第4話 消滅
【前回迄のあらすじ】
『オジカ事務用品』に勤める平凡な青年『平 盆人』は、偶然、異世界の無敵の軍『衛鬼兵団』の司令官『ユイ』と出会い、この世界での『暫定司令官』に任命される。
……盆人が片想いしている『鷹音さんの会社で『七夕まつり』が行われ、盆人は短冊で鷹音さんの『願い事』を知ろうとするが、あまりの多さに絶望する。
しかし、衛鬼兵団の『通信参謀』が、部下に命じて大量の『短冊』を運んで来た!
まさか……強奪!?
「え!? ……ク……クローン!?」俺は『短冊』の秘密を知って、驚きの声を上げた。
「左様でございます。 諜報の鉄則は、塵一つ残さず敵のデータを根刮ぎ奪取すること。 襲撃などしたら軍法会議ものです」と通信参謀。
続けてユイが……「クローンの良いところは、単一細胞のみでの培養が可能な事だ。 これだけの枚数データ、複写ではかなりの質量になるが、クローンなら、虫でも運び出せるからな」と付け加えた。
なるほどね~。
……それにしても、あれだけの枚数、全ての短冊のクローンを造るとは! しかも、『紙のクローン』! ……こいつらの科学力って……。
……ま、まあ確かに、元々は異世界の『皇帝』の近衛兵だったんだもんな。
「さあ、検索せい」
……え? 目で探すの?
「当たり前だ。 あたし達を買い被るな」
……はい。すんません。
通信参謀が「総司令閣下、本来クローンは有機物から作りますが、今回は無機物……。あまり長い時間は細胞結合を維持できませぬ。 ……お早めに……」と言い残して消えた。
衛鬼兵団会議室に、手の空いている兵士達が集められた。
正面の大型モニターには『鷹音 野華』と『ようおん ひろか』という文字が表示されている。
「司令官は、貴様だ。 陣頭指揮してみよ」…ユイに促され、初めての陣頭号令をかける事になった。
「コホン、え~、み↓な↑の足元にぃ~」
しまった! 『な』の時、声が裏返っちゃった。
「コ、コホン、足元にある『短冊』に、この文字があったら、すぐに報告せよ!」
「なお、その『タンザク』は、時間が経つと消滅する。総員、迅速に検索せよ」とユイがつけ加えてくれた。
衛鬼兵たちが、モニターと短冊を懸命に見較べている。 俺たちも、必死に探すが、時間だけが過ぎてゆく……。
「閣下ぁ!」兵士の一人が立ち上がった!
あったか!!
……見ると、『野華さんみたいに、綺麗になれますように』 と書かれていた。 残念! ニアピン賞!
「おい、兄! これは如何《いか》に!」
あったか!
間違いない! 鷹音さんの署名だ!
ユイ! でかした!
……願いを目にした刹那、手の中で短冊が消滅した。他の短冊も、全て消え去った。
……俺はその場に立ち尽くし、一筋の涙を溢した……。
ユイが肩を落として近づき「すまん……。間に合わなかったか……。」
俺は、首を横に振り、今でも目に残っている文字を口にした……。
『すてきな かれしができますように ようおん ひろか』
【次回予告】
鷹音さんに彼氏が居ない事を知った盆人は、張り切って鷹音さんが勤める『㈱アティロム』に向かう。
そんな彼の前に、思わぬ邪魔が迎撃して来た……!?
次回 第5話 突貫 をお楽しみに!
【作者より】
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