第1話 少女
平凡な青年が金ピカに輝く鳥? を追いかけるとそれはバッジになって、目の前に落ちて来た。 それを拾った時から、青年の運命が変わる!
……という、非常に有りがちな冒頭から、この物語は始まります。
このバッジを拾ったのは、ただの偶然か? それとも、何かの因縁なのか!?
青年と、横柄な物言いだけど純な少女との、奇想天外な冒険譚をお楽しみ下さい!
ある日、コンビニで弁当を買い、アパートに帰る途中、夕焼けがあまりにも綺麗だったので見惚れていると、突然『キューン』という聴き慣れない音がした。
ふと、そちらに目をやると、金ピカに輝く鳥? みたいな物が飛んでいた。
物珍しさから追いかけると、そいつはカエデの種のようにクルクル回って、俺の足元に落ちた。
拾い上げると『龍のバッジ』のようだった。
何気なくそれを胸に当てると、まるで磁石のように、服に貼り付いた。 引っ張るが、取れない。
高価な物だとまずいと思い、そのまま交番へ行こう……と思った時、俺の前に一人の少女が現れた。
文字通り出し抜けに『現れた』のだ。
何回か、目を擦ったが、少女は消えない。
年の頃なら13、4歳か? 幼さの中にも気品があり、後数年もすれば誰もが振り返る美人になるだろう。
試しに、少女の左のほっぺたを指で押してみると、張りのある、ぷにぷにした感触が指に伝わって来た。 ……幻では無いようだ。
……あれ? この少女……何処かで会った……どころか、ずっと一緒にいた事がある?
俺の胸が『キュン』とした。 四捨五入すれば30の大台に手が届くオヤジが言うのも……ちょっとキモいが……。
……遥か昔、この少女と、笑い合い、涙し合い……そして、何か途轍もない冒険や、様々な艱難辛苦を乗り越えた……そんな……気がした。
巨大な化け物? ……そして昔の合戦? ……そんなビジョンが、パノラマのように脳裏をよぎった。 デジャヴ……にしてはリアルだが!?
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……この『謎』は、何れ解ける事になるのだが、それは、まだまだ先の事……だ。
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少女は瞬きひとつせず、俺を見詰めている。
黒目勝ちな瞳の周辺に、わずかにのぞく白眼は澄み切って、蒼く見えた。
「貴様、何奴。 ……所属と階級を申せ」
……と、少女は、アニメみたいな可愛らしい声で俺に聴いた。 ……『ショゾク』と『カイキュウ』?
「俺は『オジカ事務用品』所属の『平 盆人』だ。 階級? は……『平社員』だ」
すると、少女は、「あたしは『衛鬼兵団 司令官??????大将』だ」
名前は聞き取れなかったが、なんとか兵団の司令官? らしい。
「その司令官が、何の用?」
少女は無言で、俺の胸に付着したバッジを指差した。
「あ、ごめん! これ、君のか! 返すよ。 ただ、取れないんだ」 ……また力を込めて引っ張る……が、取れない。
「それは、貴様のだ。 持っておれ」
……拾い物の持ち主が現れて、そいつが『持ってろ』……って言ってるんだからネコババにはならないだろう。 ……ただ、剥がし方は是非ともお聴かせ願いたい。
と……!
少女が視界から消えた。 辺りを見回すが、何処にも居ない。
……ま、良いか……。 腹も減って来たし、帰ろ……。
……と思った瞬間、また少女が現れた。
ちょっと腹が立ち「何だよ! 出たり消えたり……」 と言うと、少女が初めて表情を緩めた。
可愛らしい微笑みを浮かべ、一言「重畳」と呟いた。
「チョウジョウ……?」……と聴き返そうとした時、全身に激痛が走った!
「痛ぇ!」 ……思わず座り込む。 腕を見ると、無数の痣が出来ていた。 更に、息が上っている事にも気が付いた。 フルマラソンを全力で走ったくらいの苦しさだ。 まあ、走った事は無いが。
「30,000打撃中、29,838防御……『ヒラシャイン』の反応としては上出来だ」
なんと、俺は自覚も無く殴られ、更にそれを防御していたらしい。 そう言われてみれば、掌が真っ赤で、少しだけ血が滲んでいる。
……どう考えてもおかしい。 このバッジを拾った瞬間から、途方も無い何かに巻き込まれたようだ。
俺を見下ろしている少女に「なんだ君は? これは何なのか教えてくれ……」とバッヂを示しながら頼んだ。
少女は、何かを言いかけたが、突如その場に倒れ込んだ! 俺は自分の痛みも忘れて、少女を抱き起こし……
「しっかりしろ! 今救急車を呼ぶから……」
……と言い終わる前に、少女の腹の虫が『グウゥ~~ッ』と鳴った。
少女は弱々しい声で「く、空腹だ……。 何か栄養の補給を……依願する……」……と言った。
気付くと、俺たちの周りには、黒山の人集りが出来ている。
「スミマセン、お騒がせして……。 腹が減って力が出ないよう……です」……とバ○キンマンに水をかけられたアンパ○マンみたいな台詞を残して、少女を連れ、慌てて、その場を去った。
【次回予告】
危機を脱した少女は、盆人に身の上話を始めた。 ……それは、想像を絶した話だった。
次回 第2話『戦の鬼』をお楽しみに!
【作者より】
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