僕は......
これで第一編完結です。
いつもの約2倍の分量を味わって下さい。
星空を抱く校舎を校門から見上げる。
周囲が木々に囲まれた校舎は、隔離された聖域の
様だった。
そして、一歩踏み出す。
校舎へのアプローチを登っていく。
一歩一歩を踏みしめる様に。
過去の自分を追い抜く為の前進であると信じて......
校舎の屋上にて
彼方を見つめる一つの大輪が咲いていた。
漆黒の空で織った様な浴衣には、色とりどりの花が
浮かび、まるで花火を写し出す夜空の様であった。
艶やかな黒髪には白百合で作った様な純白の花飾り。
手には慎ましやかな錦で作られた巾着。
未だ来ず、な恋人を待つ彼女は、さながら宵闇を
照らす光の花の様に輝いていた。
そんな彼女の後ろに現れる影。
影は彼女との隙間を詰めていく。
生ぬるい風が屋上に吹き付ける。
パタッ
スリッパのなる音。
「誰かしら?私と彼の愛瀬を邪魔しようとするだ
なんて、無粋にも程がありますよ。」
絶対零度の声は蒸し切った夜すらも凍てつかせる。
影は嗤って答える。
「誰が貴女の彼氏だって?このーーーーーーが
(自主規制)!ふざけやがって...」
歯軋りをしながら答える其の姿は、悪鬼羅刹の様で
また、憤怒の焔を身に宿している様でもあった。
「貴女から奪った訳じゃ無いし、元々、貴女のもの
でもないでしょう。」
あくまで冷静に務めて答える彩葉。
Xタイムまで、残り数分......
校舎内にて
もうすぐで、6時になる。
そう花火が開花する時間だ。
昇降口を走り抜ける。靴を履き替える事なく
駆けていく。
息は既に擦り切れ、体力など残ってすらない。
階段を駆け上がる。
足が絡れ、前のめりに倒れる。
プツンッ、と何かが切れた様に動かなくなる体。
(早く動け!早く早く早く!)
願えども願えども、動く事は儘ならない。
そして6時を迎えた。
辛うじて動いた身体は窓際へ
ここまで届く事のない音を幻聴で補わされてしまう程
の花火のカーテンが一瞬にして現れては消えていく。
彼方に浮かぶ花火は、夜空に浮かぶ一等星の様な
輝きを見せていた。
美しさに寄生され、思考を奪われていた時、
花火を遮るものが上から落ちて来た。
世闇に溶け込む黒に花火が刺繍された布地と
風に靡く星空の様な黒髪。
涙を浮かばせる純白の顔。
そう僕の彼女の彩葉であった。
その刻は一瞬ではあるものの、僕にとっては
悠久の時を経ているようで、または無限に
引き延ばされていく様に感じられた。
これぞ正しく、時が止まった様であった。
そして彼女は落ちていく。
地上を天空に置換して昇っていく天使の様に、
はたまた、深海へと沈んでいく様に。
豪華な花火を借景に天地を忘れた彼女が堕ちていく
様は、それこそ言葉に出来ないほど
美しかった。
窓枠に切り取られたその絵は、モナ・リザさへ
霞ませていった。
僕の手は無気力に、でも確実に目の前の月を捉えてよ
うとしていた。
しかし、その手は硝子の境界に阻まれる。
その手は壁を伝い廊下に落ちる。
ペチンッ
と何処か間の抜けた音を出しながら。
廊下の両側から二人の人が走ってくる。
屋上への階段からは幼馴染の千鶴が、
もう一方からは......
「お......晶くん!ち、千鶴さんが上から降りてくるの
を私は見たの!」
廊下に響く罪の告発。
目線は千鶴へ集まる。
「な......何を言って......わ...私は彼女が、
ドガっ
手は自然と千鶴を押し退ける。
火事場ならぬ修羅場の馬鹿力は馬鹿に出来ない。
千鶴を吹き飛ばし、ドアにぶち当たる。
「ま......待って......」
彼女の悲痛な叫びは、僕へ届く事は無かった。
大急ぎで階段を転げ落ちる様に駆け下る。
息は動悸と興奮と焦燥感とが入り混じったものにより
微塵切りにされていた。
落下地点に至った僕の目の前には悲惨を表した
芸術作品が転がっている。
腕や足は変な方向に曲がり、あられもない姿をした
彼女。まるでゴミ捨て場に打ち捨てられたドール
の様になっていた。
近寄り、膝が落ちる。
ぴちゃん
流れ出すついさっきまで彼女だって液体。
「痛い...痛い...やだぁ...やだぁ」
壊れたラジオの様に反芻していた彼女へ。
「何で......どうして......」
そう零すと。
「晶くん...いるの?どこ...に、いるの?
目の前が...暗くなって怖いよ.......」
最後の一滴まで力絞り尽くす様に応えた。
彼女の眼は既にハイライトが消え、全身の切れ目から
血液が周りを侵蝕せんと流れ出して来る血液。
僕はただ、唖然とするしか無かった。
そして最後に一言、彩葉は尋ねた。
「私の事......愛してる?あきりゃぁ......」
感情と理性のせめぎ合いで淘汰されレッドリスト入り
していた言葉が藁を掴み飛び出してくる。
「僕は...君が...彩葉のことが...大好きだ、愛してる!」
その言葉を聞いた彼女はほっとした様に、
「良かった...私も、よ。
私の、事...忘れ、無い、で......ね?」
最期に見せた儚い微笑。
僕は... 僕は......
彼女はもう、動かない。
ガラクタの機械人形の様に
彩葉の色彩は、二度と戻る事はなかった。
止まるんじゃねえ!俺の指!
そんな風に自分を自分で励ましながら書いていたら
2000文字超えました...
後悔はしていない
これで一編は終わりです!
次から更に直滑降で落ちていきます!
明日からは忙しくなるので、更新回数が減る。
もしくは短くなります。悪しからずです...
ついでに言うと、燃え尽き感もなくは無いので...
ちゃんと書き貯め作ろうかなと......
皆さん!一つ星でもいいので下さい!
続きを書く糧になります!




