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神子として召喚された晃くんはこれから学ぶことが沢山ある。
私の通訳だけをしている訳には行かないので、晃くんが気を利かせて普段使いそうな言葉だけ教えてくれた。
日本語で書いた言葉を晃くんに読んで貰い、その発音を私が紙に書き写した。
私が書いた言葉を見て晃くんはこんな風に聴こえているのかと驚いていた。
ドイツ語の様な発音の仕方だが私はドイツ語は喋れないので私が聞いた通りに喋っても幼子のような喋り方のようだ。
相手が何を言ってるのか分からないのでこれはもう死ぬ気で勉強するしかない。
私の処遇については、帰る方法が見つかるまで完全な警備のもと王城内で保護してくれる様だ。
私は帰る方法はわかっているが、それは魔王討伐後まで行えないので気長に待つ事になる。
異世界人はいるだけで幸福をもたらすと考えられているらしくいつまででも居てくれて構わないと言われた。
ただ、私はただ飯食らいなってしまうので大分心苦しいのだが言葉が通じない間は何かをする事すら迷惑になりそうなので大人しくしておく。
私付きの侍女さんは最初にお世話してくれた彼女で、専属の護衛をしてくれるのも最初に侍女さんと一緒に来た騎士服の彼のようだ。
他にもお世話をしてくれるメイドさんも数人いるが基本的には彼女達と過ごす事になる。
私のハッピーお腐れライフの為にも仲良くしたい。
晃くんと話を終え、私への説明は終わったので晃くんとセレスさんを残して退室する。
この後の2人の事を想像してニヤニヤしながら退室したので、2人が変な顔をしてこちらを見ていたがニヤニヤは治らなかった。
メイドさんに案内されて着いた部屋は私が寝かされていた部屋だった。
今日から私の部屋として与えられたものらしい。
こんな高級な物で囲まれた部屋で気が休まるかは謎だが、お世話になる身で文句は言えない。
部屋に入ると最初に出会ったメイド服の女性と騎士服の男性が待機していた。
案内してくれたメイドさんに習ったばかりのカタコトでありがとうと伝えるとニコッとして頭を下げ出て行った。
伝わった様で何よりだ。
2人の方に向き直るとなんだか生温い目でこちらを見ていて居心地が悪い。
明らかに子供を見る目だ。
実は私は日本でも幼く見られる程の童顔で身長も小さい。
この世界は平均身長も皆女性ですら高めなので私は幼い少女のような扱いを受けている、ように思える。
今思えばあの晃くんでさえ私に生温い視線を向けていた様な気がする。
晃くんは高校生という設定だったのでそれより幼く見えていると言う事だ。
日本人から見ても幼く見えるのだからこの世界の人から見たらかなり幼く見えていると言う事になる…?
しかし年齢を伝える言葉は習うのを忘れた!!!どうやって伝えていいのかわからない。
日本製のゲームなのだから表現方法は同じ筈であるが、数字の表し方までは知らない。
こんな事なら晃くんに弁明しておくんだった!!今になってただただ浮かれてた自分を少し反省した。
やっと周りをみる余裕が出来てきたと思ったら完全に手遅れ感が否めない。
※ここからの会話は全て日本語表記とさせて戴きます。
「ユリカ様、私は本日よりユリカ様の侍女としてお世話をさせて頂きますソフィアと申します」
女性が長々と喋っているが分からないので晃くんと書いた紙を見ながら告げる。
「ごめんナさい、ナニ、か、ワカるない」
「も、申し訳ございません。えーっと、私、ソフィア、ソフィアです」
自分を指差してソフィアソフィアと言ってるので彼女の名前はソフィアなのだろう。
「そふぃあ!ワカるた!」
安心した様に頷いているのであっていた様だ。
次は騎士の男性が前にでてくる。
「私は護衛を務めさせて頂きます、アルバートです。アルバートですよ、ユリカ様」
ソフィアさんの様子をみて私が言葉が不自由なのを理解したのかゆっくりとアルバート、と言った。
しかしアルバートの発音が難しい。
「あるぶ、あるび、ある、あるぶぁ、あるびぁーと」
「…アル、アルとお呼びください」
アルでいいようだ。
申し訳ない。
このアルさんもかなりのイケメンだが、彼はゲーム内で見た事がない。
攻略対象にいても不思議じゃないイケメンなのに。
「ある、ワカるた!」
アルさんもほっとしたように頷いてくれた。
「ワタし、ユリカ!よろしキね」
と私は紙を見ながら頭を下げた。
「ユリカ様!私共にそのように頭を下げなくて宜しいのですよ!!」
慌てた様にソフィアさんが止めてきたが何がいけなかったのかわからない。
「そふぃあ、ごめンなサイ、なにカワカるない…」
「あ、そうですよね…アルバート、この様にユリカ様はこちらのお言葉がお分かりになられないので出来るだけ身振りでお伝えするように」
「その様ですね…少しずつ覚えて頂くしかありませんね」
2人は何やら困った様に話したあとこちらを向いてニコッとした。
「ユリカ様、お食事、ご用意しますね」
ソフィアは可愛らしく口元に手を持っていってアムアムと口を動かした。
恐らく何か食べる動作…だと思う。
紙には食事という単語も書いてあったので恐らくあっているはず。
「しょくジする、ワカるた!」
うんうん、とソフィアさんは頷いて部屋を出て行った。
アルさんは私に座る様に勧める動作をして扉の前に立った。
私は言われた通りにソファに腰掛けた。
する事もないので物の名前を覚える為アルさんにソファを指差してコレは何か、と聞いた。
「これは、ソファー、ですよ。ソファー。」
「そ、ファー。コレは?」
次に机を指さす。
「テーブル、です。」
「てービル?」
「テーブル、テーブルです」
「てーぶル、うんうん」
私はもしかして今ものすごく面倒くさい事を聞いているのではないかと思い、アルさんの顔を見上げるが生温い目でこちらを見ているのを見てサッと目を逸らした。
完全に子供に話しかけられた大人の対応だったので恥ずかしくなったのだ。
私は一応21歳なのだが…。
そうこうしている内にソフィアさんが戻ってきてお料理を用意してくれた。
白パンにクリームシチューのような物、綺麗に盛り付けられたマリネのような物もある。
最後はデザートのケーキまで頂いてしまつた。
お料理は凄く美味しくて、異世界でも美味しいものは美味しいようで安心した。
部屋にあるお風呂にもはいって、ソフィアさんにおやすみなさいをしてやっと人心地ついた。
子供の様に布団を掛けなおされ、ソフィアさんは部屋を出て行った。
アルさんは部屋の外で交代で番をしてくれているようだ。
そこまでしなくても王城内で何かあるとは思えないのだが、暫くはこの形態で警備を行うようだった。
私でこうなのだから晃くんはどうなってるのかと少し怖くなった。
あー、楽しむ前にこの世界に慣れるところから始めなきゃなーと考えて私はあっさり眠りについた。
まじで自分でも鋼のメンタルだと思った。
やっと主人公の見た目について触れられました…




