第1話 縁
【前回迄のあらすじ】
『オジカ事務用品』に勤める平凡な青年『平 盆人』は、偶然、異世界の無敵の軍『衛鬼兵団』の司令官『ユイ』と出会い、この世界での『暫定司令官』に任命される。
盆人はユイと情報参謀と共に、戦国時代に時間転移し、情報参謀の必殺技で、憧れの鷹音さんと同じ小学校出身になる事に成功し、第一次『鷹音 野華』攻略作戦は、無事に成功を収めたのである。
「おい、兄」
……俺は敢えて聞こえないフリをした。
「貴様、返答せんか!」
ここは、俺のアパート。 先日の一件で、憧れの『鷹音』さんと同じ小学校の出身になれたのだが、はてさて、そこからどう進めたら良いか見当がつかない。
いくら出身校が同じになったとは言え、それはそれ、恋愛どうこうに移行するまでには、まだまだ遠く遥かな道程が続く……。
『バッチ~ン!』
……軽快な破裂音と共に、痛みが俺の背中を襲った。
「痛てて! 何だよ!」
「さっきから呼んでおろう! 聴知したなら応答せい! 」
ユイは、作戦継続中の為、未だに俺のアパートに駐留しているが、軍人口調しか使った事が無いので、大仰で不自然極まりない言葉遣いをする。
このまま、この世界に潜伏するなら、もうそろそろ、自然に話して欲しい…と頼んだが、中々直そうとしない。
「血中のグルコース濃度が低下した! 食料調達に行くぞ」
御意、行くよ……。
休日の昼間はそれなりに人通りが多い。こいつは、傍目には美少女に見えるので、せめて目立たないように、無言で歩く。
……公園の前を過ぎ、いつものコンビニに入った。
ユイは脇目も振らず、おにぎりの陳列棚に向った。 俺は弁当の棚を見る。最近のコンビニは専門店並みに美味い食品を売っている。
「平さん!」
振り向くと、会社の同僚で後輩の長瀬が、背広を着て立っていた。
「あれ? 出社?」
……クレーム処理で呼び出され、その帰りだそうだ。 手にはペットボトルの飲料を持っている。
「お疲れ~、奢るよ」長瀬からペットボトルを受け取り、近くにあった洋食弁当を手にしてカウンターに向かった。
待ち兼ねていたユイから、おにぎりを受け取って会計を済ませ、コンビニを後にする。
ユイは、見ているこっちが嬉しくなるような笑顔でおにぎりを頬張った。
その顔に見とれて、俺が差し出したペットボトルにも気付かない長瀬が「この娘は?」と聴いてくる。
「こいつは、衛鬼兵団の……」……と言いかけ……
「えいき……永久に、俺の妹だ」
「……そ、そうですよね、妹さんは、まあ、永久に妹さんですよね」と言いながら、ペットボトルを受け取った。目はユイにロックオンされたままだ。
その視線を感じたのか、ユイが長瀬を睨みながら「何奴? ……所属と階級を申せ……」
やばっ……また始まっちゃった!
長瀬は、この前の大家さんのような『鳩が豆鉄砲を食らったような顔』でユイを見た。
困ったな……。何か言い訳しないと……と考えていると、長瀬が姿勢を正し、挙手の敬礼をしながら「はっ、自分は、オジカ事務用品、関東営業所所属『長瀬正治』二等であります。 平殿とは同じ部隊であります」と言った。
……なんだぁ? 最近は兵隊ごっこが流行ってんのか?
ユイは例によって……「あたしは衛鬼兵団司令官『平 ユイ』大将である。 現在は指揮権を兄に移乗し、サポート業務に就いている。」と言いながら『兄』の時に、俺を肘で小突いた。
「はっ! お務めお疲れ様です」 長瀬が再び敬礼した。
ユイも「ふむ。貴官も休暇返上、ご苦労」と、答礼した。
……この二人、初対面なのに随分話が合っている。 ……が、『あります』だの『貴官』だの、固っ苦しい言葉の応酬に、俺は頭痛がして来た。 腹も減って来たし、盛り上がっている二人をよそに、公園の手すりに腰掛け、洋風弁当を食べ始めた。
早々に食べ終わってしまい、俺がまた鷹音さんの動画を観ながらまったりしていると、二人が駆け寄って来た。
「平さん、すみません。すっかり盛り上がっちゃって」……良いよ~。 ユイも楽しそうだったし。
「それで、実は来週の土曜日なんですが、俺のチームのサバゲ大会があるんです。ユイさんに、是非参加して頂きたいんですが、良いですか?」 ……なるほど、サバゲをやってるからユイとも話が合うんだな。などと考えていると、二人のキラキラした視線が突き刺さった。
「良いよ〜」
……反対する理由は無いし、何より、こんな目で見られてたら許可しない訳にはいかない。
長瀬はノリノリで、ユイに敬礼し「閣下! では、当日お迎えに上がります」と言うと、ユイも上機嫌で「うむ、期待する」と、答礼した。
長瀬は俺に「ジュース、ご馳走様でした。じゃ、また明日~」と言って頭を下げ、別れた。
ユイは長瀬をいつまでも見送り、長瀬も度々振り返り、その度に手を降っている。
男女の出会いって、こんなにスムーズなんだな~……と感心させられた。
『運命の出会い』……良く耳にするけど、そんなの、夢の世界か、遠い出来事だと思っていた。しかし、今この二人を目の当たりにして、改めて『運命』について考えさせられた。
……俺と鷹音さんは『運命の糸』で繋がっているのだろうか……?
【次回予告】
新キャラクター『長瀬正治』二等とユイは『サバイバルゲーム』で盛り上がる。
そして長瀬二等から盆人に、ある『ヒント』が提示された!
次回 第2話 帰投 をお楽しみに!
【作者より】
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