第2話 帰投
【前回迄のあらすじ】
『オジカ事務用品』に勤める平凡な青年『平 盆人』は、偶然、異世界の無敵の軍『衛鬼兵団』の司令官『ユイ』と出会い、この世界での『暫定司令官』に任命される。
盆人は会社の後輩で同僚の『長瀬正治二等』と偶然会い、ユイを紹介する。
長瀬二等は、サバイバル・ゲームが趣味で、ユイと話が合い、すっかり打ち解け、次のサバゲー大会に参加する約束をしていた。
『ピンポ~ン』……アパートのベルが鳴った。
「ひと・はち・ひと・よん、帰投ぅ~」……部屋に入るなり、ユイが上機嫌で言った。
今日は、この前約束した長瀬のサバイバル・ゲームに、ユイが初参戦したのだ。 ユイの表情を見れば、結果は明らかだ。
ユイの後ろから、やはり上機嫌の長瀬が顔を出し、「ジャンジャジャーン!」と言いながら金ピカのトロフィーを掲げた。
……まあ予測してはいたが、ユイにとってはサバゲーなど児戯。チートになるのは気が引けたが、長瀬が本当に嬉しそうなので、まあ良いか。
遠慮して帰ろうとする長瀬を引き留め、打ち上げをする事にした。優勝を見越して買っておいたビールが無駄にならなくて良かった。
三人で乾杯する。ユイは、ストレートティーだ。
話題は、サバゲーでの長瀬のケアレスミスとユイのナイスフォロー、更にユイが敵チームにスカウトされた話などで、大いに盛り上がった。
宴もたけなわでは御座いますが「では、そろそろ」と長瀬が立ち上がった。
「ここで就寝していけ」というユイに、照れながら「俺、明日デートなんですよ~」と言う長瀬。
……え? お前彼女いるの?
「逆に、平さんは居ないんですか?」
……ああ、居ないさ。それが何か?
長瀬が「いい事教えましょうか……」と耳打ちしてきた。俺の反対の耳から聴こうと、ユイが背伸びして耳を付け、奇妙な団子三兄弟が出来ている。
「もうすぐ七夕ですよ! お祈りしたら?」
ふざけろ!
『七夕』……確かに、うちらみたいな事務用品を取り扱う会社にとっては、紙やらサインペンやらが売れるので大事な行事ではあるが、自分でやろうとは思わない。ってか、お前は小学生か!
「冗談ですよ。……今年も毎年恒例の『アティロム』の七夕まつりがあるんで、この前、大量に納品したのを思い出しただけですよ。」
ア! ア! アティロム! あの! 憧れの! 鷹音さんの勤務している会社だぁ!
……酔っていて良かった。 そうじゃ無かったら、耳まで真っ赤になった所を長瀬に見られる所だった。
長瀬を見送り、梅雨の湿った生温かい風を感じながら、俺は心の中でガッツポーズをしていた。
巧くいけば、短冊に書かれた鷹音さんの『願い』が見られるかも知れないからだ!
長瀬! お前は俺の恋の女神だ! ……もとい、恋の男神だ!
しかし、その翌々日には、俺の淡い希望が絶望に変わってしまう事を、この時の俺は知る由もなかった。
【次回予告】
鷹音さんの会社で七夕まつりがある事を知った盆人は彼女の『願い事』を知ろうと、勇んで彼女の会社『アティロム』に向かう。
……そこで盆人が目にしたものは……?
次回 第3話 七夕 をお楽しみに!
【作者より】
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