謀』です。 以後、お見知りおきを」と、怪獣が頭を下げた。 俺も同様に頭を下げた。
「先ず総司令閣下より、今回の評議内容のご提示を、お願いしたく存じます」 ……低音で良く通る声の上に間近なので、こちらを向かれると鼓膜が破れそうだ。
俺は、少女に「『評議内容』って、何だっけ?」……と聴いた。
「先程、『アノコ』の『フウセン』をどうのと申しておったでは無いか」
あ~、あれかあ ……あんなのを『評議』……すんの?
【次回予告】
軍議で『評議内容』を示した盆人の前で『情報参謀』や『作戦参謀』が作戦の『大綱』を告げる。
果たして、子供の風船は取れるのか!?
次回 第3話 大綱〜威力 をお楽しみに!
【作者より】
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