異世界で地元民と間違えられ村人やってます
不揃いの箇所を揃えました。
内容は変わっていません
俺は誰かと間違えられやすい。知り合いに似ているとよく言われる。
だからって、異世界でも言われると思わなかった。
「ゲイルのところのバーニーじゃねぇか」
って……誰のところの誰って話。
違うって言ってるのに誰も聞かないし、ゲイルに知らせるぞと言うが早く、俺が立っていた草原から近くの村へ引きずられるように連れてこられた。
「ゲイル!バーニーが戻ったぞ!」
俺の腕を引っ張っていた熊みたいな親父が、一軒家の扉を叩く。
扉が開いた途端、有無を言わせず、良かったな!と家に放り込まれ、俺は尻もちをついた状態でゲイルと呼ばれた男と顔を合わせた。
「誰だか知らんが何か言うことは?」しばし見つめ合ったあとゲイルは、ナイフを俺の頰にあてて言った。
俺はかくかくしかじかと必死に説明し、ゲイルは笑って「しばらくここにいるといい」と、優しい言葉をかけてくれた。
聞けば、バーニーはゲイルの息子で生きていれば18歳だという。15の時に冒険者になると家を飛び出して、音沙汰なしだそうだ。
――3年前って最近だろ…3年前に出て行った奴と間違えるか!?
髪型と垂れ目で笑うと目がなくなるところは似ている、とゲイルは少し懐かしそうに俺を見た。
俺はクラス召喚で異世界に来た。こちらの世界に召喚されている途中で、俺だけはぐれてこの村の近くの草原に立っていた。それだけ。
学生服だし絶対に地元民に見えないのに、俺はバーニー扱いされ、今に至る。
「そういえば、王都でデカイ呼び出しをするって話だったな……」
「俺もその呼び出しで呼ばれたんですかね」
「さあな。どちらにせよ王都までは遠いし道中は獣が多いから、すぐには行けない。あきらめろ」
俺はあきらめろと言われ、素直にあきらめた。右も左もわからない異世界で頼りになるのは今のところゲイルだけだ。
この村は、宿場町のようだ。多くの宿が並び、茶屋のようなものもある。
村の男衆は日中は山で木を伐採したり狩猟したり、夕方まで村の外に出ているらしい。ゲイルは明日は狩りの日だ、と喜んでいた。
朝になり、村人からバーニー、バーニー、と呼ばれるので俺はバーニーを受け入れた。
バーニーが皆の事を覚えてないのは、冒険者はよく記憶喪失になるから仕方ない、と村長が悲しそうに俺の肩を叩きながら皆に言った。
――マジで?
ゲイルが狩りに出ている間、俺は女衆の手伝いをすることになった。今は白玉に似たものを作っている。
「本当に忘れちまったんだねぇ」茶屋の女将さんが一緒に白玉を丸めながら寂しそうに俺をみる。
――いやいや、寂しそうな顔する権利ないよ!?
俺、バーニーじゃないからね?
「なんかすみません…」
人違いはしているが、心配している気持ちは伝わる。勘違いであれ騙しているには変わらないので、謝っておく。
その後は店の手伝いや、他の宿の力仕事などにこき使われあっという間に時間は過ぎた。
俺はすぐに村になじんだ。
俺の家は造園屋で家族経営だ。俺も高校を卒業したら、そのまま家の手伝いをする事になる。
体を動かす事には変わらないけど、今のように人と関わりながら働くのも楽しくて好きだと気づいて、それだけでもここに来て良かったと思った。
ゲイルの家にはあれからずっと世話になっている。居候している立場だし、家事は率先してやった。ゲイルの奥さんは王都に派遣されて留守にしているらしく、俺が来て助かったと言った。
何で派遣されたのかと聞いたら、あのでかい呼び出し関連だという。この村からは10人程派遣されたらしい。宿屋の仕事で接待に慣れているという理由で。
――俺のクラスメイト、おもてなしされてるのか!?
頭の中で一気に悔しさが広がる。着物姿でしなだれかかる美女が脳裏に浮かぶ……ずるい。
――まぁ、違うのはわかってるよ? 着物ないし、バーニーの母親だから俺の母さんくらいだろうし。他もベテランが行ったらしいからね。でも夢を見るぐらいはいいじゃないか
*****
いま、村には大口の客が来ている。
なんと、俺のクラスメイト達だ。魔王を倒すため、魔王城に向かう途中に立ち寄ったらしい。
数日滞在していたが、明日には出発するだろうと、ゲイルが言っていた。
――なぁ、信じられるか? 俺、まだバーニーなんだぜ?
「召喚途中で消えた嶋田に似てる」
「あいつの分まで戦う」
「バーニー君は同じ年だね!」
「似てるけどやっぱり違う」
ここまで言われて、俺が嶋田だって言えるか?
魔王と戦うのも嫌だし、俺はバーニーのまま彼らを見送った。
*****
あれから2週間経った。
魔王城に向かったクラスメイトがどうなったのか、村の人達は分からないという。
帰りにここに立ち寄った時に、謝って彼らの元に戻るつもりで待っていたが、魔王にやられたのだろうか……
複雑な心境で白玉を丸めていると、ゲイルが見知らぬ女性の腰に手を回しながら歩いている姿が見えた。
――浮気…の訳ないか。奥さん帰ってきたんだな。ハンナさんだっけ……なんかフラフラしてるけど
「ゲイルさん!」
俺に気がついていないようなので声をかける。
「!!」
ゲイルより先に女性が俺に気づいて目を丸くした。
そして持っていた荷物を地面に落とし、彼女はその場で泣き崩れた。
落ち着いたハンナさんから教えられたのは、驚くべき事実だった。
なんと、クラスメイトは既に元の世界に帰ったあとだった。魔王をすぐに倒し、村は通らないルートで王都に帰還したという。
「そ…そこにバーニーがいた?」俺は何度目かの確認をする。
「ええ。帰路で倒れていた、と彼らが抱えていて、確かにバーニーだったわ!それなのに勇者様達はシマダだ、と言い張って!!」
ちなみに勇者様たちとはクラスメイトの事だ。
「……フフッ」
その時ゲイルが何故か吹き出した。
「あなた?」
ハンナさんが怪訝な顔をする。
「バーニーが本当に記憶喪失になったとは」
ゲイルはククッとまた肩を震わせた。
「あなたっ!バーニーは連れてかれたのよ!?」
「ああ。そのかわりこいつが置き去りだ」
ゲイルがおどけた顔で俺を指さした。
「私が必死にバーニーだって訴えたのに、勇者様がバーニーは村にいた、大丈夫だって……」
「すみません。俺が嶋田だって言わなかったから…」
俺が居た堪れず謝罪すると、ハンナさんは緩く首を横に振った。
「行っちまったものはしょうがねぇからな。お前には村でバーニー役を一生やってもらうか」
「…ですよね」
俺も置いてかれたのは悲しいけど、ここは嫌いじゃないし、バーニーになるしかない。
「勇者様たちは、シマダは記憶がないから皆で助けると仰っていました」
ハンナも腹を括ったのか、声から悲しみのようなものが消えた。
「皆が言うなら大丈夫です」
俺の親も大丈夫だろう。困ってる人を放っておくタイプじゃないし。
「バーニー!そろそろ戻れる?忙しいのよ」
茶屋の女将さんの呼ぶ声がして、俺は慌てて仕事に戻ろうとすると、バーニー、と2人が呼ぶ。
「終わったら早く帰ってこいよ」
「久々の家族水入らずだものね」
俺は、頷いて手を振った。
それからも生活は変わらない。俺は茶屋や宿屋の手伝いをしている。知り合いに似てる、と客にいじられる日々だ。毎日が楽しい。
召喚者のおじさんが一度村に来た。本当の事情を知る1人だ。
謝罪をしたいとずっと言ってくれていた。
その彼が一度だけ物質のやり取りができるようになったと来てくれたのだ。
俺は手紙を出した。元気だし楽しいと。
後日、両親からの手紙を受け取った。
手紙によると、両親はやはりバーニーを受け入れていた。バーニーは家業の手伝いをしていて、俺と違い手先は器用でパワーがあり素直だから飲み込みも早く重宝しているらしい。
どうせ不器用で非力で捻くれ者ですよ…
言葉は話せるけど文字は書けないから平仮名から勉強中らしい。勉強熱心で覚えがいいんだって。
「あいつは村で一生を終えるのは嫌だ、他の世界を見たいって飛び出したからな…夢が叶って頑張ってるならそれでいい。」
ゲイルは誇らしげに笑った。
そちらのご両親によろしく、と締めくくっていて、別れの言葉はなかった。
俺は頰を叩いて気合を入れなおす。
ゲイルはその様子を面白がって見ている。
「バーニー、もうすぐ夕飯だ。母さんを手伝ってやれ」
「父さんが手伝えよ」
俺は既にゲイルを父さんと呼んでいる。
――なぁバーニー、お前は3年も親不孝をしたんだから、そっちでは親孝行たのんだぞ
「母さん、何をやればいい?」
俺は前掛けをつけながらハンナの隣に立つ。
――お互いこの顔で面白い人生になったな――
バーニーから返事が聞こえた気がした。




