森のパンケーキ屋さんと夜のお客さま
冬の童話祭2021の参加作品です。
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よろしくお願いします♪
月明かりに照らされて、しんしんとつもった雪が静かな森でほんのり光ってきらきらしています。
とても神秘的で、なにか不思議なことが起こるような、そんな夜でした——
みんなが寝静まった森の中で、窓から灯りがもれているおうちがありました。
どんぐりの看板が目印のりすさんのパンケーキ屋さんです。
「こんばんは——まだやっているのかな?」
入ってきたお客さまを見て、りすさんはつぶらな黒い瞳を大きくまんまるにしました。
赤い帽子に赤い服、真っ白なおひげのサンタさんと赤いお鼻と黒いお鼻のトナカイさんがはいってきたからです。
「どんぐりの看板がまだでていたんじゃが、しまい忘れじゃったかな?」
サンタさんが困ったように言うと、「ぐうう……」赤鼻のトナカイさんのお腹の虫が大きな声でなきました。
りすさんはびっくりして、あわててこう言いました。
「——いらっしゃいませ!」
りすさんは、大きなおたまでパンケーキの生地をとろりとすくうと、みっつのフライパンに流しました。
パンケーキ屋さん自慢のふわふわなパンケーキをじっくりじわじわ焼きはじめます。
「サンタさん、ごめんなさい……」
赤鼻のトナカイさんはしょんぼりしています。
「もうっ、カイがちゃんとごはんを食べてこなかったからサンタクロースの国に帰れないじゃないか!」
「トナもごめんね……」
黒鼻のトナカイのトナがぷんぷんしています。
赤鼻のカイはますますしょんぼりしてしまいました。
「ふぉふぉ、トナもカイもけんかはやめるんじゃよ」
「でも、サンタさん——!」
「だれにでもしっぱいはあるんじゃよ——トナとカイ、サンタがみんな赤い服を着ているのは、なんでじゃと思う?」
トナもカイも腕をくんで、首をひねっています。
りすさんもサンタさんのひみつにどきどきしています。
「昔はのお、赤色だけじゃなくて青や緑、黄色やピンク色もいたんじゃがなあ、プレゼントを届けるときに見つかったサンタが赤い服でのお、それからサンタは赤い服を着ているんじゃよ」
トナもカイもりすさんもびっくりして、目をぱちくりさせました。
「それはしっぱいかもしれんが、子どもたちからのお手紙にサンタクロースとトナカイの似顔絵を描いてもらえるようになったのは、嬉しいことじゃなあ」
トナもカイもこくんとうなずきました。
「それになあ、クッキーを用意してくれる子どもたちがいるのは、なんでじゃと思う?」
トナもカイも腕をくんで、首をひねっています。
りすさんもサンタさんのひみつにどきどきしています。
「昔にのお、クッキーが大好きなサンタがおってな、お腹がすいてツリーに飾ってあったクッキーを食べてしまったからじゃよ」
トナもカイもりすさんもびっくりして、目をぱちぱちさせました。
「それはしっぱいかもしれんが、サンタクロースはクッキーが好きなんだと知った子どもたちから毎年おいしいクッキーをもらえるのは嬉しいことじゃなあ」
トナもカイもこくんとうなずきました。
「今日はカイがどきどきして、ごはんを食べずに走ることができなかったことはしっぱいかもしれんが——こんなすてきなパンケーキを食べることができるのは嬉しいことじゃなあ」
いたずらっこのように、ぱちんとウインクしたサンタさんにトナとカイはにっこりうなずきました。
りすさんは、みんなの前にことりとパンケーキのお皿を置きました。
「あっ、サンタさんだ!」
「わあ! ぼくたちもいるよ!」
「ふぉふぉ、これは美味しそうじゃなあ」
パンケーキ屋さん自慢のふわふわのパンケーキ、本日はクリスマスのパンケーキなのです。
サンタさんのおひげみたいに真っ白な生クリームがたっぷりのったパンケーキに、いちごで作ったサンタクロースとトナカイのクッキー、星形にくりぬいたりんごやナッツをぱらりとちらした聖なる夜だけの特別なメニューです。
トナもカイ、それにサンタさんも目をきらきらさせました。
「これをかけるともっとおいしくなりますよ」
りすさんが作った特製のりす印メープルシロップの瓶を差しだすとカイが嬉しそうにパンケーキにとろりとかけました。
甘い匂いがまわりにひろがると赤いお鼻と黒いお鼻がくんくん動きます。
「すっごくいい匂い!」
「わあっ! とってもおいしいね!」
カイはほっぺたが落ちそうになって、あわてて押さえました。
「どれどれ、ぼくにもかして!」
トナもメープルシロップをとろ〜りたっぷりかけます。
やっぱり甘くて美味しそう匂いにお鼻がひくひく動いてしまいます。
「わわっ! ほっぺたが落ちちゃうよ」
トナもあわててほっぺたをむぎゅっと押さえます。
「カイ、カイ! もう一回かして!」
「トナ、トナ! もう一回かして!」
カイはまたメープルシロップをとろ〜りたっぷりかけました。
そのあとトナもまたメープルシロップをとろ〜りたっぷりたっぷりかけました。
「あれあれ、もうなくなっちゃった!」
「りすさん、おかわりください!」
トナとカイにきらきらした目で見られると、りすさんは困ってしまいました。
「ごめんなさい。あれがお店にある最後のメープルシロップだったんです……」
「サンタさんの分なくなっちゃった!」
「サンタさん、ごめんなさい」
りすさんもトナもカイもしょんぼりしてしまいました。
「ふぉふぉ、メープルシロップがなくなってしまったのはしっぱいかもしれんが、とびきり美味しいメープルシロップを作るために、とびきりなカエデの木をさがしているりすさんをサンタクロースの国に招待できるのは嬉しいことじゃなあ」
トナもカイもぱっと顔をあげると、目をきらきらさせて、こくんとうなずきました。
「りすさん、サンタクロースの国にはカエデの木がいっぱいあるんだよ」
りすさんはびっくりして、目をまたたかせました。
だれも知らないサンタクロースの国に行きたくてわくわくしましたが、りすさんはしょんぼりしてしまいました。
「カエデの木があってもメープルシロップは雪が溶けるときにしか作れないのです……」
トナもカイも目をきらきらさせて、くすくす笑ってこくんと大きくうなずきました。
「ふぉふぉ、サンタクロースの国はクリスマスになると世界中の子どもたちから『ありがとう』がたくさん届くんじゃ——そうすると、ぽかぽかあたたかくになってサンタクロースの国は雪が溶けはじめて、一足先に春になるんじゃなあ」
いたずらっこのように、サンタさんはぱちんとウインクをしました——!
お腹もいっぱいになったトナとカイはお星さまがきらきら光る夜空をりんりんと鈴の音をならして走ります。
「サンタクロースの特等席はきれいじゃろう」
りすさんはお星さまのように目をきらきらさせて、こくんとうなずきました。
「もうすぐオーロラが見えてくるよ!」
「オーロラのカーテンをぬけるとサンタクロースの国があるんだよ!」
トナとカイが嬉しそうに言うと、夜空に色あざやかなオーロラのカーテンがあらわれました。
ゆらゆらと光がゆらめきはじめると、りすさんはオーロラのカーテンにぽおっとみとれてしまいました。
「オーロラをぬけるときは目をつむるんじゃよ」
サンタさんの言葉に、りすさんは目をぎゅっとつむりました。
まぶしい光がなくなってまぶたをそろりとひらくと、すうっと澄んだ空気の中に色とりどりのつぼみがついた大きなもみの木が見えました。
「ようこそ、サンタクロースの国へ!」
ふかふかの雪の上にゆっくりソリをとめたトナとカイがにっこり笑って言いました。
「そろそろ、夜明けがくるね」
「そうだね、もうすぐ春になるね!」
お日さまがゆっくりのぼると、もみの木の色とりどりのつぼみが、ひとつ、またひとつ、きらきら咲きはじめました。
お花がひとつ咲くたびにあたたかくなってきて、ぽたぽたと雪が溶ける音がきこえてきます。
「サンタクロースの国のもみの木は、子どもたちの『おねがい』のつぼみをつけていてのお、『ありがとう』の気持ちが届くとぽかぽかの花になって咲くんじゃよ——あのもみの木こそ、サンタが子どもたちの願いをわかるひみつじゃなあ」
いたずらっこのように、サンタさんはぱちんとウインクをしました——!
「りすさん、カエデの木はこっちだよ!」
元気いっぱいなトナとカイにカエデの森につれてきてもらうと、りすさんはとびきりなカエデの木をさがしはじめました。
「この木はまだ若いし、この木はまだ細いなあ」
メープルシロップはカエデの木の樹液を集めて作るのですが、樹液が出るのは一年間にたった二週間だけなのです。
りすさんは、美味しいメープルシロップになるとびきりのカエデの木をさがします。
「見つけた!」
そのカエデの木は、若すぎないし年を取りすぎてもいません。
木の太さも細すぎない太っちょの木です。
樹液をたくさん取ると枯れてしまうので、太っちょの木からその年に必要な分をわけてもらうのです。
「よいしょっと」
りすさんはカエデの木にちいさな穴をあけると、さらさらとした水のような樹液がぽたんぽたんとしずくになって落ちてくるのをバケツに集めます。
バケツがいっぱいになるとトナとカイに手伝ってもらってもっと大きなバケツに集めます。
大きなバケツがいっぱいになると、火にかけます。
さらさらとした水のような樹液をゆっくりゆっくり煮つめていくのです。
「わあ、いい匂いだね」
トナとカイは、くんくんと鼻をいそがしく動かしています。
「しあわせの匂いがするんじゃなあ」
サンタさんの言葉に、みんなもうなずきます。
透明だった樹液はじっくりじっくり火にかけていると、少しずつきれいな琥珀色になっていきます。
たちのぼる湯気はふわりと甘くて、しあわせな匂いがみんなをやさしく包んでいました。
「きっとしあわせの味がすると思いますよ」
りすさんは、ようやく完成したメープルシロップをスプーンでみんなの分をそっとすくうと、みんなで一緒にぱくりと口に運びました。
「……っ!」
みんなはあわてて両手でほっぺたを押さえました。
サンタクロースの国で見つけたとびきりのカエデの木から作ったメープルシロップは、ほっぺたがとろけて落ちてしまうくらいとびきり美味しくて、しあわせな味がしました——!
ここは森のパンケーキ屋さん。
店主のりすさん自慢のじっくりじわじわ焼きあげるふわふわなパンケーキに、しあわせの味がするとびきりのメープルシロップをとろりとかけて食べれば、ほっぺたが落ちてしまうくらい美味しいと評判です。
最近は白ひげのおじいさんと赤鼻と黒鼻のトナカイさんがよく遊びにきているみたいですよ。
あなたもどんぐりの看板が目印のパンケーキ屋さんに、あそびにきませんか——?
おしまい
読んでいただき、ありがとうございます♪
森のお店やさんはぜんぶでみっつあります。
下にリンクが貼ってありますので、お立ち寄りくださると嬉しいです……(*´꒳`*)
〈R3.3.12追記〉
石河翠さまが主催される冬童話大賞2021のほのぼのかわいい部門賞に本作が選ばれました♪
その副賞として、相内 充希さまが本作のバナーを作成してくださりました。
かわいい〜♡
バナー作成/相内 充希さま
どんぐりの看板もお洒落だし、サンタもトナとカイもいるし、パンケーキも美味しそうでメープルシロップのラベルがりすさんで素敵ですよね。
そして、文字がきらきらのオーロラ色でしあわせすぎます……!
天理さまから森のパンケーキ屋さんのフェルトアートをいただきました。
か、かわいい〜♡
本当に本当にありがとうございます♪